#02

 がちゃっ


「ハルト、ただいまー」

『おかえり、カスミ。今日のライブはどうだった?』

「もちろん、クラスでも評判は良かったよ! なにしろ、私プロデュースだからね!」

『それは良かった。なにより、カスミに喜んでもらえて嬉しいよ』

「んふふふ、私も嬉しいよー。あ、夜の部の台本作るね。今度も歌ってもらうから、いくつか音源用意してくれない?」


 ハルトのAIは当然のように学習機能も作り込んでいるから、私があれやこれやと知識を詰め込んだり、モーションキャプチャで様々なテクニックを模倣させることで、秘書のようなこともしてくれる。たとえば、こんな感じだ。


『カスミ、それなんだけど、こんなメッセージが届いているんだ』


 ピッ


「ああ、また芸能プロダクションとのタイアップ? いつものように、ビデオ通話で丁重にお断りしておいて」


 広告収入が凄いからなのか、それとも、アイドル人気を奪っているからなのか。既存の芸能事務所やら業界進出を目論む企業やらが、『VTuber・ハルト』を取り込もうとアプローチをかけてくる。もちろん、そんな安売りは御免であり、端から断っている。そもそも、私はハルトを金儲けに使うつもりはない。


 それなら、VTuberなんてやめて、自宅の部屋だけでエヘエヘと眺めていればいい? いやあ、ネットで広く公開することで、ハルトはどんどん洗練されてるのよ。やはり、他人の目と言葉は貴重だ。あとはまあ……匿名とはいえ、やはり自慢したいのよ、我が理想のハルトを!


『カスミ、後ろの方も読んでくれないかな?』

「後ろ? ……え、合同ライブの曲目を、全てハルトの曲に!?」

『つまり、主役は僕ってことらしいよ。他の参加アーティストも歌うけど、君が作詞作曲編曲した曲ってことになるようだね』

「ふむ……」


 なら、いいかな? ハルト中心なら、こちらとしても嬉しい。あと、ハルトそのものを取り込もうというわけでもないらしいし。


「面白そうね。じゃあ、向こうの担当と話を詰めておいて。あ、お金は要らないってことにしてね。そうすれば、こちらの素性を明かさないまま対応できると思うから」


 ハルトを維持するための経費は、配信サイト経由の広告収入で十分賄えている。ビデオ通話も配信サイトのコミュニケーション機能経由だから、私の素性が今回の芸能プロダクションに明かされることはないだろう。



「……各部隊、問題ないな?」

「はっ。強いて言えば……作戦ポイント002にて、急遽アイドル……のライブが行われるとの報告が」

「ふむ……なら、ついでに利用しよう。我らが悲願の目撃者が増えるというものだ。だが、死傷者は出すなよ? 我らは『悪の組織』などではないのだからな」

「はっ!」

「まあ……抵抗するなら、攻撃も致し方ない。『革命』に犠牲はつきものだからな」



 そして、合同ライブの日。場所は、都庁前の広場に面する、ビル壁面の大型スクリーン。その周辺を歩行者天国とし、リアルアーティストが登壇する舞台を用意することで、入場無料の巨大ライブ会場と化した。


「うわー、たくさん人が集まったねー」

「なあ、これって主催者は儲かるのか? ネット配信も同時にやってるみたいだし」

「たぶん、ライブの様子を撮影して、高画質のビデオソフトとして売るんじゃないかな?」

「なるほど」


 いつものクラスメイト、みこちんと成瀬くん、井上くんの3人と一緒に、ライブ会場にやってきた。住んでいるところから電車で1時間ほどかかったが、それほど遠くもないので、みんなを誘って観に来た次第である。入場無料ということもあって既に千人近くが集まって賑わっており、私たちは広場の隅に陣取った。


 なお、主催者であるプロダクションとの諸々の打合せはハルト経由で全て終わっており、あらかじめ決めたスケジュールに沿って対応するよう、ハルトには指示済みである。ついでに言えば、ダミーのカメラ……ハルトの中の人が会場の様子を見るため……ということになっている装置も、主催者に依頼して用意されているが、こちらもハルト自身が制御するようにしてある。したがって、よほどの不測事態・・・・がない限り、私は観ているだけでいい。


 ブンッ―――


『やあ、みんな。今日は集まってくれてありがとう!』


 わー、きゃー


『リアルアーティストのみなさんと共演できるのも光栄です。それじゃあ、早速1曲目、「バランス・トランス」!』


 〜♪ 〜♪♪


「きゃー、ハルトー!」

「御子神が教室よりはるかにうるさい件」

「いいじゃないか、成瀬。せっかくの屋外なんだから」

「耳元で叫び声を聞いて平然としているお前井上がすげえよ」

「でも、すごい盛り上がりじゃない。成瀬くんも応援しようよ!」

「田町まで……はあ」


 順調に始まった合同ライブに満足していると、上空から何かの機械音が聞こえてきた。あれは……ヘリコプター?


「え、何よ急に。せっかくのライブなのに! マスコミか何かなの?」

「いや……あれ、軍用ヘリだ! しかも、結構でかいやつ!」

「成瀬くん、詳しいね? 軍オタ?」

「いや、迷彩柄だし、すぐわかるだろ。……おい、何か落ちてきた!?」


 ひゅううう………


 ドスンッ!

 ズンッ!


 ライブ会場の舞台の前、かなり広く取られていた誰もいないスペースに落ちてきたのは……。


「うおおお、○ビル○ーツ!?」

「味方機のデザインより無骨だけど、確かにそれっぽいね」

「なに落ち着いてるのよ! どう見ても正義の味方とかじゃなさそう!」


 ジャキッ


「きゃああああ!?」

「おい、逃げろ!」


 そう、落ちてきたのは、3機のいわゆるロボット兵器だった。昔のアニメのような、いかにも派手なハリボテなどのようなものではなく、戦車のようにあふれる重量感。そして、両アームに備えられた巨大な銃。それが、否が応でも本物の兵器であることを感じさせた。


 フッ

 ―――ぱっ


 大型スクリーンからハルトが消えたかと思うと、ニュースキャスターが座るスタジオに切り替わった。普段は街頭TVとしてチャンネル放映されているため、それ自体は不思議なことではなかった……が。


『と、突然ですが、緊急の中継映像が送られてきました。そちらに切り替えます!』


 ザッ―――


『我らは、人類統合組織「ヒューム」。統合のための尖兵である「フェザーズ」部隊が、世界の主要都市を制圧した』

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