第260話 各国の宴に国賓でー後編ー

 ランシェス、聖樹国、皇国と、1日に三か国の宴に参加し、次は傭兵国の宴に参加となっているシンビオーシス王族だが、ゲートでの旅程なので、問題無く時間通りに到着。

 どこも変わらぬ挨拶を聞き、そして行い、現在は傭兵王と歓談中なのだが、傭兵国のパーティーはちょっと変わっていたので、ちょっと聞いてみることに。


「貴族の数か? まぁ、傭兵国はこの世界で一番、貴族の数が少ねぇからなぁ」


「貴族以外に、平民の上級官僚と傭兵国の団長と幹部に軍幹部。普通じゃありないよなぁ」


「それくらいしないと、今の参加者の半分以下だからなぁ」


 傭兵王の言葉に、じゃあ貴族増やせば良くね? となる訳だが、そこは国民性もあるので不可能だったことを思い出した。

 現在の傭兵国は、こちらが以前に話した内容を精査して、改革の真っ最中である。

 その中で、少々強引に貴族家を増やしているので、貴族からの反発が強い傾向にある訳だが、それに加えて国民からの突き上げも多少あるらしい。

 逆に、傭兵たちからの受けは良いらしい。


「自分の団から貴族になったやつもいるからな。しかも、団に所属したままときた。特に何かある訳じゃねぇけどな、箔はついたって話だ」


「貴族からの反発は分かるとして、なんで国民から?」


「税金の話っていやぁ、分かるか?」


「あー……、良くある話の方で?」


「そうだな。まぁ、最初だけだ。今は落ち着いてるし、理解も得られてはいるが、一部がな」


 前世でも良くあった話だが、納めた税金の不透明な使い方や意味のない使い方などに反発する話だ。

 前世だと、第三セクターとか、年金の無断転用や消失とか。

 後は、政治家の給料や意味不明な法律による搾取とか。

 そういった可能性があるから反発してたらしいが、それなりに機能し始めたら、ご老人達老害以外からの賛同は得られたそうだ。

 では貴族は? それに対する回答が、今回の宴である。


「多少の日程調整で参加して貰えるってなら、こっちとしちゃあ特しかねぇからな。そっちの利益は……息抜きか?」


「出来ているかは分からんけどな。まぁ、今日だけは楽だけど」


 ミリアとリュールをエスコートしながらの会場入りだったが、貴族が少ないお陰で、変に気を張らずに済んだというのがあった。

 それに加えて、対応相手が少ないので、ミリア達も交代しながら応対していたりするし、こちらに声掛けする貴族も少ない。

 ただ、ちょっと大変なのは、リュールやヴェルグ、それにナユとリアだ。

 全ての冒険者ギルドのお膝元なので、高位ランクの、しかも女性冒険者。

 独身男性の群がり方が半端じゃないのだが、別に口説いているわけではない。

 つうか、口説いてたら、間違いなく傭兵王の胃が死ぬ。

 シンビオーシス王の婚約者なのだからな。

 じゃあ、なんで群がってるのかって? そんなの決まってる。


「ナユ様は、流石の高位ランク者ですね。あ、もしお友達がいれば、今度お茶でもどうかと」


「リュール嬢は相変わらずですなぁ。そういえば、嫁がれるお国に、独身女性は少ないのですかな? ああ、いえ、他意は無いのですがね」


「リア様はお顔が広いと有名なのですが、どれほど広いのでしょうか? あ、いえ、興味本位で聞いてみたくてですね」


「ヴェルグ殿は文武両道だとか? そんな貴方様にお聞きしたいのですが。ええ、せがれは何故か間が悪くて……」


 他にも色々と、あれやこれやと色んな手で、女性冒険者の紹介を狙っているのだが……あれ? そういやなんでだ?


