第8話

 手に取った剣をどうするべきか少々迷う。

 盗賊ギルドの連中と敵対しないようにするのなら、この場に置いておくべきだろうが、そうするとまた無辜の民をこの剣で傷つけるだろう。

 どうせ直ぐまた購入するだろうが、少しの時間でも剣を持たせない方がいいだろう。

 そう思って、他の二人の剣も回収する事にした。

 鞘も回収しておかないと、刃が剥き出しだと危険だ。

 わしは既に左右の腰に二本の長剣を佩いている、この三本をどうすべきか?


「わたしが持たせていただきます」


 アンさんがスッと近づき剣を受け取ろうとしてくれる。


「わたくしも持たせてください」


 クリスさんも愉しそうに剣を受け取ろうとしてくれる。

 二人とも護身用の短剣は腰に佩しているが、剣は佩していない。

 剣はかなり重いから、一本づつ腰に佩してもらうのが精一杯だろう。

 もう一本はわしの左腰に佩して、左右で三本佩して歩こう。

 わしの怪力なら大丈夫だ。


「では一本づつ腰に佩してください」


「「はい」」


 わしは倒れているゴロツキから素早く剣紐を外し、二人の腰にしっかりと剣と一緒に結び外れないようにした。

 自分も手早くもう一本の剣を左腰に佩した。


「クリスさん、行きましょうか?」


「はい」


 わしは笑顔でクリスさんに手を差し伸べてを誘ってみた。

 うれしい事に、クリスさんは何の躊躇いもなく私の手を取ってくれた。

 わしの欲目でなければ、うれしそうに笑って手を取ってくれたように思う。

 後ろをついて来るアンさんも安心したようで、顔色がよくなっている。


「エルはとても強いのですね」


 クリスさんはさっきの争いでまだ興奮しているようだ。

 天使のように美しい顔が赤く上気している。

 心なしか声が艶っぽくなっている気がする。

 色恋の経験などないから自信はないが、家臣共の艶話を聞いている範囲では、クリスさんはわしに好意を持ってくれているのではないだろうか?

 それならうれしいのだが。


「いえ、取り立てて強い訳ではありません。

 ですが、クリスさんをゴロツキ共に渡すわけにはいかないので、普段以上の力を出す事ができたのです」


「わたくし、エルと一緒なら安心です」


「では、魔獣小屋に行きましょうか」


「はい」


 話しながら歩いていると、いつの間にかマインの中心部までたどり着いていた。

 石造りの店は、字の読めない庶民の為に、木彫りの大きな看板が吊るしてある。

 急ごしらえの小屋の前は、色とりどりの綺麗な布でできた幟や幕で飾り立て、生花も飾ってあって、目に鮮やかだ。

 

 

 

 

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