第248話 秘密は皆で共有しよう!

「知らない天井だ」


 ……うん、馬鹿な事を言ってないで状況確認だ。

 意識を落としたのは自覚している。

 そして、今いる場所は天幕の中。

 ……誰かに運ばれた記憶は無し。

 結論――。


「いくらなんでも、気ぃ抜きすぎだろ、俺……」


 未だに仰向けに寝ながら、額に手を当て、自分に呆れながらも反省。

 ……よし、反省終わり! 起きて色々と確認作業だ。

 上半身を起こして立ち上がろうとすると、服を小さな手に掴まれた。

 ……サァーっと、血の気の引く音がした気がする。

 確認したくないが、確認しないと先にも進まない状況なので、無実を信じて掛け布団をめくると――。


「……イーファ? しかも、省エネモードの幼女姿……」


 本当の幼子の様にして眠るイーファが、何故か一緒に寝ているという不思議現象。

 ここで、まだ寝惚けてるなと思い、頭を軽く振るう。


「うん、よく考えたらありえんわな。全部終わったとはいえ、ここは戦場なわけだし」


「うぅん……うみゅぅ……すぅ、すぅ」


 可愛い寝顔だったので、ほっぺを軽くぷにぷに。


「ふにゃぁ……すぅ、すぅ」


 うむ、かわゆす! 堪能できたので起き――あれ? 服を掴む手の力が強くね? いや、マジで離さねぇんだけど!? ちょっ! 誰か、ヘルプ・ミーッ!!


「くっ、くははっ! 何やってんだよ」


「神喰!? いや、この際だ、贅沢は言わない。ちょっと手伝え」


 なりふり構わず、神喰に助けを求めるも、返事はNOと言われてしまう。

 ははは、面白いこと言うねぇ、こいつ。

 そういう態度を取るなら、こちらにも考えがあるのだよ。

 リエルが暫くの間は低処理状態だからと、置き土産に置いて行った、進化版のこいつがなぁ!


「死ねっ。極痛監獄・改零式ペインプリズン・ゼロカスタム!」


「………………!!! …………!」


「はははっ! 何言ってるか、わっかりませーん」


 以前の極痛監獄ペインプリズンは、別で遮音結界などを展開させなければならなかったので、リエルが改造していたのだよ。

 全部一度に展開可能で、極弱~極強の調整も簡単に出来るようにもしてある、神喰専用お仕置き結界になぁ!

 因みにだが、こちらの声は結界内の相手に届く仕様にもなっているので、聞こえないなんて事は無い。

 これぞ、原初流嫌がらせ百八式の一つ【痛い痛い? 死ねっ】である。

 尚、他の者に使う時は、極弱から徐々に強くなっていく。

 神喰仕様には、極弱は搭載されていなかったりもする。

 それと、現在の発動の強さは中でもある。

 色々とバージョンアップされている結界なのだよ。

 だからさぁ、ツクヨさんや、引かないでくれませんかね?


「遅いから見に来たら、神喰の顏が涙と鼻水に加えて、よだれ垂らして、私に向かって懇願してくる態度を見せたら、普通に引くわよ」


「うーん……姿も見せない結界に改良すべきかな?」


「終わった後の無残な姿を見そうで嫌ね。それより、起きたら早く来なさい。皆、お待ちかねなんだから」


「その前に、ヘルプ」


 ツクヨに現状を見せて、何故、神喰いが今の現状に陥ったかを正しく認識して貰えた。

 溜息を吐きながらも、神喰に、あんたが悪い――と、目で訴えた後、イーファの手をどうにか離す手伝いをして貰い、起き上がって自由を得る。

 うん、自由って素晴らしい!


