第26話

 ゴロツキ共の財布を改めたが、一人を除いてろくに金が入っていなかった。

 四人は小銀貨一枚と大銅貨小銅貨が少ししか入っていない。

 まさに底辺の盗賊ギルド員なのだろう。

 だが趣味の悪い服を着ていた者はそれなりの金を持っていた。

 それでも大銀貨四枚と小銀貨三枚に大銅貨小銅貨が少しだった。


 正直ここまで装備品とお金に差があるとは思わなかった。

 剣術指南役から剣や鎧といった装備品が大切だとは聞いていたが、父上や重臣からは、貴族の誇りや戦意が一番大切で、次に軍資金が大切だと聞いていた。

 確かに戦意や軍資金が大切ではあるが、それ以前に武器や防具がなければ、身を守れない。


 いや、身を守るために戦うという戦意がまず必要なのか?

 それとも武器や装備を買うための軍資金が大切なのか?

 よく分からんな。

 だが、金貨一枚がどれほど大切なのかは分かった気がする。

 盗賊ギルドと言う、金のためなら犯罪も厭わない忌むべき存在ですら、末端の人間は小銀貨一枚しか持っていないのだ。


「では若様、金を確認してくださいよ。

 合計で小金貨二枚、大銀貨十一枚、小銀貨九枚、大銅貨二十一枚、小銅貨三十七枚です。

 間違いありませんね?」


「うむ。

 間違いない」


 ヨハンが三つの財布に金貨、銀貨、銅貨を分けて渡してくれた。

 以前に聞いていた、店によって払う貨幣を変えねばならないという仕来りに合わせて、使いやすくしてくれたのだろう。

 クリスさんにもらった財布もあるから、合計四つもの財布を持つことになった。

 生まれて初めて財布を持つと言うのに、いきなり四つは多すぎる。

 だが、クリスさんからもらっ小金貨と財布を、盗賊ギルドから奪った金と一緒にはできないから、これはしかたがない。


「若様。

 明日約束の場所に行くなら、屋敷から真直ぐに行くのは止めてください。

 少々遠回りにはなりますが、今から歩く道を逆に行き、パウルの店に寄ってから行って下さい。

 約束していただきます」


「分かった」


 パウルの刀剣屋を出たわしは、ヨハンの道案内で屋敷に戻る事になった。

 もちろん盗賊ギルドの連中が多くいる、マインの繁華街はさけて帰るのだ。

「君子危うきに近寄らず」と聞いているから当然だろう。

 何よりこれ以上盗賊ギルドともめると、クリスさんにまで火の粉が飛んでいく。


 パウルの刀剣屋をでて王城の方に歩き、直ぐに小舟が行き交う水路にぶち当たる。

 橋は渡らずに左に曲がり、水路に沿って多くの橋を右手に見ながら海にまで歩く。

 五つほど通りを越えると、もう貴族や騎士の屋敷街になり、盗賊ギルドが入り込み難い通りになる。

 海に突き当たってから左に曲がれば、我が家の第二屋敷が見えてくる。

 

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