第247話 決着!

 リエルが導き出した、一撃で50%以上のダメージを与えなければいけないという答えに、どうやって与えるかを悩んでいた。

 勿論、足止め用の開放神器銃による攻撃の手は緩めていない。

 いや、寧ろ、苛烈にしている程だ。

 蓄積ダメージで、50%超えないかなぁ……とかも考えて攻撃し始めたからだ。

 しかし、結果は奮わず。


「全く蓄積出来ておらんな」


「…………」


「ラフィよ、無駄な攻撃は止めておく方が良いと進言しておく」


「うっさい! それに無駄じゃねぇんだよ、動きは止めてんだから!」


 リュラがちょっとうるさい。

 お前はどこぞの小姑かと言いかけて、止めた。


「足止めとしては有用じゃが、リュラ様の言ってる事は間違っておらんと思うんじゃがの」


「私から見たら、全く変わって無いように見えるんですけど……」


「ナユさんもですか。私も同じ気持ちです」


 三者三様の、ぐさりと心へ刺さる言葉。

 止めた方が良いのかと、心が訴えかけてきて、どうにか踏ん張る。

 イーファも言っていたじゃないか、足止めとしては有用だと! ……決め手には欠けてるとも取れる発言だな、これ。


「3人の意見は分かった――が、現状で何も思いつかないから、悪化だけはしないようにする」


「それは必要じゃが、実際にどうするつもりなのじゃ?」


「わからん。何か良い策は無いか、イーファ」


「ラフィが分からんのに、妾が思いつくはずなかろうが」


 結局、振り出しに戻って、5人で頭を悩ませる。

 うーん……リエルさんや、何か策は無いかね? え? 目下、思案検索中? はい……黙って足止めしときます。


 ――それから、30分が経過。


 未だに良案は無く、現状維持していた。

 いや、ちょっとだけ変わったか。

 実は、久々に魔力の減りを感じた。

 え? 原初の力は無限じゃないのかって? 原初の力は無限ですよ、問題は器の方なだけで。

 無限に湧く泉があったとしても、入れ物の容量には限界があるからな。

 だからと言うか、蛇口を捻る様な感じで、源泉の方の出を調整していたわけだが、遂に供給の方が上回ってしまったという訳だ。

 じゃあ、蛇口を緩めたら良いだけじゃね? って話になるのだが、もし溢れたら、どうなると思う? 身体を通して世界中に魔力となって溢れて、最悪の場合は風船みたいに破裂して世界終了です。

