第12話
その場から下がった茶屋娘が、衝立の陰からわしらの様子を見ている。
少々面はゆい。
アンさんが声をかけようとしてハッとした。
未だわしは隙だらけだったのだろう。
クリスさんがわしの手を取ろうとしているのに全く気がつかなかった。
「エル……」
クリスさんが甘い声でわしの名を呼んでくれる。
大胆に食卓の上、人目も憚らずわしの手を握ってくれる。
今さらかもしれないが、食卓に座る時にいったん離した手、を包むように両手で握ってくれる。
心臓が跳ねあがる!
周りを見ていたわしの眼が、今度はわしの手を包む白い白いクリスさんの手から離れない。
頚も眼も固まってしまったようだ。
だだ、男たる者、平静を演じないと!
「なんですか、クリスさん」
度胸を出して、わしの左手を包んでくれているクリスさんの手を、右手を重ねて今度はわしの手で包むようにする。
心臓が暴れ太鼓のように音をたてている。
クリスさんに聞こえないように祈るしかない。
「わたくし、わたくしは、エルのような強い男が好きです」
「わしもクリスさんが好きです。
クリスさんは天使のように美しく優しい。
賢く勇気もある。
もう一度言います。
わしはクリスさんが大好きです」
なんの躊躇いもなく好きだと言う言葉が口から出た。
こんな事は生まれた初めてだ。
さっき会ったばかりだと言うのに、こんな気持ちになれるとは!
これが噂に聞く一目惚れと言うモノなのか?
クリスさんがわしの運命の女性なのかもしれない。
「本当ですか、エル」
クリスさんが真剣な目でわしの目を見つめる。
なんの躊躇いもなく、目を離さずにスラスラと言葉が出る。
「本当です。
わしは正直ですから、嘘は言えません」
「エルは正直で親切で勇士です。
最初にエルが言った通りでした。
ですからわたくしは、エルが大好きになりました」
「わしもそうです、クリスさん。
さっきも言ったように、クリスさんは天使のように美しい。
分からない事を知ろうとする探求心がある。
疑問を確かめる勇気もある。
その探求心と勇気で賢くなる。
そんなクリスさんが大好きです」
「わたくし、胸が苦しくなるほどうれしいです。
エルの事がもっと好きになりました」
クリスさんが椅子から立ち上がり、わしの手を自分の方に引き寄せてくれる。
いや、自ら身体を乗り出して顔を近づけてくれ、なんと、自分の頬に当て頬ずりしてくれる。
熱く火照ったクリスさんの頬の感触が生々しくて、心臓が口から飛び出しそうだ!
それと同時に、クリスさんを護らなければいけないと言う想いが身体の奥底から湧きだしてきた!
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