シチュエーショントーク、しよっ!

「シチュエーショントークしよっ!」


 俺が帰るよりも早く部屋に居座っていた彼女は、こちらの顔を見るなりそんなことを言ってきた。シチュエーショントーク、状況や設定を決めての会話劇だったはず……いや、そんなことの前に。


「……なんでいんの?」


 彼女の名前は春花暁音。姉でもなければ恋人でもない、家が近いからよく一緒に遊んでた幼馴染である。とは言っても、二歳は向こうの方が上なので、学校とかで遊んだことはほとんど無いんだけど。


「ん? お母さんに通してもらった」

「まあそうだとは思ったけど……それで、どうしたの急に」


 溜息をつきながら床の上に座る。ちなみに彼女はベッドの上だ、遠慮がないというか慎みがないというか、間違いなく男としては見られてないと思う。


「あー、最近友達とTRPGをやる機会があったんだけど、上手にロルが回らなくて。四季なら上手く返せるかなぁって」

「何その根拠の無い信頼」

「だっていっぱい本読んでるし。それに、もう少しで放送局の大会でしょ? 朗読の練習だと思って、ね?」


 パシっと手を叩きながら、こちらの様子を伺うように上目で彼女が言う。

 知ってか知らずかは分からないけど、昔から彼女がこうやって頼むのに俺はとても弱い、歳上相手に対する弱さでは無いと思うけど。


「……わかった、ちょっとだけだかんな」


 さっすが四季! と言いながら、彼女がこちらの両手をガシッと掴む。いや近いって、こっちの性別も考えて欲しい。


「じゃあそうだなあ……最初はイメージしやすく、騎士と姫とかにしましょう!」


 ……そんなにイメージしやすいものだろうか。



 ◇



『騎士! シキ騎士! 早く部屋に来なさい!』


「シキ騎士ってなんか言いにくくない?」

「もー! ツッコミ入れるにしても早い! 会話になってからにして!」


 何気なく聞いたら怒られた、まあ、確かに話の腰を折るにしても早すぎた気はする。


『はっ、アカネ姫。私はここにおります』

『ふふん、流石はシキ騎士、お早い到着を褒めてあげましょう』

『ありがき幸せ。それでアカネ姫、私になんの御用ですか?』

『膝をぶつけてしまってとても痛いの、撫でて貰えないかしら』


 ぱっと顔を上げる、暁音先輩はこちらを見て少しニヤッとした顔だ。姫様の膝を撫でるシーン、正直不自然なセリフになりそうな気しかしない、かと言って時間をかければ意識していると思われる可能性は高い! つまり恥ずかしがる顔を見るのが目的なのだ!

 わずかな時間で考える、何事もないようにセリフを言い切るか、それとも――


『分かりました、痛いの痛いの飛んでいけをご所望ですね』

『ええ、その通りよ』


「……!」


 叩きつけた返答に一瞬動揺しながらも、暁音先輩は流すようにセリフを続ける。しまった、完全に追い詰められた……だが、ここで負けるわけには行かない!


『痛いの痛いの……私が代わりに……うぐっ!』

『シ、シキ!?』

『ふふっ……すみません、アカネ姫……先の戦で受けた傷が深く……』

『そんなっ……』

『最後に、姫様の痛みを消せて……良かったです!』

『ほんとだっ、痛みが……でもっ、シキが死んじゃ意味が!』

『幸せでしたよ、アカネ姫……』

『シキ……? シキッ!』



 ◇



「んー、こんな感じで、オチまで持ってけたし初めてにしては上出来だ!」

「上出来じゃないよ! 騎士と姫で起こる需要に供給するものじゃないもん!」

「まま、本格的にしようとすると短編集じゃなくなっちゃうから」

「なんの心配!?」


 ボケを連打する暁音先輩に、俺は振り回されるようにツッコミを入れる。やがて一段落して、溜息をつきながら立ち上がろうとした俺にそっと手が差し伸べられた。


「掴まっていて下さいね、四季姫」

「……いや、ずるくない……?」


 顔と声がいい女性がいいセリフを言った時の破壊力に、俺はただただえぇ……となるのだった。

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