幕間 とある冒険者の引っ越しと準備

 俺は、クラン【白銀の翼】帝国支部で役職付きの冒険者――だった。

 いや、まだ帝国支部付きではあるけど、年明けからは別の場所で役職付きだ。

 どういう訳かクラマスに気に入られて、今は王にもなっているクラマスが治める、シンビオーシスへの栄転が決まったんだ。

 栄転先の正式名称は、シンビオーシス冒険者ギルド人材本部。

 総合本部との住み分けをしたらしい。

 総合本部の仕事であった高ランク試験を委譲させたのが、シンビオーシス冒険者ギルド。

 加えて、人材育成――職員、指南役、試験官、新人など、ありとあらゆる人材を育成する冒険者ギルドってわけだ。

 クランの設立までは時間が掛かると踏んでいるらしく、暫くは色んなクランから優秀な人材を引き入れて経営するらしい。

 人材育成と下地が出来上がれば、招致された各クランの冒険者達が独立して、シンビオーシス内に新たなクランを立ち上げるとの事。

 勿論、職員のままでも構わないらしく、その時になって決めて良いとされているわけだが、俺にはその選択肢が存在してなかった。


「何故にこうなった?」


 クラマスからの手紙を見て、一人愚痴る。

 俺は選択肢が無い代わりに、将来的にはシンビオーシスのギルマスとして働いてもらう旨が書かれていた。


「俺、もう30代後半手前なんだけど……」


 今から更なる修練? 死んでしまうわっ! と心の中でツッコんでおく。

 声に出して言わないのかって? 無理に決まってんだろう。

 だってさ、見張り居るんだもん。


「今の俺より強いのが二人。逃げられねぇよなぁ」


 多分、クラマスの指示じゃないと思う。

 あのクラマスなら、利益マシマシに見える話術で説得してくるだろうから。

 たまに強権を使う事もあるが、それは仲間に何かあった時や、国の存亡系とかが多い。

 そうなると、間違いなくあの狂犬メイドの指示だろうと推測。


「序列メイドだっけか? 忠誠心ヤベェな」


 逃亡する気はないけどさ、見張られると逆にやりたくなる。

 自分の実力を再確認する為に、敢えてやってみる?

 ……フルボッコの未来しか見えねぇな。

 将来、俺以外のギルマス候補が出てくる希望を持って、引っ越し準備するか。


「とは言っても、特にねぇんだよなぁ」


 冒険者は基本、根無し草だからなぁ。

 定着する奴ってのは、大抵が妻帯者だ。

 そして、これもあるある話なんだが、根無し草は宿か長期借家に住む。

 だから荷物なんてほとんど無いのが現状。

 魔法袋や魔法鞄? 高くて手が出ねぇよ。

 だから荷物が少ないって話なんだが、そんな俺の手には魔法の袋が一つ。

 容量は国宝レベルもん。


「クラマス、あるある話知らねぇのかな」


 ため息一つ吐いた後、もう一度、魔法袋を見る。

 国宝級のそれ……バレたら、確実に狙われる。

 誰に? 色んな人達に。


「国宝級魔法袋。間違いなく、商人達が押し寄せるだろうし、殺してでも奪いたいだろうな」


 貸与されている魔法袋だが、国宝級にも拘らず、個人認証が不必要という。

 一獲千金を夢見れる、本当の意味での魔法の袋だ。


「あ、だから見張りか」


 正確に言えば、見張り兼護衛なのだろう。

 逃亡阻止と人材消失阻止。

 それと、クラマスから貸与された魔法袋に関しての行方か。

 不測の事態に備えての配備なら、ちょっと納得。

 そうなると、幼馴染の所にも行ってるか?


「酒場にでも誘うか」


 部屋を後にして、裏通りを通って、幼馴染の家に向かう。

 で、やっぱりというかなんというか。


「俺んちよりも人数多いな。信用度の面も考慮してか?」


 見張りの数、わかるだけでも10人。

 微妙なのがあるから、多分それ以上だと思うが。

 そう考えながら、ドアをノックすると、ドタンッ! ガッシャーンッ! バタバタッ! いったぁぁぁっ! それから数分待って、バンッと勢いよくドアが開き、幼馴染が顔を見せて……なんかやつれてねぇか?


