第275話 色夜はまだまだ終わらない

 シアを抱いた翌日、ちょっとだけ罪悪感と戦いながら執務をこなし、夜はヴィオレの日。

 寝室に入ると……うん、誰ですか?


「ヴィオレですわよっ」


「マジで一瞬、誰かわからんかった。ツインテドリルじゃなく、普通のツインテールの方が似合うんじゃね?」


「うぐっ」


 なんて会話をした後、酒を飲んで甘い雰囲気になって抱いて……肉食系にならない、だとっ?!

 ヴィオレさん、どこぞのクルセイダーさんだった。

 髪を引っ張って乱暴にとか、獣みたいに――とか、ドS心に直撃させてくる。

 ……ええ、別ベクトルで燃えましたわ。

 そして今、何回戦目かわからないくらい抱いて、とんでもない事を言われた。


「その、ですね……こ、今度はお尻をですね……」


「ちょいまちっ! どこでそんな知識を仕入れて来たっ?!」


「ヴェルグさんが、その、色々と。性癖も見抜かれてたみたいで……」


「……同種だったか」


 ヴェルグはメンヘラとヤンデレを煮詰めたくらいに、愛が重い女である。

 戦闘面は冷静沈着にこなす分、反動がエグイ。

 言動が正反対になるほど、家族愛も重い女――それがヴェルグである。

 そして、生粋のドMである。

 そんなヴェルグから知識を? どこぞの駄竜みたく、ケツパイルから目覚めそうで怖いんだが?! とは言え、妻が望むのならっ!


「か、考えておこう……」


「ぉ……ぉねがいしましゅ」


 お互い、これが精一杯の受け答えで、その日は就寝した。

 そしていつも通りに過ごし、今日はリア。

 あ、今日は肉食系女子の日か。


「誰が肉食系か」


「でも、肉料理は好きだよな?」


「好きだけど、それとはまた別な気もするんだけど?」


 そんな話をして、酒で乾杯からの甘い雰囲気に持って行って、抱いて……リア、お前もかいっ!


「滅茶苦茶にされるの好きぃぃっ!!」


 小柄な身体で、胸はまな板で、まさかのドエムである。

 属性過多すぎんだろっ。

 でも、嫌いじゃないです。

 そんな感じで、複数回戦して、今はちょっと休憩タイム。

 リアの上に覆いかぶさる様な感じで抱きしめながら、リアは上体逸らしでキスをせがむ。

 それに応じてキスをして、パタッと力尽きるリア。

 息が荒い中、満足そうに声を掛けてくる。


「さいっこう! ラフィって、本当にドSだよね」


「俺はリアがドМだと知って、ちょっと驚きだったわ」


「でも、好きでしょ?」


「嫌いではないかな」


「ラフィって、僕とヴェルグには素直に言わないよね」


「それこそが、ドSの神髄だからな」


「嘘臭いなぁ」


 好きな子ほど虐めたい小学生か、俺は。

 まぁ、わかってますよ的な顔をされているので、当分は今みたいな感じだろうな。

 その後は、今後のプレイ希望を聞いたりした後、即出来るものは試してみたりして、力尽きるまで楽しみ、ナリアからちょっと暴れすぎだと怒られ……なんで知って――あ、ベッドの惨状すか。

 これは失敬。

 そしていつも通りの日を過ごして、最年長であるナユの日を迎える。


「待ってました、ラフィ。ずっと、この日を」


「ずいぶん待たせて悪かった。これからもよろしくな」


 キスをして、普通に抱いて、普通に数回戦。

 あれ? 普通の初夜って初めてな気がする。


「どうしたんですか?」


「いや、良く考えたら、普通にしたのってナユが初めてだと思って」


 今は腕枕でナユを抱き寄せながら、何気に濃い初夜ばかりだった事を話す。

 その話を聞いたナユは、クスクスと笑いだした。

 なんかおかしいこと言ったかな?


「皆さん、想いが溢れちゃったんですね。後は、性癖?」


「想いは良いけど、性癖が溢れ出すのは、ちょっと……」


「それも想いじゃないかな。ちょっと、お姉さんぶってみました」


 クスッと笑ったナユは、凄く可愛かった。

 そして、溢れるパッション棒、復・活っ!

