第27話

「若様!

 どこに行っておられたのですか?!

 側近の方々が、血眼になって屋敷の外を探しておられます」


「大袈裟な事を言うな。

 ちょっと町を見たくなっただけだ。

 それより直ぐに爺に会いたいのだが、第一屋敷に使者を送ってくれ」


 第二屋敷の門番中間が青くなって話しかけてくる。

 わしが屋敷を抜け出した事に気がついた側近達が、慌てふためいて町場を探し回っているのだろう。

 先ほど軽口を叩いたカールの真っ青になった顔が思い浮かんで、少々気が晴れた。


 だがそんな事よりも、できるだけ早く爺に会って、クリスさんの事を相談しなければならない。

 貴族家一族の結婚は、本人同士の想いなど考えてくれない

 全ては家同士のつながりであり、利害が最優先なのだ。


 わしはまだ五男だから、貴族冒険者になって魔境で稼げる実績を示せば、実家に残って嫁を迎える選択が可能だ。

 だがそれも、クリスさんの状況を確認してからだ。

 クリスさんが嫡女であれば、まず最初にそれなりの家柄の次男が選ばれる。


 王国の大臣や副大臣に就任できる譜代貴族家から次男を婿養子に迎えれば、王家からの無理難題を少なくすることも可能になる。

 貴族家の重臣達なら、そう考えるだろう。

 そんな場合は、わしがそれ以上の利を与えられると証明しなければならん。

 リヒトホーフェン伯爵家の重臣には知られないように、クリスさん所に重臣にだけ知らさなければならない。

 わしが稼げると家臣共が知ってしまったら、婿に出してもらえなくなる。


 冒険者になって、一人自由に街を歩いてみたいという夢をあきらめず、剣術指南役の訓練を真面目に受けてきてよかった。

 そして兄達を押しのけて家督を継ぐ気がなかったし、冒険者になって自由に生きていきたかったから、有り余る膨大な魔力と怪力を隠していてよかった。


「若様!

 失礼いたします!

 どこに行っておられたのですか?!

 勝手に一人で屋敷を抜け出されたのが重臣の方々に知られたら、我々も厳罰に処せられますが、若様も幽閉されてしまいますぞ!」


「大袈裟な事を言うな。

 ちょっと町場を見て回っただけだ。

 その方達が厳罰に処せられるような事ではない」


 門番中間が、屋敷を出てわしを探している側近に伝えたのだろう。

 カールを先頭にした側近達が、部屋に入って来るなり諫言を口にする。

 最初は大袈裟な事を言うと思ったが、よく考えれば盗賊ギルドとも揉めている。

 わしに戦う力がなかったら、わしだけでなくクリスさん達もどうなっていたか分からない。


 そんな事になっていたら、わしやクリスさんに出し抜かれた側近達は、責任を取らされて死刑になってもおかしくない。

 ようやく事に重大さに気がついたが、正直に話せば明日屋敷を抜け出せなくなるので、黙っている事にした。

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