第271話 お互いに待ちわびた夜

 色々とあった披露宴も無事……多分、無事に終わったと思う。

 どうにかしたかった貴族家の一つを、嫁達の総意で潰すことにも成功した。

 少し申し訳なさが無いわけではないが、素晴らしい奥さんたちだと、改めて再確認させられた。

 そんな事を思いながら、城の私室のベッドにダイブした後に考えていたんだが、ドアノックの後にナリアが入って来て、苦言を言われる。


「陛下、だらしないですよ。さっさと着替えて下さい」


「披露宴後の第一声がそれかよ」


 そして入ってくる、メイド集団。

 されるがままに服を脱がされ、部屋儀を着せられ、少しの報告会。

 あ、メイド集団は、やる事やったら出て行ったよ。


「手短にご報告させて頂きます。まず、リュンヌ関連ですが、挙式終了までの襲撃者は14名、パレード終了までが37名、披露宴終了までが6名となっております」


「全部リュンヌか? 旧ダグレストの残党は無しか?」


「旧ダグレスト関係者は、今回はありませんでした。しかし、例の日程に襲ってくる可能性は捨てきれません」


「……応じたのは?」


「序列八位に面通しさせ、こちらの話に応じたのは、全57名中、32名。今後、洗脳、催眠、意識操作、意識誘導を施されていないかの有無を確認し、施されているならば解放していきます」


「その後は?」


「本人達の意思を最優先にさせますが、数名は学校を早期に開校させ、通わせる方向です。流石に、10歳の者まで使うとは思いませんでした」


「ふむ……開校迄の時間は?」


「秋までにはと、ブラガス宰相は申しておりました」


 ナリアからの報告を聞いて、少し思案する。

 時間を与えて自由にやらせるか、前と同じ方法を取るか。

 ……意見を聞いてみるか。


「ナリア、時間を与えるか、保護した子供達と同じ方法を取らせるか、どっちが良いと思う?」


「僭越ながら、お答えさせて頂きます。後者の方がよろしいかと」


「理由は?」


「未だ、保護した子供たちは、仕事をしながら勉学に励んでおります。優劣をつけるべきではないかと。それと、もう一つですが、交流で何か変わるとも思っております」


「……わかった。この件は、序列八位とナリアに任せる」


「御意」


 披露宴中に潰した貴族家に関しては、後日ブラガスが報告書を上げると言って、ナリアは退出して行った。

 1人になって、この先の展開を考え……心臓の鼓動が上がる。

 ちょっとうるさいから静まって欲しいと思うが、反比例して高鳴るばかりだった。


「風呂でも入って、落ち着こう」


 城内の男湯に向かい、ひとっ風呂浴びて汗を流す。

 湯船に浸かり、ちょっとほっこり。

 温泉は気持ちが良い。

 城内には、男湯と女湯があって、源泉かけ流しにしているのだが、後宮内にも同じものが作られてはいる。

 但し、混浴オンリーで。

 そんな城と後宮だが、実は私室も色々と作られており、城には執務室の他に自分の私室があり、後宮にも私室があり、更には夫婦の寝室も用意されている。

 勿論だが、妻達の部屋も城と後宮に作られてはいるが、就寝時は後宮の方で寝る。

 王たる自分だけが、どちらでもって感じだな。

 まぁ、城と後宮の私室は近いんだけどな。

 こういった形になったのは、ブラガス、ナリア、ノーバスの悪巧みとも言っておく。


(まったく、俺は愛人など作る気は無いというのに)


 悪巧み三人衆曰く、新興王家なのだから、家臣層を厚くするために子供を沢山――って事らしい。

 俺にだけ言わず、お前らも作れよって言いたいわ。

 あーー、まぁ、色々考えているけど、要は緊張を紛らわしているだけだな。

 風呂から上がり、城の私室で普段着に着替えた後、後宮の私室に向かい、下着にガウン姿となって、夫婦の寝室へと向かう。

 早まる鼓動を感じながら中に入ると、ミリアが既に待っていた。

 ガウン姿ではあったが、下に薄手の生地が見える。

 今まで風呂上がりの姿を見てきてはいるが、今日は妙にいろっぽい。

 紅潮した頬に白い肌が月明かりに照らされて、更にいろっぽさを増加させていた。


(ありきたりな言葉だけど、月の女神みたいだな)


