第268話 待ちわびた日

 いつも鳴り響く建築音、今日はそれがピタっと鳴りやみ、今は静寂に包まれている。

 そんな中、城では慌ただしく動き回る者達。

 臣下達である。

 忙しくも嬉しそうに動き回るので、ちょっと声を掛けづらい。


「陛下、どうされましたか?」


「ちょっとな」


「……そう言えば、私がお仕えして17年ですか。色々とありました」


「そうだな。嫌だったか?」


「いえ。ただ少し、感慨深くはなっています。それと、陛下にお仕えできている喜びと、晴れ姿に尽力できたことに」


「……これからも苦労を掛けるが、よろしく頼む」


「御意」


 とある一室で、ナリアと言葉を交わす。

 そう、今日は結婚式。

 全員が待ちわびた日である。

 本来であれば、筆頭侍女であるナリアは、正妻であるミリアの着付けに向かわねばならない。

 だが、それを辞退し、ナリアをこちらに付けたのはミリア本人だった。


『私よりもラフィ様に。こちらはもう少し時間が掛かりますから、その間は』


 そう言っていたそうだ。

 そして、ナリア指揮の元で俺の着付けに来て、今は――といった感じ。

 ナリアがいなければ、色々と変わっていただろうと思う。

 だからこそ、最大の厚情を言葉にしたつもりなのだが……上に立つ者として言うのは難しい。


「陛下?」


「ちょっと緊張してるっぽいわ。それと、少し砕けてくれ」


「それは無理な相談でございますね」


「相変わらずの強情っぱりめ。まぁ、それがナリアだしな」


「陛下、本当に大丈夫でございますか?」


 心配してくるナリアに大丈夫だと返し、少しだけ目を瞑る。

 少し考え、ナリアが受け取りやすい様に変える事にした。


「これは独り言なんだが……」


「……」


「いつも感謝している。今も感謝している。幼少期から仕えて今に至り、この場に居てくれることに感謝している。本当にありがとう」


「……」


「これからも、もっと苦労を掛けるつもりだから、その辺宜しく頼むわ。あ、異議は認めないから」


「……全く、グラフィエル様には敵いません。最大の厚情と賛辞、大変に嬉しく。今後も、如何様にもお使いください。全身全霊でお応えいたしましょう」


 カーテシーを決めて、恭しく応えるナリア。

 その姿を見て、やっぱ敵わねぇなぁ……なんて思ってる自分がいる。

 一番の功労者は、間違いなくナリアであり、これからも変わらないだろう。

 しかし……ミリアにも頭が上がんねぇなぁ。


「私も上がりません」


「はい?」


「内心を見透かされてしまいましたから」


「あーー、そういう。じゃ、主従揃って、正妻様に感謝しとくか」


 内心を見透かされて、か。

 幼少期から仕えて来たナリアなのだから、俺の方で――って事なのだろうな。

 それをミリアには見透かされていたと。

 普通なら怒る正妻も多いが、ミリアは寛容で、理解力があるからな。

 これからの事も考えると、ナリアとゆっくり話せる時間は取りづらくなっていくし、この時がって考えたっぽいな。

 全く、俺には過ぎた正妻様である。

 だからこそ、敢えてナリアに伝えておくか。

 時間も来たようだしな。


「陛下、お時間です」


「わかった。それと、敢えて伝えておく。今後の第一優先は――」

「ミリアンヌ第一王妃殿下様、そして、その御子様とします」


「……全く、先に考えを読むな。それと間違っている。全ての王妃と、その子供。そして、イルリカとその子供だ」


