第05話:冒険者ギルドに登録
青灰色の毛を持つ
冒険者ギルドの中の入口正面から左側は酒場、右側にはカウンターと上へ続く階段が見える。
「おう、ウルグじゃねぇか!今日の稼ぎはどうだったんでぃ?」
既に鼻の頭が真っ赤になった、ずんぐりむっくりのドワーフの男性がウルグさんに声をかける。
「そこそこさ。そっちは……見た所駄目だったようだな」
「おぅよ!だからこの時間からやけ酒よぉ!」
「やけ酒も何も、アンタ毎日毎日飲みまくってるじゃない」
「ぐはははははっ!それがドワーフっちゅーもんよぉ!」
ウルグさんは手を上げて答えて、ウルティナさんも茶々を入れるが、そのドワーフの男性は全く気にしている様子がない。
「おぉ?何だ?そのもやしみたいなやつは」
「もやしって……ゴラン、初対面の相手にあんまりよ?」
「うわっはっはっは!すまねぇすまねぇ!何せ酔っちまっているからよ」
「酔っているのはいつものことでしょ!」
「うわっはっはっは!違いねぇ!!」
ドワーフの眼に僕が入ったようで絡んできて失礼な発言をしたんだけど、ウルティナさんが諭してくれる。
僕は村では
「おい!もやし!!用が済んだら俺のところに来い!一杯おごっちゃる!!」
「だから、もやしって失礼でしょ!しかも多分未成年だがら飲めないわよ!!」
「うわっはっはっは!違いねぇな!!うわっはっはっは!!」
もう無茶苦茶なドワーフさんだった。
「まずはあっちのギルドカウンターで登録するの」
気を取り直してウルティナさんが受付を教えてくれる。そして僕達を見送ると、また別のカウンターに向かう。ギルドの職員さんも良く見知った感じで挨拶をしているようだ。
「新規登録でしょうか?」
白いブラウスに、赤くて幅広で短いネクタイ、背中をリボンをいくつも交差して縛った焦げ茶のジャンパースカートといった制服を着た女性の職員さんが、僕達に声をかけてくれる。
「あ、はい。村を出て町に行くのが初めてなので、色々教えてもらいたくて。親切で丁寧な衛兵さんに相談したら冒険者ギルドが良いと勧められてきました」
「あらあら、この時間で親切丁寧な衛兵さんって言ったらシャルウッドさんね。後でお礼しておかないといけないわね。あぁ、ごめんなさいね。新規登録のご要望を承りました。まずはこちらに必要事項を記入してください」
僕が冒険者ギルドに来た経緯を説明すると、職員さんがすぐに対応してくれる。バインダーに挟まれて差し出された紙には名前と出身、年齢、
「あの……出身なんですが、精霊樹の村って呼ばれている村なんですが、そう書けばいいんですか?ほかに村名みたいのは知らなくって」
「はい。大丈夫ですよ。一応の身元確認みたいなものですから。万が一の事態が起きた時に連絡したり、遺品を引き取りに来た人の身元と照合するために使用するだけですから。それで精霊樹の村ですか。珍しいですね。あの村から外に出て、かつ冒険者になる人ってかなり少ないんですよね」
「はい。僕の知っている限り一人もいない気がします。いや……」
職員さんの言葉を返そうとした瞬間、僕の記憶がフラッシュバックし、嫌な思い出が思いだされて、苦いものが口いっぱいに広がる。
「書けましたか?」
「あの、この
僕が苦虫を噛み潰していると、ルーミィが職員さんに質問する。僕もそれを書きあぐねていて、困っていたんだ。
「普通は、剣士とか魔法使いとか書くんですが、見た所二人はまだ定まっていないようですね。この後に適性検査を行いますから、その結果を持って記載するといいんじゃないでしょうか?」
「適性検査ですか?それに落ちたら冒険者になれない……?」
「いいえ、冒険者になれないって事はありません。水晶球に手を当てて、どんな適性があるのか、どんな能力を持っているのかを調べるだけですから」
職員さんの説明を聞きながら、僕達は埋められる所は埋めて提出した。