 そして、また数回戦して、眠りについた。

 うん、普通って良いね!

 ナリアも叩き起こさなかったし。

 あれは八つ当たりもあったのだろうか?

 そんな感じで同じ様に過ごして、鬼門のヴェルグの日である。

 もうね、部屋に入る前から戦々恐々ですわ。

 どんなアブノーマルな事を言われるのか……オラぁ、ワクワクすっぞ! ドS心、全っ開である。


「ようやくボクの日だ。ちょっと待ちくたびれちゃったよ」


「あれ? 第一声が普通だ」


「ボクの事、何だと思ってるのかな?」


「某魔王の嫁にいるヤンデレヒーラーと同種」


「あれと一緒は、流石に嫌なんだけど?」


 このネタが分かるとは……ネタの仕入れ先は潤かな? あ、輝明にも聞いていると。

 仲が良くて何よりで、嫉妬して良いっすかね? 二人の恋人には、無い事無い事拭き込んどくからさ。


「やめなさい。後、冒険者稼業でパーティー組んでるのもあるんだから、仕方ない部分もあるでしょ。別に二人だけじゃなく、箒と天音からもネタ提供はして貰ってるしね」


「天音はともかく、箒のネタ提供は怖いんですが?!」


 ドSの箒からのネタ提供とか、ヴェルグのフェンタイ属性が加速してしまうではないか。

 ……いや、属性変わらずに加速ならば、アリなのか?


「はいはい、バカのこと考えてないで、始めようね」


「おまっ、もうちょっと雰囲気ってもんをだな」


「おやおや、ラフィって、案外乙女なんだね」


 ニマニマ笑うヴェルグに、ニッコリ笑って返す。

 やり過ぎたって顔してるが、今更遅い。

 強引に引き寄せてからの深く長いキスで執拗に攻めて、蕩けさせ、そのままベッドに押し倒して攻めまくる。

 その勢いで、初めてをして……うん、やっぱ諸悪の原因はこいつだったわ。

 ヴィオレのドМ化に拍車がかかってるのが。

 いや、だってなぁ……今の状況ってヤバいよ。


「お尻好きぃぃぃっ! もっと、もっと激しくして良いからぁぁぁっ!」


 初夜でこれだぜ? 普通の人ならドン引きもんだと思うよ。

 まぁ、そこが可愛くて、苛めたくなるんだから、俺も大概ドSって話だけどな。

 そんな濃い行為の夜は更けて行き……ん? 外が明るくなってる?


「ラフィ、もっとぉ……」


「ヴェルグさんや、外が明るいんですが。流石に寝ないとヤバく――んぷっ」


「ん、ふぅ、んぷぅ……だぁめ」


 その後、外が完全に明るくなるまで続いたよ。

 ナリアがその1時間後位に起こしに来たんだが、顔を引くつかせていたなぁ。


「絶倫鬼畜陛下だったとは知りませんでした」


「言い方ぁ! いや、そんな蔑んだ目で見んなっ!」


 ナリアとのやり取り中、ヴェルグは爆睡してたよ。

 気持ちよさそうに寝ていて、大変に羨ましいですっ!

 そして、完徹で執務に向かい、夜になるのだが、珍しく疲れている。

 でも、妻のために頑張らねば。

 ……嘘です、自分も楽しみです。

 そんな今日はリュールの日なのだが、何してんのかな?


「ん。恥ずかしい」


「いや、だからって布団で全部隠さんでも」


「ん。見たいなら、力づく推奨」


「お? 良いんだな? 俺、頑張っちゃうぞ」


 力づくと言うが、布団を破りましたとかなったら、ナリアの目がまた蔑むに違いないので、上手く布団をリュールから剝がした。


「ん。……恥ずかしい」


「顔赤くして、なんて可愛らしい。そうだよ、恥じらいは大切だよな」


「ん。でも、なんで感涙?」


「一部の日が酷かったもんで」


 なんて話をしながら、イチャついて、雰囲気作って、キスして、普通に抱いて……あ、昨日の反動のせいか、すっげぇ落ち着く。

 しかし、リュールって意外と淡泊というか、そこまで好きではない?


