カウントダウン
休憩時間のスタッフルームで、店内に置くために積んであった雑誌の一つを何気なく手に取った。交代で休憩を取るためスタッフルームには俺一人きりで、わりと退屈なのだ。
年の瀬も迫るこの時期の雑誌と言えばどれもこれもクリスマス特集だのであふれかえっている。
(クリスマスデートなんて俺には関係ないことだったなあ)
この店で働く者にとってクリスマスは一年で一番忙しい日だ。今年のクリスマスはもちろん1日バイトで終わってしまった。
きらきらと彩られたページを読みとばすようにパラパラと捲り、そして次の特集に目を留める。クリスマスの後にはお正月が控えている。カウントダウンイベントや初日の出ベストポイント、初詣でに行くならココ!みたいなものが紙面をにぎわせていた。
(これってそこの遊園地じゃん)
店から一駅ほど離れたところにあるさほど大きくない地元の普通の遊園地であるが、カウントダウンイベントを結構大々的にやるらしい。
(千紘さんと行けたらなあ)
現実的なことはすっとばし、脳内妄想を繰り広げる。新年を迎える瞬間、隣に千紘がいるというのはどれだけ幸せなことだろう。人間が勝手に決めた「時間」という概念の中で年が変わるというそれだけの普段と何も変わりない一瞬を共に過ごすというだけなのだけれど、きっとそこには大きな喜びが満ちあふれている。家族といるだけで、友達といるだけで、あけましておめでとう!とテンションが急上昇するあの瞬間、それを千紘と分け合えたのなら。想像するだけでこんなに楽しくなる。
(想像するだけだけどね。つか千紘さん、遊園地似合わなすぎ…)
ぐふふと一人で気持ち悪く笑いながら、まさか店でもカウントダウンイベントをやるなんて言い出さないだろうかと少し不安になった。いや、どうせ年越しデートなんてできるわけがないのだから、仕事があった方がそれにかこつけて一緒に過ごせる分だけラッキーなのかもしれない。
「ねえ、千紘さん」
後ろでカタンと音がして、千紘が入ってくるのに気がついた俺はパタンと雑誌を閉じて振り向く。
「ん?」
千紘は湯気の立つカップを一つ俺に手渡すと、後ろのソファに腰を下ろし、自分用のカップを啜った。
「お正月はお店休みなの?」
「ああ、まだ言ってなかったっけ。大晦日はいつもより二時間早く店閉めて、正月3日まで休み。で、4日から通常営業だ。正月のケーキ屋はさほど儲からねえからな、一年で唯一の連休だ」
「意外と普通だね」
「そりゃおまえ、売り上げよりお前らのバイト代のが高くつくような日にはやらない方がいいに決まってんだろ?」
「あ、なるほど」
別にお正月をのんびり過ごしたいだとか、里帰りするだとか、そんな理由での正月休みではないらしい。合理的な金勘定の元に割り出された休日だった。
(そうか、三日も千紘さんに会えないのか)
何よりもただ千紘に会いたくてバイトをしている俺にとって、店が休みなのは残念に他ならない。何か理由をつけて休みでも会えないだろうかとない知恵を絞ってみるが、何も思いつかない。普段の定休日とは違うから、中で仕事をしているということもなさそうだ。業者だってどこも休みに違いない。
「大晦日早く閉めるって、大掃除でもするの?俺のシフト的にはどんな感じ?」
休みに会うのが無理ならば、最後の日をできるだけ長く引き延ばしたいと、俺は掃除でも片付けでも何でも買って出るつもりで申し出る。しかし千紘は無情にもいやいやと手を振った。
「それもあるが、大晦日は片付けを早く終わらせて晋平と忘年会をするのが恒例でな。あいつ、年越しの瞬間は彼氏と、とかいってすぐ帰っちまうから開始時間を早くしないとのんびり乾杯する暇もねえんだわ。そんな訳でバイトくんたちは閉店後30分ぐらい掃除を手伝ってもらったらあがりでいい」