「なぁ、ジャバ王。普通、夫より強い可能性のある女性冒険者を紹介してって、なんか変じゃないか?」


「そこも国民性だな。帝国も実力主義社会だが、女性には厳しい国だろ? だが傭兵国だと、この世界で一番緩いからな」


「それと何の関係が?」


「身分よりも武なのさ。最近は、文武だけどな」


「そういう。他の国だと、僕のお家が――って感じだからなぁ」


「俺んとこだって、絶対に無いわけじゃねぇぞ? 極端に少ないってのと、バレたら村八分確定だからって話だ」


「家の存続は大事だし、上にも行きたいけど、搾取は認めないか……。他の国の貴族にも聞かせてぇなぁ」


 この国の貴族の爪の垢でも煎じて飲めば良いんじゃね? なんて思ってしまうわ。

 その後も傭兵王と他愛ない歓談をしてから別れると、色んな傭兵団と挨拶を交わすことになって、お礼を言われた。

 仕事ありがとう、儲けさせてもらったと話され、そして最後は何処も同じで、またのご利用お待ちしてますっ! ――って言われたわ。

 言ってる事は間違ってないと思うのだが、この場で言う事かと思ってしまうのも仕方ないよね? 後、傭兵たちも、商魂逞しいと思ったわ。

 そんな感じで、他の三国とは違って、終始穏やかに宴は終了した。

 そして翌日からは、ゆったりと竜王国へと向かい、余裕を持って竜王国王都へと入国した。

 言い忘れてたけど、どの国も入国審査はあるぞ。

 国賓招待されてるから、入国審査待ちは無いけどな。

 だから半日、時間的余裕が出来たので、婚約者全員連れて観光したよ。


「そういや、竜王国王都の観光って、したことないかも」


「そうでしたっけ? ラナの記憶では、色々と買っていた記憶があるのですが?」


「それはほら、探してた食材が沢山あって、竜王国王に頼んでたからさ。自分の目で見てとかはしてないぞ」


「そう言われると、そんな気がするのです」


 他愛もない話をしながら散策していき、今回の買い物は俺主導となった。

 なんでかって? 言うまでもないだろう。

 竜王国の食材=前世の日本食にそっくりなのだから。


(生産者に技術者とか、引き抜けないかなぁ。最悪は誘致でも良いから欲しいよなぁ)


 竜王国王に直訴するかも考えながら、各々に好きな物を買い込んでいく。

 お代? 気にしたら負けです。

 まぁ、人数も人数なので、軽く白金貨数枚は消えたとだけ言っておく。

 暫くは買いに来なくても良いようにな。

 因みに女性陣は、やっぱりデザート系に走ったとも言っておく。

 そんなこんなで翌日、変わらない挨拶をお互いにやり終えて、現在は竜王国のオーディール王と歓談中である。


「なにやら、結構買い込んだと聞いたが?」


「竜王国の食べ物は美味しいですから」


「それは嬉しい事を言ってくれる。だが、無くなりかけてから買えば良いだろうに」


「もう色々と立場がですね……。それに、竜王国からの商人の流入は春頃になるでしょうから」


「どれくらいなのだ?」


「まだ3割も……。ただ遷都場所は、冬でも建築は可能ですから、資材集めが大変ですね」


「ふむ……ならば、建築関連で手を回そうか?」


「それよりも、生産者や技術者が欲しいです。主に食の」


「ものによるな。流石に一部は独占したい」


「調味料系と米で」


 結構な無理難題を言ってみる。

 唸りながら考えこむ竜王国王。

 そこにスッと入って来た一人の貴族。

 あれ? マナー違反じゃね?


「ん? ああ、そう言えば紹介してなかったな。ランシェスで公王のお父上が付いている役職に近い職――と言えば、分かって貰えるかな?」


「そういう事ですか。となると、何か妙案があると?」


「お初にお目にかかります。王都郊外統括管理をさせて頂いております。なにやらお困りごとのようですが、お聞きしても?」


 多分、ある程度は分かった上で聞いて来てるよな、これ。

 どう答えるのが正解だ? これは流石に分からん。

 誰か、ヘルプッ!