「ん。今は恥ずかしさが上。慣れたら、もう少し変われる……と、思う」


「じゃ、楽しみに待ってようかな」


「ん。でも、ヴェルグみたいなのは無理」


「あれは特殊だから、リュールに真似されたら泣くかもしれん」


「ん。じゃしない。でも一つだけ興味はあるから、ヴェルグに聞く」


「不安しかねぇんだが?」


 その後は、珍しくリュールが沢山おしゃべりしてくれて、イチャついて寝た。

 あ、公平性は必要なので、二回戦まではしましたよ。

 ……まだ1週間あるのか。

 体力、持つのかね。

 なんて考えながら寝て、ナリアから今日は優しく起こされた。


「今日で世界滅亡っすか?」


「優しく起こしたらこれですか。明日からは元に戻しましょうか」


「明日も今日と同じでおなしゃすっ!」


 そして執務、久しぶりに長めの修練、夜はリジアの日なのだが……これは予想通りだったわ。


「もっと激しく動いてっ」


「いや、十分激しいだろうが」


「足りないっ!」


 狼亜人のリジアは、やっぱ肉食系女子だった。

 後、一番貪欲で、激しかったな。

 ただ、回数はそこまで多くない。

 でも、一回が激しすぎるので、あんま変わらんかな。

 そんなリジアの満足した寝顔を見ながら瞼を落として、今日もナリアの起こし方は優しかった。


「天変地異でも起こったか?」


「明日は叩き起こすとしましょう」


「嘘です。サーセン」


 そしていつも通り過ごして、スノラの日なのだが……こっちは想定外だったわ。


「ぺろっ、うふふ、旦那様、もっとしましょう」


「まさかの淫靡ウサギだったとは」


 スイッチが入ったスノラは、激しくは無いのだが、リジアを凌ぐ貪欲さだった。

 貪欲だけなら、スノラが一番かもしれん。

 というか、亜人って貪欲肉食系ばっかりなのか?

 なんて考えながらも、ひたすらに抱いたよ。

 朝日が差し込みそうな時間帯までな。

 あまり睡眠時間が取れない中で、ナリアに今日は叩き起こされた。

 あれか? 時間に関係してるんっすかね?