えらく私的な理由が飛び出し、唖然とする。千紘の中では仕事が一番、その下に友人や恋人というような優先順位かと思っていたのだが、もしかしたら晋平は仕事よりも上位だったりするのだろうか。いらない嫉妬心がわき上がり、しかし自制心で押さえつける。そうではない、さっき千紘が言ったように日付的に客が来ないという状況こそが先行しているのだ。言い換えればここが数少ない晋平を労える機会なのだろう。
だけどふと思う。私的な予定であるならば、俺だって私的な理由で加わることはできないだろうか。ただのバイトだけれど俺だって仲間のつもりでいるし、俺だって労いたいし労ってもらいたい。
「その忘年会、俺も混ざっちゃダメ?」
お子様はお断りだと言われそうな予感はするものの、少しでも長く一緒にいたいという一心でそう切り出してみる。
「あ?酒も飲めねえガキがいっちょまえに忘年会だと?」
千紘の反応は予想通りで、歓迎される様子はない。ガキだというのはきっと建前で、私的だからこそ俺には入られたくない部分なのだろう。晋平とは仕事を抜きにしても深い友人関係なのだ。仕事ではない友達との飲み会に俺みたいな微妙な立場の相手が参加するなんて、普通に考えたら鬱陶しい以外の何ものでもないと思う。
俺がここで働きはじめてもう半年以上が経つしずいぶん打ち解けた関係にはなっていると思うのだが、仕事以外のつながりを持つことを千紘はあまり良しとしない傾向がある。俺の思いに気付いているから、面倒なことにはなりたくないと、そう思っているのかもしれない。
それでも最近は、ちょっとずつプライベートな部分に触れることを許してくれているような、そんな気もするのだ。前みたいにここからは入るなと固い壁を築かれているような感じではなく、この辺からはやばいぞ?わかってんだろ?という感じで境界が少しぼんやりしたというか何というか。だからもう少し食らいついてみる。押せば許しの出る可能性がゼロではないと思うのだ。
「いいじゃん。俺だって今年一年お疲れさまーってやりたい」
「夜遊びしたいだけだろ?」
「違うもん。千紘さんと…」
一緒にいたいだけだと言いかけて、言葉を飲み込む。それは言ってはいけない一言だ。きっとそれなら帰れと言われてしまう。
「…何ていうの?労をねぎらいたい?みたいな?」
しどろもどろになりながら咄嗟に言い換えてみる。ちゃんと誤摩化せただろうか。自信はあまりない。
千紘は何か言いたげな目で俺を睨むようにしばし見つめ、やがてため息でカップの湯気をとばす。
「ご両親の許可が得られたらな」
諦めたように視線をはずし、半ば投げやりのように呟いた。
「マジで?やったー!親に話してみる」
押し勝ったことに自分でも驚き戸惑いながら一気にテンションがマックスまで急上昇し、脳内が軽くパニック状態になる。夢見心地で厨房へ戻っていく千紘の背中を見送り、自分も店に戻ろうと頬を叩いて気持ちを入れ替える。
そして冷静になって気付いた。果たしてあの厳格なうちの父親がそんな許可など出してくれるだろうか。ありえない気がしてズーンと落ち込む。
もしかしたら、千紘のあの一言も許されたのではなく、無理だろうということを前提として放たれた言葉だったのだろうか。だとしたら浮かれた俺は馬鹿だ。体のいいお断りだったのに気付かず喜んでしまった。
(くっそ、こうなったらどんな手を使ってでも許可をもぎ取ってやる)
すでに言質は取ったのだ。たまには千紘をぎゃふんと言わせてやりたい。
いつもより綺麗になった客のいない店内で三つのグラスが合わさりカチャンと音を立てる。大晦日の夜は思った以上に静かだ。
「お疲れさま。今年も無事終わったね」
晋平はほっとしたような笑みを浮かべると、乾ききった喉を水で潤しているかのような勢いでグラスの中のビールをあける。