「良く来てくれたっ! 寧ろ来るのが遅いっ!」


「いや、知らんわ。で、何を焦ってやがる」


「焦るし怖いわっ!」


 文句ばかり言ってくる幼馴染だが、まぁ気持ちは分かる。

 でもな、それは仕方ないと思うぞ。

 出会った当初は生意気ではあったが、きちんと実績を積み上げて信用度を上げて言った俺と、話だけ聞いてはいるから、他に良い人材がいなかったから抜擢された奴とじゃなぁ。

 まぁその辺りは酒場でだな。


「つうわけで、飲みに行くぞ」


「俺は子飼い達の用意もあるんだが?」


「今日で終わるってんなら引くがよ、終わるんか?」


 そう言うと、渋々出かける準備を始めた。

 はは、終わらねぇのな。


「終わるわわけないだろうがっ。何人いると思ってやがる。後、準備金の用意もだっ!」


「その辺も含めて、飲みながら聞いてやるよ。……それと」


 俺側の護衛に対して、聞こえるように声を張る。


「誰か一名、同席してくんねぇかなぁ。問題があれば、解決した方が良くないか?」


 わざわざ声をかけたのに、返答は静寂。

 だからお前、ププッとか言って笑い堪えてんじゃねぇよっ!


「私がお供しましょう」


「「うぉっ!?」」


 いきなりの同行返事に、二人揃って驚いてしまった。

 心臓に悪過ぎんだよ、このメイド集団。

 何はともあれ、酒場へと向かい、いつも通りに注文して、いつも通りの飲み方をする。

 そして一息ついてから、酒の肴をお供に、ちょっと奇妙な話し合いが始まるのだが、まぁ予想通りというか。

 唯一の勘違いに関しては、俺の方の監視者に関してかな。


「貴方様に付いている二名ですが、護衛が目的です。前回、クラマスがお会いした際、楽しそうに話せれていましたので、問題ない人物であると周知しております」


「そ、それはどうも」


「いえ。それともう一つ。貴方様への護衛者は、確かにこちらの手の者ですが、幼馴染様は違いますよ」


「「え?」」


 話しを聞くと、帝国の暗部も絡んでるらしい。

 俺は言われて納得。

 微妙な気配の方は、帝国暗部の方か。

 ……あれ? 気配の消し方が上手くないのか?


「気配ですか? それでしたら、気配丸出しの方が暗部ですね。幼馴染様に付いてる者達は、完全に気配を消す様に指示しておりますので。一部の者にだけ、微妙な感じにはするようにも指示しておりますよ」


 幼馴染と二人、何も言えんかったわ。

 個人による気配操作ではなく、対組織による気配操作は反則だと思う。

 それって、いざとなれば完璧に消せるって事だからな。

 後、帝国の暗部、地味に負けるんじゃないか?

