第269話 パレードと披露宴

 式も無事に終わり、参列者が退室して行くのを見届ける。

 さて、ここでおかしくね? って感じただろう。

 俺もそう思うが、色々と事情があって、本来とは少し違ったやり方をしている。

 前世でもそうだが、普通は参列者に見送られて新郎新婦が先に退室するのだが、この後に一大行事が待っている為、参列者が先に退室しないといけなくなってしまった。

 その一大行事の名は、王家成婚パレード。

 何度も打ち合わせをして、時には揉めて、急遽変更になったりしてと、クッソ忙しくなった要因の一つである。

 ただまぁ、嫁達は楽しそうなので頑張ったかいはあったと思う。

 そんな俺達も礼拝堂から退室するわけだが、左腕にはミリアが腕を絡ませている。

 右腕の方は、側妃様なので、順次交代で。

 そして、正妻が左側に立つ理由として、心臓に近いというのがある。

 心も一緒にという意味が込められているそうだ。


「行きましょう、あなた」


「そうだな、行こうか」


 ミリアの腕のぬくもりを感じながら――いや、腕もそうだけど、腕に当たる胸の感触がね。

 理性総動員してますとも。

 推定Gカップの胸を腕に感じながら、王城の廊下を歩く。

 廊下の端に臣下達が並び、一礼して見送っている。

 外に向かうにつれ、臣下から家臣へと変わっていく。

 さてここで、臣下と家臣の違いについて、少しだけ話しておこう。

 臣下とは王に仕える者であり、国に仕える臣民である。

 対して家臣は家の主に仕え、家に仕える者である。

 今回の場合だと、臣下はシンビオーシス王とシンビオーシス国に仕える者で、家臣は一家の主である俺に仕えているって感じだ。

 拡大解釈した例えなら、臣下は軍で家臣が近衛かな。

 もう一つ違いがあるとすれば、臣下のお給金は国からで、家臣のお給金は俺の個人資産からってのがあるな。

 後は信頼度的なのもあるか。

 だからこそ、万が一に備えて、外に近い場所で一礼して並んでいるわけだ。

 そんな廊下を抜け、外へと続く入り口前には、一礼して出迎える者が数名。

 宰相ブラガス、統括侍女長ナリア、統括執事長ノーバス、近衛筆頭ウォルド、そして、軍務卿ロギウス。

 今最も信に厚い者達である。


「陛下、ご結婚、おめでとうございます」


「ああ、ようやくだよ、ブラガス」


 代表して祝辞を述べたブラガスに、本当に長かったと答える。

 その返しは流石に――と言いたげなブラガスだったが、ナリアに横から肘で小突かれている。

 お小言は無しらしい。


「おめでとうございます、陛下。夜は大変でしょうが、頑張ってください」


「ウォルド、お前も大変にしてやろうか?」


 一言余計だと、冗談っぽく告げる。

 告げたのだが、ナリアが睨んでるよ。


「次はお世継ぎですな。楽しみでございます」


「ノーバスは気が早いなぁ。まぁ、頑張るけど」


 ランシェス王家に仕え、その後は俺に仕え、リリィの成長を見守ってきたノーバス。

 感極まっているらしく、ちょっと泣いてる。

 子供出来たら、大はしゃぎしそうだな。


「陛下、この日を迎えられ、そのご雄姿を目に焼き付けられた事、大変に嬉しく」


「ナリアさんや、相変わらず堅っ苦しいよ」


 ブレないナリア。

 しかし、どこか嬉しそうではある。

 気持ち的には、ノーバスに近いものがあるのだろう。


「陛下! 新参の身でありながら、最前列での出迎えに加えられた事、誠に有り難く!」


「ロギウスは、ミナの兄だからね。信に足る人物だよ」


 僅か数か月で、軍心掌握したロギウス。

 これには脱帽しかない。

 慕っている者も多いようだ。

 そんな中で、ロギウスとウォルドの後ろに数名の騎士が一礼しながら控えている。


「楽にしてくれ。あまり堅苦しいのもな」


 少し楽にしてくれという言葉に、何故か直立不動で応える騎士達。

 楽にするって、そういう事だっけ?


「この者達は、この後のパレードで先導と護衛をする騎士達です。栄誉ある職務故、緊張しているのです」


「ロギウス軍務卿が先頭に立って先導して、軍部の騎士達がそれに続く。近衛の俺達は、馬車を囲むような感じだな」


 ロギウスとウォルドの説明に頷き、時間だとブラガスが告げ、いざ馬車へ……なんじゃ、こりゃぁぁぁぁああああ!!


