#09

 森坂さん達に会った週の週末、私たち4人は、車で2時間ほどのところにある自衛隊基地に連れていかれた。今は、AHCアーク管轄の研究施設を兼ねているようだ。


「うおおおおっ、やっぱりすげー!!」

「な、成瀬くん、騒いじゃだめだよ」

「無理だあああああ!」

「成瀬くーん、みこちんと別れたい?」

「すんませんでした」


 なんで来て早々漫才をしなければならないのか……。井上くん、笑ってないで成瀬くんを取り押さえてよ。


 もともと軍用ヘリなどを整備する場所として使われていた格納庫に、3機の『フェザーズ』があった。もっとも、ひとつは腕と腰から下がバラされているし、もうひとつは横たわってあちこちのハッチが開けられている。最後のひとつだけは、ドックのような設備を用いて佇んでいるが、他の2機と同様、膨大なケーブルが這っている。


「よく来てくれたわね。待っていたわ」

「森坂少佐! 光栄であります!」

「成瀬くん、あなた達は正式な軍籍じゃないから、そんな妙な挨拶はいいわ。民間会社での企業実習インターンシップくらいに思ってもらえれば」

「でも、AHC軍の機密情報に触れるんですよね?」

「それはそうなんだけど……今のところ、あなた達自身が最高機密なのよね」

「はあ」


 本当の最高機密は『ハルト』関係なんだろうけど、『ヒューム』以上に得体がしれないからね。機密うんぬんの対象外なのだろう。うん、自分で考えていて悲しくなってきた。


 とことことこ


「やあやあ、君たちが噂の4人組高校生かね?」

「……女の子?」

「そこは『ロリBBA』というところじゃないのかね、この国では」

「酷い偏見だ」


 小学生高学年くらいにしか見えない、ボサボサ銀髪の少女。そして、白衣。


「もしかして、有名な研究者の方か何かですか? この国のエンターテイメント的な基準で伺ってますが」

「井上、お前も結構言うよな」

「まあ、その通りだ。有名といっても、私の祖国だけでの話だが。初めまして、『ミーア・グランザイア・・・・・・』だ」


 ………………

 …………

 ……


 いきなり叫ばなかった私、とってもすごいよね。顔も……うん、にこやかな顔がちょーっと固まってただけだ。大丈夫、大丈夫!


「一応、『フェザーズ』の解析全般を取り仕切っている。まあ、わからないこと・・・・・・・だらけ・・・だが」

「それでも、担当をしていると?」

「まあな。これでも、『フェザーズ』を開発したと思われる人物のなのでね」

「開発した……人物!?」

「ああ。ヒューム・グランザイア教授。人類統合組織『ヒューム』の総帥さ」


 んなわけあるかい。



 解析のための協力作業自体はとても単純で、4人で分担できたこともあって、1時間ほどで終わった。片道移動時間よりもはるかに短かったよ! っていうか、やったことって、とどのつまりは『ハルト』が技術供与した効率化アルゴリズムの動作確認じゃないのよ!


「アバター表示じゃ、つまらん……」

「まあ、そういうな。これが一番手軽でコストが低いんだ。『フェザーズ』本体を実際に動かすよりはな」


 そりゃそうだ。というかこれ、全くもってVTuberの仕組みじゃないのよ。要するに、私が開発に用いたシステム環境に限りなく近い。ということは……ふむ、しかけてみるか。


「へー、まるで『ハルト』みたい!」

「……どういう意味かな?」

「あー、御子神にそれ語らせると数時間はうんちく聞かされるからやめた方が」

「ひどーい。ねえねえグランザイア博士、『ハルト』って知ってますよね? 有名だから!」

「博士とか呼ぶな、『ミーア』でいい。……ああ、そうだな、よく知ってる」

「よく知ってるんですね! 身体の動きに併せてまばたきするところとか、ホントにすごいですよね!」

「……は?」

「あーあ、始まった」


 それから数時間……じゃなくて小一時間、私はじっくりたっぷり『ハルト』の魅力を語った。


「というのが、最近のイイ所ですよね!」

「あ、ああ、そうだな……」

「あの、ミーアさん、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫だ……大丈夫」


 ふらふらふら


「よし、勝った!」

「何言ってんだお前」

「でも、さっきやった解析作業、だっけ? それに近いと思うんだけど」

「そういえば……確かに、『ハルト』の動きの単位となる基礎動作が、コマンドを組み合わせたそれとかなり一致してたね」

「なにっ!?」


 カタカタカタカタ


「……半分以上が、一致している……!? あのアルゴリズムは、VTuberの仕組みを利用しているというのか……!」


 ようやく気づいたかー。井上くん、ぐっじょぶって感じだね! 誘導した私の口からは言えないけど。


「え、まさか、御子神の『ハルト』うんちくを一番じっくり聞いていた井上だから、同調レベルが高かったとか!?」

「へっ!? い、いや、僕は……」

「うふふ、井上くんって、霞が熱く語ってるところをよく見つめてるよね」

「……そ、それは……」


 あれ、いつもはかるーい井上くんが、ちょっとたどたどしい。もともとショタっ子ルックスだから、それがまた似合うというかなんというか……え、どうしよう。


「霞、霞、今の御感想は?」

「……井上くん、歌って踊れる?」

「……ちょっと、厳しいかなあ」

「はー、まだまだだねー」

「ひでえなおい」


 ちょ、ちょっとこの場では、なんというかですね。


「……ということは、今のマシンガントークをたっぷり聞かされた私も、もしかして……!」

「ミーアさん?」


 もちろん、そんなことだけで同調率が上がるはずがなかった。むしろ、同調レベル0のまま。ねえ、ホントにヒュームさんのお孫さんなの? あと、マシンガントークとか言うな。


「えーと、開発者? 総帥? そのお孫さんなんですよね?」

「婆ちゃんとは研究分野が違っててな……。私は主に物理組成の方が専門なんだよ」


 ああ、思考パターンを刻む前の『結晶体』の素体の方ね。確かに全然違うわ。


「それに、婆ちゃんとはもう十年も会ってなくてなあ。ある日、どこかの研究組織に雇われたっていって、それまで勤めていた祖国の大学をいきなり辞めて、それっきりだったんだが……」

「そしたら、秘密結社の総帥をしていたと」

「秘密結社いうな。いや、あながち間違いではないのか? この国の文化的に」

「文化いうな」


 ぐだぐだである。

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