第277話 ちょっと遅めの新婚旅行計画

 結婚式から一カ月半、色々と仕事をこなし、色に溺れて過ごしていたが、ふと気付いた。

 気付いてしまった。


(新婚旅行、してなくね?)


 なんという失態! 穴があったら入りたい気持ちだが、今はそうじゃない。

 何処に行くかって話だ。

 海か山かで言えば、海一択。

 北か南かで言えば、南一択。

 問題は、国内か国外か。

 いや、その前に、長期休みを貰えるかだな。

 ブラガスに相談しよう。


「ゲート使用でなら、半月の休暇辺りでしょうか」


「マジで!? ブラガス、熱でもあるんじゃないのか?」


「自分の事、鬼畜宰相とか思ってますよね、それ」


「ダークネス鬼社畜とは思ってた」


「では、日帰りで」


「サーセン。だから、半月お休みください」


 いつもの軽いやり取りで、半月の休みをもぎ取りました!

 いや、まぁ、正確に言えば、上が休みを取らないと、下が休みづらいって話。

 休暇後は、ブラガス含めた官僚達が、順次、小休暇を取っていく方向との事。

 今年は収穫祭を確実に行うために、城下町関連の建築は8割以上完成させるらしい。

 俺、休暇取って大丈夫か?


「帰ってきたら、ほぼお休み無しで」


「そんな事だと思ったよ、ちくしょーめ」


 とりあえず、半月の休みは貰ったから、どう過ごすかだよな。

 ゲートの使用も認められたから、各国を巡って海もアリだし、逆もアリ。

 気を付けるべき点はリュンヌだが、あれから静かなんだよな。

 諦めたのならば良いが、要警戒。

 さて、どうしようかな? ……あ、海だと、黒島か龍島しか選択肢がねぇ。

 後は領域内か領地じゃねぇか。

 ……妻達と相談して決めよう。

 でも、海は外せん!


