第6話

「無礼な事を申すな」


 クリスさんを護ろうと、思わず口にしてしまった。

 これがゴロツキの悪心を煽ってしまったのだろう。


「野郎、もう許さねぇ。

 女さえいただけりゃ見逃してやる気だったが、こいつも身ぐるみ剥いでやれ」


「いや、いや、いや。

 大男を好む客もいる。

 男娼に売っちまえばいい」


「そりゃあ、おもしろい。

 何なら俺が買ってやろうか?

 ギャハハハハ」


 聞くに堪えない悪口雑言だ。

 そっとクリスさんを後ろに庇う。

 女衒なのだろうか?

 悪相の上に大柄で、力は強そうだ。

 クリスさんを不安にさせる訳にはいかない。


「クリスさん、怖がらなくても大丈夫だよ」


 わしは振り返ってにっこりと笑ってみせた。

 クリスさんは平気で笑っている。

 護衛役のはずのアンさんの方が真っ青になっている。

 だがそれでも気丈に短剣を手にして、クリスさんを護ろうとしているのは流石だ。

 忠臣とはアンさんのような者の事を言うのだろう。

 

「ゴロツキ共、誤解するな。

 我らは不義者ではない。

 所用で買い物に屋敷をでただけだ。

 それゆえ無礼は見逃してやる。

 さがっておれ!」


 無用な争いをクリスさんに見せる訳にはいかん。

 盗賊ギルドともめると刺客が送られてくるとも聞く。

 わしに送られてくるのならいいが、クリスさんに刺客が送られては面目が立たん。

 ここは穏便に済ましたいと思ったのだが。


「なんだと!

 何を偉そうにしやがって!

 どこの何方様だってんだ!

 それに嘘をつくのもたいがいにしろ!

 どこに手を繋いで買い物に行く奴がいる!

 わざわざ手を繋いで買い物しなきゃいけない物は何だ!」


 本当に煩いゴロツキだ。

 いちいち喚かなくても聞こえると言うのに。

 言い聞かせてやらねばならん。


「いちいち大声で喚かずとも聞こえている。

 聞きたいのなら話して聞かせてやろう。

 八百屋、魚屋、肉屋、穀物屋だ。

 それと、布屋と刀剣屋にも行く」


 わしがまじめに答えると、何がおもしろいのか分からないが、先程から気の毒そうに心配そうに見ていた野次馬達がどっと笑った。

 本当に何がおもしろいのだ?


「てめぇら笑うんじゃねぇ!

 舐めてたらてめぇらから先に叩きのめすぞ!

 盗賊ギルドに馬鹿にしてタダですむと思ってるのか!」


 ゴロツキは周りに集まっていた野次馬に凄みだした。

 これはいかん。

 多くの民が迷惑する。

 何より盗賊ギルドの事を口にした。

 これでは盗賊ギルドの連中が集まってくるかもしれない。

 事は早く済ませた方がいい。


「これ、これ。

 他の者達にまで絡むでない。

 そなたらの相手はわしだ。

 文句があるのならわしに言え」


「舐めやがって。

 これでも喰らいやがれ!」

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