 見惚れていたのだろう――ドアノブから手を放していたらしく、パタンっと扉が閉まる音を聞いたミリアが、微笑んで出迎えてくれる。

 更に鼓動が早くなる中、ミリアが近寄って来て、腕を絡ませてベッドへと誘導されて腰を掛ける。

 目の前にはテーブルと、珍しくワインが置かれていた。


「どうぞ、あなた」


「あ、ああ」


 グラスを渡されて、ワインを注ぎ入れるミリア。

 うん、胸元が丸見えっす。

 その後、ちょっと意識が飛んでいたが、ミリアにもワインを注いでいたらしい。

 らしいなのは、マジで記憶にないから。

 理性全開で我慢した俺、凄いと褒めるわ。


「改めて、末永くお願いします」


「こちらこそ」


 チンっとグラスを合わせ、口に入れるが、味なんざわからん。

 ワインの良し悪しなんざ元々わからんのに、状況が状況なだけに余計にわからんわ。

 ……チラッと横目でミリアを見ると、少し髪が濡れていた。

 いつもはきちんと乾かしているのに、珍しい。

 そんな彼女ミリアが髪を掻き上げる仕草が、もう堪らんよ。

 理性、何処まで持つかな? 既に決壊寸前だけど。


「どうされました?」


「いや、その、なんだ……綺麗だな、と」


「ふふ、ありがとうございます」


 そして、しな垂れかかるミリア。

 心臓が爆発しそうです。


「私で、こんなにもドキドキしてくれるんですね」


「? どういう――」


「奥さんが沢山で、多分、まだ増えそうですよね。負けそうで怖いんです」


「……」


 彼女ミリアの弱音は初めて聞く。

 いつも正妻たらんとして、気を張っていたのだろうか?

 なら俺は、何を言えば良い? 何を返せる? ……いや、そうじゃないか。

 彼女ミリアの手を取って、指を絡ませる。

 飾った言葉は要らない。


「ミリア、いつもありがとう。感謝してる」


「いえ、わたしは――」


「ミリアの言葉が無ければ、国を作ろうとは思わなかった。でも多分、それは言い訳だろうな」


「……」


「俺は、誰もが笑って暮らせるようにしたかったんだと思う。ミリアは、きっとわかっていたんだろう。だから、あの時、我が儘にして背中を押してくれたんだろう?」


「……見たかったのは、事実ですよ」


「だとしてもだ、俺が嫌がる事はしないだろう? ホント、俺にはもったいないと思うわ」


 見つめ合いながら、嘘偽りない言葉を投げかける。

 そして、少しだけ身体を引いて、胸元に引き寄せる。


「めっちゃドキドキしてる。緊張しまくってる」


「わかります。でも、私だって負けてませんよ」


「負けず嫌いだなぁ。じゃ、それを今から確かめるか」


「きゃっ」


 ベッドにミリアを押し倒す。

 やっぱり、月明かりに照らされた彼女ミリアは、女神だわ。

 片方の手は指を絡め合ったまま、もう片方の手で髪を分け、頬に当てる。

 ミリアも、同じ様にしてくれる。

 見つめ合っていた瞳が閉じられ、お互いを求めあう様に口づけをする。

 見つめ合っていた時間は分からない。

 長くもあり、短くもあった時間を慈しむように。


「ん、あむ、んんぅ」


「はぁ、んっ、んむぅ」


 ついばむように求めあい、どちらともなく一度離れる。

 理性なんてもうとっくに無い、吹っ飛んでいる。

 愛しい、抱きたい、でも、嫌われるのは避けたい。

 失望されたくない一心で、本能を押さえつけている。

 でも、そろそろ限界――。


「はぁ、んっ、良いですよ」


「ミリア」


「その、優しくはして下さい、ね」


 その言葉で、全部決壊した。

 今度はついばむようなキスではなく、本能のままに、貪り尽くす様に。

 舌を絡め、大人のキスをしながら、少しずつガウンを脱がしていく。

 月明かりが差し込む中で、ひたすらに求め合う。


「んっふぅ、はぁぁ、んちゅ」


「はぁはぁ、んんぅ、ふぅっん」


 お互いに唇を離し、ミリアのガウンを脱がせ、自分も脱ぐ。

 彼女ミリアの姿を改めて見る。

 普段なら着ないような色のランジェリー。

 赤のキャミソールと下着。


「その、はしたないですよね」


「いや、良く似合ってる。そして、自分がバカだって事にも気付いた」


 彼女ミリアの選んだ色は、心の内に秘めた想いと同義だと気付いた。

 嫉妬しないはずがない。

 正妻だと時々言っていたのは、自分に言い聞かせる為でもあった訳だ。

 そしてもう一つ、表に出せない感情。

 正妻として出してはならない感情。

 情熱の炎。

 冷静沈着に、取り乱すことなく、奥の序列を纏め、隙を見せてはならない。

 だからこそ、夫婦の時間の間だけは、その想いを表にという事だろう。


「あの、そんなに見られると、その、恥ずかしいので」


 あ、ダメ、もう限界超えた。

 何も言わず、その白い肌の首にキスをして応える。

 ミリアの声が漏れるのを聞きながら、少しずつ丹念にキスをしていきながら、纏っている布を脱がしていく。

 お互いに産まれたままの姿になった所で、再度、大人のキスをする。

 そしてそのまま、お互いの身体を重ねて、最後まで。

 その姿を見ていたのは、月だけだった……。










 ……

 …………

 ………………

 きちんと最後までした後、ミリアに腕枕をして、髪を触りながら息が整うのを待つ。


(俺、こっちもチートだったんだな)