「馬鹿言ってないで、早くしなさい。全く、これだから原初の系譜は……」


「うん? ……あー、もしかして、流れた?」


「少しだけよ。あの子達には内緒にして上げるから、早くしなさい」


「うっす」


 どうやらツクヨに、原初関連のあれこれ――特に、ゼロのあれこれが流れたっぽい。

 後、俺の元の性格とか、本性とか、色々と。

 多分、称号とか増えてる臭いな。

 それも、一番厄介な称号と職業が……。


「言い忘れてたわ。私ね、称号とか増えてるからね」


「あはは……やっぱり、あれ?」


「ええ。すっごい嫌だけど」


「えーと、なんか、ごめんなさい」


 ツクヨに増えた称号。

 大半の使徒に加え、俺もツクヨも嫌な称号。


 ――監視者と執行者――


 ジェネスを除く、全ての使徒の頂点であり、原初の行いを正す者。

 原初に成る資格が消える代わりに、原初本人に対して、実力行使ができる、原初のお目付け役。

 ツクヨと俺の関係性からすると、子供を叱る母親みたいな立ち位置である。

 絶対に、リエルが介入していると断言できる。

 復活したら、問い詰めないといけない。


「ほら、行くわよ」


「……わかったけど、状況説明」


「歩きながらしてあげるわよ。それと、いい加減、神喰を解放してあげなさい」


「え? とっくに開放してるけど?」


「え?」


 二人して、天幕を出る前に確認。

 神喰君、気絶していた。


「見なかった事にしよう」


「そうね。不幸な事故ね」


 二人で頷き合い、天幕を出た。

 さて、何処に行くのかと聞くと、やっぱりか……と、項垂れる。

 そして、俺が天幕で寝ていた理由から、現在の状況を簡単に説明された。

 まず、俺を運んだのは八木。

 婚約者含め、全員で寝ていたところを、斥候隊のリーダーとしてきた八木が発見。

 婚約者の内、ミリア、ナユ、イーファ、シアが目覚めず、起きた婚約者が搬送したという。

 念のために治療天幕に搬送してから、問題無しと判断されて、同盟用の天幕に俺含めた五人を寝かせ、翌日には俺とイーファ以外が目覚めたと聞く。


「うん? という事は、それなりに日数が経っている?」


「発見してから5日ね。さっき、皇国軍が合流したわ」


「真反対から5日で? 早くね?」


「戦闘は無いと判断したらしいから、大半の兵士は身軽にさせて、速度を優先させたと報告に上がってきてたわ」


「皇王も無茶をする。……まて、という事は?」


「各国の王達が、手ぐすね引いて待ってるわよ」


「行きたくねぇなぁ」


 その言葉と同時に、反転して逃亡を図ろうとしたが、襟首を掴まれてしまう。

 誰に? ツクヨに。


「往生際が悪いわよ。諦めなさい」


 そのまま引き摺られて行く俺。

 本気ならば逆らえるが、普段は逆らいにくい。

 それがお目付け役の称号効果。

 そんな姿を、敬礼しながら見送る兵士達。

 やめてっ! こんな俺を敬礼で見送らないで! ツクヨ、いや、ツクヨ様っ! ちゃんと行くから、引き摺って行くのは勘弁して!

 何度かの懇願の後、どうにか離して貰えた。

 はぁ、恥ずかしい目に合ったわ。


「逃亡しようとするからよ」


「あい。サーセン」


 ちょっと不貞腐れて謝ったら、襟首を掴まれてしまう。

 すんません、マジでごめんなさい、引き摺るのは勘弁して下さい。

 ちょっとしたコント? を見せた後、真面目に向かう。

 到着して天幕の中に入ると……何故か簀巻きにされている神5柱と、見張っているメナトとゼロ。

 あ、婚約者達が、ヒナに餌を上げるみたいに、神達の口に飯を食わせてる。

 神よ、それで良いのか?

 そんな考えが通じたのか、リュラが真面目な顔で応えた。


「腹が減ってはどうにもならん。恥など、とうに捨てたわ」


「いや、捨てんなよ。もっと威厳持ってろよ。腐っても神だろうが」


 そんな会話の横では、緊張しまくってる王や側近たち。

 気持ちは分かるよ、因みにだけど、この状態は何時から?


