第270話 どこにでもいる腹黒バカ貴族

 最低限のマナーとなる無礼講時間に突入。

 所謂、食事時間である。

 立食形式のバイキングにしたので、お好きな物をってやつだな。

 料理が置かれた各テーブルにはメイドが数人ついて、所望された料理を取り分けて渡す。

 その時間が解禁されたわけだ。

 自由な時間とも言うか。

 歓談して交流を深めるも良し、酒を嗜むのも良し、料理に舌鼓を打つのも良し、ダンスをするのも良しって事だが、披露宴なのでやらかす貴族が多分出ると予測している。

 そんな予測を立てる中、各国為政者とその国の貴族数名と談笑をしていた。


「しかし、グラフィエルも立派にやれているの」


「まだまだですよ、テオブラム王お義父さん。ところで、そちらはどうですか?」


「後始末が面倒だったな。皇帝の苦労が、身に染みて分かったわ」


 後始末――戦後処理の事だ。

 ランシェス内乱とダグレスト戦役の戦後処理を、ほぼ同時に行う。

 うん、死んでもごめんだわ。


「うちは片方だけで良かったな。なぁ、皇帝」


「皇王の言う通りではあるが、内乱の傷は癒とらんからの。一番マシなのはお主であろう? 皇王よ」


「不幸自慢はそのくらいにしましょう。そうでしょう? ゼルクト王」


「教皇殿の仰る通りだな。ところでジャバ王、リュンヌの方は?」


「少し小競り合いはあったみてぇだが、気にする程じゃねぇ。不気味だけどな」


「飲みましょう! 飲んで、誰か私をお持ち帰りして下さいっ」


 レラフォード代表、残念レベルが更に上昇。

 もうすぐ天元突破するんじゃね?


「だぁれが、残念代表ですかっ! ヒック」


「酔っぱらってるだけかよ。誰か、介抱宜しく」


 メイドが瞬時に現れ、レラフォード代表を椅子に座らせて介抱隔離する。

 酔っ払いは少しご退場して貰てから、各国の貴族家――外務と商務のお偉いさんだと紹介された。

 披露宴前に会談しているらしい。


「という事は、うちの大臣達と面識アリか」


「はい。良い話が出来ました」


 代表してかはわからんけど、傭兵国のお偉いさんが答えてくれた。

 その後、お偉いさんたちは交流を深める為に離れて行き、四大諸侯と歓談に入るのを見届け、代わりに四殿下がこちらへと加わる。


「やぁ、ラフィ義弟


「うわぁ、嫌な義兄だな」


「酷いなぁ。まぁ、これからもよろしくね」


「相変わらずの2人だな。まぁ、私も義兄あにになる訳だが」


「これからもよろしくお願いします、ディズ義兄さん」


「私もそうなるのか。何か不思議な感じだな」


「ガライ義兄さんも、お願いします。というかお二方、本当に色々とお願いします」


「「内政で苦労してるんだねぇ」」


「はっはー! 今日はおめでたい日だねぇっ!」


「あ、ヨルム義兄さんもいたんですか」


「扱い酷いっ! 義兄あに、ショック!」


 軽い挨拶の後は、色々と話をして、横からサラッと爆弾を落とされる。

 いや、爆弾落としって、心臓に悪いね。


「そう言えば、余は近々退位するぞ」


「……はい?」


「父上、私も初耳なんですが?」


 皇帝からの爆弾発言に、遂にボケたかって全員が思った事だろう。


「まだボケてはおらんからの。まぁ、ガライも結婚しておるし、子供もの。末娘と孫の婚姻も見れた事だし。良い機会ではあるからのぅ」


 先手を打って防衛行動をする皇帝。

 流石である。


「じゃあ俺も、皇王の座を譲るとするか。ディス、これから頑張れよ」


「ちょっと、父上!?」


 焦るディズ義兄さん。

 つうか、今は披露宴中! そういう重大発表は、国内でやれって話なんだが!?


