第261話 第二次開発計画を開始する!

 各国での宴の参加も終わり、無事に帰国して数日、会議用天幕内に主要人物が招集された。

 シンビオーシスの王である自分と、ブラガス、ウォルド、八木、老亜人、人化銀竜に、各大臣職と、東西南北の四大諸侯。

 給仕はナリアとイルリカが務める。

 それと、婚約者の中からは、正妻候補――事実上正妻状態――のミリアを筆頭に、リリィ、ラナ、リーゼ、ミナ、リュール。

 この6名の婚約者は、各国への影響力が凄まじい。

 だから参加なわけだが、何故か、蛍、詩音、優華、桜花も参加している。

 それと特別枠で、潤と輝明に加え、クッキーさんも参加だ。

 今回の開発計画からなる娯楽発展に、潤が大いに活躍してくれるだろうから。

 つうか、しろって言いたい。

 それとクッキーさんが参加なのは、服飾関係で必須だと考えたから。

 え? ギルドの清浄化はって? 清浄もなにも、関係者全員消えちゃってるからさ、物理的に。

 なので、現在は立て直しと育成と招致が主な仕事だな。

 そんな大人数の会議が開始される。

 尚、序列三位の古株メイドが司会と進行役をやってくれてる。

 護衛込みだから、大変に有難かったらしい。


「それでは、大会議を開催いたします。初めに、シンビオーシス王からのお言葉です」


「皆、忙しい中、集まってくれて感謝する。そして四大諸侯は、都合をつけてくれた事にも感謝だ。これからの開発は、貴公らの協力無くしては、成り立たないと考えている。どうかこれからも、力を貸してくれ」


 感謝と協力の挨拶を済ませて、一度座る。

 偉そうな物言いをしている風に見えるが、これ、各国の王達からの助言なんだよね。

 威厳は百歩譲ったとしても、へりくだる真似だけはするなって。

 例外は家族の人命救助に関してのみらしく、それ以外は少し偉そうなくらいで良いとの事。

 うーん、王って難しいなぁ……。


「陛下のご挨拶、誠に素晴らしく。では次に、今回の議題に関して、まずはブラガス様からのご説明です」


「ご紹介に預かりました、宰相のブラガスです。四大諸侯殿には、以後お見知りおきを。さて、今回の議題ですが、公都第二防壁内の開発目的について、まずはご説明いたします」


 第二次開発である、第二防壁の建設と防壁内の施設についての説明。

 かなり煮詰めて話し合いをしているが、一部は理解できていなかった部分もあるブラガス。

 なので、娯楽大国で過ごして、この世界に定着した俺達が、足りないと思う部分は説明する流れにしてある。

 尤も、その大部分は、熱く熱弁していた潤だけどな。

 順で足りない部分を、知っている人物が話す流れだ。


「陛下はまず、娯楽が少ないと考えておられます。心のゆとりと、心労や心痛の発散も目的として組み込んでおります」


 ブラガスの説明に、南部諸侯から手が上がった。

 この説明だけで手が上がるのかと、ちょっと感心しながら、行く末を見守る。


「宰相閣下殿、一つお聞きしても良いだろうか?」


「なんでしょうか?」


「先程の説明、他にも意図があると考えて宜しいのですかな?」


 ブラガスがこちらに視線を送って、判断を仰いで来た。

 その視線に対して、軽く頷いて応える。

 それだけで意図を理解したブラガスは、質問の答えを返す。

 しっかし、下手に話せんのは、何とも……な。

 これ、下手に疲れるし、地味にストレスだわ。

 慣れないといけないのは分かってるけど、慣れるかね?


