第280話 懐かしき世界

 黒島に来て3日4日と海で遊び、帰国日まで、まだ5日あるというのに、みんな飽きてしまった。

 贅沢? ビーチフラッグとか遠泳とか、砂の城コンテストとか、遊べる事は全部やったんだよ。

 一通り遊んで、次は何をしようかってなった時、何も浮かばんかった。

 のんびりでも良いんだけど、一部の妻達がそわそわし始めたんだよね。

 主にラナとリジアが。


「ラフィッ、探検しましょう!」


「リジア?」


「旦那様、狩りに行きましょう!」


「ラナまで?!」


 こんな感じで黒島5日目は、狩り&探検になった。

 ただ、竜達による危険排除の一環として、魔物は排除しまくってるから、狩りは出来ないんだよね――撃ち漏らしが無ければ。

 こうして、いつものメンバーに護衛数名を連れて黒島探検に出ているわけだが、意外な物が見つかった。


「遺跡、ですか?」


「……」


「あなた?」


 遺跡とは、基本、人工建築物だ。

 黒島に人工建築物がある? 報告は上がって無いんだが。


「ディスト」


「我も知りませぬ。黒龍の長とはいえ、長命種の竜でも寿命があります故、口伝が途切れた可能性も」


「人と共存していた時代もあったと?」


「否定しきれませぬ。我が知る限りの口伝や歴史では、そういうものはありませぬ」


「……各員、武装。警戒度最大で」


 遺跡の外で完全武装し、中に突入する。

 危険排除はしているが、ディストすら知らない遺跡は想定外だ。

 何があっても良いように、警戒度は最大限まで上げておく。

 まぁ、冒険者稼業に戻ったみたいで、ちょっとだけ楽しいのは秘密――。


「楽しそうですね、あなた」


「何故にバレるぅ?!」


「私も、久しぶりにワクワクした事が出来て、少し楽しんでますから。他の方もそうですよ」


「未知の遺跡……知識と歴史の宝庫……滾りますっ!!」


「リーゼの知識欲が、天元突破してないか?」


「そういう事ですよ、あなた」


 妻達は各々が楽しそうにしている。

探査サーチ】魔法で、魔物がいないのは確認済みだから、別に構わないのだけど、罠にだけは気を付けて欲しいものだ。

 だからリーゼ、安全だと分かるまで、無暗やたらに触れて回るな!


