義賊
第29話
今日は爺とヨハン、カール以下四人の陰供を連れて、正々堂々と屋敷を出た。
逢い引きに家臣を連れて行くのは情けないのだが、爺を敵に回しては、クリスさんとの結婚が不可能になる。
それに、わしのような実戦経験のない人間は、腕のいい刺客には敵わないと、爺にもヨハンにも厳しく注意されてしまった。
わしが盗賊ギルドの刺客に殺されてしまったら、クリスさんが哀しむと爺にもヨハンにも注意されては、陰供ではなく側近くに供させるしかなかった。
それでもゾロゾロと大勢を連れ歩くのは嫌だったので、わしの前にヨハンが歩き、後ろを爺が護るかたちで、カールを含めた四人の側近は、少し後をついて来ることになった。
昨日の帰り道を逆にたどり、バクロ町のパウル刀剣屋の前を通り、マインの繁華街に入ったが、昨日と同じような人混みと土埃で辟易してしまった。
約束の時間にはかなり早かったが、クリスさんが屋敷を抜け出すには、よほどの隙が必要だと思ったので、時間通りに屋敷を出るなど不可能と考え、早くから待っておこうと思ったのだ。
「爺、茶屋に昨日の借りを返しておきたい。
わしはここを動けんから、爺が行ってきてくれるか?」
「そのような事こそ、側近にやらせばいいのです。
カール!
お前昨日話した茶屋に行って若が借りた茶代を支払ってこい」
爺が陰供のカールを呼び出して金を渡そうとする。
「待ってくれ、爺。
昨日話した不浄な金がある。
これは早く使ってしまいたい。
この財布を預けるから、支払いを済ませてきてくれ」
「は!
承りました!」
わしと側近だけの時はよく軽口を叩くカールだが、爺とヨハンの前ではそんな余裕がないのだろう。
謹厳実直を装っている。
わしは銅貨だけが入った財布をカールに預けた。
昨日爺に茶代の事も聞いたのだが、茶が一杯小銅貨一枚、団子が十個で小銅貨一枚という安価なものだった。
いや、そう言いきるのは貴族の思い上がりだろう。
日々懸命に生きる庶民や、日々の糧を得るために命を賭けて魔獣に挑む冒険者にとっては、一枚の小銅貨も命を賭けた大切な財産なのだろう。
だからこそ、盗賊ギルド員から得た不浄な金ではあるが、捨てる訳にも無駄に使う訳にもいかない。
何か人の為になる使い方がしたい。
「待ちやがれ!
俺様から財布を盗めると思ってか!
盗賊ギルドを敵に回して生きて帰れると思うなよ!」
誰かが盗賊ギルドの財布を盗んだのか?
爺やヨハンですら多少は気を使う盗賊ギルドだぞ?
いったいどこのどんな奴なのだ?
気になる。
とても気になるぞ!
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