月がまあるく光る夜

「今夜はいい月ね」


 そんな声が隣から聞こえて、僕は思わず飛び跳ねそうになった。

 住んでいる村からはちょっと離れた、月のよく見える広い草原。満月の夜はいつだって、僕はここに訪れて月を眺めていた。


 今日の月もとても綺麗で、僕はじっと見蕩れてしまっていた。それに、こんな時間に足音も立てずに誰かが来るなんて誰が想像できるんだろうか。

 そんなわけで、僕がその女の子に気が付かなくても仕方ない事だった……多分。


「ふふっ、初めまして。あなたはよくここに来るの?」


 その声にやっと振り向いて、僕は微かに息を飲んだ。

 まるで、時間が止まったかのような衝撃が走った。その女の子はなんというか、いま空に浮かんでいる満月をそのまま切り取ったみたいに美しかった。

 金色の長い髪を揺らしながら微笑む美しい彼女に、僕は頷く事しか出来なかった。そして、なんとか言葉を振り絞って、


「満月の夜は、いつも」


 なんてつなげた。

 彼女は愉快そうにくすくすと笑うと、それじゃあ私たち、満月仲間ね。なんて言いながら僕の隣にふわりと座る。

 満月仲間ってなんだろう、そう思っていると、彼女が意味を教えてくれた。


「私ね? 吸血鬼なの。普段は城に居なきゃいけないんだけど、今日みたいな満月の日は特別」


 ああ、なるほど。少しびっくりしたけれど、なぜだかすんなり納得出来る。吸血鬼は夜を生きる種族だって教わった、なら彼女がお月様みたいに綺麗なのも当然なんだろう。


 それから、僕達はいっぱい他愛のない話をした。満月仲間だったからかな、僕らの話は弾み続けて、もしかしたらずっと話してられるんじゃないかって気さえしてきた。

 でも、それは無理なこと。彼女もそうだし、僕も満月が終わるまでにお家に帰らなきゃいけないから。


「ありがと、楽しかったよ。ね、ね、私たち、お友達になりましょう?」


 別れ際に彼女がそんなことを言って、僕は嬉しくって首を何度も縦に振った。

 でも、僕の方からまだ伝えてなかったことがあるのに気がついて、急いで彼女を引き止める。


「僕、満月の日にしか愛に行けないんだ……それでもいい?」


 不安な僕がそう言って。

 彼女はわざとらしく口を抑えて笑ってしまった。


「そんなこと、姿を見た時からわかってますよー」


 そういいながら、彼女が僕の首元をそっと撫でた。

 彼女の触れた毛皮がくすぐったくて、そしてなんだか少し恥ずかしくて、僕は一言くぅーんと鳴いたのだった。

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