「えーーーーっ! お預けは酷いですっ」


「滞在中は、天竜の誰かが同伴なら調べに来て良いから、今は安全に気を配ってくれ」


「はぁい。……ちぇっ」


 うん、子供っぽいリーゼが可愛い。

 妻の知らない一面を見れて、他の妻達も温かい目でリーゼを見ている。

 本人は全く気にしていないようだが。

 後で悶えるんだろうなぁとか思いつつ、歩を進めて行く。

 地下階層は無し、一階層だけの中央に大きな部屋があるだけと確認しているが、何のために建てられたのか不明。

 そんな中で中央に辿り着くが……これは――。


「魔法陣、でしょうか? それと中央部分に魔道具。燃料切れはしていますね」


「……」


「見た事無い魔法陣です。時代背景は古代文明期崩壊後でしょうか? ですが、様式が違う気も」


「……」



「あなた?」

「ラフィ様?」


「総員、放出魔法を使わず、この遺跡から脱出」


「ラフィ、これって……」


「ヴェルグ、脱出だ」


「……わかった」


 ヴェルグが同意したことにより、事態は非常に想定外か危険だと判断した全員が、速やかに遺跡から脱出し、少し距離を取って一息吐く。

 その中で、先程の説明を求められたのだが、一部護衛者には聞かせたくないと言うのが本音だ。

 あれは本気でアカンやつだから。


「どうしても聞きたいなら誓約。受け入れないなら、速やかに拠点まで帰還して貰う」


「陛下はどうされるのですか?」


「トルティ嬢、先にも言ったが、誓約が必要な案件だ。それで察して欲しいのだが?」


「……しかし、陛下の護衛を減らすわけには」


「それでしたら、我々が」


 どこからともなく現れる、拠点居残り組の序列侍女と天竜。

 四神獣? 寝てるらしい。

 最近、眠気が凄いのだと聞いてる。

 多分、第二か第三成長期に入ったのだろう。

 ゼロから聞いており、神達の間ではあるある話らしい。

 おっと、思考が逸れた。


「全序列と、全天竜が護衛なら、問題無いと判断するが、トルティ嬢はどうか?」


「……水兵二名は帰還させましょう。伝令役も必要でしょうし」


「いや、船は俺がいないと動かないんだが」


「期日になっても、我々が街に帰還しなければ、捜索隊が組まれますので」


「つまり、トルティ嬢は誓約を受け入れると?」


「はい。ご迷惑でしょうか?」


 迷惑か迷惑でないかと言えば、迷惑の方に傾く。

 しかし、こちらから申し出ている以上、選択にケチをつけるわけにもいかない。


「わかった。悪いが、他の護衛者達にも、万が一があるかもしれないと伝えてくれ」


「「はっ」」


 さて、トルティ嬢を除けば、ほぼ身内みたいなもんだな。

 一名、帝国での秘密会談時に仲良くなり、シンビオーシスにわざわざ招集した冒険者がいるけど、彼なら問題無いだろう。

 下手に話せば、戦神様のスペッシャルなHELL修練クッキー添えが待ち受けているのだから。

 ササっと誓約魔法を発動して、理由の説明に移る。


「あの魔法陣だが、位相転移魔法陣だ」


「えっ、と……」


「簡単に説明すると、別の世界と繋がる魔法陣って事」


「それって……」


「うん、リーゼやミリアの懸念通りに、ラフィの元の世界に繋がっているかもしれない魔法陣」


「そんなっ!」


 なんか絶望した顔してる妻達だが、ヴェルグに変わって説明する。

 これで安心できるだろうから。


「あくまでも魔法陣は――って事だ。起動用の魔道具は壊れているか分からないが、魔力切れなのは確認した。ただ、魔力吸収の痕跡もあったから、念の為に放出系魔法は避けて、少し距離を置いたってわけだ」


「私達を置いて、何処にもいきませんよね?」


 ミリアの心配そうね瞳に、真っ直ぐに答えて安心させてやる。


「俺がミリア達を置いて元の世界に? 絶対に無いわぁ。俺はまだ、妻達を堪能しきれてない。後、子供は欲しい」


「んぅっ、もうっ!」


 顔を赤らめて、ポコポコという擬音が鳴りそうな叩き方をするミリア。

 人前では、恥ずかしかったみたいだ。


「まぁ、それにだな」


「ラフィの世界に繋がっているか分からないだよね」


「どういうことですか?」


 リーゼの疑問に、ヴェルグが答える。

 世界は数えきれないほどあるが、何処に繋がっているかは不明だし、安全な世界かどうかも分からない。

 繋がったが最後、即死する可能性も否定できない。

 危険度を考えると、起動させず、闇に葬ってしまう方が良い。

 万が一、起動してしまった時の事を考えて、こうやって距離を置いている事を話す。


「理解はしましたが、そんな魔法陣を起動させるならば、膨大な魔力が必要ではありませんか?」


「尤もな意見だが、あの魔道具はそれを可能にするんだ」


「可能に……まさかっ!?」


「他者の魔力を同質変換させる機能がある。というか、そうでもしないと、あの魔法陣の運用は無理だな」


「古代文明期も今も、魔法に関する人口比率は変わっていないとされていますから、起動するには……」


「最低でも半年に一回程度だろうな。ただ一点だけ、不可解な事がある」


 不可解な点、当時の人間は危険度を考えなかったのかという事。

 そこから導きだされる仮定は幾つかあるが、そのどれもが一つの結果を示す。

 それは……即死する世界には繋がらないという事。

 それならば、危険度を度外視して運用可能だ。

 ただ一つ、不可解ではなく疑問も残る。

 時空神が許している理由だ。

 次元干渉は次元断層を揺らし、次元震を引き起こしかねない危険な行為。

 それこそ、連動世界の破壊に繋がる行為、最悪は消滅だ。

 それを許した理由は? ……答えは出ないな。

 仮定としては、それが起こらないか、逼迫した状況だったか。

 後者なら、その原因はゼロなんだよなぁ。

 古代文明期崩壊後と考えたらって話だが。


「まぁ以上の点から、完全破壊一択なんだが、異議のある人」


 誰からも異議は出ない。

 いや、トルティ嬢だけは茫然としてるな。

 頭ではなんとなぁく、簡単な事だけ分かっているが、理性がミトメタクナァイってなってる感じかな。

 しかし、直轄領にしておいて、ほんっとうに良かったわ。

 南部辺境伯家領地のままだったら、面倒な交渉事が待っていたからな。

 トルティ嬢も、待った――と、かけていただろうし。

 よしっ、後顧の憂いなく、完全にぶっ壊しておこう。

 更地にするのもやむ無しで。


「みんなは俺の後ろに。君は……もう少し後ろに下がって、トルティ嬢のカバーを。……よし、準備できたな。行くぞ!」


 高出力魔力を一気に放出して瞬時に圧縮、それを小さな球にして、包み込むようなイメージで何度も繰り返す。

 属性は火の爆発系統に固定。

 確実に破壊できる様、広範囲破壊に指定して、上空へと移動させる。


「【解放リリース】」


 上空に、バカでかい火の玉が出来上がる。

 それを遺跡に向けて放って終わり……あれ? 小さくなっていってね?