 現状では、迂闊に緩められないのだ。

 体感で、3割減ったら、少し緩める位だろうか? まぁ、直ぐに締め直すだろうけど。

 そんな説明をミリア達にしていたのだが、3人のスマホもどきが一斉に鳴り始めた。

 今の時間と状況、直ぐに用件が分かってしまう。


「ラフィ様、ラナさんからです」


「私の方は、ミナから」


「妾は、詩音じゃの」


「……どうせ用件は、全員一緒なんだろ?」


 ミリア、ナユ、イーファは、顔を見合わせた後、揃って頷いた。

 そう、電話の要件とは、各国の王達が痺れを切らして、婚約者経由で状況確認をしてきたのだ。

 うん、すっげぇ面倒。

 ありのままを伝えるか、ちょっとだけ嘘を吐くか。

 正直、悩みどころである。

 結果、ちょっとだけ嘘と、毒を吐いておいた。

 ただ、状況的にそうする必要性があったりもしたんだよね。

 だからさ、ジト目で見ないで貰えるかな、3人共。


「理由は分かりました。ですが、言葉には気を付けて下さいね」


「うっす」


 ミリアから軽く注意を受けた後、リュラから説明を求められたので、話すことに。

 こちらがついた嘘はたった一つ、順調ではあるが時間が掛かるという点。

 細かい話や話せない内容などがある事は、陛下以下、親しい者達は貴族を含めて分かってくれている。

 なので、その辺りをざっくり説明した上で、順調だと嘘を吐いた。

 時間が掛かるのは本当の事なので、嘘と真実を織り交ぜた形だ。

 そして、毒吐いた言葉は、クソ忙しいんだからいちいち邪魔してくんな! である。

 これは建前半分、本音半分である。


「何故、建前が必要なのだ?」


「説明だけじゃ、納得しない貴族ってのが一つ。だから、わざと毒吐いて、かなり危険な状況だと伝えたんだよ」


 こう見えても、ランシェスの貴族なのだから、主君に対して暴言なんて吐かないのが普通なんだよね。

 毒は吐くけど、過去に一度も暴言は吐いた事が無いってのもある。

 一国を統べる王ならば、裏の意味を考えて当然だろう。

 陛下ならば、婚約者達や家臣達にそれとなく話を聞くだろうし、こちらの思惑は伝わる筈だ。

 ダメなら、不敬罪で罰があるだけ。

 爵位剥奪とかならば、無人島に居を構えて、皆で過ごすのも悪くないだろう。

 だからミリアさんや、何でもわかってますよ的な頷きは止めような。


「ランシェス王ならば、大丈夫ですよ。皇帝も大丈夫ですよね? ナユさん」


「大丈夫だと思いますよ。ミナの話だと、皇帝の眼が細められたって言ってました。そういった顔つきになる時は、何かを悟った時だって言ってましたから」


「最悪、ランシェスで何かあっても、帝国が受け入れてくれそうな雰囲気ですね。それで、皇国の方ですが、イーファさん」


「皇王は気付いたようじゃが、周りの雀共が騒いだそうじゃ。まぁ、珍しく、アルバがキレたそうじゃよ。皇王は感謝しておるじゃろうな」


「皇国は、少し面倒そうですね。ランシェスの方も、何も分かっていない雀が騒いだそうですが、国を統べる者達が3名いますからね。直ぐに収まったみたいですよ」


 3人揃って、ニッコリと笑っているのだが、端から見てたら怖いよ、君ら。


「お主の婚約者達、少しお主に染まり過ぎでは無いか?」


「は? それは俺が黒いって意味かな?」


 ニッコリと、リュラに対して笑顔を見せてみる。

 リュラ、速攻で謝罪してくる。

 ふん、誰が真っ黒人間か、失礼な。

 とは言え、各国は一旦黙らせたわけだが、状況は何も変わって……いや、悪化し始めたか。


「あはは……スライムっぽい姿から人型に変化とか、完全に進化してるよね、こいつ」


 笑うしかねぇ。

 流動型なのは相変わらずだが、形状変化とか、明らかに進化の兆しだろう。

 しかもだ、神格は未だにないまま、流動型核を保持しての進化である。

 やりたい放題と言える状況だ。

 マジでどう倒せと? 本当の最終手段である切り札を切るべきかとの考えが頭を過ぎった瞬間、リエルからの進言が来た。

 グッドタイミングと言うべきか、もっと早くにと言うべきか、非常に悩む所ではあったが、そこは置いて話を聞く。


『少々無茶な方法ではありますが、ダメージ以外での討滅方法を見つけました。但し、代償としてダグレスト王都は完全消滅します』


 うん、今更残しても仕方ないんじゃなかろうか? 王都に住む人間すべてが消滅した都に誰が住みたいと思う? 誰も思わんだろうから、廃墟確定だろう。

 戦利品? 世界の危機とどっちが大事かね? 貴族共が五月蠅い? 良いだろう、いくらでも相手になるよ? で、他に何か? ん? 王達も何か言うんじゃないかって? ならば、お前が倒せって言うけど? まだ何かある? 何も無い? よし、じゃあ実行で。


『吹っ切れたマスターって、更に好戦的になってませんか?』


『効率と何が本当に大切かを間違っていないだけだと思うぞ? 俺にとっては、家族が一番』


『そうでしたね。マスターって、以前からそうでしたよね。じゃ、リエルちゃんも覚悟を決めます。あ、もう一つのデメリットを言い忘れてました』


『犠牲が出る様な物じゃ無ければ、容認するけど?』


 そう言うと、リエルは了承と取って行動に移し始めたのだが、移す直前に最後のデメリットをサラッと話していきやがった。


『デメリットですが、安定するまではリエルちゃんは活動を制限されます。演算程度は出来ますが、顕現とかは不可能になります。戦闘補助にも制限が掛かりますし、受け答えも機械的な物なりますので』