「大々的な発表は国内でやるから安心せい。一線からは退くがの、上皇として相談くらいは乗ってやるつもりじゃ」


「まぁ俺も似た感じだな。いきなりはしんどいだろうし」


「「いきなり過ぎる!」」


 ディズ、ガライ、ハモって抗議するも一蹴される。

 それを羨ましい眼で見る、テオブラム王と教皇。

 ゼルクト王は羨ましくないのか?


「うん? 僕かい? まだ若いから」


「余とゼルクト王は年齢も近いしな。今はまだ無理なだけに、妬ましい」


「今は大事な時期だから、教皇を辞められない……。いえ、グラフィエル君の子供達の事を考えるならば、最低でも後20年近くは……」


 三者三様になんか言ってるが、ジャバはどうなんだろうか?


「俺か? 後10年は無理だから、諦めてるさ」


「そういや、傭兵国も改革中だったか。その後、どう?」


 ジャバに聞くと、上手く回り始めてるらしい。

 時間が解決する内容も多いから、悲観はしてないそう。

 その後も少し歓談して、為政者たちが他にも挨拶に行くと言って離れると、チャンスとばかりに他の貴族が動く――事は無かった。


「ラフィさん、結婚おめでとうっす」


「八木、ありがとな」


 英雄級冒険者で、つい先日、EXランカーに昇格した八木が挨拶に来たからだ。

 ついでに言うと、八木は新興貴族となる事が確定していて、爵位はいきなりの侯爵。

 簡易授与――仮の授与は済ませてあるので、一応は四大諸侯と同等である。

 故に、話に入られたら、新興であっても上級貴族なので、中級以下が割り込むのは厳しい。

 社交界での爵位の壁は絶対であり、最低限のマナーである。

 ただ、何処にでもアホはいるが……。


「よ、蒼、おめっと」


「おめっと。しっかし、すっげぇ豪華だよなぁ」


「輝明、潤、サンキュ」


 続いて、これまた仮爵位済みで、新興中級貴族になるのが確定している輝明と潤も挨拶に来た。

 二人の爵位は子爵だ。

 普通は、不敬だ! なんて騒ぐ貴族もいるのだが、冒険者仲間であり、友人である事も明かしてあるので、騒ぐ貴族はこの場にはいない……はず。

 いたら、ただのバカである。

 そんなわけで、友人三人との談笑に入る。


「次は俺らっすねぇ」


「だなぁ。八木は何時するんだ?」


「収穫祭間近っすね。その方が、休みも取りやすそうっすから」


 そう言って八木は、俺だけに聞こえる様に小声で話し始める。


「(やっぱり来たっすよ)」


 来た――つまり、そういう事だ。


「(数は? 対処は?)」


「(50以上。全て処理済みっす)」


「(リュンヌは馬鹿なのかね?)」


「(向こうさんからしたら、面白くは無いっすよ。ハブられてる訳っすしね)」


 実はこの披露宴に、リュンヌ関係者は一人もいない。

 ブラガス初め、家臣一同の総意で不必要と判断されているからだ。

 勿論だが、文官達にも何があったか話していて、満場一致で不必要の烙印を押されている。

 シンビオーシス国は、リュンヌを仮想敵国と断定しているのだ。

 だから、招待状なんかも送っていない。

 招かざれる客という訳だ。


「(尋問は?)」


「(既にやっているっす。ただ、序列八位の約束もあるっすから、面通しもやってるっす)」


「(どれくらい転びそうだ?)」


「(序列八位が言うには、半数はこちらに付きそうって話っす。数名は、殉教者って感じっすね)」


「(使い捨てか?)」


「(洗脳に近い崇拝って感じっすかね。まぁ、そう言ったやつらほど、序列八位は知らないって感じっすが)」


 八木とひそひそと密談していき、仕方ないかな――って、当初の案を通すことにした。


「(例の件、八木も同行だな)」


「(やっぱりっすか……。式の準備、どうするっすかねぇ)」


「(うちから人手を出す。代わりに頼むわ。あ、神喰は部下で付けるから)」


