神婚生活編
第265話 春が来て……
新年を迎え、ランシェス大使館で正月休みを満喫して、シンビオーシス国内に戻って仕事をし続け、気付けばもう春。
もう少しで17歳の誕生日を迎える月になったのだが、そんな事を考えてる暇がないくらい忙しかった。
「陛下、こちらの書類ですが」
「許可したはずだが?」
「いえ、許可した書類は関連の分です。大元の書類に許可が出ていません」
「どの書類だ? 直ぐに目を通す」
「ラフィ様、こちらの書類は早急に片付けませんと」
「ラフィ、こっちも!」
「ラフィ様、こちらもです」
「ラフィ様、こちらもお願いします」
「ちょっ、いっぺんに来られても――」
ミリア、リリィ、リーゼ、ミナからも、早めに許可しないといけない書類があると渡される。
直ぐに手早く目を通してサインをし、許可を出す。
それが終わればまたブラガスから言われ、終わるとミリア達からとエンドレス状態。
これが半月ほど続いている。
更に半月後には17歳の誕生日が来るわけだが、多分、仕事で忙殺されると思う。
約二か月後には挙式だしな。
各国の王達も国賓であり、家族として参列するから、余程の事が起こらなければ延期に出来ない。
報告では既に、竜王国王族は出立したと連絡も入ってきている。
一応、不測の事態に備えて、竜達には即応できるようにはして貰っている。
そんなわけで、今までより三倍忙しいのだ。
赤く発光しても良いから、三倍速で仕事を終わらせられたらと思うわ。
「馬鹿言ってないで、さっさと次っ」
「わかってるよ。えーっと……披露宴に関する上方修正金? これって必要か?」
蛍に促されて、次の資料に目を通すが、これはどうなんだ?
うーん……ブラガスも忙しいから聞くのもなぁ。
「ラフィ様?」
「リーゼ、悪い。これってどう見る?」
「えーっと、これはですね――」
リーゼと二人で資料を精査していく。
上方修正金は必要だが、一部に必要なのかという部分があった。
まさか、不正?
「予備費でしょうか? 流石に、ブラガスさんに聞かないと分かりません」
「わかった」
メイドにブラガスを呼ぶように手配して、来るまでに次の……パレード費用? 必要なのか、これ?
「必要ですよ。ラフィも知ってるでしょ、お兄様の式を」
「俺もあれやんの?」
「国民のためにも必要ですから」
王族の結婚が国家プロジェクトって意味が良くわかるわ。
後、各王達の苦労も分かった。
もうな、湯水のように金が消えて行くんだわ。
目を通してる資料だけでも、黒金貨数枚。
更に増える可能性大で、王札行くんじゃね?
「えー……行くかもしれませんね。もし良ければ、お父様に連絡して聞いてみますか?」
「ミナの気持ちだけ受け取っておくよ。皇帝も出立準備で忙しいだろうから」
そんな話をしていると、ブラガスがやって来て、直ぐに説明を始めた。
挨拶無しという事は、ブラガスも余裕が無いのだろう。
だからナリア、睨んでやるな。
「上方修正金ですが、予備費もあります。ですが、ほぼ確実に増えるであろうと見越しての算定表でして」
「因みにだが、読みは?」
聞くと、最低算定表で、最悪は予備費から捻出との事。
ただ、それも淡い期待らしい。
「多分、再提出になると思います。現状で読んだ状態ですので」
「ブラガス個人の読みは?」
「多分、倍でしょうか」
「か、金が……。冗談抜きで、出稼ぎに出ないとヤバいかもしれん」
空間収納に放り込んだままの素材も、既にギルドへと流している。
まだ流せる物はあるが、ギルドの資金も上限に近いと言われているので、これ以上は厳しい。
市場が壊れないように、ギルドが適切に流しているからな。
国もギルドも、手弁当状態なわけだ。
そうなると、他国のギルドに流すしか無いのだが――。
「流石に、今の時期に動くのは……」
「わかってる。だが、流石に厳しいぞ」
資金は有限だ。
それに、今まで注ぎ込んだ分の回収も出来ていない。
はっきり言おう――個人資産の半分近く溶けている。
正確には、現金化していた分の半分だ。
額にして、王札二枚。
日本円に換算して、およそ二千億円。
これが、建国費用と挙式準備で溶けた金だ。
そこへ更に王札一枚? 破産するわっ!!
