004 彼女は私に気付き手を振る。

「おかえりー」

私の家兼事務所、【四つ葉工房】その入口に人影があった。

彼女は私に気付き手を振る。

殆ど白ともいえる色素の薄い長い銀髪をシニヨンでまとめ、その上からパンダの耳が可愛らしく覗かせている。

鋼鉄製の四角い、特大の背負い鞄を椅子代わりに座っていた。

ピンク地に金糸で刺繍が施されたアオザイの、その深いスリットから見える純白のクワンに包まれた細い両足をぶらぶらさせながら、彼女は何かをモゴモゴと食べている。

背も低く可愛らしい見た目だというのに、私よりも年上なのだから世の中分からない。

「新商品の蛸の干物。食べるー?」

視線がそっちへ行っている事に気付いたのだろう、噛んでいたものをひらひらと見せる。

もう片方の手ではそれが入った壺を振っていた。

「うん、一本頂戴。昨日から何も食べてないの。」

そう、誰かさんのおかげで空腹なのである。

今はここに居ないけども。

「まいどー。」

銀貨を渡し、壺から一本引き抜き口に運ぶ。

しっかりと味が染み込んでいて美味しい、一生噛んでいたい。

「食べ終えたらいつものよろしくー。」

「ほいほい、ちょっとまっててね。」

私は鞄から出した鍵で扉を開き、彼女、メイを中へ促す。

私よりも身長の低い少女はにっこりと笑いながら、中へ入っていく。

彼女は行商人である。その小さい体と同じ背丈の鞄を担ぎながら世界を回っている。

錬金術師の資格を持っている私は、定期的に彼女に様々な効能の薬を買い取って貰っていた。

彼女の巡回先には【フロンティア】も含まれている。


【フロンティア】

それは目まぐるしく変わる、人類と魔物の生存境界線。

人類の世界の果て、その先には財宝があるとも言われており、一攫千金を求めて多くの人間が絶えず挑み、そして消えていく。

そんな死地なら、私の作る薬を求める人も多いのだろう。


「ジーンちゃんの薬、フロンティアで結構評判いいよー。すぐ効果出るって。」

そう言いながら、空き瓶と薬の材料をテーブルに並べるメイ。

「あら、そうなの。じゃあもうちょっと売価上げても良いかもね。」

差し出された発注書を受け取り、目を通す。

筋力強化薬に硬化薬、回復剤。

その全てが前回発注された倍の数で並んでいる。

この感じだと、相当売れているらしい。

「そこはばっちり。」

ビシッと親指を立ててみせる彼女。

なるほど既にいい値段で捌いてきたようで。

「じゃあその分こっちに回しなさいよ。」

「おっと、口が滑った。」

じろりと睨んでやると、メイは大袈裟に口を手で塞いで見せた。

発注書には既に前回よりも高い買取値が並んでいる。こういう所が上手いというか、憎めない。

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