第9話

 なかなか目当ての魔獣小屋を見つける事ができない。

 クリスさんに愛想を尽かされないか、少々焦る。

 大小の小屋の木戸番が声を張り上げて客引きをしていて煩い。

 最初は心が躍っていた鉦や太鼓の音、笛の音が騒音に感じられてきた。

 どこからこれほどの人間が集まったのかと呆れるほどの人込みだ!

 最近雨が降らなかったせいではあるが、群衆が歩いて舞い上げる父埃が凄まじく、眼を開けているのも少々辛い。


「エル。

 埃が酷過ぎます。

 わたくしここにいるのが嫌になりました。

 他の町に行って買い物がしたいです」


 その気持ちはわしもよくわかる。

 こんな雑踏からは早々に逃げ出すに限る。


「分かりました。

 人込みから出て、静かな所で買い物をしましょう」


 とは言ったものの、銅貨の一枚も持っていない。

 それにどこに八百屋や魚屋があるかも知らない。

 どこに行けばいいものか途方に暮れてしまう。

 だがひとまず人の少ない方に歩けばいい。

 買い物の事は、クリスさんを人込みから連れ出してから考えよう。

 そう決意して、はぐれないようにクリスさんの手をしっかり握り、マイン橋を渡り対岸についた。


 だがマイン橋を渡った対岸の町も呆れるほどの人込みだ!

 この人通りを突っ切るのはうんざりだ。

 せれでもわしはまだ我慢できるが、クリスさんには辛いと思う。

 それにクリスさんと手を繋いで歩くいていると、また余計な騒動を起こしてしまうかもしれない。

 だからと言って、今更手を放す気にはなれない。

 正直ずっと手を繋いでいたい。


 左右を見渡せば、シュプレー川に沿った道は少し人の数が少ない。

 小さな店が立ち並んでいるが、小屋が立ち並んでいた場所ほど騒がしくない。

 遠目にも人が小屋前より落ち着いて歩いているように感じられる。

 意を決して右にの方に歩くことにした。

 クリスさんはわしを信頼してくれているのか、何の抵抗もせずに歩いてくれる。

 アンさんも口を挟まず後ろをついて来てくれる


「いらっしゃいませ。

 お休みくださいませ。

 お茶はいかがですか?

 菓子も置いております」


 どの店も若い女が話しかけてくる。

 この通りの店は皆同じ服を着る決まりでもあるのだろうか?

 品質は悪そうだが、派手な赤に染めた服を着ている。

 化粧も濃く塗っていて品がない。

 だが言葉使いは丁寧で、人は悪くなさそうだ。


「ここはお茶と菓子を売っているのか?」


 わしの質問に女は目を白黒している。

 先に声をかけたのは女の方であろうに。

 だがそれも仕方がないかもしれない。

 騎士平服姿のわしが、明らかに変装と分かる侍女姿をした、身分の高そうな娘の手を握って歩いているのだ。

 しかも後ろから供の侍女がついて歩いている。

 驚くなと言うのが無理な話だな。

 だが直ぐに女は立ち直った。

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