 このメイド集団が異常なだけだろうけど、それでもなぁ。

 その後は問題が無いかの話をしていくが、特には……いや、一点だけ重要な問題があったな。


「それで、俺らが移動を開始したら、おたくらはどうするんだ?」


 これ、結構重要。

 俺はともかく、幼馴染の方は監視兼護衛で、帝国暗部も似たようなことをしている。

 もしかしたら、手違いで――なんて事態もあるかもしれない。

 そうなれば、このいかれたメイド集団が何するか分からない。

 最悪、帝国を恐怖のどん底に――なんて未来も想像できてしまう位に危ないメイド達なので、念の為に聞いておく。

 本当は聞きたくないとも言っておく。

 でもな、一応、故郷なので。


「私達の任務は、無事にシンビオーシスへと送り届ける事ですので」


 回答はそれだけだった。

 つまりは、どうにかして陰からついてくるらしい。

 どうやってかは知らんし、聞きたくも無いので、これでこの話はおしまいといった感じになった。

 そうこうしている内に年が明け、引継ぎや新人たちの訓練をして過ごしていき、出立まで後二か月となったある日、支部長に呼び出された。


「俺、何かやらかしたか?」


「いんや、やらかしじゃなくて別件さね」


 なんか嫌な予感がしなくもない。

 そして、こういった感は大体当たるのが俺だ。

 幸運より不幸の方が良く当たるんだよな。

 そしてそれは、見事に的中したわ。


「シンビオーシスで新たに作られる白銀についてさね」


「本部は移行って話だろ? ランシェスの旧本部は、支部に下げるって話って聞いたんだが?」


 なんか変更があったのか? ……今になって変更? 嫌な予感しかしねぇ。


「あんたの言う通りさね。ランシェスでの代行者が、支部長に格上げって話も変更ないさね」


「となると、変更点はシンビオーシス側か?」


 こちらの言葉に、頷いて応える支部長。

 あれ? 本気ですっげぇ嫌な予感がする。


「シンビオーシス代行補佐にあんたの名前が挙がったって話さね」


「げぇっ!」


「そういう反応すると思ったよ。気持ちは分からないでもないさね」


 つまりは兼業って事だろ? ギルド職員、冒険者、クラン代行補佐……死ぬわっ!


「死ぬわっ!」


「死なないようにやるのが、一級冒険者さね」


「じゃあ俺は、二級で良い」


 割とマジの本音だが、速攻で却下された。

 どうやら、ほぼ決定事項らしい。

 クラマスぅ、マジで恨みますぜ。


「ただ、激務は予想されるからね。特例事項は出されたさね」


「特例事項?」


 特例事項の説明は簡単で、自分の補佐役や連れて行きたい冒険者や受付嬢を数名だが同伴可能らしい。

 最低勤続年数は儲けられるらしいので、同意する者だけとの事。

 冠婚葬祭に関する休暇は可能で、纏めての休暇も出るらしい。

 ただ、同伴させる冒険者においては、支部長の面談とランク規定を設けられる。

 新人を連れて来られても邪魔って事だな。

 受付嬢も同じで、最低勤続年数が半年以上で、支部長面談有。

 突破出来たら、補佐として同伴するらしいが、そんな人材居るか?


「いなくもないだろうさね。別に、我がクランからだけって話じゃないんだからね」


「冒険者ギルドも通してか。……総合ギルドも一枚噛んでる話って所か」


「まぁね。だから、あんたの所には人が押しかけるって話さね」


「後二か月で出立なんだけど?」


「頑張るさね。ウチの予定は、そっちに合わせて上げる位しか無理だけどね」


「ちっくしょぉぉぉおおぉうぅぅ!!」


 こうして、出立まで一ヶ月の間、色んな奴が来たじ、声も掛けたりした……わけだが、声を掛けた奴からは軒並み断られ、逆に連れて行きたくないような奴らからには声を掛けられるっていうな。