「5日前からだが? 後は任せたとばかりに帰ろうとしやがったから、3柱程、殴ってはいるが」


「特に酷かったのはシーエンだね。一番に帰ろうとしたんだから」


「うっ」


「リュラも酷いと思うが? 眠り始めたラフィを放置して、帰ろうとしやがったからな。ちょっとだけ〆たら、こうなったが」


「ぬぅ」


「それを言うなら、レーネスも大概だったね。確か『よっしゃ、全部終わったでぇ! 今から商売やぁ!』だったかな?」


「メナトはん、それは言わぬが花やでぇ」


「セブリーは酒盛りしようと、周りを巻き込み始めるし」


「戦勝後は、呑むもんだろうが!」


 どいつもこいつも、なんて残念神だ。

 そういや、アシスが大人しいんだが、盛大にやらかした?


「あー、彼女はねぇ……」


 メナトが言いづらそうにしてるって事は、結構な厄介事か?


「俺と揉めた。だから厳しめに対処した結果だ。だが、言い分は分からなくもねぇ。だからよ、色々と決まった後で良いから、こいつと話してやってくれ」


「まぁ、ゼロがそう言うなら……」


 ちょっとだけ、同情的? あのゼロが? うーん、厄介事な話、100%ッ! 今すぐ帰りてぇ……。

 まぁ、それよりも、まずは各国との話し合いだな。

 おっと、その前に、一人呼んでおかないと。

 あ、いや、その時になったら呼ぼう。

 さて……と、問題は、今の俺の扱いはどっちになってるかの確認だけしないといけないな。

 その前に、やるべきことはやろう。


「お待たせして、申し訳ありません。それで、一つ確認なのですが、今の自分は、どういった立ち位置になっていますか?」


 座ってから、謝罪と現状の確認。

 これを怠ると、かなりまずいことになるからな。

 そして、謝罪と疑問に対する答えは、陛下が代表して答えてくれるみたいだ。

 毎度毎度、ご迷惑をおかけします。


「遅れた事は、まぁ良い。あれだけの戦いだからな。それとな、お主の立ち位置だが、少々面倒なことになっておる」


「面倒、ですか……」


「うむ。詳しくは、皇帝が話してくれるのだが、これは役割分担だと思って欲しい。それとな、本来は帰国してから再集合して話す内容になるのだが、面倒事に繋がっておってな。悪いのだが、教皇殿と代表殿をこの場に連れてきて欲しいのだ」


「承知しました。ですが、どちらを優先にした方が良いですか?」


「先に連れてきてもらえると助かる」


「わかりました」


 ゲートを開いて、ヴァルケノズさんとレラフォード代表を連れてくる……のだが、ここで一悶着。

 神一柱が、神五柱を簀巻きにしているという状況。

 ヴァルケノズさんは、それを見た瞬間に気絶してしまった。

 なので、ヴァルケノズさんが目覚める間に、話を進めておく。

 皇帝の話は、ヴァルケノズさんが居なくても出来るらしいから。


「まず、お主の今の立ち位置だがの、同盟盟主としての立ち位置と、ランシェス貴族としての立ち位置、両方が存在しておる」


「え? なんですか、その状況?」


 詳しく聞くと、戦争への参加はランシェス貴族として参加しているが、同盟内の固有戦力の提供をしている。

 そんな中で、同盟盟主として動いた形跡があり、戦争途中でのあり方の変化に、貴族共がうるさいらしい。

 但し、騒いでいるのは皇国とランシェスの一部貴族。

 帝国側の貴族は、少し騒いだが、命あっての物種と言うか、皇帝がそう言った言葉を口にしたら、引き下がったらしい。

 それに付随して、帝国はこちらの言葉を完全支持する方向で纏まったと話された。

 だから、皇帝が話をしているとも言われる。

 あー、えっと、すみません? で良いのかな?


