全能ナイフ
私、一ノ瀬きらら! いつも通りの日常を送ってたら神様を名乗る変な男に「覚えてないだろうけど不手際が起きたからお詫びに」って変なナイフを押し付けられちゃった! もう、一体どうしたらいいの!?
……いやまあ、嘘なんですけど。誰なんでしょうね、一ノ瀬きららさん。
あっ、でも後半の方は本当です。私の部屋の机には、なんか押し付けられたナイフが置いてあります。しかも、ご丁寧に取扱説明書付き。なんでこっちは本当のことなんでしょうか。
さてさて、まあとりあえず読んでいきましょうか、取扱説明書。都合のいいことに商品名が書いてありますね、ふむふむなるほど、どうやらこれは全能ナイフというものらしいです。
全能ナイフ、名前から思い浮かぶのはやはり万能ナイフだとか十徳ナイフだとか呼ばれるあれでしょうか。ああいうのって小さく折りたためるの、なんかすごいロマンを感じますよね。
……見た目が完全に果物ナイフなんですけど? いやいや、せめて寄せましょうよ、完全に万能ナイフ意識したネーミングじゃないですか、それとも親しみやすいように後から名前だけ変えたんでしょうか。
まあでも女の子の私が言うのもなんですが、結局道具に一番求めるのは機能性ですよ。全能ですよ、全能。明らかになんでも出来そうな名前してるじゃないですか。
そんなふうに思いながら、説明書のページをめくります。おっ、ありました、「概念を含めた何でもを念じることで斬ることの出来るナイフです」と。
いや、凄いのは分かるんですけど。分かるんですけど……万能ナイフよりやれること減ってるじゃないですか! 知ってますか? あれ、プラスドライバーとマイナスドライバーついてるんですよ?
というか概念を含めたって、異能バトルでしか使わないでしょ概念を斬るって、少なくとも平和な世界で使うことなくないですか。
……とりあえず、一応貰ったものなんですし、使い方を考えてみましょうか。そんな物理的に斬るのに困る物がある訳じゃないので、使うとしたら概念を斬るって方を有効活用するべきなんですかね。
目に見えないものを斬るといえば、真っ先に思い浮かぶものは縁切りでしょうか。……でもなぁ、一時の過ちで喧嘩した友達との縁を切ったとして、まあ物語のきっかけみたいなことになるんでしょうけど……治せないんですよね、これ。やったら多分取り返しがつかないのに試せることは多いって、めちゃくちゃ使いにくくないですかこれ。
嫌なところは連鎖的に思いつくもので、よく考えたら見た目にも問題がある気がしてきました。
万能ナイフとか、なんか特別って感じの見た目してるじゃないですか。対してこれ、見た目だけならただの果物ナイフですよ? 例えばこれを机の上に放置したとして、親が見つけて調理器具のところに閉まったら取り返しつきませんからね。なんでこんなデザインにしたんですか全く。
そんなことを考えてた私の頭に、ピキーンと何かしらが降り立ちました。
これ、普通のナイフとして使ったらどうなるんだろう、と。だって全能ナイフですよ、絶対斬れるじゃないですか!
ということで善は急げ、私は冷蔵庫からリンゴを取り出すと全能ナイフくんを押し当てます。さあ、その切れ味見せてもらいましょう!
……普通に使っても斬れないんかい!
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