「(聞きたくなかったっす)」


 こうして八木とのひそひそ話は終了。

 輝明と潤は、見ざる、聞かざる、言わざるで、更にばれないように立ち回ってくれていた。

 感謝である。


「そういや、二人はどうすんだ?」


「天音とは、収穫祭前に、八木とは被らないようにする予定」


「マジで!? はぁ……。最近、美羽が冷たくてさ。俺、泣きそうなんだよね」


「そ、そうか。まぁ、輝明はおめでとうだな」


「おう」


「潤は……まぁ、がんばれ」


「なんかお前に取られそうで怖い」


「恐ろしいこと言うなよ、潤。俺を殺す気か」


 更に嫁増えるってか? 勘弁である。

 ましてや、腐れ縁の幼馴染の彼女を? 関係悪化、待った無し案件だろ。

 ……正妻様に頼もう。

 女性関連で困ったら、正妻様召喚が一番だと思います、うん。

 その後も、軽く歓談し、元の世界の話で盛り上がり、お金が必要って話になったので、いくつかアイデアを出して譲ったりを話して、顔見知りの王達に挨拶に行くと離れ、次は四大諸侯がサッと入って来た。

 これ、ブラガスの指示が入ってる?


「正解です、陛下」


「あ、やっぱり」


「下手な貴族家の相手は、今の陛下では荷が重いのではという配慮ですな」


「厄介なのがいるのか?」


「反乱とかという話では無いですが、狡猾な貴族家は幾つか」


「中級?」


「ほとんどが子爵ですな。ですが、そう言った者達だからこそ、慣習に五月蠅くもあります」


「ふーん……。五月蠅い代わりに自分も守るけど、抜け道は盛大に使うって感じか」


 頷く四大諸侯達。

 それならば、対処は出来なくもない。

 簡単に言えば化かし合いだからな。

 リエルの演算能力で、どうにでも切り抜けられそうではある。

 しかし、そういった人物は惜しいんだよなぁ。

 うーん……今後の課題にするか、披露宴中だし。


「ガードには感謝する……が、君らは良いのか?」


「あー……陛下の場合、怒らせるとヤバいので」


「切り札がありすぎて、口合戦にならないですからな」


「狡猾を、力業で粉砕されるので」


「しても意味が無いんですよな」


「人を脳筋呼ばわりとか、十分失礼だと思うんだが?」


「「「「事実なので」」」」


 四人揃って、ハモって返される。

 俺、完全敗北。

 あ、こういう事か。


「そういう事です。理解が早くて助かります」


「うーん、やれたりする?」


「全部は厳しいでしょうな。派閥内なら止められますが」


「外だと?」


「何名かは――と、言った感じでしょうか。ですので」


「気を付けよう。そして、感謝する」


「勿体無きお言葉。あ、それで、例の話ですが――」


 その後は、娯楽関連の話をしてから歓談して別れる。

 しかし、ミリア達の元に行けないのはキッツいなぁ。


(皆は……うん、向こうも大変そうだ)


 王妃、当主婦人、貴族令嬢達と、次から次へと談笑している。

 この場合って、行っても良いのだろうか? えーっと、誰かいないかな。


「陛下」


「ん?」


 記憶にない貴族が数名、話しかけて来た。

 どの国も貴族が多いので、全てを把握するのは難しいのだが、上級貴族家だけは頭に詰め込んである。

 正確には、ブラガスに詰め込まされたんだけどな。

 だから、俺が覚えてないって事は、中級でも覚える必要性の無い貴族か、下級貴族だとはわかる。

 さて、何の話だろうか。


「この度はご結婚、おめでとうございます」


「ああ、感謝する」


 挨拶だけでは無い筈だ。

 さっき、四大諸侯も言ってたからな。

 今は、千載一遇の機会だと。

 嘆願か? それとも――。


「陛下にお聞きしたい事があるのですが、宜しいでしょうか?」


「内容にもよるが」


 本当に要領を得ない。

 目的は何だ?