「黙秘します」


「黙秘は肯定と受け取るからな」


 そして変わりなく執務して、イーファの日なのだが、これはこれで予想外。

 まさかのシア年齢モードだった。


「お主、こっちの方が好きじゃろ?」


「人をロ◯コン呼ばわりすんな」


 でも、抱きました。

 好きか嫌いかで言えば、嫌いではないから。

 ただ、こっからが面白かったな。

 初めてこそシア年齢モードだったが、肉体年齢を自在に変えられるイーファは、色んな肉体年齢で抱かせてくれた。

 ただ一点、他の亜人嫁達と変わらないのは、やっぱり肉食系だってことかな。

 激しいか、回数が多いかの違いはあるけどな。

 イーファはリジアとスノラを足して2で割った感じだったから、途中、休憩挟んででイチャついたりもした。


「亜人達かえ? まぁ、夜は激しいのぅ」


「全種族?」


「多少の誤差はあるが、全種族じゃの。それと、種族特性みたいなものはあったかの」


「ああ、なんか納得」


「リジアの種族は激しいからのぅ。スノラの種族は、後々面白くなるの」


「イーファの種族は……妖狐だからまた別か」


「そうじゃの。狐と妾だと、似通った部分はあるが、全く別物じゃの」


「で、話しながらどこを触ってるのかな?」


「うん? そろそろもう一回じゃと思うての。妾、子供は3人以上欲しいの」


 そう言って、シア年齢巨乳モードになるイーファ。

 潤が大好きな同人誌っぽい感じになってる。

 所謂、メ○○キモード――なんちって。


「ぺろっ、夜はこれからじゃ。期待しとるぞ、旦那よ」


「では、分からせモードで行こうか」


 イーファ、ちょっだけMだったことが判明したわ。

 で、朝方まで頑張ってる訳なので、ナリアの起こし方は優しくなかったと言っておく。

 やっぱ時間か。


「当たり前です。誰も警護が付いていないわけないでしょう」


「もしかして、全部ナリアが?」


「初夜だけは信ある者が護衛しませんといけませんので。貴族の慣習です」


「……覗いたり、聞き耳立てたりしてねぇよな?」


「ご想像にお任せいたします」


 ……覗いてはいないが、聞き耳は立てたんだな? あ、だから機嫌が悪い日は、起こし方で差を付けたのね。

 後は睡眠時間も関係してるっぽいな。

 ……初夜後はどうなるのか、聞くの忘れた。

 明日にでも聞くか。

 そして、執務からのー夜ですっ。

 今日は桜花の日なのだが、行動がリュールと変わらんというね。


「は、恥ずかしいじゃない」


「とか言いつつ、隠しきれていないのか、わざとかは知らんが、チラチラ見えてるからな」


 ベビードールを着ているっぽい。

 色は桃色で、可愛いもの好きな桜花に良く似合っている。

 それを言ったら、顔を真っ赤にさせたわ。

 うむ、可愛いので、早く抱きに行きます!


「ほら、布団から出て、よく見せて」


「うぅっ……」


 やっぱ、スタイル良いよなぁ。

 胸は大きいながら、引っ込む所は引っ込んでる。

 グラビアアイドルさんに負けず劣らずのボディ。

 あ、また隠れようとしたので阻止。

 その勢いで引き寄せてキス。

 その気になるまでキスして、蕩けてきたらベッドに寝かせて、初めてを抱く。

 数回戦してわかったが、桜花はナユと同じでノーマルだった。

 残念なような、嬉しいような。


「ど、どっちなのよ」


「複雑ではある。そして、明日が少し怖くもある」


「明日は……あ、優華の番か。……考えたら、私も少し怖くなってきたわ」


「怒らないのな」


「今は私だけを見てって? そんな狭量なこと、言わないわよ。でも、放置は嫌だからね」


「全て終わったら、優華と桜花で……アリだな」


「……ねぇ、鬼畜って言われない? 主に夜の方で」


 そして笑い合いながら就寝。

 本日のナリアの起こし方は優しかったわ。

 やっぱ時間か。

 そうなると、明日の朝は乱暴が確定しそうだな。

 なんて思った日の夜、優華の日なのだが、かなり想定外だった。


「なぁにを想定していたのかな? かな?」


「いや、肉食系女子だろうなぁと」


「そっちの方が良いなら、そうするけど?」


 普通に初夜は終わって、三回戦後の休憩時間賢者タイム中。

 顔の距離はかなり近いが、普通に話している。

 多分、今までの初夜で一番の意外。

 あれ? これって意外性が付きまとうパターンか?


「ねぇねぇ、今度は二人でだよね?」


「ん? 桜花と一緒って意味だよな?」


「うん! カワイイ桜花ちゃん、見てみたい!」


「優華さんや、君、ドSって言われたことないかい?」


 その後も桜花の話に何故かなって、キリの良い所で就寝。

 そして、新たな新発見。

 優華は桜花ダイスキーである事が判明した。

 桜花スキーなのは知っていたが、大が付くほどとは思っていなかったわ。

 後、桜花にだけはドSになる事も。

 これから先、桜花は夜、大変だろうなぁと思いながら寝て、ナリアに優しく起こされた。

 ちょっと複雑そうな顔で。

 気持ちは良くわかるよ。


「分かって頂けますか」


「俺も意外だったからな。可愛かったけど」


「惚気自慢大会ですか? 本日の執務を明日に回すくらいの時間をかけて、私の惚気自慢を聞きますでしょうか?」


「うん、勘弁。さぁて、仕事だ。……社畜みたいだなぁ」


 そして何事もなく過ごし、今日は詩音の日。

 寝室に入ると、普通の寝間着の詩音がいた。

 今までが薄手の寝所着ばかりだったので、これは新鮮。


「意外みたいな顔は止めてね」


「ちゃうから。意外じゃなくて新鮮なんだよ」


「ん? どういうこと?」


 今までの寝間着について語ると、何故かしまった! って顔になる詩音。

 いや、それはそれでアリだから。


「くっ、私とした事が! 皆に話を聞いておくべきだった」


「ん? してないのか?」


「蒼夜君から話してくれることはOK。それ以外は、皆終わってからお茶会でって話になってるのよ。だから、何も知らないのよねぇ」


「へぇ」


「あ、唯一共有済みなのは、後1日増えるって話かしら」


「ん?」


 今、聞いちゃいけない何かがあったような。

 聞くべきか、聞かぬべきか。

 なんて考えてる内に、手を握られ、俺がベッドに押し倒された。

 詩音の膂力半端ねぇ。

 油断もあったけど、純粋に力負けしてるな、これ。

 そしてキスされた。

 どこの王子様系女子ですかね?