「失礼いたしました。正妃様、側妃様、お妾、その御子たち、我が剣と盾でお守りいたします」


 今この場で、ナリアが今後、優先すべき者達の内容を提示しておく。

 信頼という名の、最大の礼を持って、信任を与える。

 これが王たる俺が出来る、最大の感謝として。

 その言葉を贈り、王家専用の礼拝堂へと入場した。

 祭壇前まで行き、皆を待つ。

 さて、この先だが、少しだけ慣習がある。

 伴侶の入場順番に関してだ。

 前世では一夫一妻制なので馴染みがない話だが、一夫多妻制であるこの世界では、非常に重要らしい。

 気にしないと言ったのだが、流石に風聞がよろしくないと全員から言われ、ブラガスからは無くすのは無理だとまで言われた慣習だ。

 その順番だが、妻の序列が一番下の者からという事。

 そこで揉めたのが、蛍、詩音、桜花、優華の入場順について。

 揉めたと言ったが、正確にはどうしようかって話だな。


『これに関しては、ラフィ様の独断で決めて頂くか、4人で話し合うか、ラフィ様を含めて4人でしか』


『私達が勝手に決めるわけにいきませんよね』


『リリィさんの仰る通りですが、何も無く手探りは大変だと思いますよ』


『リーゼさん、何か妙案があるんですか?』


『ラナも聞きたいです』


『いやいや、皆で話し合えば良くね?』


 ちょっと白熱しそうな議論になるかと思ったんだが、意外にも蛍が一番下を所望した。

 そして、理由を聞いた三人が羨ましいってなり、バトルに発展――する前に、ミリアが鎮めた。

 正妻様は強かった。

 それで順番なんだが、早いもの勝ちって事で、蛍の言い分が通り、それに続けと、桜花、優華、詩音の順で入場が決まった。

 そんな事を思い出していると礼拝堂の大扉が開き、シンビオーシス四大辺境伯家当主の1人に連れられて、蛍が入場した。


『流石に、自国内での繋がりがですね……』


『……はぁ。ミリア達と本人に許可取りをする事。却下されたら無しで。これが条件』


 なんてブラガスとやり取りして、四大辺境伯それぞれが、形式上だけの養女にした。

 各国王へ頭を下げたのは言うまでもない。

 面白くはないと直球で言われはしたが、理解も出来るので、お小言が無かったのは不幸中の幸いだったな。

 ゆっくりとこちらへ歩いてくる蛍とエスコートする辺境伯を見ながら思い出して、また別の事を思い出す。


『普通なら、養女は名代が出席します。それが慣習です。しかし今回は、中央との繋がりを強めたく、連携もしたいので』


『当主自らってか? それも相手が認めればだな』


『先に許可取りはしています。ついでにですが、序列にあまり意味がない事も伝えています。その上で、参列したいと』


『揉めね?』


『揉めないように、相手方の正妻参加は披露宴のみと打診しています。快く承諾して頂きました』


 ブラガスとのやり取りで、面倒な事、多かったなぁ……なんて考えるが、苦労したかいはあったと思う。

 色々と思い出している内に、蛍と南部辺境伯が目の前で立ち止まり、蛍の手を取って隣に迎える。

 普通なら一言あるのだが、各辺境伯家当主だけは、胸に手を当て一礼のみで去る。

 体裁はあるので、参列の席は設けてあるも最後尾である。

 この辺りも慣習らしく、本当に面倒だと思うよ。

 蛍も面倒とか考えてそうだな。


「その、ね」


「うん?」


「こ、これからも、よろしく」


 ……ナンデスカ、コノカワイイイキモノハ?

 ツンが取れた蛍は、凄く可愛かった。

 デレ蛍、爆誕っ!


