第2話

 二人の侍女もふらりと屋敷を抜け出してきたのか、護衛がついていなかった。

 男ならまだしも、身分の高い侍女がたった二人で屋敷を抜け出すなど、危険極まりない事だ。

 繁栄する王都だが、その分闇も深いと聞いている。

 盗賊ギルドの女衒に狙われたらどうするつもりだ?


 わしは他人事ながら少々心配になったので、驚かさないようにゆっくりと近づき、一言注意してやることにした。

 わしの気配に侍女達がくるりとこちらを向いた。


「おっ?!」


 わしは思わず声をあげてしまった!

 すらりと背の高い方の侍女は、十七歳くらいだろうか?

 絶世の美少女で、どこか高貴な感じがある。


「これは、これは、見とれてしまうほど美しい。

 まるで天使のようです」


 女性をからかうような悪趣味はない。

 思わず心の言葉が漏れてしまったのだ。

 

「貴男は誰ですか?!」


 天使は毅然と、少し𠮟りつけるようにわしをにらんだ。

 命令になれた口調と態度だ。

 やはり身分ある女性が無断で屋敷を抜け出してきたのだろう。

 

「わしはこの近所に住んでいる騎士です」


「直臣ですか?

 それとも陪臣ですか?」


 妙な事を気にする天使殿だ。

 正直に話す事もできないし、よくある話にしておこう。


「どちらでもありません。

 今は主君がいませんので、冒険者をしています。

 よくある話です」


「正直そうですね。

 名前は何と言うのですか?」


「エルと呼ばれています。

 ですが正直なだけではありません。

 親切ですし、勇気もあります」


「では、その親切と勇気を見せてごらんなさい」


 天使と例えた事で、ちょっと怒らしてしまったようだ

 それで正直そうですねと軽く嫌味を言ったようだ。

 可愛らしい意趣返しで、天使のような容姿で言われると、逆に見惚れてしまう。

 それと、わしが軽い嫌味に対して親切と勇気を付け加えたから、面白がって話に乗ってきてくれているようだ。


「いけません。

 公女様」


 もう一人の侍女がとても困っている。

 やはり天使はどこかの貴族家の公女だ。

 もう一人の侍女が本物の侍女なのだろうが、この娘も大身陪臣の娘なのだろう。

 全然世慣れていない。

 まあ、わしも耳学問でしかないのだが。

 だがこの侍女も、公女と口にしまっては御忍びが台無しだ。

 公女だと盗賊ギルドに知られてしまったら、確実に誘拐されてしまう。


「アン。

 公女様と言ってはいけません。

 クリス呼びなさい」


「はい、クリス様。

 あの、もう戻りましょう。

 何かあってはいけません」


「それは嫌です。

 ようやく街にでられたのです。

 私はカール橋を渡ります」


「どうかお許しください。

 そんな事をしてしまったら、重臣の方々に叱られてしまいます」

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