『は? いや、おい、ちょ――』


『では、実行します』


 こうして、討滅作戦は実行に移った。

 何をどうするのかという話だが、結果から話せば、喰邪神のダンジョン化をする。

 規模はどの程度の物になるかは不明だが、この世界の一部として変えて組み込んでしまうという荒業である。

 安定に関しては、2度と復活出来ないように徹底的に楔を打ち込みまくって、根本から変化させて影響が出ないようにする為だそう。

 問題点は、力を湯水のごとく使うので、今の制限した状態では力足りずに死んでしまう事である。

 では、蛇口を弱めれば良いのでは? って考えるだろうが、その制御はリエルが行っている。

 それを、自分で行えと言われたのだから、至難の業と言えるだろう。

 勿論、足止め攻撃の手を緩めるわけにもいかないので、制御はさらに困難になる。

 ぶっちゃけ、世界が終わって喰邪神の勝ちになるか、見事に制御しきってこちらの勝ちになるかの博打と言える。

 ……最終手段、使った方が良くね?


(まぁ、もう実行承認してるから、止められねぇけど)


 今止めたら、間違いなく反動でこっちが動けなくなる。

 それは負け確なので、やるしか道は残って無い訳だが。

 ……説明、どうしようか? イーファ辺り、すっげぇ怒りそうな気がする。

 いや、説明している時間はなさそうだ。

 あれの進化が完了しそうだ。

 一つ、深呼吸をして息を吐く。

 心は穏やかに、ただ眼前の敵を屠る事に集中する。


「ラフィ、様?」


「ラフィ?」


「お主、何を?」


「…………」


 3人の声が聞こえるが、準備の方を優先させる。

 リュラだけは、これから何をするか気が付いた様だ。

 同時に、あれの倒し方にも気付いたようである。

 だから、敢えて何も言わなかったのだろう。

 失敗、それ即ち、世界の終わりなのだから。


「楔の鎖剣、召喚。原初世界、展開――続けて、創星魔法、展開」


 準備は整った。

 では、始めよう。


 ――世界の創星を――


 楔の鎖剣を無造作に手に取り、目標に向けて投擲する。

 数は全部で13。

 分割と拘束を役割とした楔の鎖剣は、全て目標場所に命中する。

 続けて、分割して完全に拘束する。

 逃がしはしない。

 なんせ、ここからが本番なのだから。

 手を前に突き出しながら、絶対に成功させると決意して、原初の海を顕現させる。

 目標以外にその効果が及ばないように、慎重に制御して。


「原初の海、完全開放。やつの核を抱いて喰らえ!」


 天より、地より、喰邪神の周りに現れた漆黒の、闇の海は、全てを飲み込み始める。

 同時に、神達が張っていた結界も飲まれ、砕け散る。


「ぐうぅぅぅっ!」


 リュラの呻き声が聞こえたが、気にしていられない。

 今、気を抜けば、世界はあれに飲み込まれる。

 全神経を制御に回す。


(くそっ、飲み込むまでの足止めをする予定だったが、思ったよりもきつい。結界が壊れた今、浸食で逃げられないようにしないと)


 だが、現実は非常である。

 こちらの考えを理解したのか、単なる本能かは知らないが、浸食して逃げようとする喰邪神。


「ちぃ! 逃げられるっ」


 その言葉の後、空間が歪み、浸食場所が喰われた。

 それを確認して、ニヤリと笑う。

 そう言えば、こっちにも悪食が居たな――と。


「良いアシストだ、神喰」


『ふんっ、元は俺の欠片だからな。後始末ぐらいはする。だがな、早々何度も喰えねぇからな』


 神喰からの念話。

 相変わらずのツンデレかよ。

 後でお仕置きが必要かね?