「今年は諒ちゃんもいて楽しいね。知ってる?これ忘年会という名の残り食材処分会だからね」
忘年会というからどこか居酒屋にでもいくのかと思っていたがそうではなく、大掃除を終えた店内に買ってきたアルコールを持ち込んだ家飲みみたいなものだった。この後晋平はデートだというからそのためかと思っていたがそんな配慮があるわけではなく、この後三日間休みのため、残っている食材を消費してしまおうということらしい。もしかしたら冷蔵庫の電源も落としてしまうのかもしれない。
「当然シメはケーキだからな。参加したからにはお前も食えよ?」
「ちょっと待って、そんなの聞いてない」
想像しただけで蒼白になる俺を見て楽しそうに笑った千紘は、晋平のグラスにビールを追加しながら「しかし、まさか親父さんの許可が出るとはな」としみじみ呟く。やっぱり、許可は出ないだろうという予測の上での言葉だっただったらしい。
「だよね。そして七生くんに許可が下りないのも意外だったね。案外いいとこのお坊ちゃんなんだ」
グラスを傾けてビールを受ける晋平は、少し前まで俺も混ざりたかったと散々駄々をこねまくっていた七生の姿を思い出したのか、ぷふっと吹き出した。俺もつられて吹き出す。
「そうやって育ったから王子なのかなって、俺ちょっと納得しちゃったよ」
どうやらとても過保護に育てられているらしいのだ。そして七生の方も意外なことに親に逆らうようなことはできないという。見た目から勝手に遊び人風な想像をしていたが、そうでもなかったようだ。「俺も諒くんと一緒にいる~」と座り込み俺の足にしがみついてはなれなかったのだが、店の掃除が終わった時点で千紘に追い出され、捨てられた犬のような目をしながら渋々帰っていった。
そして俺の方はと言えば、意地になってもぎ取った勝利だ。俺にはコウちゃんという強い味方がいるのだ。コウちゃんの手にかかれば父さんの許可なんて容易く手に入ることを知っている。とはいえ、いろんな交換条件を飲まされたのだけれど、それは今は忘れよう。
こうして千紘と一緒の時間を過ごし、残り物とはいえ千紘の手料理で腹を満たし、幸せいっぱい夢いっぱいだ。アルコールなんて一滴も飲ませてもらえなくても、幸福感でほろ酔い気分になる。「お前ソフトドリンク担当な」と押し付けられた数種類のジュースをがばがば飲んで、トイレの回数だって酔っぱらい並みだ。
「じゃあね、ちーさん、諒ちゃん、よいお年を」
千紘が言っていた通り、年があける一時間ほど前に晋平は帰っていった。普段と全く変わらない足取りであるが、飲みはじめてから4時間弱ぐらいだろうか、かなりの数の缶と瓶が空になっている。驚くことに後半は本当に売れ残りケーキをつまみに酒を飲んでいた。数えてはいないが多分10個以上はあったと思う。肝臓に加えて胃腸までも鉄人並みらしい。けろりとした顔で清々しくごちそうさまと手を振った。しかもいつの間にか飲み食いしたものがほぼ片付けられているから不思議だ。いろいろと、宇宙人レベルなのかもしれない。
「さー、そろそろお開きにするぞ、諒」
この後は二人きりで、なんていう甘い展開が訪れるわけもなく、千紘は残りの酒をコップに注ぎ終えると、空き缶や空き瓶を片付けていく。もうちょっといられたら一緒に新年を迎えられるのに、と恨めしく時計を睨み、けれどここまでいられたことに感謝すべきだとテーブルに残っているものを胃の中に片付けていく。
そんな俺の心を知ってか知らずか、真意はいつだって読めないけれど、袋に詰めたゴミを奥へ持っていって戻ってきた千紘はコトンと俺の前に小さな皿を置いた。
「果物ぐらいは食べれるんだろ?そんな甘くないし」
ノルマだとケーキを食べさせられそうになったけれど、千紘はその一連の流れを楽しむだけで結局俺は一つも食べていない。そんな俺に、多分上に乗っていた果物だけを取って洗ってきてくれたのだろう、先程目にした果物たちが皿の上に乗っかっていた。
