第06話:奇妙な魔導具
朝目が覚めると見知らぬ天井が見えていた。妙にガンガン痛む頭を振りながら上体を起こす。
「あぁ、そいえばリーフィンドに来てたんだっけか。それで冒険者ギルドに登録して……ギルド長さんとドワーフさんと祝杯を上げて、≪
痛む頭で昨日のことを思い出す。
「あれ?ルーミィは?」
僕が部屋を見渡すと、小さいな部屋に机とベットと物入れだけしかないこじんまりした一人用の部屋だ。
「あぁ、そういえば別々の部屋だったっけ」
食事会の後半以降の記憶がとても曖昧になっている。うーんと唸って考えていると、部屋をノックする音が聞こえる
「おにーちゃん、起きてる?大丈夫?」
ルーミィの心配そうな声が扉越しに聞こえてくる。
「あぁ、大丈夫……だよ?」
この頭の痛さは大丈夫と言っていいのだろうかと思いながら、扉の鍵を外して開ける。
ルーミィはもうしっかりと外に出れるような格好をしていて、当たり前のように僕の部屋に滑り込んでくる。
「おにーちゃん、起きたばっかだね。お寝坊さんだ」
僕の格好を見たルーミィがコロコロと笑いながら言う。
「もう朝ごはんできているみたいだよ。下からいい匂いがしてきてるから」
ルーミィはそう言うけど、僕は食欲があまりない。どちらかと言うと気持ち悪い。だけどルーミィ一人だけ行かせる訳にも行かないので、ちょっと身だしなみを整えてから1階の食堂に向かう。
「おやおや、若いのに随分と寝坊してたみたいだねぇ?」
席につくと恰幅のいい女将さんが、冷たい水を片手にやってくる。
「ふぅん。結構な洗礼を逃げ出さずに受けたみたいじゃないか。そういう意味では感心だねぇ。そっちのお嬢さんは何も問題なさそうだね。ちょいと待ってな。すぐに用意するからね」
女将さんが僕の顔色を見ながら、色々なことを瞬時に察すると、冷たい水を置いて厨房に戻っていく。
「おーい、アンタ。普通の一人前と、二日酔用一人前頼むよっ!」
「……わかった」
そんなやり取りが厨房とやり取りされる。
しばらくすると、女将が両手いっぱいに料理を持ってやってくる。
「ほらよ。コイツが朝食だ。一杯食べとくれ、そっちのお嬢さんはね。アンタにはこっちだ」
籠に入った小麦の臭いが薫る焼きたてのパンと目玉焼き、後は豆と葉野菜と腸詰めを煮込んだスープが出てくる。僕に渡されたのは、同じスープなのだが、葉野菜がクタクタになるまで煮込んでいるスープだった。
これだったら胃に優しいので、何とか飲むことができそうだ。
ルーミィは元気に朝食食べ、僕は何とかスープを胃に流し込む。不思議なもので、胃に何かを入れた方が、気分が楽になるようだ。
「おにーちゃん辛そうだけど大丈夫?」
「うん。何とか、少しずつ良くなっているかな。もうちょっと休んだら動けそうだ」
朝食を終えた僕は自分の経に戻ると、ルーミィも一緒に僕の部屋に入ってきて、ベッドに腰掛けると、足をぶらぶらさせながら、僕の様子を眺めている。
僕は、昨日帰ってから机の上に置きっぱなしになっていたギルドカードを手に取ると記載内容を確認する。
冒険者ID:2847、名前:ミスティ、
「えっと、ルーミィの
自分の
「私のはねー。こうみたいだよ」
そう言って首から紐でぶら下げていたギルドカードを手渡してくる。うん、大事なものだから、僕も首からかけておこうと思いながら、ルーミィのギルドカードを見せてもらう。
冒険者ID:2848、名前:ルーミィ、
「ルーミィは
「ううん。でも魔法使いさんが光の精霊術士だーって言ってたよ」
「ふーん。じゃぁ
自分が宣言するものではなかったという事を聞いて、僕はちょっと安心する。
そうこうしている内に、頭の痛みが薄れてくる。
「やっと、頭が痛いのが引いてきたみたいだ」
「じゃぁ、町の中見て回ってみようよ!講習は明日からって言ってたから」
「うん。そうだね。町のどこに何があるのかわかっていないと、色々不便だよね」
「うんうん。こんなおっきな町、色々ありそうで楽しみ♪」
街の散策を提案するルーミィの意見に同意すると、ルーミィは飛び跳ねながら喜ぶ。僕は念の為、刀だけ腰に佩いて部屋を出る。
「おや、お出かけかい?二日酔いは良くなったようだねぇ」
「えぇ、おかげさまで。スープとっても美味しかったです」
「あはははは。そう言ってくれるのは嬉しぃねぇ、後で主人にも伝えとくよ」