『はい、調子に乗ってすんません。限界までは喰うので、頑張ってください』


 初めから素直でいろよって思うわ。

 まぁ、援護があるのは有難い。

 このまま一気に――なんて思うが、やはり現実は非常だった。

 いや、相手も必死なのだろう。

 喰うか喰われるか――いや、こっちの場合、喰うか失敗するかだな。

 相手はどっちにしても喰われる未来しかねぇし。

 とは言え――だ。


「きっつ……リエルのあほぅ、マジで覚えとけよ」


 制御がかなりきつい。

 原初の海と、その力の制御に加えて、空間制御と掌握も同時に行っている。

 リエルに関しては、このあと残ったやつの力の制御がある為に温存させなければならない。


「全部、俺次第ってか? くそったれ!」


 悪態も付きたくなるさ。

 魔力循環の応用で、原初の海から力を引き出してはいるが、同時に持って行かれてもいる。

 循環スピードもえげつなく早いので、こちらの力の減りが早い。

 皮膚の浅い部分から、血が噴き出して流れ始めた。

 肉体への負荷も始まるとか、シャレにならんぞ。

 その時、口に垂れる液体を感じた。

 鼻からも違和感を感じたので、鼻血が出たのだろう。

 こっちの鼻血は、演算領域関連か? いや、今は余計な事を考えてる場合じゃない。


「くっそ……今度は目が霞みやがる……」


 久しぶりに感じる、魔力欠乏の症状。

 だが、欠乏症に陥るほど消費はしていない。

 これは循環系による疑似欠乏だろうと推測して、意識を保つために口の中を噛んで意識を保たせる。


「ラフィ様! 口から血が――!」


「今、回復を――!」


「お主、あれほどむちゃをするなと! ええい! 結界の構築を――」


「手を……出すなぁ!!」


 強く反発した事に驚く3人であったが、今は説明している余裕が無い。

 だからさ、そんな悲しそうな顔をしないで欲しい。

 大丈夫だから――。


 ――本当に?――


 何故か、幼少期の自分の声が聞こえた気がした。

 本当に、大丈夫なのか――と。

 大丈夫と答えようとして、また聞かれる。

 はい、嘘です。

 大丈夫じゃないです。

 でもさ、手伝ってとか言えないよ? 言えば絶対に手伝うだろうけど、それ即ち、死と同義だからな。

 原初の使徒でも手伝えない状況なのだから、どうしようもないだろうに。


『馬鹿だなぁ。ただ、身体を支えて貰えば良いだけだろう?』


 不知火蒼夜だった頃の自分に馬鹿だと言われると、クッソムカつく。


『くくくっ、この馬鹿は筋金入りの馬鹿だからな』


 うっさいわ! 後で覚えてろよ、原初の自分!


『もう一度聞くよ? 大丈夫?』


 ああ、もう!


「クソが! 全然大丈夫じゃねぇよ! しんどいわ! 身体痛いわ! 今すぐ寝てぇわ! もう誰かに支えて欲しいし、癒されたいわ! これで良いんだろうがっ、クソ野郎共が!」


「ら、ラフィ様!?」


「ラフィ、遂に幻覚を……」


「ラフィ、お主よ、そこまで追い詰められとるとは……」


「原初とは、斯くも厳しい者なのだな」


「リュラだけうっさいわ! 後で神喰仕様のお仕置きすっからな!」


 完全に八つ当たりである。

 だが、多分これが正解だったのだろう。

 何故って? それはだな――。


「ラフィ様! 私ではこの場でお役に立てませんが、せめて支えさせてください!」


「あっ! リーゼ、ズルいですよ!」


「早い者勝ちですよ、ティアさん」


「み、ミナさんまで……。うぅ、なら私はこっちを!」


「うわぁ、痛そぅ」


「蛍、あれは痛そぅじゃなくて、死ぬほど痛いの間違いじゃないかしら?」


「蛍も詩音も、冗談言ってないで支えて上げて! でも、うわぁってなるね。とりあえず、回復魔法を――」


「優華、あなた、分かりやすく点数稼ぎに出たわね」


「桜花ちゃん、何の事かな? かな? あ、ヴェルグちゃん、こっちお願い」


「優華って、何気に人使い荒いよね?」


「気にしたら負けだよ。ていうかナユさん、何呆けてるんですか! ほら、早く立って! 回復させて!」


「え? ええ!?」


「イーファ、大丈夫?」


「イーファちゃん、ボロボロです」


「リジア? スノラ? お主ら、どうやってこの場に?」


「話は後です。ほら、肩を貸しますから立ってください」


「私は反対。うっ、イーファちゃん、重い……」


「スノラよ、お主、後で覚えておくのじゃ」


「何が、どうなって?」


「ミリアさん、何をしてるんですか?」


「リリィさん……」


「そんなことでは正妻なんて務まりませんね。私が変わって差し上げましょうか?」


「うふふ、面白い冗談ですね。ですが、ご心配なく」


「そうですか。では、そんなところで呆けておらず、ラフィ様をしっかりと支えてあげて下さいませ。多分――」


「わかっています。私らしくありませんでした」


「では、行きましょう、ミリアねぇさま」


「ラナさん!? きゃっ! 勢いよく押しすぎ――」


 うん、なんで婚約者勢ぞろい? いや、それよりも一番ヤバい事が隣で行われているんだが? ランシェスから、どうやってこの場に来たのか聞きたんだが?