「ブラガス、流石にそろそろヤバいんだが。現金化出来てない素材類を流さないと、本当に破綻する」
「商人達への支払いもありますからね」
「黒金貨は間違いなく動くだろうから、どうにかこの王札一枚でやりくりして欲しいのが実情だ」
そう言って、机の上に王札を出してブラガスへ渡す。
これで現金化出来ている個人資産は、王札一枚のみ。
この王札から、更に商人達への支払いが……。
「挑発するんじゃなかったよ……」
「申し訳ありませんでした。自分も少し、調子に乗っていたようです」
二人して反省している件は、商人達を招致した時期に遡る。
政務や住居となる城の完成度が6割以上になったので、最後の仕上げである残り1割の為に、商人達を呼び寄せたのだ。
城の完成に必要な残り1割、調度品である。
ただ、調度品が輸入物ばかりではどうかと考え、自国内で調達するようにと挑発した。
集まった商人たちは、頭を抱えていたよ。
でもな、どっちにしても自国内でしか集められんと思うぞ。
買い付けと輸送時間、この二つを考えると、他国での買い付けは難しいからな。
ついでに、ちょっとした再編案も出したりした。
小店、中店は、大店の傘下に入ってる事が多い。
そして、商人達にも面子がある。
大店がダメ出しをされたのに、小店が賞賛されると、嫌がらせがあったりするわけだ。
最悪は、店が潰されたりとか。
なので、美的センスの合う者同士で再編したらどうかと提案したわけだ。
最初は反発していたが、きちんと説明すると納得してもらえはした。
それともう一つ、今回は合わなかっただけ、若しくは、新興王家に合わなかっただけと、フォローはしておいた。
美的センスが合わないのだから、それは仕方ないという訳だ。
お互いに合う者同士で取引した方が楽だからな。
それとな、内装関係者からの口伝だけで調達しなければならない難しさもある。
建築関係者は別として、王が足を踏み入れてないのに、商人が先に? って話だな。
いや、俺も思う所はあるんだが、慣習というかしきたりというかね。
で、商人達も奔走中なわけで、費用が割増しになる可能性もある訳だ。
「残ってる資金で足りるかね?」
「流石に、足元を見てくる商人は必要無いのでは?」
「まぁ、言いたい事は分かるぞ。でもな、小店は流石になぁ」
無理していたら、借金してる可能性大だからな。
流石に支払ってやらんと。
まぁ、買える物ならばって話だけど。
「そういや、調度品は誰が見るんだ? 俺はそういったのは分からん」
「基本は王か正妻ですが、どちらも忙しいですからね。執事長に任せてみるのも一興かと」
「ノーバスか……悪くないな」
「問題は――」
「金額だな」
二人揃って溜息を吐く。
あ、そういや、ラギウスの件は?
「無理でした」
「料理長、どうすんだよ」
「ラギウス殿はムリでしたが、一番腕の良いお弟子さんが来てくれます」
「腕のほどは?」
「さぁ? 自分もまだ見ていませんので」
「披露宴の料理、大丈夫か?」
挙式が近づくにつれて、色々と出てくる問題。
細かいのならば良いが、割と重要なのがいくつも出て来るとか。
ん? あれ? 城下街の報告書見てねぇな。
「ブラガス、城下街の報告書は?」
「あー……手が回ってません」
「……なんで言い淀んだ?」
ブラガスは仕事をきちんとこなす人間だ。
出来てない時は、はっきり言う人間でもある。
それが言い淀む? 何か隠してるよね?
「ブラガス」
「はい」
「吐けっ」
「えー……ちょっと予定進捗より遅れています」
また言い淀むブラガス。
癖ってのは、中々治らないから良いよね。
直ぐにバレるから。
「ふぅん……で、どれくらい?」
「あー……歓楽街は手付かずで、宿屋が5割、住居3割、その他に関しては、土地の区分中です」
「おい、ほぼ手付かずじゃねぇかっ!」
パレードの開催? 現実的に不可能じゃね?
「どうにか間に合わせます」
「プランは?」
「今から考えます」
はい、ノープランでした。
この手は使いたくなかったが、仕方ない。
「工兵を建築業務に従事させろ。パレードで通る主要道は、建て終わらせろ」
「…………ハリボテですか?」
「気付いたか。でもな、それだけじゃない」
「と、言いますと?」
国民への区画割は行っているのだから、天幕をお引越し作戦だ。
間に合えば良いが、間に合わなかった場合は、割り振られた土地に天幕を移動させ、仮設住宅みたいな形にする。
住居は先になるが、土地だけでも自分達のと思えば、反発は少ないだろう。
工兵には、実地訓練として行えば良い。
「工兵も兵ですから、街道警備や治安維持、野生動物や魔物からの対処が疎かになりませんか?」
「穴埋めには冒険者を起用しろ。クッキーさんに話を通すんだ」
「自分がですか!?」
「気持ちは分かるが、隠してたお前が悪い。後始末くらいしろ」
「はぁ……また仕事が」
「報酬に関しては、予備費から出すように」
「そこもクッキー殿と相談ですか……。陛下、出稼ぎ許可しますので。現金作れませんか?」
ブラガス、遂に折れる。
総資産はまだあるが、現金が無い。
人手だけじゃなく、金も足りんとか終わってるな。
とはいえ、金に関してはまだどうにかなりそうだ。
問題は、何処のギルドへ売りに行くかだが――。
「お膝元で良いでしょう。資金面を考えても」
「クッキーさんを連れて行くのか……」
「お忍びでお願いします。まぁ、無理でしょうが」
「クッキーさん同伴だからなぁ」
どう頑張っても目立つので、ジャバに話しだけ通して売りに行くのが一番な気がする。
そんな話をした翌日、クッキーさんを呼んで話をするのだが――。
「無理よぉん」
「うそぉん」
まさかの拒絶だった。
何故に?