「先程の質問ですが、経済的中央集権があります。下手に反乱など、起こされたくないですからな」


「耳に痛い。ですが、理解はしました」


 何を理解したのか知らないが、残る三大諸侯も黙ったままなので、とりあえずは進行させていく。


「第二防壁内ですが、南に闘技場とコロシアムを建設します」


「「「「コロシアム?」」」」


 まぁ、聞き慣れんわな。


「巨大球戯場とお考え下さい。そして、四大諸侯への協力の一つとなる議題です」


 ブラガスが言い放った協力という言葉に、四大諸侯の表情が変わる、

 恐らくだが、資金の捻出をしろとか考えているんだろう。

 なのでまずは、その間違いから正していくことにする。


「資金提供を――とか、考えておられますかな? まず先に言っておきますが、開発資金は潤沢です。こちらが、闘技場と球戯場の開発額となりますが、王家はこの建築物を、何十個も作れる財力をお持ちですよ」


 嘘です。

 何十個も作れません。

 精々作れて、後十個が限界。

 それもどっちかだけな。

 ハッタリは大事らしいので、大げさに言ってるだけだ。

 この世界だとまだマシだとは思うんだけど、それでも人件費ってバカにならんのよ。

 一からの首都造りだからな、湯水のごとく資金が消えて行ってるのが現状。

 ぶっちゃけ、レア素材狩りの出稼ぎも考えてる位だ。

 あ、行くのは神喰と八木な。

 あー、俺も魔物狩りしてぇ……。


「なので、四大諸侯殿には、建設後のご協力をお願いしたいのです」


 あ、馬鹿な考えをしている間に、話し進んでるわ。

 会議に集中しないとな。

 そしてブラガスが、協力の内容を説明して……暫しの沈黙。

 次に手を上げたのは、北部の諸侯だった。


「つまり我々は、野球なるものに参加しろという事ですかな?」


「間違っておりませんが、利益は考えていますよ」


 無償奉仕は御免被るという言い方に、ブラガスは即座に反応して返す。

 そして、利益供与の話に移る訳だが、この話に乗らない貴族家などいないだろう。

 何よりも面子と栄誉を大事にするからな。


「先程も申した通り、建築費は要りません。但し、建築後は整備に関する維持費が必要となります。ですがこれは、入場料で賄います」


「我々には、一切負担無しか」


「はい。ですが四大諸侯方には、その野球を行うための人員確保と育成をお願いしたいのです。勿論、自腹で」


「なるほど。協力はそちらですか……それで?」


 説明し終わったので、次は利益の話に移る。

 絶対に食い付いてくれる……はず。


「先程も言いましたが、入場料は維持費に回します。ですが、算定上は余剰金が出ます。そちらの一部を、参加費としてお支払いさせて頂きます」


 不都合や想定外の何かも考えた算定表を渡し、目を通す諸侯達。

 一通り目を通したことを確認してから、説明を再開させる。


「入場料の2割は積立金としますが、これは総取り金となります」


「総取り金?」


「勝率が一位と二位の決定戦を行い、勝率の高い方が優勝として賞金を出します」


「三位以下は出ないのですか?」


「出ません。ですが、別にそこまで無償という訳でもないです」


 球場維持費と積立金を差し引いた残りを均等分配すると説明し、その分配金を集めて育成した人員に分配すると説明する。

 その分配金の中には貴族の取り分も含まれると説明。


「ふむ……つまり、分配金の中から、いくら我々の利益にするかは自由だと?」


「それに関しては、こちらも意見が割れております。一つは仰られた通りですが、もう一つは、予め決めておくとの事です」


「上限決めですか」


「はい。活躍した選手なのに、給料が少ないのはやるせないでしょう?」


「確かに。ですが、利益になるのですか?」


「栄誉はつきますよ」


 栄誉という言葉に、四大諸侯全員の雰囲気が変わる。

 やはり食い付いて来たかと、少し安堵だな。

 後は、先行投資と赤字を覚悟できるかだが……。


「先に言っておきますが、これは先行投資が大きいです。時が経てば利益になるとお考え下さい」


「次世代に残すと?」


「そこはなんとも。残せるかもしれませんし、お止めになるかもしれません。ですが、この計画は各国を巻き込ませます。既に話は通しておりますので」


 最後のブラガスの言葉に、諸侯達は諦めの顔になった。

 あれ? なんでだ?


