第21話

 戦う!

 伯爵家の領主一族として、盗賊ギルドなどに臆するわけにはいかない。

 だが時間をかけると、続々と盗賊ギルドの連中が集まって来てしまうだろう。

 一瞬で勝負をつける。


 わしは普段は隠している魔力を叩きつけた。

 剣術指南役から学んだ「威圧」に魔力を変えて、六人のゴロツキに叩きつけた。

 完全に不意をつけたのだと思う。

 強いと感じた兄貴分まで泡を吹いてピクピクしている。

 

「お強いですねぇ」


 斃したゴロツキの向こうから声がかかった。

 視線をやると知った顔だった。


「ヨハンか?

 どうしてこんな所にいる?」


「それはこちらのセリフですよ」


 確かにヨハンの言う通りだ。

 伯爵家の御曹司が、こんな盛り場に一人でいる方が不思議だろう。

 ましてや、盗賊ギルドの連中と悶着を起こして戦うなど、ありえない話だ。


「ちょっと町場を見てみたくなってな」


「それで盗賊ギルドの連中とケンカですか?

 御身分を御考え下さいよ」


 最後の方は近づいてささやくように言ってくれた。

 わしの身分が野次馬に知られないように配慮してくれたのだろう。

 いつもひょうきんで面白い奴だが、気働きもできるのだな。


「そうだな。

 気を付けなばならんな。

 だがまだ寄らねばならんところがある。

 護衛を頼めるか?」


 ヨハンは剣術指南役の高弟で、道場の師範代も務めているから、剣術指南役が魔境に狩りに行っている時は、代わりに訓練してくれたこともある。

 わしの師匠格とも言える存在だから、安心して護衛を任せる事ができる。


「しかたありませんね。

 御付き合いさせていただきましょう」


 満面の笑顔で承諾してくれる。

 こんな所が、生真面目な者が多い我が家の騎士と違うところだ。


「頼むぞ」


「おっと、若様。

 戦利品はちゃんと持って行って下さいよ!」


「戦利品とは何の事だ?」


「剣と防具、それに財布と服ですよ。

 先に喧嘩を売ってきたのは盗賊ギルドの連中です。

 戦って負けたら身ぐるみ剥がれるのが掟なんですよ」


「それでは盗賊と同じではないか?」


「そういう事にしておかないと、盗賊ギルドの連中も再戦の因縁をつけにくいんですよ。

 まぁ、奪わなくても因縁をつけてきて再戦を申し込んできます。

 ここは掟通り戦利品をもらって行きましょう」


「だが、このようなゴロツキの服を脱がすなど嫌だぞ」


「だったら服は私が脱がしますから、若様は武器と防具、それに財布を集めてください」


「分かった。

 だが手を煩わすのだから、護衛の代金に全てヨハンにやろう」


「若様。

 二度とそのような事は申されませんように。

 わたしも騎士の端くれです。

 他の騎士が戦って得た戦利品を、横取りするような真似はできません。

 若様は一軍を率いるお立場です。

 時には冒険者や浪人を集めた、陣狩り部隊を率いることになるかもしれません。

 その時に軍律を乱すような命令は絶対に許されないのです」

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