#14

 ぱくっ


 はー、アイスとフルーツの組合せがとってもデリシャス! パフェは人類の生み出した文化の極みよね!


「……こんなに、簡単にバレるなんて……」

「もちろん、私だけじゃわかんなかったですけどねー」


 ということで、案の定、森坂さんが『ハルトの中の人が、熱狂的なファンであるJKと熱愛!?』という大嘘を横流しした御本人だった。まあ、嘘じゃないけどね!


「実は、GNNの武藤って人、私の友人なの。大学の同期で……」

「そういうオチですかー」

「ひさしぶりに会って話をしてたら、『同調者』としてのあなた達のことを知ってて……」

「あらら」

「だから、これはマズいって思って、『ここだけの話、大したことはない』って伝えて」

「ふむふむ」

「それで、むしろこっちの話題の方が……って誘導して」

「なるほどー」


 むしろ利用しようとしたってことか。公私混同は厳禁だし、友情と仕事を天秤にかけながら……ってことなのだろうけれども。でもねー。


「ねえ、森坂さん。武藤さんには、ひさしぶりに会ったんですよね?」

「え? ええ」

「誘ったのは、どちらからですか?」

「それは……あっ」


 まあ、そういうことである。宝くじに当たったら会ったこともない親戚が増えたかのごとく。


「だから、森坂さんが気に病むことはないですよー」

「そう……なの、ね……」


 うーん、森坂さんってそれなりの階級にいるのに、スパイとかが絡む仕事向きじゃないような。仕事自体はできるんだけど、心の機微というかね? これはあれかな、あの基地の性質上、ミーアさんと同じく、もともと研究畑の人なのかなとか。偏見?


 よし! 人気VTuberを生み出すだけの戦略家であるところの私が、一肌脱ぎましょう! いやまあ、ハルトに事前に調べてもらってるからこそなんだけれども。


「森坂さん、さっきの『簡単にバレた』って話ですけど」

「え、そ、そうね。どうして、わかったの? 御子神さんだけじゃわからなかった……って言ってたけど」

「誰だと思います?」

「そ、そうね、あの3人……じゃないわよね。それならそう言ってるでしょうし。でも、他には……?」

「わかりませんか?」

「……降参。教えてくれる?」

「ダメですよー、ちゃんと考えないと」

「御子神さんって、結構いじわるなのね。ヒントくらいはないのかしら?」

「ヒントですか? そうですねえ……『嘘から出た真』、ですかねえ」

「嘘から……?」


 ……

 …………

 ………………


「……あの、まさかとは思うけど、御子神さんって、本当に……!?」

「ですよー。『ハルト』とはよく個人的にチャットしてますから」

「嘘ぉ!? え、それじゃあ……!」

「森坂さんに聞く前に知ってましたよ。ハルトがヒューム侵攻の半分を妨害したこと。っていうか、都庁前で『中の人』とスマホ通話してあれこれ伝えたの、私ですから」

「そ、それじゃあ、その正体も!?」

「ええ。直接会ったこともありますから」


 ガタッ


「お願い、紹介して! 今まで誰も……AHC上層部はもちろん、同じ技術を持ってるはずのヒューム側さえ、全く素性が掴めないのよ!」

「……それ、必要ですか?」

「え? そ、それは、当然じゃない!」

「そうですかねえ……」

「どうして!?」


 だって、ねえ。


「まあ、私は素性を知っているからこそ、そう思うんですけど……。森坂さんは、どうして誰も『ハルト』の正体が掴めないと思います?」

「また、謎かけ? そ、それは、よほどうまく隠して……」

「どれだけ隠しても、各国を統括するほどのAHC上層部あたりなら、普通はすぐにわかるはずですよね? あれだけVTuber活動を続けてるんですから、少なくとも、配信サイトの運営会社がわからないはずないんですよ」

「でも……」

「つまりですね、みなさんが『ハルトの中の人』と思い込んでいるイメージからして、そもそも間違いなんです」

「……つまり?」

「ハルトの中の人は、『脅威』とは程遠い立場にいるってことです。たとえ、『ヒューム』に対抗するだけの技術をもっていたとしても」


 そう断言した私の言葉に、森坂さんは少し考え込み……そして。


「……もし素性がバレたら、簡単に攫われてしまうほどの存在ってこと?」

「そういうことです。私よりもよっぽど『弱い』立場です」

「……そう」


 さて、どう解釈するかな?


「……実はかなりお年寄りの……でも、モーションキャプチャーであれだけの動きをするには……逆に、小さい子供? でも、あの話し方は……」


 よしよし、明後日の方向に飛んだな。ミスリードはやはり強力な武器である。


「ところで、私や他の3人は、AHCが守ってくれるんですよね? 普段からの警備とか」

「え? ええ、それはもちろん。今でも監視……じゃなかった、護衛が近くに配置されているわ」

「よかったー。もし私が『ハルト』の正体を知ってるって広く知られたら・・・・・・・、私や友達が狙われちゃいますからねー!」

「……それも、『ハルト』が?」

「どうですかねー」


 よし。これでおそらく、AHC上層部まで伝わるだろう。『御子神 霞はハルトの正体を知っている』ということが。そしてそれゆえに、他のどこにも話そうとしないだろう。ヒュームあたりに知られて私が攫われたりしたら、二重の意味で困るもんね。あとは、ハルトの方から直接AHC上層部に釘を刺せばいい。


「それじゃあ、そういうことで。マスター、イチゴパフェ追加でお願いしまーす!」

「……これ、経費で落ちるのかしら……」

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