005 「その数は用意出来そう?」

「今回の滞在は一ヶ月くらいだけど、その数は用意出来そう?」

言いながら、発注書を難しい顔で見る私を覗き込んでくる。

「期間は十分だけど、材料が足りないかな・・・」

私はガラス棚を開ける。家を開けていた分だけ積もった埃がふわりと舞う。

棚の中には大小様々な瓶、紙で包まれた薬の材料などが乱雑に押し込まれている。

片付けないのかとベルベットに言われるが余計なお世話である。

私が分かっていれば問題ない。問題ない。

「アイボリーフラワーがなくて・・・あら、ブリザードトードも無い」

「アイボリーフラワーならあったかな」

言いながら、金属製の鞄を探り出すメイ。

その動きに合わせて、真っ白い銀髪の上で丸い耳が揺れた。

「あったあった。」

豆粒大の小瓶を取り出し、メイは小さく呪文を呟く。

右人差し指に嵌めた指輪が光り出し小瓶は見る間に大きくなり、ようやく中の花が見えてきた。

特徴的な青い斑点を持つ白い花弁が7枚、間違いなくアイボリーフラワーだ。

その花びらを煎じることで治癒の薬となる。

「おいくら?」

「ジーンちゃんお得意様だし、100ゴールドで。」

100ゴールド、結構な金額ではあるが、その価値を考えればむしろ安い。

でも・・・ちらりと財布を覗く。

革袋の中には、納品分の枚数を買うほどの金貨は無かった。

私は苦笑いをメイに見せる。

「ベルが帰ってきたら、かな。」

今頃昨夜の討伐報告をしているであろう男、彼が戻ってきたら多少は変わるだろう。

「ほいほい。それじゃあちょっと待たせて貰うよー。」

というとメイは手慣れた動きで自前のティーセットを取り出し、テーブルに並べる。

彼女は誰の家でもお構いなしにティータイムを始める。

以前お茶を出そうとしたらこれも販促のひとつだと断られたので、それ以来放っておくことにしている。

パチンとひとつ指を鳴らすとまた指輪が輝く。

水の入った瓶がコポコポと泡立ち、沸騰を始める。

「ジーンちゃん、いい加減フロンティア側に住まないの?」

茶葉をポットに入れながら、メイは尋ねる。

「ベルならともかく、私はあんまり興味はないかな。」

メイの言う通り、薬を売るならわざわざ彼女に代理販売してもらうよりはフロンティアにお店を構えたほうが早いし、儲かるだろう。

けれども・・・

「私はこうやって工房を構えてるほうが性に合ってるかな。」

周りを見回す。

専門書や図鑑で埋められた本棚、数年かけて揃えた錬金器具。

自慢ではないが、この国でこれ以上の設備が揃っている工房はあまり無いだろう。

これを手放してしまうのは勿体無い。

「もし移住するならヘルベスタ連邦かなぁ。材料の自家栽培もしたいところだし。」

「そっかー、それは残念。」

湯気と共に、嗅いだこともない良い香りが部屋中に広がる。

ハーブティーが2つ、片方は私の方に置かれていた。

折角だし頂こうかな、と手を伸ばした時、入り口の扉が開く音が聞こえる。

「なんだメイ、来てたのか。」

大きな背負い鞄を肩に、ベルベットが帰ってきた。

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