「陛下は斬新な事をされると聞いております。それで質問なのですが、なぜわざわざ、披露宴会場に調理場を設置したのでしょうか?」


「調理場……あー、あれのことか。あれはな、ライブキッチンって言うんだ」


「ライブキッチン、ですか?」


 この世界だと、まだ早かったか? とりあえず、簡潔に説明するか。


「披露宴もそうだが、パーティーでも、料理とは冷めるだろう?」


「そうですな。食事に移れるのは、色々と終わってからになりますし」


「そこまでわかっているなら、答えは出ていなくないか?」


「いえ、匂いが立ち込めるのはどうかと」


 あ、そっちか。

 魔法での洗濯が可能ではあるが、それはほんの一握りの貴族家だけ。

 普通は、洗濯桶で洗うしかない……あれ? 金の匂いがする。

 ……人材確保できれば、チェーン展開も出来なくはないな。


「貴殿の名は?」


「これは申し訳ありませんでした。南方領域にある騎士爵家、ランドーリ騎士爵家の当主でございます」


 ランドーリ……コインランドリーか! ってツッコミたいが、我慢。


「ランドーリ卿か。覚えておこう。それで先程の話に戻るが、匂いに関してはわざとだ」


「わざと、でございますか?」


「ああ。料理というのはな、何も味だけではない。音を聞き、何が出来るのかを想像して、匂いで刺激され、目で出来を楽しみ、口に含んで舌鼓を打つ。そのために、わざと調理工程を見せるのだ」


「ふむ、理解は出来ますが、それほど必要とは――」


「毒対策も出来るぞ」


 最後の言葉に、少し興味が湧いたらしいランドーリ卿。

 なので、もう少しだけ説明する。


「料理人が間者の場合を除けば、出来上がって直ぐに、その場で渡せる。そうなれば、調理した者か、手渡した者しか、間者にはなりえない」


「食材に混入できるのでは?」


「チェックするだろうに。それとも、納入した食材は、素通りされるのか?」


「いえ、毒物検査の魔法は、料理人にとっては必須魔法です。それはありえません」


「しかも、料理長がだろう?」


「はい。……なるほど、確かに確信的ですな。ただ、費用も掛かりそうですが」


「一度設置してしまえば、維持費にそこまでかからないだろう。初期投資できるかが鍵だな。防火対策も必要だし」


 そこまで言うと、感謝の意を伝えてきて、軽く歓談へと入る。

 後、ちょっとだけ相談もされたな。

 というのも、今話しかけてきた貴族の一団は、全員が下級貴族なわけだが、年頃の子供達の親でもあり、婚姻に関して悩んでいたらしい。

 王族ほどの豪華さは不可能だが、何か目新しいものを取り入れて、少しだけでも華々しくしてやりたかったそうだ。

 金の無心されてるって勘ぐったが、それも杞憂だった。

 聞けば、財政状況は悪くないから。

 戦争のせいで、多少目減りはしているが、致命的損失でもなかった。

 本当に、親として、華々しく送ってやりたいらしい。


「防火対策だけは、腕の良い職人に頼まないといけないが」


「問題は、やはりそこですか」


「金の心配がないなら、紹介状くらいは書くが?」


「ご恩情、大変に有難く。是非ともお願いしたくございます」


「わかった。いつまでに必要か、後でブラガスに話しておいてくれ。――誰かっ!」


 メイドを呼ぶ。

 ナリアが来る。

 ちょっと睨まれた。

 俺、何もしてないよね?