1階に降りた僕達を見つけた女将さんが声を懸けてくれる。
「あぁ、北西ブロックの奥にはあまり行かないほうがいいよ。ちょいとガラの悪い連中が多いからね。お勧めは南東ブロック。あそこは商店が多いから、色々なものが見つかるさね」
そして危険な場所とオススメな場所を教えてくれる。
リーフィンドはこの宿屋や冒険者ギルドのある噴水広場を中心に、南北、東西に大通りが走っており、それぞれの大通りによって、北西ブロック、北東ブロック、南西ブロック、南東ブロックに分かれているみたいだ。
僕達は宿を出ると、女将さんがお勧めしてくれた南東ブロックを目指すことにした。
「うーん、かなりの人出だね。土地勘もないしはぐれると大変そうだ」
「そうだね。じゃぁっ!」
僕が人の多さに辟易としていると、ルーミィが嬉しそうにその小さな手で僕の手を握ってくる。
「こうすれば、はぐれないよねっ!」
太陽のような無邪気な笑顔を浮かべるルーミィから、僕は思わず目をそらして、頬をポリポリ掻く。
本当にすごく可愛いのに無邪気にスキンシップしてくるものだから、ドキドキしてしまう。
「わぁーっ。すごいね!すごいね、ミスティおにーちゃん!」
南東ブロックは女将さんの紹介してくれた通り、様々な店が軒を連ねている場所で、生鮮食品から衣服、武器、骨董と様々なものを売っている店があった。
僕達はずっと村から出たことがなかったから、見たことのない野菜や果物、きれいに染められた布、鉄製の数々の武具と、目に入るもの全てが新鮮だ。
ルーミィが可愛いものや綺麗なものを見つける度に、僕の手をグイグイ引っ張るので、ぼくは全然落ち着いて見れないんだけど、ルーミィがすごく楽しそうにしているのを見るだけで、とても幸せだ。
こんな気分になるなんて、村を出なかったら味わうことはできなかった。今の所、この町では、僕は
「ミスティおにーちゃん、あそこ行ってみたい!」
ルーミィが指差す先には、大きな宝石をはめた指輪の看板を出している店があった。どうやらそこは宝飾店のようで、窓の中からこちらに向けている商品は、色とりどりの宝石が加工したアクセサリーで、陽の光を反射してキラキラ光っている。店の看板には『タリス装飾品店』と書かれていた。
「わかった。でも、見るだけだよ」
「うん」
やはりルーミィも年頃の女の子だし、ああいうキラキラとした綺麗な物が好きなんだろうなぁと思いながらルーミィと宝飾店の中を窓から見てみる。でも何か高級そうで、入るのがためらわれる感じだ。
「ちょっと入りづらいね。きっと高いだろうし」
「うん。
僕達は場違いな雰囲気がしたので立ち去ろうとすると、親しげな声がかけられる。
「あら?ルーミィちゃんとミスティ君じゃない。どうしたのこんなところで?」
「お、デートか?ミスティ君やるねぇ」
「いやいやいや。デ、デートとか、そんなもんじゃないですから」
「あら、そう?」
「そうなのか?つまんないなぁ」
突然そんな言葉をかけてきてくれたのは、昨日から散々お世話になっているウルティナさんとウルフェさんだった。
二人も買い物にきていた、昨日のような防具を身に着けた格好ではなく、普段着のようなラフな格好で、ウルティナさんは幾つかの袋を持っていた。
「ふーん。ここねぇ」
「なるほどね。どういう理屈かわからないけど、目が高いじゃない」
「え?そうなんですか?」
「知らないで入ろうとしていたのかよー。だとしたら本当に目が高いかも知れないなー」
頭の後ろで手を組みながら感心した声を上げるウルフェさん。
「この店はただのアクセサリー屋ではなくて、魔法の掛かった貴重なアクセサリーを取り扱うお店よ。冒険者の中には、こういうところで買って身につけたアクセサリーに命を救われた人も多いのよ」
「そ、そうなんですか?なるほど……本当に知らないことだらけだな……」
「じゃぁ、君達をこの店の店主に紹介してあげましょう。ゆくゆくはお世話になるかも知れないからね」
ウルティナさんが、そんな僕を目を細めて眩しそうに眺めると、そんな提案をして、宝石店の中に入る。
僕達もウルフェさんにぐいぐいと背中を押されて、店の中に入れられてしまう。
「いらっしゃいませ。あらウルティナじゃない。この間買った商品に不具合でもあった?」