「各国に話を通してる以上、断る道は無いですよね? 事後承諾に近いですよ、これは」


 うん? なんでそうなる?

 疑問符を浮かべてるが、話は進んで行く。

 リーゼに話しが移ってな。


「皆様の憤りはごもっともですが、こうは考えられませんか? 我々の領地は、野球を推進した貴族家だと」


「……なるほど、将来的には悪くない手ですな」


 ごめん、誰かヘルプ。


「(簡単な話ですよ、ラフィ。浸透するまでは続けて貰いますが、浸透後は止めるも続けるも自由です。ですが、国の方針に協力して、推進してきた地であり、発祥地域の一つだと喧伝できますから)」


「(あ、なるほど。どっちに転んでも、将来への布石になる訳か)」


「(はい。資金的な損失は織り込み済みで話を進めているのです)」


 リリィの説明で、今のやり取りに納得した。

 というかさ、この話は前段階でしてないよね? え? した? 何時? ……ああ、宴に参加一日前のクソ忙しい時ね。

 ……ブラガスの奴、わざとその時期に話しやがったな? 忙し過ぎて聞いて無いのも織り込み済みかよ。


「ですが、やはり気に入りませんな」


 うーん、やっぱ反発はあるか。


「事後承諾に関しては、まぁ百歩譲りましょう。問題は、決めかねている部分です」


 あれ? 事後承諾は受け入れんの?


「協力を仰ぐなら、方向性を決めてからにして頂きたい」


「え? そっち?」


「ゴホンッ」


「あ」


 あー、やっちまった。

 これ、段取り変わるなぁ。

 後、序列三位のメイドよ、すまん。

 まぁ、しゃあなしだ。

 意を決して喋ることにしよう。


「あー、方向性に関してだがな、諸侯らの取り分について変わるからだ。それとな、選手の給料もだな」


「先程の説明にありましたな」


「ああ。良い選手というのはな、給料を高くしてやらないといけない。何故か分かるか?」


「この場合ですと、その野球という仕事の意欲に関わる為ですかな?」


「正解だ。だがな、分配金の中からとなると、諸侯らの利益は減る。それを承諾できるか?」


 四大諸侯全てに問いかけるが、反応は様々だ。

 受け入れがたい者、唸って考える者、先の計算をする者、そして頷く者。

 頷いたのは、今問答をしている北部諸侯。

 そして、頷くという事は、このシステムを理解している?


「陛下も人が悪い。要は、実力のある人気者を育て上げるのですな?」


「へぇ、そこは理解してるのか。優秀だな」


「お褒めに預かり、光栄の極みです」


「だけど、その先を見ていないな」


「先、ですか?」


 人気者が出来る――それすなわち、商人が出てくる。

 あいつらは情勢と金の匂いには敏感だ。

 だからこそ、成功者と敗者がいるわけだが、先行投資できる商人がいるならば、成功者となるだろう。

 だからこそ、この場で説明しておく。


「初めは持ち出しになるが、必ず商人が食い付くだろう」


「……はっ! まさか商人に!?」


 笑って答える。

 それだけで、四大諸侯は察しただろう。

 資金の後ろ盾――スポンサーの意味に。

 そして次の手だ。


「選手の団体をチームと呼称するが、そのチームは戦闘服――ユニフォームを統一する。但し、数字だけ変える」


「ふむ、だれがどの数字を着ているかを分かりやすくする為です……あ、まさか!?」


「そう、グッズ化だ。商人はそれで儲け、肖像権と版権代を支払う。肖像権は選手に。版権は諸侯にだ」


「なるほど。良く出来ております。だから先行投資と手弁当なのですな。分配金に関しては、こちらの利益が無くとも問題無いようにすれば良い。版権代があるのですからな」


 ニヤリと笑って答える。

 ここまで言えば、もう答えは決まっているだろう。


「陛下の政策に北部はご協力します」


「南部も同意します」


「東部も問題ありません」


 三諸侯からの同意は得た。

 だが、西部は渋い顔だ。

 何か問題があるのか?