「手順を飛ばした件については、本来であれば悪手だ。だが、手順を飛ばしたことによって救われた命が多い事も事実。それとな――」


「私が口添えしたからね。だから、この場にいる者達は、理解だけはしているよ。感情に関しては、どうか知らないけど」


 皇帝の言葉を継ぐ様にして、メナトが話す。

 あはは……色々とすまないな。

 そして、問題の話だが、どうすれば良いのかな?


「これに正解は無い。いや、あるにはあるのだが……」


 皇帝の歯切れが悪い。

 もしかして、こちらが嫌がる方法か?


「そっちがと言うか、お前が嫌がる方法だな」


 皇王がぶっちゃけた。

 こっち側ではなく、個人的に嫌な方法か。

 いくつかは想像がつくけど、どれだろうか?


「一番面倒では無い方法はだな、建国だ。利権が絡めば、貴族共は大人しくなる。どうしてもダメな連中がいるならば、紛争なり、戦争でもすれば良いだろう。まぁ、相手側から直ぐに講和交渉が提示されるだろうがな」


 陛下もぶっちゃけたな。

 ただ、安易に言ってはいけないんじゃいのかな? 建国するって事は、俺はランシェス貴族ではなくなるし、盟主に関しても問題が起きるんじゃなかろうか?


「お主の言い分は間違っておらん。だから次案として、各国が裏に回る自治権領――属国案が出たのだが……」


「儂が潰した。流石に各国の思惑が入り過ぎる。それに、中国家程度ならば良いが、どうやっても大国になる。流石にそれは危険だからな」


「今ある貴族達は代官になるしな。反発は必須だから。俺も皇帝に乗った。で、その次の案だ」


 陛下、皇帝、皇王の順に話し、竜王国王へとバトンが渡った。


「各国で領地を与えようという話になったんだが、飛び地の開発、管理は不可能だ。例え移動魔法持ちでも、破綻が目に見えている。では、一番密接している場所に領地はどうだろうかという話になったんだけどね――」


「お前んところの実家なんだよなぁ。なのでこれも却下。後は三国が切り取る予定地になる訳だが、貴族共が絶対に反発する。結論、お前が決めた方が早い――って話だな」


 最後に傭兵王が締める。

 ここまで話を聞いて思った事、それって丸投げだよね? そういう目を向けたら、全員がサッと目を逸らした。

 これ、怒って良いよね?

 そして、話に区切りがついた所で、ヴァルケノズさん復活。

 話しは通っていた様で、代替え案が提示されるが、これには各国が猛反発した。


「なんでそこで、神聖国内と言う話になるっ!」


「神がどうこうという話に繋げるなっ!」


「神聖国も貴族問題があるだろうがっ!」


「神樹国との合併も終わって無いですよね?」


「神がどうこうってんなら、戦闘能力だけ見て、傭兵国でも問題ねぇよなぁ?」


「流石に、合併が済んでもいないのにそれは……」


 まさかのレラフォード代表にまで否定されて、ヴァルケノズさん撃沈! 言い分も封殺されて、打つ手無しだった。

 だが、結論を出す前に話さなければならない事もあるんだよねぇ。

 どうやって切り出そうか? あ、いや、その前にだ――。


「皆さん、とりあえず落ち着きましょうか。後、この場にもう一人追加したい人物がいるんですが、良いですか?」


 各国とも問題無いというので、最後の一人を連れてくる。

 そう、父上を。

 ゲートで父上を連れてきて、席に座らせる。

 ちょっと抵抗されたのは、なんでだろうか?