「うん、ありがと」
下の部分はどうしたのだろうと思うと少し切なくて涙が出そうになる。千紘が一生懸命作った部分は食べられず、乗っけただけの果物だけを食べるなんて、千紘にとってはとても屈辱だと思うのに。だけどそんなことは何も言わず、いつもみたいに厭味も言わず、ただ普通に「デザートだ、食え」と差し出す千紘の優しさが身にしみる。冬の苺の甘酸っぱさを舌で感じながら、胸の奥も同じように酸っぱくなる。
(どうして俺、甘いもの嫌いなんだろう)
好きなら晋平みたいに幸せオーラを振りまきながら美味しいと千紘に言ってあげられるのに。特別好きでなくともせめて普通の味覚であったなら。
いつも思う。パティシエにとっての一番の喜びを俺は千紘に与えられない。それはもう絶望に近いほど、不必要な人間なのではないだろうかと。なのに俺はこんなにも甘やかされて、たくさん意地悪はされるけれどそこに悪意はなくむしろ愛情で、千紘という人間の器の大きさがそこにはある。
「千紘さん」
ごめんねと言おうとして、けれどありがとうに変えた。
「千紘さんの料理もおいしかったし、すごい楽しかったよ」
「それはよかった。ゆっくり食ってろ。全部片付けて俺も一緒に出るから」
果物の皿一つだけ残してテーブルの上が綺麗になる。静かな店内に皿を洗う水音だけが遠く聞こえて、やがてそれも止まる。
「諒、食ったら皿持ってこい。あと自分の荷物持って出ろ。全部閉めるぞ」
「はーい」
普段にはないそんなやり取りだけでも俺は幸せになれる。もうすぐ終わってしまうけれど、大切な宝物のような時間。
「家まで送ってく」
準備中の札が揺れるドアの鍵を念入りに閉めながら千紘がぼそりと呟いた。
「えっ?」
「こんな時間にガキ一人で帰すわけにいかないだろ。ちゃんと親御さんに引き渡す」
そんなことをしてもらえると思っていなかった俺は、驚きと共に浮かれ上がった。もう少し長くいられる。もしかしたら、途中で新年を迎えるかもしれない。
「ありがとう。見かけによらず千紘さんって真面目な人だよね」
「見かけはほっとけ。俺は大事な客寄せパンダを取り上げられたくないだけだ」
「俺パンダ?」
「そ。可愛いパンダちゃん」
千紘はグリグリッと俺の頭をかき混ぜて、歩き出す。俺もその後を追う。人気のない暗い夜道を肩を並べて歩きながら、その手をつなげたらどんなに嬉しいだろうかと想像してみる。
(ああ、幸せだ)
こんな幸福感に包まれて一年を終えることができるなんて。終わり良ければ全て良しとはよく言ったもので、今年一年全部が幸せだったような気分になれるから不思議だ。いや、気分だけでなく、実際今年は千紘に出会えたことで、この店で働くようになったことで、自分の周りのいろんなことが好転した気がする。
その時遠くで何かがはじけるような音がした。二人揃って暗い空を見上げる。
暗いだけの空。けれど音は続けて3発。聞き覚えのあるこの音は多分花火だ。ここからは見えないが、どこかで花火があがっている。
「もしかして、もう年明けたか?」
俺はポケットからスマホを取り出して時間を確認する。
「5分前だよ」
「5分か…。走るぞ」
「は?」
戸惑っている間に千紘の手が俺の手を握り、ぐいと強く引く。走り出す千紘の腕に引っ張られ、俺は訳もわからず一緒に走った。道を右に折れ、左に折れ、明らかに駅に向かうのとは違う方向へ走らされている。やがて長い階段を上ると高台にひらけた公園に出た。手を離されたのでここが目的地なのだろう。
「やべ、飲んで走るとくるなあ」
大きく肩で息をする千紘は近くにあったベンチに崩れ落ちるように腰を下ろした。
「おっさんのくせに無理するからだよ」
