#19

 船上の生活も数日が過ぎ、周囲に海しかない環境にも慣れ始めた頃。


「食事、飽きた……」

「まあ、スーパーやコンビニがあるわけじゃないしね」

「ファミレス店舗、移転してきてくれー」

「移転しても食材が届かないんじゃない?」

「そうだね、私も少しは料理するから、食材さえあれば……だけど」


 船上……というか空母という名の軍艦上で足りないのは、娯楽と食事のバラエティ。もっとも娯楽の方は、衛星回線経由のネットサービスやフェザーズ操縦そのものでなんとか満足できるのだが、食事はいかんともしがたい。私たち4人やTVクルーが滞在することを想定してレーションばかりというわけではもちろんないのだが、どうしても種類は限られる。


 というわけで、根性なし代表の成瀬くんが音を上げ始めた。『悲しいけどこれ戦争なのよね』とか言ってた割にはこれである。


「そういえば、以前取材した某国の空母、食堂がやたら充実してたっすね。カラオケとかもあって」

「なにー! 森坂さん、この空母は違うんですか!?」

「ああ……実はこれ、同じ国から供与された空母なんだけどね」

「それなら!」

「設備が充実してる方は『ヒューム』側の地域だったから……」

「がっくし」


 まあ、しばらくがまんしなさいな。予定通りなら、そろそろ『本作戦』を始めるために、東の方に大きく舵をとって上陸する予定だから。それまでは……。


  ビーッ、ビーッ


「あのう、どこかで聞いたような警報が鳴ってるんですけど」

「そんな、どこから……!?」


 どたどたどた


「森坂少佐! 潜水艦が本艦に急速接近中です!」

「なんですって!? 急いで艦内放送で逐次報告して! 民間人が多数乗艦しているから、通常の指揮命令では厳しいわ!」

「了解!」


 潜水艦かあ。まあ、これも想定の範囲内・・・・・・だね。ハルトのAI、ほーんと進化してるわー。……じゃなくて、一応、慌てたフリしないと!


「森坂さん、私たちはどうすれば!?」

「脱出用ヘリ近くの建物に避難して! 一応、今もマスメディアの目がある場所よ、そうそうミサイルや魚雷を撃ってくることはないと思うけど……」

<敵潜水艦のミサイル装填音を検知! 急上昇しています!>

「なんですって!?」


 急上昇……ミサイルを発射するまで少し時間があるわね!


「いくよ、成瀬くん! 井上くんも来る?」

「えっ、何するの?」

「『フェザーズ』でミサイルを迎撃するの! 空を飛んで!」

「お前、高所恐怖症は克服できたんか?」

「できてないけど、やるの!」


 甲板かんぱんに腰を降ろしている状態のフェザーズに向かって走る。食事の前まで細部テストを行っていたから、その時の姿勢のままだ。


「ミーアさん、フェザーズ、すぐに動かせますよねっ」

「おいっ、まさかミサイルを迎撃するのか!?」

「それ以外に、ここに来る理由はありません!」

「いやいや、どうやって迎撃するんだ!? ビー◯サー◯ルなんてモノはないぞ!?」

「銃で撃ち落とします! 上空で!」

「あほか!? 飛行テストだって、数メートル浮くとかそれくらいしかできてなかっただろうが!」

「為せば成る!」

「げろげろ」


 成瀬くん、こんなところで吐かないで! え、違う?


「時間がないので、勝手に行きますね!」

「あ、おい、待て!」


 ずさっ

 ぷしゅーっ


「乗り込んじゃえばこっちのものっと。ハルト・・・、どこまで対応できる?」

『衛星回線が不安定だから、投入できるコマンドは少ないね」

「え? ハルトの美麗な踊りはいつも通り鑑賞できたよ?」

『それはどうも。どうやら妨害されているみたいだね』

「直進する衛星のマイクロ波でも?」

『ああ。だから、通信機器そのものにだね』

「やっぱりTVクルーにスパイがいたか!」


 まあいいや、それさえも想定の範囲内だ。だからこそハルトがそう答えたんだけど。


「しかたがない、私ひとりでやるか。『直立起動スタンダップ』!」


 グィーーーン


 立ち上がるためのコマンド、口に出して叫ぶ必要はなかったんだけど、つい叫んじゃった。いいよね、機外スピーカーはオフにしてあるし。


『おいっ、やめろ! 無茶だ!』

『うっ、なんか揺れが激しくなってきた……』

『早くっ、脱出用ヘリに乗り込んで!』


 機外マイクはオンにしてあるけど。とりあえず、成瀬くんは脱落か。


「ハルト、潜水艦の位置とかはわかる?」

『それは追跡装置への侵入でわかるよ。コックピットにデータ転送する?』

「お願い」


 ブンッ―――


「ふむ、もう少し海寄りの方がいいか」


 ドスン、ドスン


『だーかーらー、やめろって言ってるだろ!』

『博士、もう彼女は間に合いません! 早くヘリに!』

『いーやーだー! 婆ちゃんの最期を看取った娘を放っておけるか!』


 嬉しいけど……その容姿だと、ただの駄々っ子に見えるよ? あ、駄々っ子が強引に引きずられてく。まあ、結果オーライか。


 ポーン、ポーン、ポーン


 ざばあっ


「ほー、結構大きい潜水艦だねえ。さーて、何が出て・・・・くるのやら・・・・・―――」


 バシュッ

 シュバッ―――


 ………………


 カパッ


「フェザーズ本体の方かー!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る