「おい、ブラガス!」


「何でしょうか?」


「何、あの豪勢な馬車! 間違いなく特注品だよね!?」


「陛下のご結婚は、国家の一大プロジェクトですよ。奥方全員が乗れ、民達の声に応え、安全もとなりますと、ねぇ――」


「……ちなみにいくらかかった?」


 費用を聞くと、サッと目を逸らすブラガス。

 つまりだ、それだけの金が掛かったという事。

 この一回のパレードの為だけにだ。


「ブラガス、全部終わったら、呼び出しな」


「嫌です。休みます。そろそろ寝かせてください。流石に死にます」


「死んだら黄泉から引き揚げて仕事させてやるから、安心して呼び出しに応える様に。勅命ね」


「嫌な勅命ですね。でも、休みは下さい。休んでからなら、呼び出しに応えます」


 とりあえず、馬車代に関しては、後で詰問する事を確定させてから、馬車に乗り込む。

 流石に新婦の補助に男性が付くわけにもいかないので、ナリアが付くことになった。

 イルリカは妾であるから、補助として乗り込むことはできない故の処置だ。

 そんなこんなで、ロギウスがまたがる馬に先導されて、城を出発すると、貴族からの歓声が。

 つうか四大諸侯の子貴族、全力で歓声を上げてるな。

 とりあえず、手を振って応えながら、学区を通り、商店や宿が立ち並ぶ商業エリアに入ると、先程の貴族たちとは比べ物にならない程の歓声に包まれた。


「うぉっ! これはすげぇ」


「民からの歓声が凄いのは、全てあなたに感謝してるからですよ」


「感謝、ねぇ。特別何かやってるわけでは無いんだけどな」


 ミリアに言われても、思い当たる事は無い。

 普通にした事だからな。

 西側獣人と亜人を受け入れ、各国のスラムから犯罪者以外を集めて仕事を与え、衣食住を満たしただけなんだが。

 難民も似たような感じだし、本当に特別な事はしてない。


「ふふっ、そういう事にしておきましょう」


 ミリアと話しながら、手を振って民に応えるのは忘れずに行う。

 途中、右側の席は代わるがわる妻たちが入れ替わり、手を振って応えて行く。

 うん、慣れない! 後、これなんて見世物ですか?


「蒼、考えたら駄目よ。無心になるのよ」


「蛍、お前、つえぇな」


 時折、短いやり取りを妻達と挟みながら手を振って応え、ロギウスが先導する馬車は第一防壁内の城下街をゆっくりと進んで行き、第一防壁門へと着く。

 少し止まって、手を振りながら待ち、第二防壁内へ入り――更なる大歓声が。

 第一防壁内に入れなかった民達に加え、竜化状態の七天竜と銀竜に加え、各属性竜の現長達が威風堂々と並び咆哮する。

 空には、各属性竜達が飛行しながら祝咆を上げ、その周りで小精霊達が踊り光る。

 異世界に転生して、初めて幻想的だと思った。

 そんな人の列を進んで行くと、次は冒険者達が口の悪い祝辞を投げかけてきて、手を振って応える。

 まぁ中には、嫉妬の炎をメラメラと燃やしてそうな奴や、ダグレスト戦役で捕虜になった冒険者達が、バツが悪そうにして並んでいる。

 一応は祝辞を投げて来てるので、手を振って応えてはいるがな。


「バツが悪そうな冒険者達は、クッキーさんが裏で監視しているらしいですわよ」


「どこ情報なんだ、ヴィオレ」


 聞くと、軍情報だそう。

 騎士を目指していたヴィオレは、俺の妻兼シンビオーシス騎士になって、夢を叶えていた。

 それを知ったのは、挙式一週間前だったのだが、妻達はもっと前から知っているという。

 ハブられた? とか思っていたのは仕方ないと思う。

 実際は、忙しすぎて時間が取れなかってオチだけどな。

 そんな人の列を進み、最後尾に到達すると。まさかの大精霊勢ぞろい。

 君ら、何してんの? 暇なの?


