第30話

 わしは人混みをかき分けて争いの前にでようとしたが、ヨハンと爺に視線で止められてしまった。

 わしは一九五センチで筋骨隆々、金髪碧眼と言う風貌なので、どうしても目立つ。

 昨日争った盗賊ギルド員に直ぐに見つかってしまうだろうと、爺とヨハン厳しく注意されていた。


 それでも危険を顧みず、わしの願いを聞いてくれた爺とヨハンが本気で止めたので、これ以上のわがままを言う訳にはいかないと思いとどまった。

 だがわしは多くの人より頭一つ大きいから、ある程度近づけば人混みの後ろからでもよく見えた。


 盗賊ギルドの連中は、昨日わしを襲った連中よりも人数が多く、十二人もの大人数で一人の男を囲んでいた。

 盗賊ギルドの連中は皆人相が悪く、しかも多勢で一人をいたぶるのが愉しみなのか、ニタニタと嫌らしい笑いを浮かべている。

 一方囲まれているのは一六〇センチくらいの小さな男で、多勢に囲まれているにもかかわらず、不敵な笑みを浮かべている。


「俺様の金だと?

 嘘をつきやがれ!

 善良な人々を脅して回り、不幸な女達を売春宿に売って手に入れた金だろうが!

 てめえらの金じゃねぇ!」


「ふふぅぅん。

 何バカな事を言ってやがる。

 俺様は誰もおどしてなんかいない。

 困っている人間に仕事を世話してやっただけだ。

 それを感謝した人間が、御礼の金を渡してきたんで、連中の心に負担がないように、遠慮せずに受け取ったやったんだ。

 女達も一緒だよ。

 親兄弟が借金して首が回らなくなったんで、その借金を肩代わりしてやって、しかも借金が返せる仕事を紹介してやったんだよ。

 感謝されることはあっても、恨まれる筋合いはないなぁ。

 それともなにかい?

 てめぇが女達の借金を返してやると言うのか?

 そうじゃあるまい。

 盗みの口実に使っているだけだろうが?!」


「よくいいやがる!

 親兄弟の借金というのは、盗賊ギルドのイカサマ博打だろう!」


「人聞きの悪い事を言っちゃいけねぇなぁ。

 イカサマなんてしてねぇよ。

 正々堂々とした勝負だ。

 勝負は時の運だ。

 勝負に負けたのは、そいつに運がなかっただけで、俺達のイカサマじゃない。

 俺様の財布を盗んだ上に、正当な勝負をイカサマだと濡れ衣を着せたんじゃぁもう許せないな。

 この場で死んでもらおうか。

 やっちまえ!」


 盗賊ギルドの連中が一斉に襲い掛かって来た。

 中にはそれなりに剣を練習した者もいるようだ。

 それに数は力だ。

 前後左右から一斉に攻撃されたら、わしでも避けるのは厳しい。

 そう思ったのだが、財布を盗んだと言われていた男は、人間とは思えない跳躍力で後方に跳んだのだ!

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