第18話
「まあ!
爺ではありませんか」
クリスさんもびっくりしている。
言葉から察するに、傅役の重臣で、クリスさんが屋敷からに抜け出したので、必死で探していたのだろう。
「爺ではありませんか、ではありません、御嬢様。
これは一体どう言う事でございますか」
一度はひと安心と厳しい表情からほっとした表情になった老騎士だが、直ぐにまた厳しい表情になってクリスさんに詰め寄る。
まあ、貴族家の公女を預かる傅役なら当然の反応だろう。
「貴君は何者だ!
御嬢様の手を放せ!
無礼者が!」
「爺、叱ってはなりません」
「わしはエルと言う者だが、手を放さないのはクリスさんの方だ」
嘘は言っていない。
家臣達に出会ったにもかかわらず、クリスさんは大胆にも手を繋いだままだ。
力づくで放そうと思えば放せるが、そんな気はさらさらない。
「えええい、御嬢様の恥になる言うのが分からんのか!
騎士であるなら、女性の名誉に気を付けるのが礼儀であろう!」
「爺、もう放しました。
だからエルを叱るのはやめてください」
傅役の爺に窘められて、少々照れたのだろう。
だが顔を赤くはしているが、クリスさんは全く悪びれていない。
「アン!
その方がついていながら、御嬢様にこのような無謀なまねをさせて、それで侍女の役目が務まると思っているのか!」
叱責されてアンさんが真っ青になっている。
責任を問われて自害に追い込まれたら一大事だ!
「待っていただきたい、御老人」
「なんだと!
何の関係もない貴君は黙っていた頂こうか!」
「いいや、黙っている訳にはいかん。
このままではアンさんにだけ罪を着せそうだからな。
まず御老人はクリスさんの傅役のようだが、アンさんに責任を問う前に、御自身の責任を考えられよ。
騎士として責任者として、クリスさんが屋敷を抜け出せるような隙を作ったの、警備の騎士であり御老人だ。
わしはたまたま縁があって出会い、買い物がしたいと言う話を聞き、二人を見守り間違いのないようにここまで供をした。
誰かを悪いと言いだせば、屋敷をでて買い物がしたいと言ったクリスさんも、クリスさんの想いをかなえようと手伝ったアンさんも、そんなクリスさんの想いを分かっていなかった御老人も、警備ができていなかった騎士も、みな悪いことになる。
誰かを叱れば、誰かが傷つく事になる。
ここは穏便にクリスさんを引き取り、誰も叱らず、誰も傷つかないように、御老人の器量で収めていただきたいのだが、どうであろうか?」
さて、クリスさんの傅役殿にどれほどの器量があるだろうか?
それによって今後の行動を考えなければならない。
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