「陛下、軽々しく約束するなど」


「親としての矜持は、父上が散々見せてくれたからな。流石に、無下には出来ない」


「ブラガス様には、上手く言っておきますが、お説教はお覚悟ください」


「へーい。……後は任せる」


「御意」


 一国の王に対して、物申せるメイドなど、一握りであろう。

 故に、ランドーリ卿一団は驚いていた。

 そこまで信の厚い侍女なのかと。

 知ってる者から見れば当たり前でも、又聞きでは驚いてしまうのだろうな。

 そして、話も終わり、ミリア達の元へ歩こうとして、又も挨拶され……なんだ、このオーク。


「ぶひひ、この度は大変におめでたく」


「ああ。それで?」


「ぶひ、失礼いたしました。私めは北部領域の貴族で、男爵を拝命させて頂いております、ピビッグと申します」


「ピビック卿ですか。祝辞は感謝する」


 警戒度、最大である。

 貴族を中々覚えられないと言っていたが、実は覚えている貴族家もある。

 要注意の悪政貴族家だ。

 このピビッグは、その中でも上位要注意貴族家である。

 上から数えて、5本の指に入る要注意貴族家の一つ。

 汚職疑惑のある、腹黒な貴族家である。

 さて、何を言うのだろうな、この披露宴の中で。


「陛下は、妾にもお優しいのですな」


「……当たり前だと思うが?」


 ほとんどの貴族家は、妾に優しくはない。

 王族であっても、子を成すための道具にしている者も多い。

 気に入ったから、妾に。

 政略で妾に。

 筆頭商人――政商になりたいから、妾として差し出す。

 様々な理由があるが、一貫して、妾には冷たいのが実情。

 そんなのは嫌いなので、多少の慣習はあるにしても、分け隔てなく接するのが、我が王族である。

 それをこいつは分かってないのかね? 今の言葉は悪手だという事に。


「ところで陛下は、奴隷などはいないのですかな?」


 ピクっと、僅かだが、眉が上がってしまったのが、自分でもわかってしまった。

 奴隷所持は違法ではない。

 借金奴隷の中には、そういった事をするのを良しとする者もいる。

 目標金額に行けば解放されるので、早く解放されたい奴隷たちが良く使う手だ。

 まぁ、そんな事をすれば、ミリア達からのお仕置き待った無しなので、絶対にしないが。

 ワンチャンあるとすれば、ミリア達が同情して、奴隷解放からの妾コースくらいか?

 しっかし、まさか、披露宴中に奴隷斡旋とは。

 すこぶる気分が悪い。


「斡旋か? 精が出るな」


「いえいえ。人手が足りないとお聞きしましたので、まぁ……ぶひっ」


 イラつくなぁ……潰すか。

 無礼講とは言ったが、最低限のマナーと暗黙のルール、そして慣習はある。

 こいつは、全部破った。

 慈悲をくれてやる必要性は無いだろう。

 とはいえ、披露宴中である。

 事を荒立てるのも――。


「面白いお話をされていますね」


「ぶひつ、これはこれは、王妃殿下にお声掛けして頂けるとは」


 あーだめ、こいつとミリアが話すのはムカつく。


「(やって良いですよ)」


「(ミリア?)」


 小声で、まさかの潰し容認である。

 やれば披露宴が滅茶苦茶になると思うから耐えていたのに、まさかの正妻が容認。


「(この方、色々としていますから。それとですね――)」


 ミリアからもたらされたいくつかの情報と、全妻からの容認。

 ヴェルグとイーファが聞き耳を立て、全員に教えたそう。

 で、妻全員から有罪判決ギルティ―が出たと。

 でも、証拠ないよね?