「ラフィ様、どうされたのです?」


「ラナっ、助かった。実はな――」


 掻い摘んで説明すると、お互いに補佐が付くような形で話を進めることになった。

 まず米についてだが、引退した生産者に技術指導込みで声をかけて貰える事になった。

 条件は指導3年、報酬として三男に畑と田んぼをそれなりにやって欲しいとの事。

 衣食住は完備で、報酬の分に関しては、豪農ほどの物は要らないと言われた。


「何故に?」


「いくら報酬とはいえ、新参だからな。引退した老夫婦と三男の家族を送り、全部纏めての報酬だな」


「本人達に確認しなくて良いので?」


「確認は済んでおりますよ。お国を興されたと聞きましたので、遠くない未来にお声が掛かると思っておりました」


「聞いておらんのだが?」


「書類は回しましたが?」


 何それ? そんなの見てないよ? って顔をするオーディール王に対して、事後承諾ですけどね――と付け加える相談役貴族。

 オーディール王、思わず地団駄を踏みそうになるが、何とか思い留まる。

 しかし、なんと言うか、オーディール王と俺って、かなり似た者同士なのかもしれない。


「陛下は見張りませんと、直ぐにサボりますから」


「サボってないっ。休憩を多めに取って、気分転換しているだけだっ」


 かもしれないじゃなく、似た者同士だったわ。

 優秀な側近に、忙殺されるほどの仕事を振られ、逃亡癖が出来てしまうという。

 思わず肩に手を置き、それに気付いたオーディール王に対して、静かに首を振る俺。

 それで察した様だ。


「シンビオーシス王も苦労しているのか……。何か対策は?」


「しても無駄です。正論で負かされるのがオチですよ」


「くっ! 味方はいなかったかっ」


「とりあえず、最優先書類から片付けて、自転車操業しながら休憩する事を進めます。最低限の必要書類さえ終わっていれば、正論は躱せますので。あれ? これって対策か?」


「対処法だな。解決法ではないが、無いだけマシか。書類に関しては、直ぐに許可を出すことにする」


「なんか仕事増やしてすみません」


 お互い様だろう? と言わんばかりに、オーディール王は静かに頷いた。

 そして思った。

 シンビオーシス公国、オーディール竜王国、イジェネスト傭兵国の三王は、残念王だと。

 俺は決して王向きではないと思っているので、自虐で残念王入りさせとく。

 言ってて虚しいけど、これが現実だ。

 その後も歓談とは似つかわしくない話をしていくが、ある程度時間が経った所で一旦お開きにして、竜王国貴族を交えての歓談へと移る。

 傭兵国程ではないが、竜王国も貴族相手は楽な部類で良かったと言っておく。

 嫁斡旋――強制――が少ないのは、なんてすばらしい事か。

 完全に無いとは言えないが、他国に比べれば遥かにマシだったので、それなりに楽しんでから宴はお開きに。

 そして翌日、帝国へと向かう準備をしていると、オーディール王から羊皮紙を一枚手渡された。


「米と調味料関係者の出向書類だ。すまないが、こちらに不利益が無い人員で、且つ良い人員を選抜させてもらった」


「無理を言ってすみません」


「構わんさ。それとな、貿易に関してだが、そちらで生産された物は陸路限定で、周辺国のみにして欲しい」


「既得権益ですか。まぁ、こちらも無理を言ったので呑みますよ。どうせ、直ぐには不可能でしょうし」


「一部は時間が掛かるからなぁ。それとだ、代わりと言っては何だが……」


「マヨネーズですか> それとタルタルソースもですかね。そちらはこのレシピで。タルタルはマヨネーズの派生ですから、マヨネーズから作って下さい」


「うむ、恩に着る。こちらの販売は周辺国だけにしよう」


「お互いの既得権益ですね。その方が、今は良いんでしょうね」


「いずれは、な――」


「そうですね。いずれは、ですね」


 お互いに意味深な言葉で締め括った後、握手をして別れ、帝国へと出立する。

 帝国の宴までには結構な時間の余裕があるので、竜達に山脈越えを頼んでから、帝国内に降り立ち、そこからは馬車の旅を楽しむ。

 途中、ちょっとだけややこしい事もあったが、竜送便と馬車を駆使して、宴の3日前に帝都へと到着。

 夕方に着いたので、実質は2日前かな?


「どうする? 2日とも観光?」


「あー、俺は1日は無理だな。ちょっと予定がある」


「それでしたら、私のお姉様とお会いしませんか? 以前からお茶会があれば参加してみたいと仰られていたんです」


「俺も参加した方が良い?」


「はい! ラフィ様がご参加されたら、きっと大喜びです!」


「じゃ、1日はミナの予定に合わせるかな」


「もう1日は?」


「ギルドとクランに、もしかしたら……ってのが一つだな。誰か付いてくるなら、悪いけど今回はご指名だな」


 珍しいといった顔になるが、もしかしたらの件とご指名で、何となく察した様な婚約者達。

 いつも察しが良くて、大変に助かります。

 尚、ご指名の護衛だが、ヴェルグ、ウォルド、ナユ、そしてイルリカ。

 王族たるもの、護衛メイドは必須らしい。

 こうして1日目は、ギルドとクラン、それともう一つの用事で潰れ、次の日はミナのご要望で、略式的なお茶会を開催した。

 ……したのだが、血脈的には義姉になるミナの姉に、とても嫉妬されたよ。

 愚痴も凄くて、全員が割とドン引きだったとも言っておく。

 ただ、話を聞く限り、旦那さんが悪いんだよねぇ。

 隠れて愛人を何人もとか、借金までとか、同情は出来る話ではあった。

 皇帝に相談すべき案件かな?