「はい、受け取りました。次は先ほどいったように適性検査になります。適性の情報は重要な個人情報になりますので、個室にて一人ずつ執り行われます。このカウンタの右手奥に通路がありますので、そこを突き当りの適性検査室に行いますので、移動して扉の奥から呼ばれたら、呼ばれた人だけ入室してください」
職員さんの説明通りに、僕達は移動すると部屋の前にある椅子に座って、名前が呼ばれるのを待つ。
「ルーミィさん」
僕より先にルーミィが呼ばれる。ルーミィは立ち上がるとちょっと不安そうな顔を僕に向ける。
「それじゃぁ、ミスティおにーちゃん。行ってくるね」
意を決したルーミィが適性検査室に入っていく。
僕は何かあったらすぐに助けに入れるように警戒しながらルーミィが出てくるのを待つ。僕にとっては相当に長い時間に感じたんだけど、ルーミィからすればあっという間に、部屋から出てくる。
「お待たせ、ミスティおにーちゃん。すっごくビックリされちゃったー♪」
部屋から出てきたルーミィが顔を輝かせながら自慢してくる。
「どうだったの?」
「うん。聞いていた通りだったよ。部屋に入ったら席の前に魔法使いさんが一人いて、椅子に座るように言われて、座ったの。そして台の上に置いてある水晶球に手で触れると、水晶球がパーって綺麗に白く輝いたんだ。その水晶球を見ていた魔法使いさんが吃驚して、これは珍しい!って言っていた」
「そうなんだ。それで結局適正はどうだったの?」
「えーっと、やっぱり精霊術士だって言ってたよ。ただしすごく珍しい光の精霊の精霊術士になるって」
「なるほど、ルーミィのは聖霊のはずだけど、それはあの村だけの話だけなのかもしれないね」
「うーん。どうなんだろ、よくわからないや」
そうルーミィと話していると、続いて僕も呼ばれる。
「失礼します」
そう言って僕も適性検査室に入る。中は薄暗くて、正面に水晶球の乗ったテーブル、その奥に魔法使いらしい人が座っている。ルーミィの言った通りみたいだ。
「そこの椅子に座って、水晶球に手を触れてもらえますか?」
魔法使いさんは丁寧に話をしてくれる。僕は言われた通り、椅子に座って水晶球に手を乗せる。
……何も起きない
「おかしいですね?何も反応がないみたいです。普通はすぐに反応するのですが」
魔法使いさんが水晶に手を触れると、水晶球から薄緑色の光が零れる。
「あれ?普通に反応しますね。もう一度お願いします」
「は、はい」
魔法使いさんに促されてもう一度やってみるが、やはり何も起きない。
「おかしいです。こんなことは初めてです。では、水晶球に手を置いて、心を穏やかにし、自分の中に眠る力を水晶に流し込むイメージで力を入れてもらっても良いでしょうか?」
再度手を置いても何も反応しないので、魔法使いさんの言う通り、心を落ち着かせてから力を流し込むイメージをする。
ピシッ……ピキピキピキ……ガシャーンッ!!
水晶球に突如
「こ、これは困りました。少々お待ちください」
魔法使いさんはそういうと慌てて部屋を出て行ってしまう。そしてしばらくすると、大柄な年配の人と一緒に部屋に戻ってくる。
「この少年がそうか?」
「はい。もう一度試してみます。また同じことが起きるかもしれませんので、水晶に移る影をしっかり見ておいてもらえますか?」
「了解した。始めてくれ」
年配の男の人と魔法使いさんが、そのようにやり取りをすると、さっきと同じような水晶球を取り出し、僕に水晶に手を触れるように言ってくる。まずは力を入れないでとのことなので、言う通りに水晶球の上に手を置く。
……何も起こらない。先程と同様だ。
「ふむ。確かに何も起きんな。珍しい事だ」
「はい、ここの時点で異常なのですが……じゃぁ力を入れてみて下さい」
僕は促されるままに、さっきと同じ要領で力を注ぎこむ。
ピキピキピキ……パキーンッ!!