「ラフィっ! 魔力が吸われてる!」


「ちっ。なら、吸われきる前に……ってぇ! 吸うスピードはっや!」


「あ、だめだ。吸うスピードが速すぎて、もう壊せる威力じゃないや」


「ぬぅん! 舐めるなこん畜生がぁぁぁぁぁっっ!!」


「放出と圧縮を自動連鎖させて、スピード上げてる。でも、地味に負けるね、これ」


「まだまだぁぁぁぁあ!!」


 放出と圧縮の早さを自分で出来る限界まで上げるが、地味にキッツい。

 リエルさんや、手伝ってくれませんかね? え? 趣味に没頭中だから話しかけんな? 緊急なら手伝うけど、緊急性が感じられないからイヤ? ……豪華客船魔改造の件を許すけど、どうする?


『喜んで手伝いまっす!』


 よろしい――って……これ、ヤバくね?


『魔方陣の起動を確認しました。これは……マスター! 直ぐに全員を更に後方へ!』


「総員全力後退! ――くっそ、一足遅かった」


 魔法障壁に阻まれる。

 トルティ嬢と、そのカバーをしていた護衛冒険者もギリギリで障壁内。

 つうか、遺跡内部だけの話じゃねぇのかよ!


『確認しました。遺跡の魔導回路が地下に埋もれています。障壁内全てが、遺跡の魔導回路です。いえ、正確に言えば、先程の魔道具と魔法陣が起動部屋で、外にある魔導回路が本命かと』


『説明ありがとさんっ。んで、次元干渉は?!』


『……起こっていない? いえこれは……裂け目を利用した位相転移? マスター! 全員を集めて、球体上の魔法障壁を展開して囲って下さい! これは人が転移する為の遺跡じゃありません!』


「全員、俺の傍に密着しろっ! トルティ嬢は恥ずかしがってる場合じゃない! 漏れたら、確実に死ぬぞっ!」


 おしくらまんじゅう状態の中で、魔法障壁を球体展開して全体を覆う――と同時に、遺跡が明滅したかと思えば、激しく光る。


「ちぃっ! 全員、誰かを掴んでおけっ!」


 誰かが誰かを掴んだ直後、世界から俺達は一度消える。

 そして目を開けると……黒服を着た何人かのおっさんたちがカップ麺を啜りながら硬直していた。

 こちらも何処かわからずに硬直。

 しかし、黒服の行動はこちらの復帰より早かった。

 瞬時にカップ麺を放り投げ、懐に手を入れて距離を取り、警戒行動を取った。

 それを見て何名かは硬直から復帰し、俺もどうにか復帰して、攻撃態勢に入ったナリアとウォルドを止める。


「何者だ! 何処から入り込んだ!」


「日本語?」


 聞き覚えのある懐かしい言葉。

 ……いや、感慨に耽っている場合ではない。

 とりあえず現在地の把握をしないといけない。


「動くな! 動けば命の保証はしない!」


 動かずに、天井を見上げると、黒複数名が懐から銃を取り出して、こちらへ銃口を向けた。

 うん、これは駄目なやつだな。


「銃を即座に取り出せる行動までは、警戒行動として見逃せるけど、銃口を向けるのは駄目だよなぁ」


「動くな! こちらの質問に答えろ!」


「銃口を向けるって事は、敵対行動って事で良いんだよな? ならてめぇら、誰の女に殺意向けてんだ、あぁん?」


 言い終えると共に、濃密な殺意プレッシャーを相手にぶつける。

 喰邪神戦で放ったのと同等のものを。

 後ろに控えている妻や序列達に被害はない……うん、攻撃態勢に入って、一歩踏み出してたウォルドとナリアは、少しだけ浴びちゃった。

 二人共、マジの顔面蒼白だったわ。

 そんな、ちょびっとでもヤッバイ殺気プレッシャーを、もろに浴び続ける黒服たち。

 手が震え、照準はブレ、足はガクガクして、歯をカチカチと鳴らして恐怖している。

 これ、誤っての発砲もありえそうだなぁと考えた所で、扉が開いた。

 そして姿を見せたのは、恐らくは上司であろう人物。

 年齢は50前後かな? 服装は、当然黒服。

 そんな彼の第一声は、部下を諫めるものだった。


「全員、銃を降ろしてしまえ! 命令である、降ろしてしまえ!」


 上司の言葉にも拘らず、降ろそうとしない黒服たち。

 うん、完全敵対行動って捉えて良いんだね? マジでぶっ殺すよ?


「その、申し訳ないのですが、殺気を少し抑えて頂けませんか? 恐らくですが、恐慌状態になっていると思いますので」


 男からの申し出にふと考え、無しだなぁ――と結論付けた。


「先に敵対行動へ移った者達に、こちらから矛を収めろと? それは都合が良過ぎやしないか?」


「重々承知しています。なので、幾つか情報を話します。それを聞いて、再考して頂けませんか?」


「条件が一つ。この国の名と年号を先に教えろ」


「我が国の名は日本。場所は出雲大社の隠れ社。年号は――」


 ああ、やっぱりか。

 銃を出されて、半分はそうじゃないかなぁって思ったんだよな。

 ここは生前の世界。

 俺が死んでから8年の時が過ぎた、懐かしき故郷だった――。

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