笑った俺もそれなりに息は上がっている。千紘の隣に座ると夜風に冷やされたベンチの冷気がズボン越しに尻に伝わってきた。寒い。けれど走ったおかげで体は温まっていて、耐えることは容易い。
「そろそろかな」
時計を見て呟いた千紘は、頭がくらくらすると俺の肩にもたれかかってくる。
(ちょ、なんなの?この幸せな展開)
ご都合主義な夢でも見ているんだろうかと若干現実を信じられなくなってきたその時だ。再びはじけるような音が連続で響き、目の前の空がパッと明るくなる。次々と暗い空に咲いては消えていく花火が、少し遠いけれどよく見えた。そうだ、あの雑誌に載っていた遊園地のカウントダウンイベントだ。花火を打ち上げると書いてあった気がする。千紘はそれを知っていて花火の見えそうな高台に連れてきてくれたのだろう。
「あけましておめでとう、だな、諒」
耳元をくすぐる声は、触れた肩から響いて体の中から俺を震わす。
「遊園地は無理だけど花火ぐらいはな」
「なんで知って…」
口に出したこともない俺の希望をなぜ千紘が知っているのだろうか。もしかしたら俺の妄想が読めてしまう特殊能力でも持っているんじゃないだろうかと中二的発想をして戦々恐々とする。心を見透かされている感はよく感じるけれどそれは俺が単純だからで、でもこんなピンポイントにわかるのは、非現実的だとわかっていても俺の思考が見えているとしか思えないのだ。それは困る、非常に困る。だって、盗み見られたら恥ずかしさで死んでしまいそうな妄想だってしょっちゅうしているというのに。
そんな俺の必死な反応を笑った千紘はさらりとその種明かしをする。
「こないだ夢見心地な顔で一生懸命雑誌を見てた」
妄想を覗かれている訳ではなかったと胸を撫で下ろす。だけどあの時俺の見ていたページが千紘の位置から見えたとは思えないし、謎は残る。俺のことを考えて推理したということだろうか。何にしても俺のためにしてくれた千紘の気持ちが泣きそうなほど嬉しい。仕事以外ではイベントごとなんてどうでもいいタイプの千紘がこうしているのは「100%俺のため」だとわかるから。
「あけましておめでとうございます。今年もよろしく、千紘さん」
「おう」
千紘が俺のことを恋愛の対象として好きじゃなくたって、これだけ大事にされていれば十二分に幸せだ。もっと、と望む気持ちだってもちろんあるけれど、今のままでもいいという思いがあるのも確かだ。
片思いの切なさと、勘違いしそうなほどの充足と、与えられるもののギャップに振り回され、どんどん深みにはまる。どこまでもどこまでも、この人が好きになる。
「さて、帰るぞ」
夜中の花火は長くは続かず、寒さも相まって冬の花火は一瞬の幻のようだった。
立ち上がった千紘の足は一瞬ふらつき、ずいぶん酔っぱらっていることがわかった。いつになく甘い雰囲気なのはそのせいかもしれない。
「俺おまえの親父さんに怒られっかな」
「なんで?」
「いや、なんとなく」
千紘は酔いを醒ますように冷たく冷えた自分の掌を頬に押し当てる。
「電車乗る前に水買っていいか?」
「どうぞ」
千紘でも人の親に会うときは緊張するのかな、なんて思うと可笑しくなる。その理由が俺が思っているよりもっと深く複雑であることを俺は何も知らず、ただケタケタと笑う。大人の複雑な思いなんて、ガキの俺にはわからないものなのだ。それぐらい、両親にも千紘にも守られている。
「今年は幸せな一年になりそうだよ、千紘さん、ありがとう」
正月から大晦日まで365日、千紘のことで心をいっぱいにしたい。嬉しいことも悲しいことも、千紘のことばかりで埋め尽くしたい。
来年もこうして千紘の隣で新年を迎えられるように。
心の中でそっと祈る。
<終>
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