「いやいや、十分に効果が出ていたわよ。今日はね、今後きっと常連になってくれるだろう有望な若手を紹介したいの」
「アタシもこの子達は、相当やるようになると思うな!」
眼鏡を掛けた優しそうなエルフさんが出てきて、ウルティナさんに親しげに声をかける。そしてウルティナさんとウルフェさんから過剰な評価をもらいながら紹介される。
「へぇ、村から出てきたばかりのミスティ君にルーミィちゃんね。出てきたばかりって言うと森の氏族ドルイドかしら?」
「はい。
「へぇ?珍しいわね。外界の知識がないのに
「
「
僕が聞くとタリスさんが丁寧に答えてくれる。
「風の氏族って、ここからもっと北に行った先に広大な草原があって、その草原で暮らしているんですよね」
そのタリスさんにルーミィが話しかける
「そうね、ルーミィちゃん。定住するものもいれば、私のように風まかせに度に出るエルフも多いのよ」
本当に村だけで生活しているとわからないことだらけだった。風の氏族があるのも、
「まぁ、ここいらの町じゃ一番の
「じゃーねー」
「色々ありがとうございました」
タリスさんを紹介してくれたウルティナさんとウルフェさんが先に店を出る。
「どうせお客さんも少ないし、ゆっくり見ていっていいわよ」
僕達はタリスさんの言葉に甘えて、
キラキラ光る宝石や、それに込められている魔法を感じてか、ルーミィが目を輝かせながら、あちこちを見ている。
僕は、
この店においてあるアクセサリーを綺麗だなぁくらいしか感じられない。だから、これらの商品を感じることができないので、邪魔にならないように隅っこの方に立って、ルーミィが楽しそうにアクセサリーを見ているのを眺めていた。
「ん?こっち?」
綺麗なアクセサリーを眺めているルーミィが突然、僕の方を指さして首を傾げる。そして僕のほうに歩いてくると、僕の身体からちょこんと顔を出して、僕の後ろの棚を眺める。
「これ?」
そして、一本の何も飾り気がなく、少し黒ずんだ銀色の
「あ!え?それ?」
それを見ていたタリスさんが、目を見開いて驚いた表情を浮かべた後、こっちにやってくる。
「ここの棚は私の
僕の側にやってきたタリスさんが遠い目をしながら説明をしてくれる。
「ねぇ、ミスティおにーちゃん。これがミスティおにーちゃんに良いって
少し黒ずんだ銀色の
「うん。ギルドカードを首にかける
僕がそう言うと、ルーミィが目を輝かせて
「だったら、これはどうかしら。本当は銀貨15枚だけど、お知り合い記念で銀貨5枚におまけしてあげるから」
タリスさんが銀色のチェーンに、同じく銀の雫型のプレートに細かく模様が彫り込んであり、その一番太い部分の真ん中に紫色の小さな宝石が付いたペンダントトップを持つ
「これ可愛い!ルーミィこれが良い!!」
そもそも予算の3倍の商品だけに、見た目も相当良いからルーミィも気に入った様だ。
「それでね、これもセットで付いてくるのよ」
その
「これは共鳴の
タリスさんがウィンクをしながら、商品の説明をしてくれる。ルーミィの顔を見るとこれで問題ないみたいだ。
「じゃぁ、その共鳴の
ルーミィが元気よく注文すると、タリスさんが笑顔を浮かべて、商品を手に取って会計カウンターに持っていく。
僕は革袋から銀貨7枚を取り出して、カウンターの上の木の器の上に置く。
「じゃぁ、こっちの長方形のは
タリスさんはそう言うと手慣れた感じで、
「どうする?もう着けていく?」
「うん、着けてく。おにーちゃん、ルーミィにつけてー♪」
僕はタリスさんから共鳴の
真っ白な肌に銀の
「にへへへ。どう、おにーちゃん?」
ルーミィはニコニコと笑いながらくるっと振り向くと、その動きに追従するように
「うん。似合ってて可愛いよ」
僕がそう言うと、満面の笑みを浮かべて喜ぶ。
「本当に似合っていて可愛いわねぇ。自分の作ったアクセサリーをこんなに可愛い子が着けてくて、喜んでくれるなんて、
タリスさんがうっとりとした表情で呟く。
「おにーちゃんのは私が着けてあげるー!おにーちゃんしゃがんで!」
僕はルーミィが届くように、その場に膝をついてしゃがむ。それでもルーミィが手を通すのは難しい高さだ。
ルーミィは僕に抱き着くように首に腕を回しながら、
「うん。できたよ」
ルーミィがそう言うので、立ち上がりながら
バチィッ!!