さっきよりスムーズに水晶球が真っ二つに割れてしまう。
「見えました?」
「あぁ、あいにく
年配の男の人と魔法使いさんがコソコソと話をするのが、やけに聞き取り能力の高いエルフの耳に入ってきてしまう。
「あー、なんだ。色々イレギュラーが発生したが、君の潜在能力としては、
年配の男の人が一部の能力を誤魔化して僕に伝えてくる。いや、ぼくの耳にはもう入ってしまっているんですけど。魔物並みって……
「は、はぁ……」
とりあえずよくわからないけど頷いておく。
「あ、すまんすまん。自己紹介がまだだったな。俺の名はランド。このリーフィンドの冒険者ギルドを預かるギルドマスターだ。これからよろしく頼むな、ミスティとやら」
ランドと名乗った男の人はごつい手を僕に差し出してくる。僕はその気迫に押されて、手を握り返すと、ブンブンと繋いだ手を縦に振られた。
「ここいらの情報がないんだってな。冒険者ギルドでは毎月講習会っつーのを開いている。それに参加すれば、冒険者ギルドのルール、この町や近隣の町の情報、近くの狩場情報など、生活に必要なことが学べる。また、希望があれば戦闘訓練も請け負っているから、気軽に参加してくれ」
「それは助かります。それでその講習会っていうのはいつからありますか?」
「んー確か……」
「丁度良い事に明後日から開始するはずですよ」
ギルド長のランドさんが顎に手を当てながら悩んでいると魔法使いの人が答えてくれる。
「僕も講師の一人なんで、きちんと覚えているんだよ。ギルド長も最初に挨拶するはずなんだけどね」
「うあはははは。わりぃわりぃ」
魔法使いの人がジト目でランドさんを見ると、ランドさんは笑って誤魔化す。
「あと……ん?君が持っているその武器?」
ランドさんが目ざとく僕の腰に佩いている刀に目をつける。
「そいつは、刀か?」
「はい。村で師匠に稽古をつけてもらって、師匠が村を去る時に譲ってくれたものです」
「ふむ。悪いがちょっと見せてもらっていいか?」
「はい」
ランドさんに鞘ごと刀を手渡すと、ランドさんはまず鞘をじっと眺める。
「ふぅん。なるほど」
そして鞘から刀を抜くと、刀身や刃先、峰、鍔元を眺める。やはりそれなりのベテランになると、見る視点が違うのかも知れないなと思う。村の村長さんなどが見た時は刀全体や刃紋などをしげしげ眺めて、すぐに興味をなくしていたからだ。
「居合に重きをおいたの刀術……か」
ランドさんがボソッと呟く。
「え?!なんで?」
確かに月影流は居合特化の剣術だけど、刀を見ただけでなんで分かるんだろう。
「鞘の鍔側の先端。丁寧に扱ってはいるが、漆が少し剥げてる。ここは居合抜きを行うさいに親指を置いて、鞘を引く場所だろう?かなり力も掛ける必要があるのだろう」
「え、えぇ。確かに。ランドさんは刀にも精通しているんですか?」
「いやいや、俺はもっと粗野な武器の使い手だ。昔、知り合いに刀を使うやつが傷んでな」
「なるほど」
「しかし、いい刀だな。それに君も相当な腕がありそうだ」
「い、いや。僕なんかまだまだです」
ランドさんとそんな遣り取りをすると、無遠慮に僕の肩に手を回してくる。
「さてと、まずは宿の確保だな。アイリスちゃんにお願いしに行くか」
そう言うと、僕をズルズル引っ張るように部屋を出て行こうとする。振り払おうと少し力を入れてもびくともしない。やはりギルド長をやるだけあって、熟練の戦士なのだろう。
ランドさんと肩を組みながら出てきた僕に、ルーミィが目を見開いてびっくりした顔をするけど、ぼくが半ば強制的に引きずられていくのを、追いかけるようについてくる。
「アイリスちゃん。こいつらの宿手配してくんね?ギルド講習会に出るから、それ用の特価宿で」
ランドさんは先ほど受付したカウンターに向かうと、受付してくれた女性に依頼する。
「少々お待ちください……はい、数名分の確保枠が開いていますね。手配すれば使えますよ」
「おう、お前ら運がいいな。格安の宿に泊まりながら講習を受けられるぞ。じゃぁアイリスちゃんこいつらのギルドカード発行と宿の手配を頼むわ。俺はコイツらと親交を深めるからよ」
僕らの意見を全く聞かずにランドさんは話をどんどん進めてしまう。まぁ悪い事ではないし、宿もどんな宿を選んだらいいかわからないから丁度いいんだけど。