「(披露宴中に、奴隷斡旋ですよ? まだ、ご令嬢関連の方がマシです。慣習的に仕方ない部分もありますから)」


「(罪状は?)」


「(王家への不敬罪と、あなたへの侮辱罪で充分です。今は披露宴中ですから、侮辱罪は成立します)」


「(さっきの言葉か)」


「(有名税として言われるのは仕方ありませんが、その噂を確かめようとしたのは侮辱だと、押し通せます。披露宴中ですから、尚の事、通しやすいです)」


「(不敬は……俺の気持ちもあるってか?)」


「(周りの目もあります。不快に思ってらっしゃる方が多い事。誰も止めはしないでしょう。あちら、見て下さい)」


 ミリアに言われ、相手にわからないようにチラリと見る。

 あー、うん、これはダメだわ。


「(そうです。やらないとダメです。示しがつきません)」


「(どこまで?)」


「(身柄の拘束、爵位剥奪、資産没収、ご家族は……話を聞いてからでしょうか)」


「(了解だ。……本当に良いんだな?)」


「(構いません。いえ、寧ろやって貰わないと……)」


「(貰わないと?)」


「(あの場から逃げれないです……)」


 ミリアの視線を追う。

 女性がわんさかいる。

 ミリア達が話していた女性たちが。

 あー、うん、逃げたいのね。

 もしくは、一息入れたいんだね。

 OK、泥は被るよ。


「(最悪の場合、イーファとリーゼを早目に戻してくれるなら、暫くは引き受けるから)」


「(すみません)」


 ミリアが、妻達が泣き言を言うのは珍しい。

 ましてや、公の場では初ではないだろうか?

 いつも助けて貰ってるし、偶には返そう。

 だからさ、そこのオーク貴族には生贄になって貰う。

 まぁ、他の上位要注意貴族達も見放した様だし。

 ただ、一点だけ腑に落ち無い点もある。

 上位要注意貴族は、狡猾さが売りだ。

 こんな失態、犯すだろうか?


「(売られたんですよ)」


「(……何が目的で?)」


「(そこまでは。ただ、どの貴族家も最近は煙たがっていたと)」


 チラリと、四大諸侯達を見る。

 サッと目を逸らした。

 あ、こいつら、やりやがったな。

 ブラガスを見る、目を逸らされる。

 お前もかよ!

 ナリアを見る、笑顔で返される。

 うん、噂を誇張して流したんだね? やりすぎ。

 テオブラム王と引退予定者二名を見る、サッと目を逸らす。

 君ら、娘の披露宴を台無しにするつもりだったんだね? 後でご家族説教コース確定。


「(あなた?)」


「(他国でも煙たがれてたみたいだな)」


「(そうなのですか?)」


「(どこぞのバカ王三名、眼を逸らしやがった)」


「(そうですか……うふふ、これはお説教コースでしょうか?)」


「(好きなようにやって良いよ。煮ても、焼いても、揚げてもな)」


 裏有罪ギルティ―を確定させて、潰しに移る。


「すこぶる気分が悪いな。貴殿は、私が好色王だという噂を鵜呑みにしたわけだ。それも、奴隷を好きにするという噂を」


「ぶ、ぶひっ!?」


 怒気を孕んだ声に、脂汗で応えるオーク貴族。

 もう、この時点で詰みである。

 毎年のパーティーなどならば、軽い冗談で済まさせられただろうが、何度も言うが、今は披露宴中である。

 前提条件が違い過ぎるのだ。


「私も少し聞こえましてね。あなたは、陛下を侮辱されていますね」


「ぶひっ!? ち、ちがっ――」


「弁明は結構ですよ。今、この場にいる者達の誰もが証人です。言い逃れは出来ませんよ」


「まぁ、不敬罪を適用すれば、どっちにしても詰みだがな」


「ぶひひっ!? そ、そんな、私は何も――」


「披露宴の最中に奴隷斡旋だと? 貴殿は王族を馬鹿にしているのか? これが不敬で無くて、なんというのか」


「あなた、問答は不要でしょう。慣習で行き過ぎたくらいならば、王家の心象が悪くなるくらいで済んだでしょうが、流石にやり過ぎました。そもそもですが、我が国では斡旋は犯罪です。借金奴隷は、謂わば最後の救済処置として機能している面もあります。我が国での借金奴隷とは、そういうことです。犯罪奴隷に関しては、元から労働力としての罰となります。故に、あなたの行為は違法です」