「いえ、拒否しているわけではありません。ですが陛下、我々も球場を作らねばならないのでは?」


 なるほど、懸念はそこか。

 先行投資金が莫大になると考え、その上で建築費を算出したわけか。

 だが、その心配は無用だな。


「第二次と言っただろう? 公都の完成もまだ遠い。直ぐ開発に移る訳ではない」


「では、何時頃で?」


「来年の春以降」


「冬は避けますか。補助金は出るのでしょうか?」


「貴様っ」


 西部諸侯の言葉に、北部諸侯が怒りの声を上げるが、それを手で制す。

 尤もな疑問であり、当然の権利だ。

 でもな、この場で言うのは失敗だとは思う。

 何故って? 王家に仕える者達の視線が半端ないからだ。

 あのブラガスですら、射殺しそうな視線を向けているくらいだからな。

 だからそれも、手で制す。

 立った一薙ぎで、嘘みたいに引く。

 ホッと胸を撫で下ろした西部諸侯だが、そう甘くは無いよ?


「当然の権利だが、今言う事では無いな。それは文官達の仕事であり、王に直訴する話じゃない」


「うっ」


「だが、何も無しでは同意しにくいだろう。だから、全諸侯に建設費は出させない」


「陛下っ!」


 ブラガスが怒っている様だが、気にせず続ける。

 だって、西部諸侯への罰はこれからなのだから。


「しかし、同意した三諸侯に示しがつかないのも事実。よって、西部諸侯への罰として、領地へ帰還後、直ぐに人材募集と育成を命じる。他の者達よりも資産の先行投資を罰とする」


「……はっ。ですが、宜しいので?」


「なにがだ?」


「私が先行して集めれば、その分の差が出ると思いますが」


「俺は西部諸侯に強制しただけだが? 他の三諸侯は春からでも良いし、先行して鍛えても構わない。裁量権を取り上げたのが罰だが?」


「そうでしたか。陛下もお人が悪いですな」


「そうかね」


 そう、西部諸侯の罰は便乗したに過ぎない。

 これで本気度が伺えるからな。

 一年近く手弁当になるが、鍛え上げるには十分だろう。

 だからさ、三諸侯は西部を睨んでやるな。


「それともう一つ。徒競走場に関してなんだがな」


「「「「まだあるんですか!?」」」」


 今、反乱とかになると面倒なんだよ。

 だからさ、この一年位は徹底的に力を削がせてもらう。

 最終的には返すから、我慢してくれ。

 尚、この後の話にはクッキーさんもノリノリで参加した。

 とは言え、と同じにするかは悩みどころなんだよな。

 でも、商人は絶対に食い付くから、利権関係はきっちりしないといけない。

 そこだけは、再度言い聞かせておこう。














 会議後の四諸侯は、揃って溜息を吐き、ちょっと震えていた。


「なぁ、あの陛下って末恐ろしいな」


「私も失態だったよ。少し甘く見ていた」


「我々の力を削ぎに来たな。それも期間限定で」


「その分の見返りはデカいがな。そう思うだろ? 南の」


「私は初めから争う気はないがね。先の戦争で怖さを知ったつもりだったが、内陸部の南部貴族が征伐された時間を知って、改めて怖いと感じたよ。まぁ、今回もだがね」


「だがあの陛下なら、地方を粗末には扱うまい。問題は調整か」


「それを我々に望んでいるのだろうよ、西の」


「南もそう思うか。北と東はどうかね?」


「東と北は、かなり調整が入ったからね。元辺境伯たちは別国になったしな」


「北はまだ良いだろう。こっちは少し揉めたからな」


「その揉めた中で陛下に見出されたのだから、文句はあるまい?」


「南の言う通りだな。しかし、どうすっかなぁ……」


 四諸侯は、手弁当の捻出にそれぞれ頭を悩ませながら帰領の途についたのだった。

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