 うん……全力で全員から止められたわ。

 そんな感じでお茶会は終了して、本命の宴の日に。

 どこも変わらない開会の挨拶を聞いて、来賓の挨拶をして、各国と同じ様に皇帝と歓談中だ。


「参加してくれて大変に有難いが、大丈夫なのかの?」


「帰ったら仕事尽くしでしょうね。いや、これも半分は仕事ですかね」


「その通りよな。やる事が多くて敵わん。ガイズが内政向きで、本当に助かったわ」


「羨ましいですねぇ」


「余の方こそ、公王が羨ましいがの。信のおける臣下に、全て任せて出て来れるのだからの」


「そうですかね? いや、そうなのでしょうが、出向者もいますから」


「父君か。あまり、心労をかけぬ方向でな」


「配慮します。ところで皇帝、すこーし、おいしめの話があるんですが」


「ほほう? そこまで言うのは珍しいの。怖くもあるが、楽しみだの」


 何をするのか話す前からの食い付きが半端じゃ無かったので、勢いのままに概要を説明。

 次に、最低でも必要な人種や人員、土地と建物等を話していく。


「ふむ……確かに面白い――が、何がおいしめなのか分からんな」


「では次は、メリット、デメリット、問題点を話しますね」


 まずはデメリットから。

 これは単純な話で、問題が起きるのと、先行投資額が高い点。

 ただどちらも、最終的にはデメリットでは無くなると伝えた上で、メリットの話だ。

 今回の話は、資金中央集権とも言えると話してから、国家プロジェクトで国営にし、グッズを制作して、国家認定した商店でのみ販売とする。

 そこまで話すと、皇帝も気付いた様だが、同時に問題点にも気付いた。


「幾つかの問題は大変になるの。特に雇用に関しては……」


「でしょうね。だからこそ、帝国が一番なんですけど」


「どういう事だ?」


「覚えてますか? 知らなかった話を」


 ダグレスト終戦会議で謁見した獣人族の話を、誰にも意図が伝わらないように話していく。

 聞き終えた皇帝は、ニヤリと笑う。


「公王お主も悪よのぅ」


「いえいえ。知って尚、話に乗ってくる皇帝程では無いですよ」


「「ふふふふ……」」


 二人して笑い、宴の後に自室で飲みながらでも話を詰めて話そうと約束して、その後は他愛もない話をしていく。

 これ以上は、誰かに聞かれるとお互いに困るって心情からの決断だ。

 だからではないが、何故か護衛メイドの話になった。

 いや、必然かな?