「愛の力です、ラフィ様」


「あ、うん、そだねー……ってなるかぁ! シア、ドバイクス侯爵には断って来たんだよね!?」


「お父様? お父様はお母様とお話し中ですわ。お母様の許可は頂いています」


 うん、お義母さんも十分におかしい人らしい。

 記憶ではまともな人だとあるんだが。


「精霊達が、ラフィ様が危険だと教えてくれて、ゲートを開いてくれたんです。お母様とお父様の目の前で。それで、お母様が、許可を出してくれました」


「精霊どもぉ! てめぇら何してくれちゃってんの!?」


 そんな精霊達だが、全力で障壁を展開中だったりする。

 八大精霊? 何してんのか知らんわ!

 つうか、あれ?


「……制御が楽になってる?」


 どういう事だ? だが、問いかけても誰も答えない。

 不知火蒼夜だった自分も、その幼少期だった自分も、原初の自分も。

 答えは無いが、何となくわかってしまった。

 原初とは孤独で孤高な存在だからこそ、愛する者を求めてしまうのだと。

 そして、求めたのならば、その手を振り払ってはいけないのだと。

 裏切ってはいけないのだと。

 護るだけの者では無いと。

 なんとなく、笑みが零れてしまう。

 大丈夫、失敗は無い。

 この賭けは、俺の――俺達の勝ちだ!


「ふぅ……沈め、眠れ、永久に。汝が罪は赦される。汝が罰は赦される。眠れ、眠れ、母なる海で。原初魔法・回帰【祖は母なる海で深き眠りにアンセスターズ・ディープスリープ・イン・マザー・シー】』


 原初の海が、完全に喰邪神を包み込む。

 そして、核を完全に喰らい尽くす。

 残された力も、放っておけば還元されてしまうが、あの三名の力は、この世界の礎になって貰う。

 だから、その力は隔離して有効活用する。


「汝がある場所に揺蕩え、母なる海よ。見守りたまえ、我らが母よ」


 祈りを込め、原初の海をあるべき場所へと還す。

 さて、もう一仕事だ。

 このままでは、力が世界に拡散して大変なことになるからな。

 まぁ、既に世界の一部は改変されてしまったが、代償としては安いだろう。

 それに、今後の行く末に関して考えるならば、傭兵と冒険者は嬉しい悲鳴かもしれんし。

 とりあえず、次の仕事だ。


「原初魔法・創星【世界は汝の存在を容認するワールドトルレーツ・ザイプレゼンス】」


 これでこのダンジョンの存在は、世界の共通認識となる。

 楔はこれで出来上がった。

 次はその存在の形を造る。

 後はリエルに投げて終わりだ。

 つうか、精神的に限界だ。

 これ以上は、マジで廃人一直線だからな。

 それは御免被る!


「続けて、【我が意を形に顕現せよマニフェスト・ウィル・フォーム】」


 20階建てのビルくらいの大きさの建造物を作成。

 おまけで、空間拡張を付けておいた。

 実際には、地下10階、地上20階くらいの建造物ではあるが、中身は地下と地上共に100階位となっている。

 材料は、ダグレスト王都――いや、元王都の素材を流用して建造してあるので、都は完全消滅した。

 戦利品? 知るか、ボケェ!

 後は任せたぞ、リエル。


『はい、任されました。お疲れさまでした、マイ・マスター。ゆっくりとお休みください』


 そして、リエルの声が途絶えた。

 リエルに完全移行を済ませたのを確認してから、ゆっくりと地面に座り、大の字に寝転ぶ。


「あー、マジしんどっ。つっかれたー」


「ふふっ、お疲れ様です」


 いつの間にか、横に座っているミリアに頭を灘られる。

 何故か、恥ずかしいという気持ちは湧かなかった。

 単純に気持ちが良かった。

 そして、周りに各々に座る婚約者達。


「悪くない」


「ええ、悪くないですね」


 これが俺の家族だと、胸を張って言える。

 そう思いながら、疲れから意識を落とした。

 ただ、落とす直前に思ったのは一つ――。


(起きたら怒られるだろうな)


 そう思いながら、眠りにつくのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る