第一章 吸血鬼【バンパイア】


手のひらの傷をペロリと舐め、白狐は、プゥーッと頬を膨らませた。



 屋敷の中にある自分の部屋へ、影龍を運んだ冬夜は、救急箱探しに、一度、部屋を出て行った。冬夜の部屋で、痛む足を撫でながら、影龍は、立ち上がり、部屋の中を見渡した。15歳の部屋にしては、綺麗に片付いており、屋敷に似合わない、都会的な部屋だった。


冬夜達と一緒に暮らすようになって、7年が過ぎようとしていたが、他人の部屋に入ったのは、ここが初めてであった。人付き合いの苦手な影龍は、みんなとは、仕事の時以外、一緒にいたことがない。仲間とはいえ、誰がどんな性格で、どんなことを思っているかなど、何一つ知らないのだ。しばらく、部屋を見ていたが、影龍は、障子を開け、縁側へ出た。そして、廊下を北側へ進み、一番奥の部屋の前に立つと、片膝を立て、障子越しに、声を掛けた。


「白狐様。」


影龍の声に、中から白狐が返事をした。


「影龍さんかえ?何か用ですか?」


影龍は、瞳を伏せると、頭を下げ、静かに、こう言った。


「先程は、失礼致しました。お怪我は、ありませぬか?」


その言葉に、白狐は、クスクスと笑い


「たいしたことはありません。影龍さんこそ、大丈夫ですか?」


と、優しく言った。影龍は、瞳をそっと開けると、無表情のまま応える。


「はい。」


「そう…。それは、良かったですね。」


影龍は、軽く一礼をすると、静かに、その場を去った。


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