「てなわけで、明後日から暫くお休みになりました。新婚旅行に行きます」


「いきなりね」


「まぁまぁ、蛍。ラフィのこういったのは、今に始まった事じゃないでしょ」


「リアは付き合い長いですからね。ときにあなた、何処に行くんですか?」


「海には行きたいと考えてる。皆の水着姿を見たいっ!」


「ねぇねぇ、この世界の水着ってさ」


「優華の言う通りなんだけど、何か考えはあると思うわよ」


「桜花の言う通りだと思うけど、何か注文とかしてた?」


 今日と明日は、夜の営みをお休みして、みんなで話し合いだ。

 メイド達は大慌てで、出立の荷造り中。

 拡張馬車の使用も許可されているので、昼夜交代で荷造りすると、ナリアから聞いている。

 行き先が何処でも良いように、用意は怠らないそうだ。

 そして今、行き先の相談なんだが、いくつかの問題が発覚。

 一つは護衛。

 城の兵士達は国防という任務があるので、大人数は割けない。

 人手も足りんしな。

 同じ理由で、警邏隊からも引き抜きは不可。

 彼らの任務は治安維持なので、もってのほか。

 そうなると冒険者なのだが、護衛任務が多種多様化していて、直ぐに受けてくれるか微妙。

 そうなると、国外の冒険者ならばとなるが、何処も似たような感じだと、報告書に上がって来ていた。

 そうなると、自ずと道は一つしかない。


「護衛は近衛からとクランへの依頼だな」


「新婚旅行なのに護衛とか、変な感じよねぇ」


「蛍の言いたい事は分かるかも。初めてこっちに来た頃に感じてた事だし」


「私も桜花ちゃんと一緒かな。詩音は違うの?」


「似たようなことがあったから、特別には感じないかも」


「ナユとリュールは? 平民だったわけだし」


「仕事であった」


「私もありましたね。まぁ、その依頼のせいで、輿入れ中にあんなことになった訳ですけど」


 まだ神聖国であった時の話か。

 確か、親バカ貴族が暴走して、ヴァルケノズさんがブチギレたってやつだったな。

 なんか懐かしく思えてくる。


「少し前の出来事なのに、懐かしく感じますね」


「戦争を経験したからでしょう。後は、楽しい日々だったからかもしれません」


 ミリアが締めて、元の話に戻る。

 護衛の件は、最悪はブラガスに投げたり、八木や神喰、ゼロに……は無しだな。

 ツクヨが懐妊してるから。

 本人達も驚いていたし、本当に作るつもりは無かったんだろうな。

 まぁ、元の世界ですら、避妊具を使っても事故率考えたら絶対じゃなかったし、子供が作れない体じゃないから、むしろ自然なんだよな。

 とにかく、ツクヨが妊娠中だから、ゼロの護衛は無し。


「後は場所だが、どうしようか」


「南の辺境伯領に行ってみたいです!」


「シアが我儘とは珍しい。それで、どうしてかな?」


「船に乗ってみたいです!」


「ふむ……じゃ、作るか」


「うわぁ……ラフィが変な事言い出したよ」


「変とは失礼だな、ヴェルグ君。漁船と娯楽船に分けるだけだ」


 イメージは、クルーザーだな。

 魔導娯楽船として、安全面に考慮すれば、貴族に売れるかもしれん。

 生産数は抑えて、限定品にすれば、かなり高い確率で売れるかも。

 UVカットと日焼け防止の結界付きにすれば、貴族令嬢が気にせずに遊べるだろうし。


「うわぁ……悪い顔してるぅ」


「スノラよ、見てはいかん。子供が出来たら、注意するのだぞ」


「そういうイーファも、悪い顔してるわよ」


「ぬ? リジア、お主、目敏いな。まぁ、旦那の考えてることが分かるとな、悪い顔になってしまうのじゃて」


「おいこら、そんなに褒めるな」


「褒めとらんが?」


 お互いに少し黙って……今度、夜でお仕置きすると誓い、話を戻そう。

 船は確定として、海辺で遊べるようにもしたいな。

 ただ、海岸線は空きが無いんだよなぁ。

 龍島はなぁ……竜達の楽園だし、黒島は……あれ? 全滅は大陸内で行ったから、死体とかはないか。

 でも、安全面は……今更どこも一緒か。

 現在の黒島は直轄地になっているし、プライベートビーチも出来なくないか。

 ……リゾート地化計画もありかもしれん。

 そうなると、色々と調査も……いや、そうじゃなくて!


「お金儲けですね」


「リーゼ、今のシンビオーシス公家は、そこまで資金不足なんですか?」


「ティアの質問に答えるなら、ずっと資金不足ですよ。上手く回して、借金せずに、資金は潤沢だと見せているだけです」


「実際は、微妙な感じですけどね」


「リリィ、どういう事?」


「衣食住や雇用には困らないけど、贅沢品は敵です」


「あ、そういうことなんだ。余剰金は確保してあるけどって意味かぁ」


「君ら、悲しくなるから止めて」


 個人資産、未だに回収よりも支出の方が多いんだよなぁ。

 色々と手を伸ばし過ぎた弊害だから、自業自得だけど。

 まぁ、だからこそ、新婚旅行くらいは気にせずに使いたい。

 国家運営資金に困ってはいないし、個人資産は別でいくらか確保してるし。

 どっかで逆転はするだろうから、今はちょっとってだけだ。

 だからさ、そんな不安な顔しないでくれないかね、ミナ。


「あ、すみません。いざとなったら、帝国から取ってきますから」


「うん、色々と恨まれそうだから、止めてね」


「それで、どうするんですか?」


「ちょっと念話する」


 コキュラトに念話をして、黒島の状況の確認と周囲の危険確認を頼む。


『なるはやで』


『1時間で終わらせまっせ』


 相変わらずのエセ関西弁であったが、1時間で終わらせるとは仕事が早い。

 いや、予め終わらせていて、最終確認って所か?

 まぁ、連絡待ちだな。

 ダメなら、南部辺境伯に相談しよう。


「それで、ずっと海ってのもあれだから、他にない?」


「いろんな国巡りとかですか?」


「ヴィオレの言い分も分かるんだけど、ランシェスは、みんな知ってるだろ? 目新しいものないけど、行くのか?」


「行かないと、お父様が文句を言いかねませんよ」


「そこなんだよなぁ。だからさ、首都じゃなく、領都巡りもアリかなって考えたんだけど」


「その前にさ、行ったことないよね?」


「まぁ、裏技だよ、ヴェルグ」


「うん、止めようね」


 全員から却下を食らって、領都巡りはボツに。

 そこにすかさず、ラナの提案。

 領域での魔物狩り。

 新婚旅行でするものじゃないよな、それ。

 半数の妻達からも難色が出たので、保留。

 そして、あーだこーだと悩んだ末に、四大辺境伯領の領都を巡るって形になった訳だが、別の問題が浮上。


「急な来訪になる訳だが、大丈夫かね?」


「まぁ、新婚旅行ですから、宿の確保だけして頂ければ良いでしょう」


「リーゼがそういうなら、まぁ」


「それよりも、今日はちょっと楽しみですね、あなた」


「ん? あ、そっか。結婚して、初めて皆で寝るのか」


 色沙汰はないからな、勿論。


「したくなったら、手を出しても構わないからね」


「ちょっと、ヴェルグさん!」


「ヴィオレの言う通りよっ! 何言ってんの!」


 ヴィオレと蛍は焦ってるが、他の妻達はアリとか思ってる顔だな。

 19Pは流石にむっずいんですが?

 その時、扉を叩く音が! 今来たメイド、ナイスだ!


「陛下、少し宜しいでしょう――お邪魔でしたか?」


「イルリカか。……おい、今日の話は、イルリカに誰かしたのか?」


 全員沈黙。

 ナリアには、全員に伝える様にといった筈なんだが。

 あのバカ、イルリカだけハブりやがったな?