「そ、そんなぁ……」


「衛兵、この者を捕らえよ。竜族に協力を仰ぎ、捜索部隊を編成して屋敷の捜索を開始せよ。王命である」


『はっ!』


「それと、披露宴を台無しにした罪も、しっかりと償って貰おう。まぁ、犯罪行為では無い故、掛かった費用の全額負担だな」


「ひ、ひぃ……」


「不敬罪により、この者の爵位を剥奪。この場にいる家族には、事情聴取の為、同行して頂こう」


「ぅ、あ……」


「そ、そんな」


「連れて行け!」


 こうして、公開処罰を行い、場の空気が悪くなったので、色々と挨拶に回って、小1時間ほどかかったが元に戻す。

 ただ一点、想定外の事も起こったが。


「陛下、とても凛凛しゅうございました。夫も、もう少し陛下みたいであれば」


「あはは……ですが、貴殿の夫殿は善政者であると聞いております。領民からの信も厚いのですから、適材適所でしょう」


「陛下、わたくし、その……奉公でも良いので、お傍に」


「嬉しい申し出ではあるが、お父上を困らせてはいけないよ。婚約者もいるのだし」


「政略結婚なので、問題ありませんわ。それに、その……陛下なら、わたくし……」


「あ、あははは……」


 どういう訳か、女性陣からの評価がうなぎ上りである。

 ついでに付け加えると、リアフェル王妃以下、各国の王妃様からの評価も右肩上がり中だ。


「シンビオーシス王の手腕、見事でした。奥方も素晴らしい。民は安心でしょう」


「リアフェル王妃、流石に褒め過ぎでは無いですか?」


「断罪は難しいのですよ。それにですね、わざと不敬罪を使ったのでしょう? 証拠があるとは思えないので、先に拘束案件を作る。これを見事と言わず、どう言えば良いと?」


「リアフェル王妃様、そのお話を詳しくお聞かせください!」


「わたくしも聞きたいです!」


 そして始まる、リアフェル王妃による講演会。

 題材、俺。

 恥ずかしいから止めて欲しい。

 チラッと、テオブラム王へSOSを送ってみる。

 顔を背けられた。

 不可能らしい。

 そうこうしてる間も、話は進んで行き、全て聞き終えた令嬢達から、聞きたくない言葉が出てくる。


「ご自分の名誉よりも、悪を断罪する。素晴らしすぎます!」


「正妃、側妃、妾、贔屓でも平等でもなく、ただ愛する事の、なんて甘い響きでしょう」


「くっ! 私が後25年若ければっ」


「お母様、わたくし……」


「好きになったのでしょう? 婚約はまだお話の段階ですから、射止めに行きなさい。夫には、私が暫く止める様に打診します」


「これが我らが王。くっ、男として敵わないっ!」


「どうすれば、婚約者の心をこちらに……。はっ! それこそ王へとご教授頂ければ!」


「なんか妻の頬が紅潮している気が……。いかんっ! 王へと恋慕しているっ。ピュリメーーーっ、儂を捨てないでくれぇぇぇぇっ!」


「はぁ、どうしてこうなる……。まぁ、楽しげな声で溢れているのは良い事だけど」


 こうして、ちょぉっと普通とは違った披露宴が続き、時間が来てお開きとなった。

 ん? そういや、途中から八木の姿が見えなかった気が……気のせいかな?



















「披露宴の途中でお仕事。いや、それは仕方ないとして……なんで俺が居なくなったことに、誰も気付いてくれないんだよぉぉぉぉぉぉっっ!!」


 帰ってきた八木は、披露宴が終わった会場で誰も待っておらず、居なくなったことにすら気付かれず、一人泣いた。

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