僕の指先が
「きゃぁっ!」
「痛っ!」
「えぇぇ?!」
急に発生した火花と音にみんなが吃驚する。
「お、おにーちゃん。それ……」
ルーミィが吃驚した表情で僕の胸元を指さす。
「うん?」
僕もその指先にある
「ちょ、ちょっと……それ
タリスさんはそう言うと、大急ぎで店のカウンターの裏に走って行く。そして手に小さい円筒形の何かを持ってくる。
「ちょっと調べさせてね」
タリスさんは眼鏡をはずして、その円筒形の何かを目に当てて、
「ま、まさか……オ、
タリスさんが驚愕の声を上げる。
「
「最高の硬度を持ち、高い魔法伝導力、蓄魔導力を持つ最高峰の希少金属よ。その
タリスさんが驚きを隠せない顔をして、円筒形の何かを持つ手が震えている。
「そんな貴重なもの……か、返します」
そう言って僕は
「いや、その必要はないわ。だってすっと私はその価値がわからなかったし、なんでいきなり
「そう、ですか……」
「それはそうとして、どんな魔法が掛かっているか鑑定させてもらってもいい?」
「はい。どうぞ」
タリスさんは僕の許可をもらうと、何らかの魔法を唱える。
「あ、おにーちゃんに魔法は……」
ミスティが声を上げる。あ、そういえば僕には魔法が掛からないんだった。
「あ、多分。魔法はかから……」
僕がそう言いかけると、タリスさんは魔法を完了させたのか、軽く握った拳を顎に当てながらふんふんと頷いている。
「これは魔法効果を無効化する強力な魔法が掛かっているわね。あれ?じゃぁなんで私の魔法が掛かったのかしら?」
「魔法効果を無効化する魔法……?もしかして、魔法効果を無効化する魔法を無効にしたのかも」
「はい?」
タリスさんの言葉にハッとした僕が呟くと、タリスさんが不思議そうな顔をする。
「えっと、僕の身体は先天的に魔法が掛からないんです。攻撃魔法なんかは僕の身体に着弾する瞬間に打ち消されて……」
「それはまた……奇妙な体質ね」
「なので、本当はタリスさんの使った鑑定魔法は、僕の先天的な体質によって、本当は発動しないはずだと思うんです」
「ふんふん」
「ですが、それが発動して、しかも
「じゃぁ、申し訳ないけど、その
タリスさんがそう言うので、僕は
「……なるほどね」
次にタリスさんが、僕の衣服に対して鑑定魔法を実行する。
「はぁ……つくづく奇妙な感じねぇ。机に置いた
タリスさんが溜息をつきながら、再度僕に
「じゃぁ……」
タリスさんが鑑定魔法を3度使う。1度目は
「無茶苦茶ね、コレ。結果としては
普通の
「なんて意味のない魔導具!首だけのみの魔法無効化なんて、なんて意味のない!!しかも偽装を解除する方法が、魔法を無効化する魔法が掛かている
タリスさんがダンダンと地団駄を踏みながら叫ぶ。
「これは……結果的にあなた専用の魔導具以外ではないわね。
「色々とありがとうございました。僕の体質の事が少し明らかになった気がします」
僕がお礼を言うと、タリスさんは手をヒラヒラさせながらカウンターに向かっていく。
「私は吃驚しすぎて疲れたから、ちょっと休むわね」
そう言うタリスさんにもう一度頭を下げると、僕達はタリスさんの店を出るのだった。
「おにーちゃんとお揃い♪嬉しいなっ♪」
タリスさんの店から出ても、ルーミィがずっと上機嫌で鼻歌を歌いながら
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