「こっちこそ、これからもよろしくな。後、すっごく可愛いぞ!」


「ッ~~~~~!」


 あ、顔が真っ赤になったわ。

 耐性無いんだな。

 そんな蛍を皮切りに、残る三大辺境伯当主たちも同じ様にエスコートし、預け、一礼して去っていく。

 北部が桜花、西部が優華、東部が詩音の順番で。


「そ、その、お手柔らかに……」


「何をお手柔らかにするかはわからんけど、頑張るよ」


 桜花の言葉に応え、次は優華。


「夢にまで見た光景だぁ。私、逆玉です!」


「それをこの場で言うかね? まぁ、優華らしいが」


「これでも緊張してるからね!」


 そして詩音。


「不束者ですが、よろしくお願いします。愛人作ったら、わかってるわよね?」


「こえぇよ。後、作んねぇから」


「ふふ、冗談よ。でも、ミリアを泣かせるようなことはしちゃダメよ」


 4人と軽く言葉を交わし、次はイーファ、スノラ、リジアの入場だ。

 因みに三人共、両親は無くなっているので、スノラの親代わりであった老亜人がエスコート役をする。

 三人同時なのはどうかとなったが、そこは押し切った。

 文句がある貴族家は来なくても良いと言った形にしたので、誰も何も言わなかったよ。

 そんなわけで、老亜人から三人の手を受け取り、言葉を交わす。


「お三方を、どうかよろしく頼みます」


「はい。今までの守護、ありがとうございました。この先は、私が守っていきます」


 短い言葉を交わした後、老亜人は一礼して参列席に。

 そして、イーファ、スノラ、リジアの順に言葉を交わす。


「これからも楽しくやろうぞ、旦那様よ」


「おう。退屈はさせないようにするわ」


「その、あのですね、う、嬉しいですっ」


「俺も嬉しいぞ。その嬉しさを広げて行こう」


「がさつだけど、頑張るわ。いろいろ」


「いろいろの部分は気になるが、俺も負けないように頑張るさ」


「「「でも、尻尾触るのはほどほどにねっ」」」


「あはは~。そこも我慢できるように頑張ります」


 次は、シャイアス殿がエスコートしてリュールが入場。


「表情に乏しい娘だが、頼んだよ」


「大丈夫です。彼女は表情豊かで、助けられてますから」


 そしてリュールの手を取り、シャイアス殿は一礼して参列席へ。


「ん。今後ともお願いします。ジジィに関しては、きちんと言って」


「祖父だけは頼むわ。悪い人では無いんだが、どうにもなぁ」


 お互いクスッと笑い、次の入場者……ぷっ! に、似合わねぇ!

 あ、イーファとリジアが笑い堪えてるわ。

 蛍達も我慢してるな。

 そんな、神喰の正装した姿に手を引かれながら、ヴェルグが入場してこちらに。

 うっわ、神喰の眼がやべぇなぁ。


「うちの娘泣かしたら、喰うからな」


「お前が言えた言葉か! まぁ、その辺は安心しとけ」


 そして前の者と同様に一礼して、参列席へ……いや、マジで似合わねぇな。


「ラフィも失礼だね。まぁ、僕も似合ってないと思うけど」


「あ、やっぱりか。ヴェルグとは感性が似てるからな。この先も楽しくなりそうだ」


 次は……初恋の人。

 ナユだ。

 というか、お義父さんの方が緊張しまくってんな。

 まぁ、平民だし仕方ないのかね。


「陛下、娘をお願い致します」


「幸せだと、胸を張って彼女が手紙を送れるようにします」


 一礼して参列席へ。

 そして、ナユの手を取る。


「初恋、叶っちゃいましたね」


「俺も同じだ。だから次は何を叶えたいか、後で教えてくれ」


 そしてリア。


「どこを見てるのかな? ラフィ」


「いや、似合ってるなぁと。これはこれでそそるなぁと」


 胸にコンプレックスのあるリアだが、そこまで悲観する事は無いのでは? と思ってしまった。

 ウェディングドレスが良く似合っているからな。

 良く考えられていると思う。

 お互い軽いノリではあるが、ぶっちゃけたらテレ隠しである。

 普通のノリで行かんと緊張するのだよ。

 そんな感じでリアを迎え、ヴィオレの番に。


「少し戦闘狂な娘だが、よろしく頼むよ」


「心配なさらなくても大丈夫ですよ。私も、ヴィオレに関しても」


 問題無いとの言い切り、ヴィンタージお義父さんは少し笑ってから一礼して参列席に。


「何か心配され過ぎな気もしますわ」


「ヴィオレは少しストイック過ぎるからな。まぁ、そこが素敵なわけだが」


 素敵と言われて、顔を赤めるヴィオレ。

 あれ? 耐性無い人系? かわいいんですが。

 でも、にこやかに笑ってるから、嬉しさの方が勝ってるのかな。

 そんな感じの中、最年少が入場。

 ランシェス貴族の中でも中立貴族を束ねる侯爵家、ダズバイア卿が令嬢、シアである。

 ……あれ? なんでお義母さんがエスコート役?


「夫が泣き止まなくてですね。急遽、私が」


「えーっと、ご苦労様、です?」


 ドバイクスお義父さん、何やってんですか――と、お互いに気持ちが通じ合った所で、カーテシーをして参列席に向かうお義母さん。

 よく見たら、確かに泣きまくってんな。

 娘の晴れ舞台に何やってんんだか。


「ラフィ様……じゃ、おかしいのです。旦那様?」


「シアの好きに呼べば良いさ。別に様付けじゃなくても良いし」


 そう言うと、お兄ちゃんと呼ばれました。

 シアは可愛いねぇ。

 汚れてしまった自分が洗われるようだ。

 シアはまだ今年で11歳だし、年齢的にも間違ってないから余計にな。

 ん? どっかの神がロ◯コンとか言ってやがる気がする。

 〆とくように、トラーシャにでも依頼しておくか。

 酒を報酬にしたら動きそうだしな。

 そして、この先が大御所入場だ。

 ランシェス公爵家令嬢のティア。

 エスコート役は……なんで先代?