 はっきり言おう、絶倫さんです。

 疲れなんて全く無い。

 今すぐにでも、二回戦目行けます。

 しっかし、ミリアの胸ってすごいな。

 横になっても形は崩れず、上を向いている。

 前世風に言うなら、まさしくロケットである。

 そんな事を考えていると、いつの間にかミリアが体の上に乗って来ていた。


「何を考えていたんですか?」


「ん? いや、ミリアの胸ってすごいなって」


 少し悪戯っぽく笑うミリア。

 とても可愛くて良いです!


「くすっ、これからいくらでも見れますよ」


「まぁ、そうなんだが……」


 なんて話していると、馬乗りになるミリア。

 もしかして、二回戦目ですかね?


「んっ……は、ぁあん」


 はい、二回目の決壊です。

 普段のミリアとは打って変わって、妖美な姿がそこにはあった。

 今まで見せていた清楚な姿は潜み、ただ本能のままに愛しき人を求める姿があった。

 お互いに求め合い、二回戦、三回戦と行い、少し休憩。

 身体を預けてくるミリアは、凄く可愛かった。


「私、凄く幸せです」


「俺もだよ。そして、息子さんが四回戦目を御所望しています」


「くすくす。正直で可愛いですよ、あなた」


「なんか、恥ずかしいんだが」


 しかし、少し我慢して、話をする。


「ずっと、こんな日が続くと良いですよね」


「そうだな。あーでも、周りからは世継ぎをって言われそう」


「頑張ります。きっと、あなたに似てカッコ良いんでしょうね」


「ミリア似なら、美人さん確定だな」


 お互いに、いずれ出来るであろう子供について語り合う。

 朝までは、まだたっぷりと時間がある。

 でも、朝までしたら寝不足確定なので、気を付けないと。


「私は良いですよ」


「俺もそうしたいんだけどな、次の仕事がなぁ」


「今だけは忘れましょう」


 そしてミリアからされる、大人のキス。

 そして始まる四回戦目なのだが、どういう訳か馬乗りされたままの俺。

 もしかして、気に入ったのか?


「んっ……この、方が、あなたを……深く感じ、あんっ! られる、ので」


「そう、か。少し、早く動くぞ」


 四回戦目は、少し荒々しくする。

 深く求め合い、想いを確かめ合う。

 しかし、ここで誤算が一つ。

 ミリアさんもまた絶倫だった。

 そして、回数を重ねるごとに積極的になっていき、結果、朝方近くまでお互いの身体を重ね合った。

 寝不足、確定です。

 何回戦しましたってか? もう覚えてねぇよ。

 後な、回数を重ねるごとに上手くなるんだよ。

 完璧超人の伝説は、夜にも適応されてたって話だ。

 そんなミリアだが、今は横で寝息を立てて寝ている。


「すぅー、すぅー」


「可愛いんだが、まさか肉食系だったとは」


 そんな事を思いつつ、どうせ起床までそんなに時間も無いだろうと考えて、風呂に入ってサッパリ……腕、がっつりホールドされてら。

 道理で、腕に当たる感触が良い筈だ。

 ……今日の仕事は半休か、全休だな。

 後でブラガスには怒られるだろうが、甘んじて受け入れよう。

 珍しく、ミリアが甘えてるしな。

 そして昼まで寝て、叩き起こされた。

 誰に? ナリアに。


「これ以上寝ますと、流石に夜、眠れなくなりますので」


「わかった。それは良い。だ・け・ど・な、起こし方っ! もっと優しく起こさんかいっ!」


「うぅっ、恥ずかしいです」


 上布団、引っぺがされて起こされたよ。

 どこのアニメだって話だ。

 後な、俺ら全裸なんだよ。

 露出趣味はねぇんだよっ!


「そうですか。ではガウンを着て、お風呂に行ってください」


「お前、ホントにブレねぇなぁ」


「それが仕事ですので」


「は、早く行きましょう、あなたっ」


 ミリアと二人で、後宮内の混浴場に向かいながらふと思ってしまった。


(あれ? これが後16日続くのか? 俺、寝不足の方で死ぬんじゃね?)


 どうにかして頑張ろうと、思案する俺であった。

 あ、まだシアに手は出さないからな。

 最低でも後二年は手を出さないって約束だから、ドバイクス卿お義父さんとの。

 イルリカについては……少し置いてからだな。

 流石に死が現実的に見えるから。

 それと心配事がもう一つ。


(全員、肉食系だったらしんどいなぁ)


 結果だけ先に言うと、全員肉食系で、ちょっと疲れました。

 精力剤の件、本気で考えよう。

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