魔王と旅するショタメイド

 ◇

『道』


「魔王様ー、まーおーうーさーまー」


 平坦な道で、一人の男の子が叫んでいます。歳は七か八ほど、ピンと尖った耳が特徴のエルフの男の子でした。あと、メイド服を着ています。


「そんなに叫ばなくても聞こえてるって」


 魔王様、そう呼ばれた女性はため息をつきながら応えます。背の高く、堂々とした立ち振る舞いの大人の女性です。しかも、魔法攻撃を弾きそうなマントを着ています。


「道、ふたつに分かれてますけど、どっちに行きますか?」

「うーん、生体反応は?」

「見つからないですねー」

「それじゃあ、どちらに行っても問題はないかなー」


 ぼんやりとした口調で、魔王とメイドは話をしています。そんななかで、ふとメイドがなにかを思い出して話し始めます。


「そういえば、魔王様。僕、こういう分かれ道を見ると思うことがあるんですけど」

「おっ、なんだい私の可愛いメイドさんや」

「なんですかその言い方は」


 男の子が少し顔を赤くして、魔王はくすりと笑います。


「いや、その……生き物が居なくなったら、こういう道ってすぐ草花で覆われると思ってたんですけど、意外と残るもんなんだなーって」

「それはまあ、まだあんな事が起こってから数週間だよ? そんな早くは生えてこないでしょー」


 それを聞いて、メイドは不思議そうに首を傾げます。


「植物なんて二日で僕の腰くらいの高さまで伸びるものなんじゃ……?」

「……君の言う植物ってなに?」

「えっ……普通に家の周りに生えてる魔力いっぱいのやつですけど……」

「ああうん、そうだね、うちのメイドはエルフだったね」


 わざとらしくため息をついて、魔王はやれやれといった様子の動きをしました。それを見て、メイドは言葉をなげかけます。


「それで、どっちの道に行きます?」

「あっ、植物の話今ので終わりなの!?」

「いやだって、魔王様が答えを教えてくれましたし」

「うーん、あまりに自由だなぁ……君の教育係は生きてるうちにお説教しておくべきだったかもしれない」


 植物の話への興味は消えたようで、ふらふらと左右に揺れながらメイドは言葉を続けます。


「まあ、僕は魔王様のメイドさんですから、あなたの行くところならどこへだってついて行きますよー」

「おっ、突然かっこいいことを……うん、じゃあそうだなぁ」


 大袈裟に悩むような仕草を見せながら、魔王はぽんと手を叩きます。そして分かれ道の間、道では無い草原に手をかざすと、軽い衝撃波でなんと三つ目の道を作り出してしまいました。


「じゃあこうしよう、使われない道はいずれ道じゃなくなるけど……そういうのをみたら、私たちが道を新しく作るのさ」


 そういって笑う魔王に、メイドは少し驚きながら言いました。


「いや、どっちかの道に行った方が街とかにつく可能性は上がるので、道無き道とかよりそっちの方がいいんじゃないですか?」

「ここでそういうこと言う?」


 ◇

『魔力草』


「暑いですねー」

「暑いねー」


 先程と同じメイド服の男の子が、先程と同じく隣にいる魔王に向かってぼんやりと話しかけます。

 時刻はお昼頃、真上からさんさんと輝く太陽が、歩く二人にジリジリと熱を届けています。


「メイドー、メイドやー」

「はいはいなんでしょう魔王様ー、こちらあなたのメイドさんです」

「なんかこう、ばーって水をだす魔法を使っておくれー」


 魔王はぴょこんと跳ねながら手を振って表現します。その際に揺れる胸は、大して気にしてない模様。


「あー、ごめんなさい魔王様。ただいま魔力枯渇気味でございます」


 顔を赤くしながらメイドか言いました。


「んー、そっか、魔力が漏れ出す体質って不便だねぇ」

「それもあるんですけど……ほら、魔力草あるじゃないですか」


 そう言いながら、メイドは背負ってるバックをゴソゴソと漁ります。そして取りだしたのは、少し紫がかった一枚の葉っぱ。

 普段は空気中のものを自動で吸い取るしかない魔力を、食べるという形で効率よく取り込める優れた植物です、食べる側の視点ですが。


「普通は料理とかに香草として混ぜてるんですけど、生で食べてもそんなに魔力が回復しないんですよねー」


 ついでに毒性も少しありますし。とメイドは付け足しました。


「料理して食べるの、なかなか機会が訪れないからねー。でも、流石に生で食べるのは御主人様どうかと思うなー、魔王もどうかと思うなー」

「じゃあどうします? お肉はだいぶ貴重ですし」


 聞かれた魔王はうーんと考え、そして閃いたようにぽんと手を叩きます。


「魔力草で作った飲み物とかあったよね? ほらほら、水ならこの魔王様が魔法でいくらでも出してやろう!」

「確かにお城で働いている時はよく飲んでましたねー。ありがとうございます魔王様、では早速……」


 と、その言葉に納得したメイドは水を入れるための容器を取り出して、

 そして気づきます。


「魔王様、自力で水出せるじゃないですか!」

「……てへっ」

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