「栄転、断りてぇ……」


 ついでに言っとくと、受付嬢も冒険者と似た様な感じだったりする。

 受付嬢の評価もピンキリなので、悪い奴からばっかり声掛けられて、酷い時にはハニートラップとかもあったり。

 一番酷かったのは、既成事実を作ろうとした受付嬢がいた事だな。

 真ぁ流石に、ヤバメイド集団が表に出てきたりしたけど。

 後はギルドからクビにもされたっけか。

 確か、品位を著しく損ねたとかなんとか。

 それで気付いた。

 上も割とマジらしいって。

 居ませんでした――じゃ、通らないとも気付いた。

 そして未だに誰も見付からない状態で、残り一ヶ月ちょいになってしまった。


「ヤベェ……これ、詰んだかもしれん」


 長馴染みを使って駆使してみたが、そもそもの話、幼馴染は金貸しである。

 評判の良い奴らが利用するはずもなく、お互い頭を抱えている状況。

 そんな中、いつもの若い嬢ちゃんに声を掛けられた。


「ねぇ、栄転するってほんとですかぁ?」


「……どっから聞いた?」


「割と有名になって来てますよ。後、人が見つかってないっていうのも有名になって来てます。人望無いんですねぇ。プークスクス」


「喧嘩売ってんなら後にしてくれ。割とヤバめなんだよ」


 そう言ってからクランを後にして、相変わらずの人材募集……今日も空振り。

 本気で泣きそうになる。

 とぼとぼとクランに戻ると、嬢ちゃんは仕事終わりなのか、私服で誰かと待ち合わせ中らしいところに出くわした。


「今日もダメだったんですかぁ?」


「うっせぇ」


「そんなぞんざいに扱うんだぁ。せっかく、良い情報持ってるのになぁ」


「……条件は?」


 そう言うと、何故か酒場でという話になった。

 成人してるから、別に問題は無いんだが、やはり若い嬢ちゃんをこういった場所にはなぁ……。

 ほら、早速バカが絡んで来やがった。


「お嬢ちゃん可愛いねぇ。こっちでお酌してくれよ」


「そうそう、そんなおっさんなんかほっといてさ」


「なんなら、夜のお相手もしてやんゼ」


 ぎゃはははっ、と酔っ払い共が騒いでいるが、二人揃ってガン無視だ。

 こういった手合いは、相手にするからつけ上がる。

 大抵の奴は、相手にされてなかった場合、悪態ついて去っていくんだが、そうでない場合もある。

 こいつらは後者だった。


「おい、何無視してんだよ」


「きゃっ!」


 嬢ちゃんの手を強く掴んで立たせ、無理矢理に連れて行こうとした。

 当然、無視できるはずもないので、相手の手首を掴んで、力任せに握る。


「いだだだだだっ!」


「よし、離したな。今なら不問にしてやっから、とっとと失せろ」


「て、てめぇっ!」


 話して距離を取ったかと思えば、獲物を抜いてくる。

 ここまで行けば、帝国では不文律誓約だ。

 先に抜いたのだから、この後は死んでも文句は言えない。

 それが帝国での法だ。


「先に抜いたんだ。死んでも文句はねぇよな?」


「うっせぇっ!」


 斬りかかって来るが、所詮は酔っ払い。

 歩法はなっちゃいないし、剣技もブレブレだ。

 こっちが抜くまでもない。

 軽く剣を交わして往なし、顎に掌底一発。

 それだけで相手は床に沈んだ。


「さっさと連れて帰れ。そして、二度とすんじゃねぇ」


「う、うっせぇ!」


「ちょ、きゃっ!」


 今度は嬢ちゃんの引き寄せての盾代わりか。

 狡い手を使うが、ちょっとだけイラっともした。

 人様の若いお嬢さんに何してくれてんのじゃ! ――と。

 即座に動き、剣先が嬢ちゃんへと向く前に男の手首を握り潰す。


「いでぇぇぇぇぇっ! お、おれのてくびがぁぁぁぁ!!」


「耳障りすぎる。寝てろ」


 そう言って、嬢ちゃんを腕の中に確保してから、踵落としを脳天に直撃させて黙らせる。

 さて、あと一人いた筈なんだが――。


「あ、あの……」


「もう一人は何処に行った?」


「あのっ!」


「ん?」


 そして、今の状況を再確認。

 左腕に嬢ちゃん、右腕には、探していた残る酔っ払いが伸びて気を失っている。

 はて? なにがあった? 後、ウエイトレスのねぇちゃんやら、他の客から拍手喝采なんだが。


「は、恥ずかしいので、そろそろですね……」


「ああ、すまねぇ。どこか怪我してねぇか?」


「だ、大丈夫です」


 そして何故か、色んな客から差し入れられた。

 お店からも一杯サービスされた。

 理由を聞けば、普段から迷惑していたらしい。

 それを成敗してくれた事への礼らしいが……あ、店の天井に穴開けちまった。


「構わんさ。なんなら、迷惑客は成敗されて、あの穴に嵌るとか喧伝すっから」


 はっはっはっと、豪快に笑う店主。

 実に逞しい。

 そういや、この騒ぎだと話し所じゃなくなっちまったな。

 どうしようか……。


「あ、あの、うちに来ませんか?」


「……はい?」


「話しできる状況でも無いですし、私は実家住まいなので両親に話しとか、あとお礼とか」


「あー……ご両親には話しておいた方が良いか。それと礼は要らねぇぞ」


「で、でもですね」


「うちの大事な受付嬢に絡んで来たんだ。しかも実力行使と来たしな。冒険者間のトラブルで片づけるだろうし……」


「だろうし?」


「多分、あいつらはもっと酷いことになってるはずだから……」


 誰にやられてるって? ヤバメイド達にだ。

 問題無いと判断したから出てこなかったんだろうが、護衛対象に絡んで来たんだから、何もしないわけがないと思う。

 逆信用してるからな。

 悪い方の信用とも言うけど。

 ……一応念のため、頼んでおくか。

 とりあえず、嬢ちゃんを家まで送って、お礼は辞退して帰路に。

 その間にヤバメイドさんにお願いをして……え? もう対処済み? あ、魚の餌っすか、そうっすか。

 あいつら、冒険者みたいだったけど。

 え? 帝国内乱時の行方不明者リストに混ぜるように手配した? こっっわ!

