続 魔王と旅するショタメイド
◇
『球技』
「広いですねー、運動場でしょうか」
目の前に広がる柵で囲まれた土地を見ながら、メイド服を着たエルフの男の子は呟きました。
「かもねー、誰もいないからわからないけど」
その呟きに女性はぼんやりと答えます。背が高くて、堂々とした振る舞いの、いかにも強そうなマントを着ている女性です。
「魔王様、どうします? 少し動いてから行きますか?」
「うーん、走るだけなら普段から出来るから……っと」
周りをきょろきょろと見渡した魔王が、何かを見つけて歩き始めます。メイドがそれについて行くと、そこには小さな小屋がありました。
「道具置き場ですかねー?」
「みたいだねー、置いてあるもの的に運動場ってよりは球技場だったのかも」
「あっ、道具を出すのは僕がやりますよ、メイドですから」
言いながら、メイドが手をかざすと、中の道具が纏まったまま外に出てきます。
「ボールを打つ道具かなぁ、こういう長い棒、握ったことないや」
そういいながら構えようとしてみる魔王に、メイドはなんとなしに聞いてみました。
「短い棒はよく握るんですか?」
言ってから、この言葉は変な意味にも捉えることができるということに気が付きました。訂正するよりも早く、魔王が返事を言います。
「まあ、毎夜毎夜握ってたかなー」
「待ってください魔王様、それは僕が聞いちゃダメな話の気がします」
「強く握ったら壊れちゃうから、ちゃんと優しく持ってあげて」
「魔王様、聞いてますか!」
「両手で二つは無理だったから片手で一つを」
「魔王様!?」
「あっ、ペンの話だよ?」
「もおおおおおお!」
「筆の話じゃなくてよかったねー」
「やかましいですっ!」
顔を赤くするメイドに対して、魔王はにへらと笑って返します。それはそれとして、と前置きをした後、彼女は改めて棒を握って構えました。
「えっと、じゃあ僕がボールを投げますね」
ひとこと前置きを置いてから、メイドがひょいっとボールを投げました。魔王は勢いよく棒をスイングして。
「……そうなるかー」
風圧に耐えきれなかった棒が、ちぎれながら空高くへ飛んでいきました。
◇
『ゴーレム』
「ここまでたくさんあると一種の芸術作品にも見えてきますねー」
「そうだねー、まあ私、そんなに芸術について詳しくないけれど」
「奇遇ですね、僕もです」
エルフのショタのメイドと強そうな魔王の二人が、街の入口付近で話しています。
その眼前に広がっているのは、活動を停止している大量のゴーレムの群れ。
「ゴーレムって、常に動いているイメージでした」
「ああ、こっちのゴーレムは魔力結晶から生まれた天然ものだからねー。人工的なものは魔力を入れなきゃ動かないの」
言いながら、魔王は近くのゴーレムに軽くノックをします。コンコンっ、と小気味のいい音がなりましたが、ゴーレムは依然として無反応です。
「供給する人間、もういませんからねー……このゴーレム達は、どんな気分で待ってるんでしょうか」
「……止まってるあいだは、そう考えることすら出来ないよ、きっと」
「なんだか少し悲しい話ですね……」
少し憐れむような目線を送るメイドに、魔王は静かに声をかけます。
「私の賢いメイドさんならわかると思うけど、動かそうとしちゃダメだからねー? 警備型とか攻撃型とか、絶対面倒なことになるから」
「わかってますよー、賢い魔王様の賢いメイドさんですから。ちなみにこれ、どうやって魔力の供給をするんですか?」
「んー、前に戦場で見かけたやつは、余波とかで空気中に漏れた魔力を取り込んだりしてたかなぁ……多分、近くで魔法を使えば勝手に補給すると思う」
魔王の言ったその言葉に、メイドは少し引っ掛かりを覚えました。数秒間、静寂と共に悩んで悩んで、
「……僕、勝手に魔力漏れ出す体質なんですけど、大丈夫ですかね」
「あっ」
言葉を言い終わるとほとんど同時、後ろで何かが動く音がしました。
「……逃げましょうか、魔王様」
「……そうだね」
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