 立ち上がってお仕置きに動こうとしたら、イルリカからストップをかけられた。


「旦那様、落ち着いて下さい! 単に仕事で遅れただけですからっ」


「ん? ナリアには時間も伝えていたはずだけど?」


「えーっとですね、10日ほど前に、新人を雇用しまして、教育係が私なんです。侍女長がそういった仕事も覚えて行くようにと、期待をかけてくれてるんですけど……」


「けど?」


「予想以上に大変でした。今、ちょっと基準が分からなくなってまして、新人たちが終わらせられなかった仕事をですね、侍女長と一緒に、相談もしながらですね……」


 そして気付いたら、時間を大幅に過ぎていたと。

 あー、ナリアにしては珍しい……いや、優しさの一つか。

 ナリアの後任筆頭侍女長候補だからな、イルリカは。


「わかった。仕事はアガリで良いんだな?」


「いえ、一つだけ残ってます」


 まだあるのかよ。


「何処に行くか早急に決めて欲しいと、宰相様、侍女長、執事長からのお達しが」


「……イルリカ、ちょっとこっちゃ来い」


「えーっと、失礼します」


 胡坐をかいてベッドに座り、イルリカが近づてくると逃げられないように、お姫様抱っこ形式で確保する。

 全員、何も言わない――いや、労っている。


「はわわわっ! だ、旦那様?!」


「イルリカだけは、まだだからな。ちょっとした労いとご褒美だよ」


「不公平は良くないですから、イルリカさんに手を出された後は、私達にもして下さいね、あなた」


「任せろっ!」


 順番は決めんけどな。

 雰囲気も大事だと思うから。

 そして、話を再開する。

 あの三人の事だから、聞いてこいは参加して来いって事だろうし。


「さて、四大辺境伯領を順番に巡って新婚旅行って話だけど、どう回る?」


「南は最後ですよね、この場合」


「ミナの言う通りだな。最後はバカンスだろう」


「そうなると、東か西からですね。北はどちらにしても2番目でしょう」


「じゃ、多数決で決めますか。東からなら右手、西からなら左手挙手で」


 結果、東から回ることになった。

 ランシェス実家組は、全員が東からだったが理由アリらしい。

 それを聞いた数名が、東に乗り換えた感じ。


「まぁ、旦那は、元ランシェス貴族じゃからのぅ。理由を聞けば、仕方ないじゃろうて」


「柵かぁ。配慮も必要なのは面倒だよなぁ」


「まぁまぁ、その分、東辺境伯は泣くわけだし」


「多少の恨み節は、お父様行でしょうしね」


「栄誉もあるから、相殺なのでは?」


「難しい話だよなぁ」


「あ、あのですね、決まったら、報告に行きたいんですけど」


「明日の朝で良いよ。それより今日は、一緒に寝るぞ」


「え……えええええぇぇぇぇっっっ!!」


 イルリカ、何を想像したのか――いや、きっと、そっちを想像したのだろう。

 顔が真っ赤である。

 ヴェルグ寄りのドM妻達は、満更でもない様子だが、正妻からの待ったが。

 流石に、弄り過ぎってことみたいだ。


「それじゃ、皆でおしゃべりしながら寝ましょう」


「あ、着替えないと」


「ねぇねぇ、皆の着替え見たい?」


「ヴェルグさんや、答えは決まってると思うが?」


「アンサー?」


「是非とも見たいっ!」


 就寝準備の生着替えを堪能して、全員でベッドに入る。

 右隣は正妻のミリアが陣取り、今日は慰労も兼ねてという事で、左隣はイルリカに満場一致で決まった。

 最後は両腕で二人を抱きしめながら寝る予定なのだが、その前にミリアから提案がなされた。


「ちょっとくらい、抱きしめて上げても良いのでは?」


「ふ、ふぇぇぇ……」


 イルリカ、心の準備とかが皆無なんだろうなぁ。

 でも、知らね。

 引き寄せて、片腕で抱きしめて、軽く頭を撫でる。

 しかしっ! 急遽、イルリカは起き上がった!

 全員、あらあらって感じだったが、本人は顔を真っ赤にして一言だけで出て行ったよ。


「お、お風呂! まだ入って無かったので、入ってきましゅゅ!」


「あ、噛んだ」


 しかしっ! 今のイルリカはテンパっている! 噛んだことにすら気付かず、ダッシュで寝室を後にした。

 うーん、良い匂いだったし、気にせんでも良いのに。


「くすくす、あなたも、人が悪いですよね」


「? なんのこっちゃ」


「なんでもないですよ」


 その後、イルリカが戻って来るまで何気ない話をして、戻ってきたら抱き枕にしてやった。

 良い匂いは相変わらずだったとも言っておく。

 翌朝、気付けば、イルリカの姿は無かった。

 ……社畜の鏡か、あいつは。

 今日くらい、寝坊しても良いのに。

 そして、明日から休みなので、大量の仕事を振られたわ。

 まぁ、行き先に関しての情報は伝わっていたけど。

 ……今日は、イルリカを傍に控えさせようかな。

















「イルリカ、早いですね」


「ナリア侍女長、酷いですぅ」


「ですが、リフレッシュできたでしょう?」


「悩みなんて、吹き飛びましたよっ!」


「そうですか。では、今日も頑張って新人教育して下さい」


「あ、急に現実が来ました」


「頑張ってください」


「はい……」

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