006 居候に拒否権はない!
「ベルくんおかえりー」
ベルベットに向かって手を振るメイ。
「あら、結構早かったのね。」
「報告だけだからな、ほらよ。」
鞄を足元に下ろし、小さな革袋をこちらになげて寄越す。
受け取ると、中には金貨が入っていた。
キラーベアの討伐報酬だ。
あの後、晩御飯抜きのまま残党を狩り終え、今朝ようやくこちらに戻ってきたのだ。
私はメイとの約束があったので先に帰り、報告をベルベットに任せていた。
「思ったより少ないわね。」
「外で大家に会ってな、そこから家賃払っておいた。」
蛸食べる?と差し出すメイと、それを断って奥のソファに向かうベルベットが見えた。
「なら妥当かな。はいこれ」
「まいどー。」
受け取った革袋から100ゴールドをメイに支払う。
とりあえずはこれだけあれば足りそうである。
「そうだ、証拠として持ってきたキラーベアの毛皮。」
寝転がり、声だけをこちらに投げるベルベット。
その指先は、入り口に下ろした鞄を差していた。
「『うちでは不要だから』と言うので持ってきた。メイ、買い取れるか?」
「おっ。いいよー見る見る。」
鞄をヒョイっと軽そうに持ち上げるメイ。軽そうにしているが、20kg分は詰めてある。
留め金具を外し蓋を開く。微かな獣臭さがふわりと舞う。
「おー、採れたて新鮮。」
大きな丸眼鏡をかけ、メジャーやら分銅やら様々な計測器具を駆使して手早く査定していくメイ。
「そうだ、ベル。帰ってきてすぐで悪いけどクレセリア公国の越境許可証貰ってきて。」
殆ど寝る体勢になっているベルベットを叩き起こすように用事を言い渡す。
足りない材料のひとつであるブリザードトード。
雪を主食とする低級の魔物で、冬にしかその顔を出さない。
さらに素材としては痛みやすく、この時期この国では絶対と言っていいほど見つからない。
しかし、一年の9割を冬とする国ならば別である。
"クレセリア公国"
その国家は私達の住むセフィラ共和国の北側に位置していた。
人工魔術の祖ルナ=クレセリア。彼女が不毛な雪原に一夜で国を作った、などと荒唐無稽な逸話が残る魔術の国である。
「なんだ?永久凍土のイビルアイ討伐か?」
すごい勢いでこちらを見る。その彼の目が輝いていた。
イビルアイなんて危険な魔物の話など一言もしていないでしょうに、この戦闘狂は・・・・。
「薬の材料。ブリザードトードよ」
「なんだ、雑魚か・・・」
一気に興味を失い、再度ソファに寝転がる。
本当にこの戦闘狂は・・・。
「文句言うなら追い出すわよ」
「へいへい」
嫌そうに、心底嫌そうに腰を上げるベルベット。
「いってらっしゃーい」
メイは出掛ける彼に向けて手をふる。
振りながらもその目は毛皮から離れず、手も止まらない。
私も薬の準備に取り掛かろう。
そう心の中で呟きながら、ようやく私は重たい上着を脱ぎ去った。
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