「あ、蒼夜君が普通はリードすべきなんだからねっ」


「ふぅん……ならっ」


 攻守逆転させる。

 力で負けるなら技でと言わんばかりに、詩音をベッドに倒して、下にする。

 今度はこちらからキスして、深く長めに堪能。

 頬が少し赤く染まったのを見てから、寝間着に手をかけて脱がし、優しく準備していく。

 優しく初めてを抱いて、三回戦目に突入する時には、何故か王子様系からご奉仕系に変わっている詩音。


「あれ? まさかのそっち系?」


「んっ、はぁ……悪い?」


「いや、めっちゃ良いけど、意外過ぎて」


「これでも私、尽くす女だから」


 そして5回戦して終了。

 はっきり言う、満足感がえっぐいわ。

 なんだろう、やれないことはないけど、気持ちがそっちに行かないって感じ。

 肉体的満足感は程々にして、精神的満足感は最大限って言った感じ。

 ……何人かに見習わせるべきであろうか? 割と真剣に悩んでいる事を詩音に話して就寝した。

 翌日の朝、ナリアが優しく起こしてくれて、頼みごとをしてきた。

 小声で。


「(陛下、シオン側妃様に、昨日の夜の技の伝授を頼みたく)」


「いや、自分で頼めや」


「(身分差は必須ですので)」


「はぁ……。詩音、ナリアが頼み事あるってさ。主に昨日の夜の……おい、待てナリア。なんで知ってる?」


 この後、ナリアとの城内鬼ごっこが始まった。

 鬼は俺と詩音。

 覗き魔は粛清せねばなるまい。

 ……捕まえるのに1時間かかったわ。

 とりあえず、ナリアへの尋問とお説教は妻達に任せて仕事に向かい、夜に寝室へ行くと……簀巻きにされた蛍がいた。

 うん、どゆことぉ?!


「見てないで、早く解いて!」


「お、おぅ」


 手早く解いて、何があったか聞くと……あー、うん、ちょっと納得。


「ナリアも容赦ねぇなぁ」


「ちょっと照れくさくて、ちょーっと躊躇ったらこれよ。蒼、あんたあのメイドに、どういった教育したのよ」


「ナリアはなぁ……忠誠心が変な方向に天元突破してるというかなぁ」


「私って、一応、妃なのよね?」


「妃だな。優劣は付けてないつもりだが」


 但し、夜は別と付け加えておく。

 好き嫌いではなく、単純に優れてる点での優劣があるだけだが。

 その後も少し怒ってはいたが、急に大人しくなって、肩に頭を乗せてくる蛍。

 情緒不安定過ぎませんかね?


「し、仕方ないでしょ。夢、叶ったんだから……」


「夢?」


「~~~蒼の、奥さんになる事っ!」


「蛍、お前……可愛すぎんだろっ!」


「きゃっ」


 思わずベッドに押し倒してしまった。

 蛍は小柄で胸が大きいのをコンプレックスにしてたが、中・高と人気の高い女子だったからな。

 あーいや、恋人にしたいクラスメイト(非公式)と、奥さんにしたいクラスメイト(非公式)で、ぶっちぎって一位になるくらい人気だった。

 まぁ、中学生の時は、蛍が幼馴染だと知った奴らから、喧嘩売られたり、嫌がらせされたりしたもんだよ。

 その後始末というか、蛍にバレないように色々と立ち回ってくれたのが潤だったよなぁ。

 確か、蛍が迷惑するからって……あれ?


