008 【生命の樹】が、雲ひとつ無い空にはっきりと見えた。

平和な町並みの中。俺はその平和さを肌で感じるように、のんびりと歩いている。

魔物が人々の生命を脅かす時代とは思えない平和さ。

それは家畜含め人間以外の動物を廃したこの国の施策によるのだろう。

目的地まではまだ遠い。

なにか腹に入れてから向かおう。今日は何を食おうか。

そんな事を考えながら、空を見上げる。

セフィラ共和国、そのシンボルである【生命の樹】が、雲ひとつ無い空にはっきりと見えた。


雲よりも高く、まっすぐと伸びる巨塔。

静かにそびえ立つそれは、超文明がかつて存在していたことの証明とも言われている。

“マナをその塔の麓に寄せ集める”という機能。

それ以外は調査が続けられている現在も判明していない。

マナは乱暴な言い方をしてしまえばエネルギーである。その集められた潤沢なエネルギーの恩恵で、人々は不自由の少ない生活を送っている。

また、そのおかげでこの国は亜種の出生率が8割を超え、同時に国内の動物が魔物化する可能性も増えているらしい。

【生命の樹】を中心に繁栄した、統治者のいない実質的商業都市。

それが、俺達の住むセフィラ共和国である。


などと偉そうに解説してみたが、全てジーンの受け売りである。


「ベールッ!」

背中に鈍く、柔らかい衝撃。

そのまま首に”腕”が絡みつき、それの全体重が肩と首に掛かる。

「帰ってきてたんだねっ!」

そう言いながらも、その腕を無邪気に首に食い込ませ続ける。

さすがに苦しくなってきたので膝を曲げ、彼女を下ろす。

「つい今朝な。」

首を撫でながら答える。不機嫌そうな色を見せる翡翠色の瞳が見えた。

ミルクティーで染めたような、腰まで届く長いブロンド。キラキラと太陽の光を受けて輝いている。

その全身を包むのはこの当たりではあまり見かけない、純白の上衣と緋色の袴姿。

その後ろから、これも髪色と同じ毛艶の狐尻尾がぶんぶんと左右に動き回っていた。

ルカ=ミント。

何故か懐かれて今に至る知り合いだ。

「あの女は一緒じゃないのね。」

周りを見回し、それを確認すると口の端を嬉しそうに上げるのが見えた。

“あの女”、多分ジーンの事だろう。

「お昼まだなら一緒にいこっ!」

「お、おう」

跳ね回っているのではないかというような勢いで尻尾を振り回すルカ。

そのまま半ば強引に、引きずられるように俺は彼女の後をついていく事になった。

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