「爆弾発言するからだっ! 頼むから、これ以上の心労は勘弁してくれ」


「あー、すみません、父上。後、もう一つ謝っておきます。何個か爆弾を落とします」


「ちょっ――」


 父上の言葉は最後まで続けられなかった。

 とりあえず、神達も巻き込もうと思ったから、一つ目の爆弾を直ぐに落とした。


「各国には先に話しておきます。あ、この場にいる人は他言無用ですよ。嫌なら10数える間に退出して下さい。影も消えた方が良いですよ。誓約と強力な結界を張りますから。じゃ、始めますね」


 宣言後、直ぐにカウントダウンを開始、10、9、8……。

 各国王、すっごい慌てる――でも逃げられない、だって王だもの。

 責任がある以上、逃げるわけにはいかない。

 7、6、5……影、完全に消える。

 一応、各国王が退避指示を出しているから問題は無い。

 4,3、2……天幕内にいる貴族、逃げられない。

 何故って? 王の威圧が凄いから。

 巻き添えは多い方が良いらしい。

 それと、この場にいる貴族達は、信頼のおける貴族達ってのもあるらしい。

 なんか、ご愁傷様? すみません? どっちも違うか。

 あ、何人か諦めたっぽい。

 開き直った人もいるな。

 1……ゼロォ! 誓約と結界発動!

 さて、第一爆弾投下のお時間です!


「さっきの話の解決前に、もしかしたら解決方法が見つかるかもしれないので、ご報告です。俺、ゼロの後を継いで神の力を有しました」


「「「「「「「「……は?」」」」」」」」


「ですから、神力持ってます。まぁ、実質、神ですかね」


「「「「「「「「はぁ!!?」」」」」」」」


 まぁ、驚くよね。

 あ、いや、陛下だけはちょっと怒ってるっぽい? 父上は……あ、フリーズしてる。

 いや、大半は考える事を放棄してるわ。

 これ、次の爆弾、落とせなくないか? あ、父上が復活して詰めようとしてきてる。

 これは流石に回避したいので、次の爆弾を落とそう。


「それとですね、今現在、自分は神の力を引き出せる状態です」


「おまっ――」


「その話に関わる事ですが、あの塔みたいのは自分が創りました。あの化け物を倒すやり方がそれしか無かったからですね」


「あ、頭が……」


 父上が何か言いたそうだったが、無視し手続きを話すと、次は陛下が頭を抱え始めた。

 でもね、本題はそこじゃないんです。

 最大級の爆弾落としますので、お覚悟を。


「で、続きなんですが、あれ倒すのに、ヤバい位の力を使っちゃたんですよ、それで、理にも触れちゃいましてね」


「「…………はい?」」


「結論から言いますと、領域に住む魔物たち、出てきます。街道とかに」


『『『『『……はぁ!!?』』』』』


「ああ、流石に、低級系が多いですよ。高ランク系は……まぁ、たまに?」


『『『『『よ、予算が……』』』』』


 父上と陛下が間抜けな声を出した後、更なる爆弾発言をしたら、貴族達も一緒になって驚いて声を出すという。

 その後の内容に、全員が頭を抱えた。

 あれ? この場にいる貴族達って、もしかして領主? やっべ、ミスった!?