「精霊王と女王がつがいになられたのですから、祝辞に来るのは当たり前です」


時の大精霊精霊達のお母さん自らとか、七大精霊勢ぞろいは、ある意味壮観だけど、小精霊達も来てるのに、精霊界や世界は大丈夫なのか? いや、普通に嬉しいけどさ」


 ちょっと不安になったが、何も問題無いらしい。

 そもそも、小精霊を人間に例えるなら、赤ん坊や子供の立ち位置で、寧ろ今回みたいに姿を現してる方が良いらしい。

 その上に眷属精霊たちがいて、今日だけは一生懸命働いているそう。

 但し、時の精霊の眷属だけは、やはりニート中らしいが。

 そんな話をしていると、ゲートが開かれた。

 全員が俺を見るけど、何もしてないよ。


「私からの祝儀です。私自ら開くなど、過去を辿っても無いのですよ」


 時の大精霊精霊たちのお母さんからの、最大級の祝儀らしい。

 ゲートの先は王城で、次の披露宴会場でもある。

 有難く使わせてもらうとして、ちょっと気になる――いや、精霊達も居心地悪そうだな。

 だってさっきから、亜人、獣人、妖精族が平伏してるんだもん。

 しかもそこに、序列メイド一位が加わるというね。

 あ、ナリアから殺気が飛んだ。

 シャスト、慌ててその場から消え去る。

 ありゃ後で、ナリアからのお説教コースだな。

 ちょっとカオスってる感じではあるが、礼を述べてゲートを潜り王城へと帰還。

 妻達をエスコートして馬車から降ろすと、メイド集団が手ぐすね引いて待ち構えていた。

 そして、ドナドナされていく妻達。

 披露宴用にお色直しする為だが、なんで俺もドナドナされなきゃいかんのかな?


「ナリアさんや」


「陛下もお着替えは必要ですから。不肖この私めが、陣頭指揮を取らせて頂きます」


「あ、そこはノーバスじゃないんだ」


「執事長は宰相閣下と会場の方です。不備があってはいけませんので」


 淡々と答えるナリアだが、俺は分かってるぞ。

 今、すっごく楽しんでるよね? ついでに、嬉しいんだよね? 口元が僅かに嬉しそうになってるの、見逃してないからな。


「では皆さん、ドレスアップの時間です」


「いや、男にドレスアップは変じゃね?」


 最後に疑問をぶっこむが、軽くスルーされて、久しぶりの着せ替え人形化したよ。

 いや、ある程度は見繕い終わってるし、男だからそこまでってのもあるが、装飾関係で色々とな。

 たっぷりと時間をかけ、着替えも完了して、少し休憩中。

 妻達はもう少し掛かるらしい。


「会場の方は、交流が進んでいるそうです。ただ……」


「ただ、なんだ?」


「レラフォード代表様の目が、時折、肉食獣みたいな目つきになっているとの報告が……」


「あの人、過去一で残念臭が増加してんなぁ。ジャバよりも残念臭が上がったんじゃね?」


 ナリアと二人、溜息を吐く。

 今回、挙式に参列できなかった国の代表は二名いて、内一人が件の代表なわけだ。

 もう一人は誰って? ジャバです。

 挙式の参列は、あくまでも肉親のみだからな。

 だから、エルーナ姉の旦那は伴侶として家族扱いで参加できたが、その旦那の両親や家族は不参加だったりする。

 ルナエラ姉の旦那側も同様だ。

 だから決して、仲間外れじゃないとだけ言っとく。

 もう一度言うぞ? これは仲間外れじゃなく、挙式用の新しい慣習。

 OK?


「陛下、そろそろ」


「わかった。ところで、ジャバは荒れてたりしないか?」


「皇帝に愚痴ってるみたいです。それをゼルクト王が楽しんでいる感じでしょうか」


「あの三人、地味に相性良いよな」


 なんて話している内に、正妻であるミリアを筆頭に、妻達が勢ぞろい……あれ? イルリカがドレス?


