親友くんとクール先輩

 ものすごく端的に言おう。

 俺、笹葉響ささばひびきの友人、比類川蓮ひるいかわ れんは非常にモテる。


「蓮! また夜更かししてたでしょ! ちゃんと響を見習って!」


 なんていう登下校中の幼馴染に始まり。


「おうおう蓮! 今日も宿題のノート見せてくれよー!」


 授業前にはクラスのちょっと不良っぽい女子生徒に話しかけられ。


「比類川さん、さっきの体育の授業……その、ち、ちょっとはかっこよかったわ」


 体育の授業では、ツンデレ……でいいのか? そんなクラスメイトと会話をし。


「比類川先輩っ! その、この前貸した本……読んでもらえましたか? 後で二人で感想会などいかがでしょう!」


 授業で上の階に行く時には、通りすがった眼鏡後輩女子から声をかけられ。


「おや比類川、調子はどうだい? それに笹葉も。まあ君たちに限って体調が悪いなんてことはないだろうが」


 購買に向かう途中では部活のクールな女先輩に気にかけられる。


 正直なところ、こいつがゲームの主人公だって言われても俺は容易に納得いくだろう。

 俺だって男だし彼女がいたことは無いので、普通のカップルをみて爆発しろ! なんて思うことが無いわけじゃない。ただ、まあ、ここまでモテてたらそんな気持ちも吹っ飛ぶわ。

 それに、蓮とは昔っからの友達だ。


「いやー、まさか財布忘れてくるとはなぁ……」

「珍しいよなー蓮が忘れもんなんて。というかお金位貸すぞ?」

「やだよ、ビッキーに貸したら理由つけて返さなくていいって言うだろ、そういう関係にはなりたくありませーん」

「ビッキーって呼ぶなバカ」


 昼、俺はいつものように弁当で、蓮はいつものように購買でパンを買う……予定だった。

 ビビるほど恋愛に鈍感だが、蓮は結構しっかりものだ。財布を忘れるのも……朝寝不足なのも、普段を考えれば相当珍しい。



「……まっ、そんな調子じゃ腹減るだろ、俺の弁当少し分けてあげるから、今度アイスでも奢ってくれ」

「……わかった、ありがとうな。響の弁当めっちゃ美味しそうだから、正直ちょっと気になってたし」

「そりゃ毎朝作ってる甲斐があったもんだ」

「えっ、これお前が作ったの!?」


 信じられねぇを連呼していた口が、おかずを食べたらめっちゃうめぇを連呼する口に変わった。

 ここまで素直に美味しいを伝えられると、思わず嬉しくなってしまう。こいつがモテるのこういう所なんだろうな……


「んで?」

「?」


 それなりに食べて弁当が帰ってきたところで、俺は蓮に向かって話しかける。蓮は飲み込むまで待つように手で示しながら、こちらに疑問そうな顔を向けてきた。


「財布忘れるようなドジするほど、何を考えてたんだよって」

「あっそうだ! 響に相談したいことがあって」


 思い出したようにそう言うと、そのままきょろきょろと周囲を警戒するように見る。


「焦らさんでいいからはよ言え」

「……今週の土曜日、紗奈と一緒に買い物に行くことになって……」


 紗奈とは、俺と蓮の幼馴染の名前である。

 ……うん? 土曜日に紗奈と買い物で、それのせいで寝不足になるほど悩むか期待するかした……


「……はぁ!?」

「声がでかい!」


 びっくりしてでた俺の声に、同じくらいの大きさの声で返される。


「いやっ、向こうにとってはただの買い物なんだって!」

「あー、なるほど……?」


 絶対紗奈も同じこと考えてるやつだな。つまりあれか、両片思いってやつか。


「……おーい、響?」

「あっ、すまん、ちょっと感極まってた」


 蓮は鈍感故に、紗奈は鈍感だからって思ってるからこそ、両思いだってことはお互い気がついていないんだろう。

 それにしてもあの蓮が、あの蓮が特定の誰かに恋心を!


「それで、」

「言うな、分かる、失敗したくないから一緒にプラン考えてくれ、だろ?」

「……さっすがビッキー」

「ビッキー言うな、任せとけ、最高の計画考えようぜ!」


 紗奈的には蓮と一緒に買い物出来るだけで幸せだろうが、そこはあえて伏せておくことにした。そこは、自分で気づくとこだ。



 ◇



 分厚いマフラーよーし。地味目のダウンコートよーし。帽子よーし伊達眼鏡よーし。

 ……うん、今が寒い季節でよかった、変装は付け足しでやる方が簡単だ。


 現在地は大型のショッピングセンター、その中にある、ただいま蓮と紗奈がお昼ご飯を食べているファミレス……が見える近くのベンチ。

 そりゃまあ、同じ店の中の方が眺めやすいけど、流石に会話内容まで聞こうとするのはストーカーの域だろう。とりあえず二人が仲良くやってるのが分かればそれでいい。


「……それにしても」


 カモフラージュの為のミステリー小説を読みながら、俺はぼんやりと考える。

 蓮は紗奈の事が好きだ、なら他の女性相手には対応を変えるように言うべきだろうか。あいつ鈍感だから、自分に向けられた好意に気づいてないので同じ接し方しそうだし、修羅場になりそうで少し怖い。

 まずはクラスメイトの不良っぽい子、それとツンデレっぽい子もそうだ。後輩にはあの眼鏡の子もいるし――、


「笹葉、そんなところで何をやってるんだ?」


 突然話しかけられて、驚きのあまり飛び跳ねるところだった。噂をすればなんとやら、部活の先輩が目の前に立っている。


「……変装してるんですけど、よく気づきましたね」

「普段から、キミのことはよく見ているからな」

「あー、よく蓮と一緒にいますもんね、俺」


 俺のその言葉に、先輩は軽くため息をつく。邪魔してるみたいに思われたか? そんな俺の思考は気にせず、先輩は隣に座ってきた。


「それで、変装なんかして何してるんだ? ストーカーなら先輩として見逃すわけにはいかないが」

「あー、その、えっと……あれです」


 追求に耐え切れそうになかったので、俺は小さく指をさす。ガラス越しに見える二人の姿をみて、先輩も納得がいったようだ。


「……多分先輩もしってのとおり、あいつ相当な鈍感なんです。紗奈からの好意にも気づいてないし……」


 でも、あいつが紗奈の事が好きだって俺に教えてくれたから、これは友人として協力しなきゃなって。と、そこまで伝えて俺は恐る恐る先輩の方を見る。

 意外なことに、先輩の表情はどちらかと言えばほっとしたって感じだった。蓮の事を好きだと思ってるように見えたけど、この様子だと勘違いだったかもしれない。


「よかった、てっきり私はキミがあの二人の仲を裂こうと待機しているのかと」

「あらぬ誤解だ!」


 俺がそう突っ込むと、先輩はくすくすと笑った。つられて笑ってしまった俺に、先輩は言葉を続けてくる。


「せっかくだ、私もキミの隣で眺めて居ていいかい? キミのことだ、カモフラージュ用の本はまだ何冊か持ってるんだろう?」

「流石先輩……バレないようにお願いしますよ」


 そう言って、俺は先輩に本を渡す。


「……こうも鈍感だと、落とすのにだいぶ難儀しそうだ」


 そんな先輩の言葉に、俺は静かに頷くのだった。

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