第36話
「ところで、エル様。
あっしを雇いませんか?」
とうとつな事を言う奴だ。
おもしろい奴だとは思うが、わしもこれからどうなるか分からない身だ。
財政が厳しいリヒトホーフェン伯爵家では、わしが勝手に家臣を召し抱える訳にもいかない。
「グフトを雇うだと?
残念だが、わしにはグフトを雇うほどの力はないぞ。
グフトならもう承知しているだろうが、クリスさんを嫁にもらうのなら、冒険者になって稼がねばならん。
クリスさんの婿になるにしても、同じく冒険者になって稼げるところを見せねばならん。
そしてどちらにしても、それぞれの家の部屋住みを貴族冒険者として指揮して養っていかねばならんのだ。
とてもグフトを雇う余裕はないであろう」
「エル様は何にも分かってませんね」
わしは貴族家の公子として育っているから、町家や冒険者の事はよく知らぬ。
もの知らずだと言われればその通りだろう。
だが知らない事は聞けばよい。
「わしは何が分かっていないのだ?」
「冒険者になるのなら、貴族の家臣だけでは直ぐに罠に嵌ってしまいます。
それに魔獣を探すのも、襲われるのを事前に察知するのも無理ですよ。
稼ぐどころか生きて帰るにも、腕利きの盗賊か斥候が必要不可欠ですぜ。
それにエル様は随分鍛錬をなさったようだが、実戦経験は全くないようだ。
師匠が必要ないと判断されたんでしょうが、今の状態じゃ少々心もとない。
昨日のように、盗賊相手に情けをかけたら足元をすくわれます。
殺せる時にはキッチリ殺しておかないと、クリス様まで狙われますぜ」
グフトの言う通りなのかもしれない。
だがグフトの言う事を鵜呑みにする方が愚かで、落胆させることになるだろう。
グフトほど何でも知っているのなら、熟練冒険者である剣術指南役の事も、ヨハンの事も知っているに違いない。
だったら彼らに聞いてから決めると言った方が、信頼してくれるだろう。
問題はクリスさんに対する配慮だな。
「ではグフトが魔境を案内して稼がせてくれると言うのか?
盗賊ギルドの火の粉がクリスさんに降りかからないように、色々と手を打ってくれるというのか?」
「任せてくださいよ。
でも腕の安売りはしませんぜ。
たっぷり分け前をもらいやすぜ」
「ふむ。
だがグフトも既に知っているだろうが、家の剣術指南役は熟練冒険者だ。
さっきわしを護ってくれていたヨハンも熟練冒険者だ。
彼らに事情を確認してから返事をしないと、グフトを失望させるのではないか?」
「エル様はあっしの思った通りの人だ。
いいですよ。
剣術指南役様にもヨハン様にも好きなだけ相談してください。
その上であっしを雇うか決めてくださって結構です。
それまではサービスでエル様を護らしてもらいますよ」
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