「イルリカ、参加できるんだな」


「あぅ、だ、ダメでしょうか?」


「いや、俺は大歓迎だ。ドレスの色は、ミナとお揃いだから姉妹に見えるな」


 因みに、イルリカ参加の背景は、俺とイルリカへのサプライズらしい。

 俺は妻達から、イルリカにはナリアから。

 そして、この流れから、イルリカの妾は確定っと。

 更に夜が心配になって来たよ。


「でも、内心は安堵してますよね?」


「ミリアには敵わんなぁ。まぁ、まだ候補だったけど、腹を括るには良いのかもな。後、ありがとうな、皆」


「あ、ありがとうございまひゅ――」


「噛んだ」


「噛みましたねぇ。可愛いですよねぇ、イルリカ」


 ミナと二人、かわゆすと褒めると、赤くなって反応するイルリカ。

 年相応で、大変カワイイ。

 そしてもう一つ、妻達からイルリカへのサプライズ。

 尚、他国じゃ絶対にあり得ないとだけ、先に言っておく。

 それはだな――。


「大変お待たせいたしました。シンビオーシス公王陛下、並びに、奥方様のご降臨でございます!」


 ブラガスの声が会場内に響き渡るのを扉の外で聞き、ウォルドとナリアが同時に扉を開いて、入場する。

 拍手が起ころうとして、ピタっと止まる。

 何故か? 左腕にいるのが、ドレスに身を包んだイルリカだったから。

 右腕には正妻のミリアなのに、左腕は挙式に居なかった者。

 静まり返るのは当然と言えるだろう。

 ブラガスも、これは何だって顔している。

 そんな中で一早く、拍手をする人物。

 ミナの父であり、イルリの祖父である皇帝だ。

 その音を聞いて、周りも拍手を始める――のだが、ブラガスだけは予定と違う! って視線で訴えて来てた。

 但し、聞いて無いのはサプライズを受けた俺とイルリ、そしてブラガスだけだったようで、他の家臣たちは動じていなかった。

 ナリアの手腕、マジで素晴らしいけど、怖くもあるな。

 そんな披露宴の開始であったが、用意されている席の前に着き、序列が下の者から、イルリから順に俺へとカーテシーを決め、それに応える様に頬へとキス。

 それを繰り返していき、最後にミリアへと行ってから、着席する。

 飲み物が配られるのを確認して、全員で席から立ち、代表挨拶。


「この度は、遠路はるばる来られた他国の為政者殿、並びにご当主殿、そして、我が国の貴族達、まずは感謝を。皆も長い挨拶は嫌だろうから、簡潔に一言だけ。新たな門出に祝杯を!」


 挨拶を終え、この場にいる者達が配られたグラスに注がれた酒を一気に煽る。

 そして、ワッと歓声が上がる。

 それもそのはずで、渡された飲み物は、進化したドリンクスライムの中でも、一日の成酒量に限度がある希少酒だからな。

 制限は、1人二杯迄。

 それ以上は、ドリンクスライムへの負担が非常に高いので、お断りさせてもらう旨をブラガスが代わりに伝える。

 テオブラム王、苦虫を嚙み潰したような顔をしているが、仕方ないだろうに。

 フェルの時と今じゃ、状況が違うんだから。

 一応、後で説明には行くけど。

 そんな披露宴の開始だったが、一番手の挨拶はジャバ。

 参列した各国王達は肉親扱いになるので、慣習通り、後でになっているからだ。


「結婚、おめっとさん」


「サンキュ、シャバ王」


 最低限のマナーは守りながら、軽口で幕を開ける。

 そこそこの付き合いがあり、お互いに無茶振りし合ってるからってのもあるし、お互いに堅苦しいのが苦手だからな。

 いやぁ、気楽で良いわぁ。

 まぁ、その次から大変なんだけど。

 そして軽く話し、次は……。


「シンビオーシス王、ご結婚おめでとうございます。誰か良い人紹介して下さい。家臣でも何でもなります」


「色々台無しだよ、この残念妖精族!」


 二人目の為政者挨拶になる、レラフォード代表。

 本当に、色々と残念臭が増している。

 後ね、なんで残念言われて、ちょっと恍惚なわけ? もしかして、そっちも残念側になってんの?


「ンンッ、失礼しました。あ、お祝いの品ですが、公王にはあれをお持ちしております」


「あれ? ……あ、神実か!」


「美味しそうに食されていたのを、今でも思い出せますからね。当時は驚愕でしたけど」


「有難いけど、注意事項は?」


「申し送りはしました。破った場合は関知致しかねます」


 後で食べようと思うが、俺だけってのがな。

 ミリア達もどうにか食せないか、後でリエルに聞いてみよう。

 その後は他愛ない話を少しだけして、四大諸侯の……え、同時?