「蒼?」


「いや、俺って鈍感過ぎるなぁと、今更ながらに思って」


「私が、あんたの事を好きだったって話?」


「それもだな。で、一つ質問。蛍、お前さ、中学の頃の俺に関して、全部知ってるよな」


「……うん」


 知っていて、全部黙っていたって事に、今更ながら自分がアホだって事に気付かされる。

 口に出せないあんなことやこんなことして、敵対者の心を全部折に行ってたのも、知ってるって事だ。

 それと、俺への復讐に蛍を拉致ろうとしてた先輩たちにしたことも、全部知ってると。


「知ってるわよ。だから、高校で別の女と付き合いだした時はムカついたし、蒼をズタボロにして捨てたあの女に心底怒った」


 そう言って蛍は、キスをしてきた。

 唇を離し、顔が近い状態で、あの後の事を聞かされた。


「蒼にやられた人たちがね、一部だけなんだけど、私を傷つける事で、蒼に更なる追い打ちを考えていたんだ。まぁ、当時ヤンチャだった芹澤が潰して回ったんだけどね」


「潤は?」


「箒と天音と三人で、多分、ボディーガードかな。まぁ、襲われたんだけどね」


「……だれ、そいつ」


 当時、蛍を襲った奴は全員、今から潰す。


「はい、落ち着こうねぇ」


 頭に手を回されて、胸に押し付けられる。

 柔らかいけど、呼吸できん。

 胸で溺れそうだから離して欲しい。


「その時にね、詩音に助けて貰ったんだよ。だからさ、大学で出会ったのは、偶然じゃなくて必然。当然だけど、当時のあんたの顏は知ってるわよ」


「ぷはっ! はぁ?」


「あ、それと、あんたをズタボロにした女ね、詩音に潰されてるから」


「はい?」


「詩音の曾お祖父さんってね、大企業の創業者なんだ。そして、そこの子会社で働いてたのが、あの女の父親って言えば、わかるかな?」


「こっわ。でも俺、縁も所縁も無い時期だよな?」


「中学時代のあんた、知ってるらしいわよ。助けて貰って、一目惚れしたとか」


「心当たりが……あ、いや、あれかな」


 思い当たる節が一つ。

 当時、ちょっかい出してきたグループの一つを潰しに行く際、怪しい男に車の中へ引き摺り込まれそうになってた女の子を助けた記憶がある。

 ただこっちも荒れていて、警察のお世話に何度かなってたから、後は潤に任せたんだっけか。


「それね」


「あれかぁ。縁はあった訳ね」


「まぁ話を戻すと、一目惚れして、憧れて、レディースの総長やってた時に助けてくれて、色々事情知って、あの女の家は一家離散らしいわ」


「何故に、らしい?」


「詩音から聞いただけだから」


 真実は闇の中ですか。

 それはそうとして、当時、襲ってきた奴らは誰? え? 今から制裁加えるに決まってんじゃん。

 こちとら原初の神ですので。

 話さないなら勝手に調べて制裁加えるから、安心して……え? 制裁済み?


「それも、詩音がね……」


「雪代家ってナニモンなんだよ」


 今度、詩音にでも聞こう。

 というか、いつまで頭の拘束と胸に埋めておくんですかね?


「どうしようかしらねぇ」


 そう言ってから額にキスをして拘束を解いた瞬間、またもやキスされる。

 今度は長く深い大人のキス。

 心の準備が出来たみたいだ。


「その、初めてだから、優しくしてよね」


「これ以上ないってくらい、優しくするさ」


 二回戦目までは、俺主導で優しく。

 三回戦と四回戦は、色々としてみたいというので、蛍主導で。

 五回戦は、お互いに激しくして、蛍が疲れて眠ってしまった。


「んぅ、あおぉ」


「寝言でも、俺を呼ぶのかよ。可愛い奴だな」


 まぁ、それはそれとして、ケジメは付けんとな。


『リエル』


『手を下す必要性があると思いませんけど』


『俺の方はな。だけど、腑抜けてた当時に、蛍を襲おうとして奴らは別。全力での制裁案件だ』


『愛妻家って、怖いですねぇ。RE・コードで洗い出しますけど、時間は必要ですよ。それと、どんな制裁で?』


『死んだほうがマシだけど、死ねないようなやつで』


『あ、マジギレ案件なんですね。了解です』


 後はリエルに任せて、俺も寝よう。

 翌日、ナリアさんは超不機嫌だった。

 昨日の鬼ごっこが、甚く不評だったらしい。

 ただ文句が言える状況でもないので、優しく起こされはしたけど。


「もう少し、私を労っても良いと思うのですが? この18日間、深夜も頑張って仕事したのですが」


「……詩音に、俺から許可済みって言って聞け」


「有難き幸せ」


 ナリア、ご苦労さんって、心の中で言っておくよ。

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