 皇帝にも顔が利くヤバメイド……あ、だからヤバメイドか。

 皇帝陛下、なんか一平民がすんません。

 こうして一夜明け、クランに顔を出すと、支部長から呼ばれた。

 今度は一体何だってんだ!


「受付嬢から志願があったんさね。うちとしちゃあ痛手だけど、優秀な娘だからねぇ。あんたさえ良ければって話さね」


 資料を見せて貰い――え? どゆこと!?

 志願者は、若い嬢ちゃんだった。

 意味が分からん。


「昨日、助けたんだって? その恩返しらしいさね。成人者とはいえ、年齢が年齢だから、親御さんにも確認はとったさね」


「なんて?」


「問題無いって事さね。まぁ、良くしてやんな」


「まぁ、懸念事項の一つが片付いたし、文句は無いんだけどな、冒険者の方がなぁ」


「それも問題無いさね」


 そう言って手渡された資料を見て、マジか……と思った。

 他クランの有名冒険者ファミリー。

 元々は夫婦ペアだったが、子供が成人してからは家族でパーティーを組んでる珍しい冒険者だ。

 実直な働きを見せる冒険者で、夫婦はどちらもAランク。

 文句の付け所がねぇ。


「あの娘に感謝するんさね。声掛けしてくれてたみたいだよ」


「マジかぁ」


「とりあえずは一安心さね。いやぁ、ウチのクビも繋がって何よりさね」


 ん? なんか今、聞いてはいけない単語が出なかったか?


「支部長よぉ、あんた今、首がどうって」


「ん? ああ、今回の件は、ウチのクビも掛かってたんさね。見つからなかった場合、ウチが同伴者になるのが確定で、支部長は補佐が繰り上げって話さね」


 自分でも自覚するほど、わなわな震えだす。


「そういう事は、もっと早くに言えぇぇぇえええええ!!!」


 怒鳴った後、勢いよくドアを閉めて、支部長室を後にする。

 そうして一カ月後、選抜人員は帝都を後にした。

 ただ一点だけ、なんか増えてね?



















 SIDE・受付のお嬢ちゃん小話


「お父さん、お母さん、私、シンビオーシスに行く!」


「ぶふぉー!」


「あんた汚い! で、どうしてそうなったんだい?」


「あの人、私がいないとダメダメになりそうだから!」


「なっ、そんな男と――」


「今日ので惚れちゃったんだねぇ。もしくは、自覚したのかね」


「へ?」


「ちょっ、お母さん!」


「前からちょくちょく話題に上がってたけど、そういう事なんだろう? でも、苦労しそうにも見えるんだけどねぇ」


「ゆるさ――」


「うーん、愚痴は言ってたけど、仕事はきっちりやる人だし、新人冒険者からの受けは良い人だよ。面倒見も良いし」


「なら安心かね」


「二人とも、俺の話をだな――」


「射止められそうかい?」


「狙った獲物は逃がさないから。狙い撃つよ」


「物理的にはダメだよ? お父さん、犯罪者の娘とか泣いちゃうよ?」


「あんたは……ちょっと正座おしっ!」


「あはは。でも、ハートは狙い撃つ!」


「頑張んな。後、近況報告は偶にしてきなさい。ついでに、狙い撃つ人物の年収とかも」


「あの人の年収? 最低でも、お父さんの3倍以上はあるけど?」


「ぐはっ」


「生活は安泰かね。あんたも受付嬢だし」


「少しの間は共働きかな。20歳になるまでには子供産みたいと考えてるよ」


「計画性があるなら何も言わないよ。そうだ、例の人達とは話を付けておいたからね」


「お母さん、流石だよ」


「主婦友がいなくなるのは寂しいけどね」


「あはは、ごめんなさい」


「お父さん、話に着いて行けないんだけど?」


「「まぁ、お父さんだからね」」


「二人共酷くない!?」

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