「この度はご結婚「おめで」「とう」「ござい」ます」


「なんか練習してきたんかって位、めっちゃ上手いんだが」


 別に練習はしてないらしい。

 後、やっぱり揉めたらしい。

 結果、今のやり方にしたそう。

 これ、他国で流行りそうな気がしなくもない。

 シンビオーシス風に、彼らも染まり始めたって事だろうか? なんて考えながら、少しだけ話をして、次は他国の貴族当主。

 わざわざ足を運んでくれて感謝するって意味も含んだ順番らしく、ブラガスが取り仕切っていた。

 一部、ブラガスを睨みつけるような貴族がいたが、まぁやっぱりというか、下級貴族達だったな。

 俺への印象はすこぶる悪くなったとだけ言っておく。

 そして、慣習通りの順番に終わり、最後は参列者。

 これにも順番があって、序列下位から順番にだ。

 蛍達、元世界組の親は形だけなので、亜人組から順番に挨拶して行くのだが、イルリカには無い。

 本来は参加すらできない妾の立場が邪魔をしていたのだが、サプライズ返しされたよ、皇帝に。


「ミナ、幸せにな」


「はい、お父様」


「イルリカ、お前には苦労だけしかやれんかった。だからせめて、この場だけは祖父として祝らせてくれ」


「お爺様、あ、ありがどう、ごじゃいましゅうぅぅ」


 本来は無い、妾への祝辞に、事情を知っている貴族達はちょっと貰い泣き。

 他国の貴族は、この場に呼ばれるだけあって、やっぱりかって顔をしてたのが印象的だった。

 つまり、噂程度は把握していたって事だ。

 どっから漏れたかは知らんが。

 そこでナリアを見る――一礼で返される。

 つまりはそういう事なのだろう。

 そして、ギラついた眼を見せる自国の旧ダグレスト下級貴族家。

 当然、今、この場で知った訳だから、チャンスはあるって思ったんだろうな。

 一部じゃ俺、好色王とか呼ばれてるらしいし。

 まぁ、君達にはノーチャンスしか無いよ。

 ハイリスクノーリターンしか無いよって思いながら、皇帝とイルリ、ミナの会話を温かく見守る。

 その後も順当に進んで、妻達の最後はミリアなわけだが、なんでヴァルケノズさんが肉親側に?


「良いのか、ミリア」


「教皇様の場合、特殊事例になるので。どちらでも良いので、肉親側にしたのではないでしょうか。それと、幼少期は可愛がっていただきましたので」


「まぁ、ミリアが良いなら。そういや俺も、家庭教師繋がりがあるし、そう間違ってもいないのか」


「夫婦で幼少期に繋がりがあるなら、間違ってはいないですね」


 そんな話をミリアとしてから直ぐに、挨拶が始まって家族間の会話になる。

 ヴァルケノズさんは軽く話をしてから、俺の方に挨拶へと来た。


「グラフィエル君、結婚おめでとう」


「ヴァルケノズさん、ありがとう」


 お互い為政者としてではなく、友人の様に挨拶する。


「あのハチャメチャなグラフィエル君も、結婚ですか。月日が流れるのは早いですね」


「年寄りみたいなことを。ヴァルケノズさんはまだこれからでしょうに」


「寄る年波には勝てないですよ。出来れば、グラフィエル君の子供達が結婚する時も、祭事役をしたいですけどね」


「あはは、そこは神のみぞってね。まぁ、頑張りますよ」


 そして最後に、俺の家族との挨拶。


「グラフィエル、結婚おめでとう」


「ありがとうございます、父上」


「色々とあったが、ようやく肩の荷が下りた気分だ」


「あなた、ラフィに失礼ですよ」


「いえ母上、父上の気持ちも少しは分かるので。自分はこれからですし」


 相変わらず、父上は心配性であった。

 母上の方が強いと思う。

 そして、兄上達。


「遂にラフィも結婚したね。たまには領地へ遊びに来なよ」


「妻たち総出で、お忍びで伺わせて頂きますよ、グリ兄」


「僕たちの方には、子供が出来てからで良いよ。遊ばせたいし」


「あはは……では、お言葉に甘えさせてもらいます、アル兄」


 姉上達。


「ラフィ、奥さんを大切にね」


「はい、エル姉。ところで、体調は大丈夫ですか?」


「問題無いわ。寧ろ―—」


「ラーナ姉とルナ姉ですか」


「あら? なにか言いたげね」


「ラーナ姉様は怖いですねぇ。ラフィ、私の方は心配しないで良いわよ。母上達もいるしね」


「ラーナ姉にはリアフェル王妃もいますし、心配してませんけどね。でも二人共、なにかあったら、必ず連絡して下さい」


「「心配性なんだから」」


 そして、慣習通りの挨拶順は終わり、披露宴は多少の無礼講時間へ突入する。

 はてさて、この先に何があるのか、想像に難くないな。


「大丈夫ですよ」


「ん?」


「あなたの正妻ですから。だから、大丈夫です」


「ミリアは強いなぁ。腑抜けちゃいれんか」


 さて、面倒な相手は、早々に片付けてしまうか。

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