「可愛い孫娘の晴れ舞台だぞ? 誰が譲るものか」


「孫馬鹿ですね、ヴィルノー先代」


 その後は、変わらぬ申し送りと一礼、そして参列席に。

 ティアは……うん? 怒ってる?


「お爺様、ここぞばかりに先代権限をですね」


「あー、お義父さん、泣く泣く譲ったのか。それでティアはご立腹と」


 とは言え、花嫁が怒っているのはちょっとな。


「まぁ、はっちゃけたのと孫馬鹿だから許して上げなよ。どうせ子供が生まれたら、曾孫馬鹿になるんだろうし」


「それはそれでちょっと……。ラフィも人が悪いですよね」


「悪いな。こういう紛らわせ方しか出来なくて」


「いえ。ですが、ラフィとの子供ですか。うふふ、悪くないです」


 機嫌は治った様だ。

 つうか、少し妄想トリップしてる? おーい、戻ってこーい。

 ティアを現実に引き戻しながら、次の入場者の番に。

 ガズディア帝国皇帝ドグラギル・ザズ・フィン・ガズディアが、愛娘の末姫シャルミナ・ザズ・フィン・ガズディアをエスコートする。


「孫は早めに頼むの」


「善処します」


 一言交わして、握手をする。

 他国の王だと、また対応が変わる。

 これも慣習……慣習、多過ぎね?

 そして参列席へと移動する皇帝を横目に、ミナから一言。


「子供は沢山欲しいです」


「がんばりまっす」


 手を取り、皆が並ぶ場所へと誘う。

 しかし、ミナは意外と大胆だな。

 出会った当初とはまるで違うわ。

 しっかし、子沢山ねぇ……精力剤、作るべきか悩むわ。

 それと、皇帝はミナ溺愛だからなぁ。

 絶対に孫馬鹿になると確信できるわ。

 子沢山、孫馬鹿皇帝、土産や祝い品……帝国の財政、傾かねぇよな? ……ミナに後で相談しとこ。

 そんな中、次はフェリック皇国ディクラス・モンテロ・フィン・フェリック皇王が、娘の第9王女ルテリーゼ・モンテロ・フィン・フェリックをエスコート。


「泣かせたら殴る」


「いや、恫喝は止めましょうよ。どんだけリーゼスキーなんですか」


 一言交わして、握手。

 参列席へ向かう皇王を……無視って話すリーゼ。


「ずっと一緒に、知識の探求をしましょう」


「ブレねぇなぁ。まぁ、教え合うのは藪坂でもない」


 皇王、ちょっと可哀想である。

 因みにだが、皇王は子供達の中で一番リーゼを溺愛している。

 かなり隠しているらしく、本人にも気付かれないようにしているらしいが、家族にはバレバレだと、とある筋から情報を得ていたりする。

 多分、孫馬鹿が増えるの確定だな。

 そんな孫馬鹿合戦に参加するのか不明な父親が、娘をエスコートする。

 オーディール竜王国国王ゼルクト・ゴショク・フィン・オーディールが第一王女シャラナ・ゴショク・フィン・オーディールを。


「子供が出来たら、ちゃんと連絡してきてね。産まれたらじゃなく、出来たらだからね」


「わ、わかりました」


 そして握手。

 ゼルクト王も孫馬鹿になるらしい。

 しかも孫馬鹿率が、他二王より酷い気がする。


「強い子を産みますので!」


「強くなくて良いから、元気な子にしてくれ」


 ラナ、産まれてくる子供に格刀術を教える気マンマンである。

 ……まだ見ぬ子供よ、頑張れっ!