「こんの……大馬鹿者がぁぁぁ!!」


「酷いっ!」


 父上がキレた。

 今まで見たことない位にキレた。

 うん、周りもちょっと怒ってるね。

 陛下達は……あれ、皇帝が質問してきた。


「一つ聞きたい。それは故意か? 過失か? それとも事故か?」


「故意では無いですね。過失か事故かと言われると、どっちでしょうか? 半分は事故に近い気もしますが。明確には判断しづらいですね」


「お主の意思では無いのだな?」


「それに関しては誓えます。理に触ったのは、触らざるを得なかったからですが、変質は予定外でした」


 話を聞いた皇帝は、一つ頷くと周りを鎮め始めた。


「皆、静まれ。街道警備など、その他の話は後だ。それでクロノアス卿、魔物たちはどの程度で出始める?」


「数か月は大丈夫だとは思いますが、正直な話、わかりません。もしかしたら、直ぐにでも出るかもしれませんし。ただ、少しの間なら抑える事は出来ます」


「少しとは、どの程度だ?」


「二か月。これが限界点です。ただ、先程も言った通り――」


「わかっておる。しかし、これでは……」


「?」


 皇帝が何を言いたいのか、わからなかった。

 ただ、領主たちの顏は絶望的な顔をしていた。

 多分、大なり小なり、領域を抱えているのだろう。

 完全開放してしまうと、特産物の無い領地は潰れてしまうからな。

 まぁ、上級貴族の領地ならば、開放したくても出来ない領域があるだろうし。

 だが、この状況で救世主が現れた。

 メナトである。


「あー……一つ聞きたいんだが、君達はどの程度の時間が欲しいんだい?」


 メナトの言葉に応えたのは、やはり皇帝であった。


「最低でも1年……いえ、来年の春までは」


「ほぼ一年か。少し待ちたまえ」


 メナト、皇帝の言葉を聞いて、誰かに連絡……あ、ジェネスか。

 創世神だし、何か良案があるのかな?

 その考えは当たりだったが、何故かメナトに呼ばれた。

 そして、強制的に念話を繋がれる。

 相手は勿論ジェネス。


『はぁ……好きにやって良いし、原初様に言うのも何じゃが――』


『やりすぎって言いたいんだろ? わかってる。でもな、どうしようもなかったんだよね』


『わかっておるから文句も言えんのぅ。あれは、儂らの手助けでどうにかなるものでは無かったしの。言うなれば、神の天敵じゃの』


『天敵ねぇ……。で、罰するのか?』


『無理じゃの。だって、原初様じゃし、そうでなくても、礼を言わなければならぬくらいじゃからの。次元修復の件も含めての』


 バレてたか。

 まぁ、そっちはバレても良いんだけどね。

 もう一つの仕掛けがバレなければ。


『それとじゃの、仕掛けは止めて欲しいのぅ。何かまでは知らぬがの』


 バレてるか……仕方ない、素直に話すか。


『破壊とかそんな仕掛けじゃない。仕掛けたのは監視系統。少し、思う所があってな』


『ふむ……ああ、何となくわかったぞい。原初様が手伝ってくれるならば、かなり楽じゃの』


『それは良かった。で、どうにかなるのか?』


 二人で分かり合った感を出すが、横で聞いてるメナトは少しわかってない様だった。

 まぁ、知るものは少ない方が良いので、教えないけど。

 そして、ジェネスの回答であるが、俺が少しだけ手伝えば可能らしい。

 但し、長くても丸一年が限界。

 後はやってみないと不明みたいだ。

 初めての試みらしいので、仕方ないだろう。


『では、使用許可を貰うぞい』


『了解。回廊、接続――門扉、開放』


『原初の海の一部を強制取得――世界の改変を開始じゃ』


『ちっ! ジェネス、後3分!』


 他者に貸し与える方が大変とか、聞いてねぇ! これなら、俺が切り取って渡した方が楽じゃねぇか。


『見つけたぞい。時限式設置――ぬ? これはいかん!』


『ジェネス!』


『仕方あるまい。終わるぞい』


 改変は完了したが、時間は!?


『冬が開けるまでじゃが、活動自体は夏前じゃの。ただのぅ……』


 言いづらそうにしてるので聞いてみる。

 ……うん、それは仕方ない。

 こっちでなんとかする。

 時間が出来る方が大事。

 時間と場所が分かっているなら、近い時期に先手を打つ事も可能だしな。


『礼はこれで良いかの?』


『ああ、助かった。何かあったら、また頼むよ』


『ほっほっほ。原初様に頼られるのは悪くないのぅ』


『その、原初様って言うの、やめて欲しい。前の通りで良いんだぞ』


『そうじゃの。では、ラフィよ。また何かあったら、頼るんじゃぞ』


 念話、終了。

 悪い報告はあるが、良い報告とも取れるだろう。

 後はどう話すかだな。


「ラフィ、私から伝えようかい?」


「いや、色々と考えているし、俺から伝えるよ」


「わかった。補佐はしてあげよう」


「ちっ。姉目線は止めろっての」


「良いだろ? 私だけの特権って事で」


「……はぁ、好きにしたら良いさ」


 さて、第二ラウド開始だな。

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