「言ったでしょぉ? 上限だってぇ」
「え、あれって、公国内のって話じゃ」
「全てのギルドに決まってるじゃなぁい。でもぉ、まだぁ、余裕はあるのよねぇん?」
「い、一応は」
なんか値踏みされてる気が……。
まぁ、当たらずとも遠からずではあったが、それは本当の最終手段を使う為だったらしい。
「オークションねぇん」
「問題は時間か」
「そうねぇん。輸送時間にぃ、素材に関しての時間もあるわねぇ」
「オークション自体は?」
「傭兵国でぇ、今月末ぐらいにやる予定よぉん」
「名代と竜送便で時間は短縮……エントリー期間は?」
「飛び込み枠があるわよぉん。ただぁ、飛びこみ枠は値段がねぇん……」
「つまり、期間は過ぎてると?」
「後ぉ、3日って所かしらぁ」
クッキーさんの言葉を聞くや否や、すぐにジャバへと連絡して、オークション枠の確保に動く。
お互いに用件だけ話して、後は文官――こっちはブラガス――に丸投げする。
そして、帰ろうとするクッキーさんを引き留め、落札前提とした素材の選定に協力してもらう。
選定結果は、ほぼ損傷の無い黒竜の死骸1点、損傷大だが肉は取れる黒竜の死骸2点、ほぼ損傷の無いキマイラとオルトロス変異種の死骸に調達が厳しい薬草類。
後は、自作した失敗魔道具数点の種別で計6点。
もう少し細分化したら20点ほどだ。
失敗自作魔道具も大災害が起こるとかではなく、単に容量が少ないって話。
主な魔道具はアイテムバッグの失敗作だからな。
「ねぇん……」
「え、なに?」
「このバッグぅ、普通に国宝級よぉん」
「失敗作なんだけど?」
「……はぁ」
「ため息って、えぇ……」
その後、各国王達から怒られた。
クッキーさん経由で話が漏れたから。
そして、失敗魔道具は各国が買うとも言われた。
『グラフィエルよ、あまり言いたくないが、もう少し常識をだなぁ……』
「テオブラム王に聞きますが、本当に失敗作で、容量少ないですよ」
『こんの……大馬鹿者がぁぁぁっ! 中型屋敷が丸一つ入る程のアイテムバッグが、この世にいくつ現存しとる思っとるんだぁぁぁ!』
「えぇ……そこまでかよ」
ランシェスのテオブラム王からは、貴族だったころと変わらず怒られ、皇帝からもお小言。
『資金捻出は仕方ないとは思うがの、初めに相談せぃ! という話だの』
「いや、流石に金関連は……」
『気持ちは分かるがの、オークションに出す物ならば、儂らも気になるという事だ。貸し借りではなく、販売相談という話だの』
「因みにですが、聞いた中で欲しいのあります?」
『値段にもよるが、アイテムバッグは欲しいの。まぁ、手が出んだろうが』
「格安で譲りましょうか? とにかく今は、現金化したいので」
そして皇王はというと――。
『そう言うのは先に言えっ。うちは生傷絶えねぇから、薬草類は死ぬほど欲しいわっ!』
で、教皇。
『薬草類なら意地でも買いますのに。それと、付き合いも長いのに相談無しは寂しいですねぇ』
続いて竜王国王。
『ほぼ無傷の黒竜の死骸? 王札3枚でも買うよ。オークション? 王札5枚は行くから、うちに売ってね』
そして最後に傭兵王。
『相変わらず急過ぎんだよっ! 余裕を持て余裕をっ! はぁ……。とりあえず、確保はしてやる。何を出すかは、また連絡してくれ』
春――それは雪解けの季節ではない。
問題が大量に露呈して、怒られる季節である。
日程はもう変えられないから、人海戦術でどうにかするしかねぇな、はぁ……。
あ、父上からも怒られたとだけ言っておく。
勿論、テオブラム王経由でバレてな。
まさか休暇中に復職するとは思わんかった。
春が嫌いになりそうです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます