第34話
ヨハンがわしを護るために命を賭けている。
理解した途端勝手に身体が動いた。
剣術指南役が叩き込んでくれた動きが勝手にできた。
わしはヨハンの言う通り、二人の刺客から視線を離さず、でもヨハンの指示に逆らって、ゆっくり後方に逃げるのではなく、左斜め横後方に素早く走ったのだ。
動いて安全圏に逃げてから理解できたのだが、わしをゆっくりと安全圏にまで逃がすためには、ヨハンは命を捨てる事になっただろう。
わしを護りながら二人の刺客を相手にするのは、それほど厳しい話なのだ。
わしがヨハンに指示された事は、二人の刺客も聞いている。
その上でわしとヨハンを殺そうと、心と身体の準備していた。
わしがヨハンの指示を無視するなど考えてもいなかった。
だからこそ虚を突く事ができた。
だがそれはヨハンも同じだ。
わしが斜め横後方に逃げた事は、単にヨハンの足手まといにならないようにしただけだ。
しかしわしが反射的にしたのは、それだけではない。
動きながら二人の刺客に威圧を放っていた。
正直自分でも驚いている。
初めての修羅場で、命の危険を感じているのに、ここまで戦えることに。
心底剣術指南役に感謝した。
何も考えずにここまで動けるほど、技を身体に叩き込んでくれていた。
わしの威圧は、二人の刺客にもヨハンにも更なる想定外だっただろう。
だが三人の中では、威圧を受けていないヨハンの立ち直りの方が早かった。
ヨハンは剣を抜き始めるのと二人の刺客に近づくのを、全く同時に行っている。
ここまで状況が逆転すれば、まず間違いなくヨハンが二人の刺客を斬り殺してくれるだろう。
わしがこの場に残っても安全だろう。
だがそれが楽観過ぎる考えである事は、二人の刺客に待ち伏せされていた事で明らかだ。
二人の刺客がここにいたのは単なる偶然だろう。
恐らくは、あの小柄な男を待ち伏せしていたのだろう。
二人の刺客が、昨日わしと盗賊ギルドがもめたことを知っていたのも、単なる偶然だろう。
だがその偶然が重なったことが怖いのだ。
そう剣術指南役から叩き込まれている。
偶然とか、確率の問題とか、そんな事だけで危険性を判断して死んでいった冒険者は星の数ほどいるのだと、訓練で心と身体に叩き込まれている。
今回はわしに不利な偶然が重なっている。
もう一度重なると考えて行動しなければならん。
わし一人の命ではない。
わしの油断がヨハンを死なせるのは嫌だ。
なによりわしが死ぬことで、クリスさんが哀しむかもしれない。
そんな事は絶対に嫌だ!
わしは今度は反射ではなく、意識して意表をつき、道の左に建つ表店の屋根に跳び、戦場から逃げだした。
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