「そんなこと言って……定時前から飲みたいだけじゃないですか?まだ鐘は鳴っていませんよ?」
「そんな堅苦しいこと言うなよぉ、新人との交流だって。ギルドにとっては大事な仕事だぜぇ?」
「はいはい。今日はそれでいいですよ。じゃぁ手続きは進めておきますから、せいぜいお手柔らかになさってくださいね」
アイリスさんというギルド職員さんからギルド長がお小言を受けるというシチュエーションに吃驚して目を丸くしている僕を置いて、話がまとまり、そしてそのままズルズルと肩を組まれたまま酒場に連れて行かれる。
「おぉう!ギルマス!!とその少年!ぐはははははっ!一緒に飲もうじゃないか!!」
「おう、ゴラン爺も既に出来上がってるみたいだな!よしよし、一緒に新人と親交を深めようじゃぁないか!」
「いいのぅ!!新人を肴に一杯飲むっちゅーのも最高じゃわい!!ぐははははは!!」
先程のドワーフの卓に座らされて、宴会がスタートしてしまう。
「ほらほら、新たな巡り合わせに完敗じゃ!飲め飲め!!」
ジョッキに注がれた
「新人の前途を祝して乾杯じゃ!!」
「うぉぉぉぉぉ!乾杯っっ!!」
「「「乾杯!!!」」」
ゴランさんとランドさん、そして既に飲み始めている冒険者さんが乾杯を唱和する。僕も雰囲気に負けて
苦みが口の中を駆け抜けて、喉を通っていく。そして胃がカァッと熱くなる。一瞬で消える強い苦みのせいか、口の中が妙にさっぱりする感じだ。
そしてゴランさん、ランドさんの上機嫌に巻き込まれて杯を進めていってしまう。
「あーあぁ、巻き込まれちゃってるし……」
すでに管を巻いてグデングデンにだらしなくなっているギルド長を見かけたウルティナさんが僕達の座っているテーブルにやってくる。
「もう、この二人は手に負えないから、こっちにおいで」
ウルティナさんに誘われて、僕達はウルティナさん達のテーブルに移動する。僕はあまり飲んだことのないお酒を、かなり飲んだこともあって、足元がふらふらしている。
そんな僕をウルティナさんが支えるようにしながら、席に座らせてくれる。そして冷たい水を注文して僕に飲むように言う。
言われた通り冷たい水を飲むと、少し頭がすっきりした。すっきりした頭でテーブルを見渡すと、町の入り口で会ったウルティナさんとウルグさんの他に、もう二人がテーブルに座っていた。
「彼らがウルティナのお気に入りかい?」
とても薄い茶色で金色に見えなくもない毛で、とても穏やかな瞳を持つ
「たまたま困っているのを見かけただけよ。でもお気に入りになるかもしれないってとこは否定しないわ」
「ウルティナのねぇさんがそんな事を言うなんて、かなり前途有望な子達なんだね!」
ウルティナさんがそう答えると、背が低めで茶色の毛の
「そうね。前途有望な雰囲気がとてもするわ。あぁごめんなさい。この金色の
「初めまして、森の氏族ドルイドのエルフであるミスティです。この子がルーミィです」
「はい、よろしくお願いします。ミスティさんとルーミィさん」
「こっちもよろしくね!ミスティ君とルーミィちゃん」
ウルティナさんがロルフさんとウルフェさんを紹介してくれる。ロルフさんは年下の僕達であっても、とても丁寧な対応で、ウルフェさんはとても人懐っこい感じの対応だ。
「あーん。本当にルーミィちゃん可愛い!お人形さんみたいに綺麗で可愛い!!」
ウルフェさんもルーミィを気に入ってくれたみたいだ。
「≪
ウルグさんがそうまとめる。見た感じは武人風で、最初はとても怖かったけど、3人を見つめる目や、時折僕達を窺うようにチラチラ見る眼差しはとても優しい光が灯っている。
「あらあら、≪
≪
「ほんっと、ギルマスはダメダメねぇ」
ゴランさんのテーブルで突っ伏しているランドさんを冷たい目で見ながら呟くアイリスさん。
「さてと、これがギルドカードね。あなた達の身分を証明する大事なものだし、再発行には手数料がかかるから無くさないようにね。そして、これが宿の部屋の鍵」
アイリスさんが僕とルーミィにそれぞれギルドカードを渡し、僕に部屋の鍵を渡す。
「宿は冒険者ギルドの裏手にある3階建ての宿よ。
こうして僕達は無事冒険者ギルドに登録し、これからの旅を続けるために、基礎知識を得るべくギルド講習会に参加するのだった。
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