「ところで、元孫娘は何故に戦闘侍女となっているのだ?」


「うちの筆頭侍女がやらかしました」


「嫌がってでは無いのだな?」


「あまり言いたくは無いのですが……本人の希望もあって、ミリア達にも話を通した上で、妾となりました」


「……は?」


 そういう反応になるよねぇ……。

 俺だって、ミリア達が許すと思ってなかったんだしな。

 思い返していると、放心状態から復帰した皇帝から詳しい説明を要求されて、分かる範囲で説明する。

 ミリア達とのやり取りについては全く知らんので、ミナにでも聞いて欲しい。


「何というか、公王には女難の相があるのではないか?」


「どうなんでしょうね? 女運はミリア達を見れば良い方と言えますが、女難の相は否定しづらいんですよねぇ」


「帝国貴族も、今回の宴の席でやると思うがの? これは上に行くほど、避けては通れぬから可笑しな話よな」


「激しく同意ですね。で――あるんですね?」


「あるの。間違いなく」


「この場にイルリカは、悪手だったか……」


「そうでもないがの。永い事上にいるとな、気配や動きで分かる。何家かは挨拶程度に変える様だぞ」


「それは重畳。でも、多いんですよね?」


「それは仕方ないの」


 軽くため息を吐いた後は他愛ない談笑へと戻り、ほどなくして別れると、貴族共が群がる群がる。

 ただ中には顔見知りも出来ていたので、少しだけ長めの時間を取って、嫁にどうですか? 猛攻を遅延させることに協力して貰えたわ。

 まぁそれでも、焼け石に水程度だったけどな……。

 はぁ……ほんと、しんど。

 その後、宴は何事もなく終わり、夜には皇帝一家と我が家を交えて、軽く懇親会をしながら、宴中に話した事の詳細を詰めて行く。

 結果としては上々であったが、やはり時間は必要と判断した。

 逆に言えば、時間の問題とも言うがな。


「良き話であった。しかし、貴族の習性を利用するとはな」


「だからこその、資金中央集権強化ですよ。国家運営ですから、栄誉に関して賞金を出す必要性も無いですしね」


「だがそれでは、いずれ止める者も出よう。水物と考えて、最終的に赤字にならぬ運営が必要だな」


「草案を更に詰めて、書類を送ります。ただ出来れば……」


「素通りが好ましくはあるよの。……ふむ、やはりあれかの」


 皇帝は少し考えた後、皇族の紋章が入った短剣を差し出してきた。

 いや、これは流石に不味くないか?


「構わんよ。護衛は誰か付くであろうし、こちらに来るのは信のおける者であろう? それにだ、用が済めば返却すれば良いだけの話だからな。代理人の証として、これ以上の物はなかろうて」


「皇帝が良いのでしたらお受けしますが……。本当に大丈夫ですか?」


 再度確認するが、問題無いと言われてしまい、礼を言って終わりにする。

 話しを戻すが、王族や皇族の紋章が入った軽装類は、身分の証明であったり、信用と信頼の証でもある。

 悪用すれば、子爵程度だと何もできない程の効力を持っているわけだが、それを預けてきたわけだ。

 しかも、城への通行証代わりとして。

 やる事が豪胆だなぁ――と思ってしまうのは、誰に聞いても同じ意見だと思う。

 だが、この豪胆さこそが、帝国を長年治めて来た秘訣の一つなのだろう。

 こうして、皇族家紋入り短剣を受け取って、少しの雑談の後にお開きとなった――わけではなく、少しだけ、イルリカと皇帝一家だけにして、別室で待って、挨拶を済ませて解散となった。


「イルリカ、家族として、きちんと会えたか?」


「ご配慮、大変に恐縮です。そして、心からの感謝を」


「こんな時まで、侍女であろうとするな」


「……では失礼して。ありがとうございました、公王陛下。もう一度、家族と話せるとは思いませんでした。本当に、ありが、ぐすっ……ありがとう、ございますぅ」


「あー、泣くな泣くな。またいつでも会いにくれば良いさ。俺が所用で来る時は、専属にでもしてやるから」


「ぐすっ、はいっ!」


 やはり毅然としていても、未成年の年相応の女の子か。

 妾やなんだと言うが、あまり気にせずにいて欲しい――あれ? 今、いくつだっけ?


「13にはなりました」


 やっべぇ……ロ◯コン疑惑が浮上しまくりじゃね!? あ、いや、三歳差なら問題無かったんだっけ? ……ミリア達が認めたって事は、年齢的にも大丈夫って事だよな。

 ……潤と輝明には揶揄われるだろうから、お仕置きの準備だけしとくか。

 そういやシアって、まだ10歳だったよな? しっかりしてるから忘れそうに――シアの時点でロ◯コン確定じゃんか。

 ……止めよう、この考えは良くない。

 好きなんだし、年齢は――絶対に気にしないとは言わないけど、気にし過ぎるのは止めだ。

 相手に失礼だしな。

 容姿や体型は……うん、これは気になるから仕方な――じゃねぇ!


「?」


「あー……なんでもない。それとな、まだ成人前なんだから、甘える所はきちんと甘えるように」


「ええっと……その、侍女長が――」


「ナリアは成人してるし、なんか特別だから! 勿論、身になる事は率先してやれば良いし、仕事もきちんとしてくれれば、ある程度は自由で良いんだぞ? 後な、俺、ナリアの雇い主」


「あ、そう言えばそうでした」


「うん、ちょっと悲しいよ、俺……」


「す、すみませんでしたぁぁぁっ!」


 こうして夜は更けて行き、少し宥めて就寝。

 翌日の午前中には出発して、シンビオーシス北部の代表貴族家の宴に参加した後、西部にもよって同じ様な宴に参加して、建設中の公都へと帰還した。

 帰還して執務天幕に戻り、これまでに参加した宴を振り返って思った事は一つ。


 ――もうな、嫁斡旋してくなっ!――


 この一言に尽きるわ。

 さて、明日はゆっくり休んで、明後日からまた決裁の日々だな。

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