第28話

 ヘルムートが第二屋敷に来るまでの間、側近共が何かとうるさく言う。

 正直うっとうしいと思ったが、わしが側近達を処刑の危機に追い込んでいたという自覚ができたので、黙って聞き流して我慢した。

 少々反省もしていたが、明日もう一度抜け出す決意は変わらない。


「若!

 黙って一人で屋敷を抜け出すとは何事でございますか!」


 開口一番爺の叱責が始まった。

 わしの部屋に案内する前に、側近の一人が話をしたのだろう。

 自分達が罰を受ける覚悟で、再度の抜け出しを防ごうと言う訳だ。

 わしが反省しておらず、もう一度抜け出そうとしているのに感づいたのだな。

 不覚であった。

 本気でクリスさんに会いたいのなら、もっと気を付けるべきであった。


「まあ、待て。

 正直に全て話すから、それから叱ってくれ。

 わしは爺を信頼し頼りにしておるのだ。

 わしは今、人生の岐路に立っておる。

 一世一代の決断をせねばならんのだ。

 爺の知恵を貸して欲しいのだ」


「……いったい何事でございますか?

 臣は若の傅役を拝命して以来、身命を賭して仕えてきました。

 若が一世一代の決断をするほどの人生の岐路と申されるのでしたら、知恵と経験の限りを尽くしてお答えいたしましょう」


 わしは人払いを命じて、爺と一対一で話した。

 屋敷を抜け出した気持ちを正直に話した。

 今まで誰にも話さなかった、冒険者になって自由に生きたいという夢も語った。

 そして何よりも、クリスさんとの出会いと、嫁に迎えたいという願いも伝えた。


「どうであろうか、爺。

 わしの望みを叶えるためには、どのようにすればいいと思うか?」


「……若の全ての望みを叶えるのは、少々難しいと思われますが、絶対に不可能と言う訳でもありません。

 ですがまずクリス様がどこの公女様なのか確認しなければ、若に取って頂く策が違ってきます」


「爺はわしに味方してくれるのだな?」


「当たり前ではありませんか。

 家中のどなたが何を言われようとも、臣は若の味方でございます」


「よかった!

 爺に見捨てられたらどうしようかと、正直ドキドキしておった。

 それでな、明日も屋敷を抜け出してクリスさんに会いに行くのだが、何かあっては側近達が責任を取らされてしまう。

 だからと言って、大して役にも立たん側近を大勢連れて行くわけにもいかん。

 剣術指南役のマンフレートが陰供をしてくれれば安心なのだが、残念ながら冒険で留守にしている。

 昨日の縁もあり、ヨハンに陰供を任せようと思うのだが、いかかであろうか?」


「クリス様と申さるる公女様は、明日屋敷を抜け出すのは難しいと思われますが、クリス様がどこのどなた様か分からねば話になりません。

 若が会いに行かれるのは仕方ありませんが、ヨハン一人の陰供では、盗賊ギルドともめた事もあり、不足でございます。

 爺も側近を厳選して御供いたしますぞ。

 そうでなければ屋敷からお出しできません!」

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