 そして、よき理解者であった王が娘をエスコートする。

 ランシェス王国国王テオブラム・ラグリグ・フィン・ランシェスが娘、第五王女リリアーヌ・ラグリグ・フィン・ランシェスを。


「子供が出来たら、グラキオスより先に余へ知らせるんだぞ。良いな!」


「いや、それもどうなんですか。つうか、皆、孫馬鹿ですよね?」


 孫馬鹿認定してから握手……力入り過ぎです。


「ようやく、大手を振ってシンビオーシスを名乗れます」


「ずっと待ち望んでいたもんな。気持ちは痛いほどわかる」


 お互いに同じことを思っていた気持ちを確かめ合い、大トリを全員で迎える。

 元神聖国、現聖樹国の元神子であり正妻。

 ミリアンヌ・フィン・ジルドーラを。

 父親にエスコートされて……。


「グラフィエル王?」


「……はっ! すみません。ミリアに思わず見惚れてしまいました」


 いや、綺麗すぎる。

 そして、ジルドーラ家当主のお義父さんも、やっぱ娘溺愛者だった。

 めっちゃ自慢気だったからな。

 尚、普通は一礼だが、正妻の父親という事で握手。

 これも慣習らしい……って、だから多過ぎるっつうの!

 そしてお義父さんは、自慢気に参列席に加わって、各国の王から睨まれてた。

 あんたら、どんだけ娘スキーやねん。

 とりあえず、お義父さんズは無視って、ミリアを……あかん、直視できん!


「クスクス」


「いや、おかしいか?」


「だって、こんなの見たこと無いですから」


「ミリアが綺麗すぎるから、仕方ない」


「ありがとうございます。そして、ようやく夢が一つ叶います」


「夢?」


「はい。これからも幾久しくお願いします。あなた」


「……こちらこそ。しかし、いざ呼ばれると恥ずかしさの方が……」


「慣れて下さいね」


「分かった。それと、先に一つだけ言っとく。ナリアの件、ありがとうな」


「何の事でしょう?」


「全く。ホント、俺には過ぎた正妻様だよ」


「光栄です」


「うぉっほん! そろそろ進めても良いかな?」


 あ、ヴァルケノズさん、居たんですね。

 てっきり、まだ控室だと思ってましたわ。

 つうか、なんか人多くね?


「教皇ですから。それに、神聖騎士様の挙式ですから、補助役が付くのは当然です」


「知らんかった」


「あなた、そろそろ」


「おっと、そうだな」


 そして、前世と変わらぬ……いや、祝詞は少し違うけど、順序的に変わらない進行で、誓いをたて、キスを……19人と結構な人の前で? 普通に羞恥プレイじゃね?


「(違いますから、ちゃんとしましょうね)」


 小声でミリアに諭される。

 えぇい! 男は度胸じゃい!

 ………………

 …………

 ……

 はい、恥ずかしかったです。

 もうね、皆から甘い香りがすんのよ。

 それも皆、微妙に違うって言うね。

 個人香とでもいうのだろうか? とにかく、やばかった。

 理性を保たせるのが。


(俺、頑張った。多分、初夜は暴走しそうで怖いわ)


 色んな意味でな。

 そして、結婚指輪を贈る。

 実は、この順序だけは、元の世界と逆だったりする。

 理由は幾つかあるのだが、最大の理由は一夫多妻制だから。

 夫の方が大量の指輪を着けなきゃいけないのは、現実的じゃないんだよね。

 だから、妻が多い場合、結婚指輪は女性だけ。

 男性は、小指に聖痕を刻む。

 指輪の代わりなので、輪状に刻まれる。

 それに加え、妻が多い程、精巧な紋様になるが、大きさは結婚指輪と変わらない。

 その儀を持って、神へ報告を……俺に報告?


(この場合って、誰に報告されるんだ?)


『マスターの場合だと、ジェネスですね。受けられる神が一柱しかいないので』


 リエルからの回答に、マジかぁってなる。

 まぁ、そこは割り切ろ……え?


(気配遮断と透過使って、ジェネスがいるんですけど!?)


 暇なのか? 本当に暇なのか!? あ、消えた。

 ……見つかって逃げたな、あのジジィ。

 まぁ、祝福しに来ていたんだろう。

 詰問は免除してやるよっ。

 こうしてやっと、夫婦になれた。

 ただ問題は、この後なんだよなぁ。

 気が滅入る。


「あなた、これも必要な事ですから、頑張りましょう」


「うん……そうする」


「それにですね――」


「それに?」


「夫婦で初めての共同作業ですから。ちょっと嬉しかったりします」


「そう考えると、そこまで嫌じゃないかも」


「ですよね! ふふっ、妻総出の共同作業に行きましょう」


「そうだな、行くかっ!」


 こうして、王族の役目を果たしに行く。

 さぁ、次はパレードじゃ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る