第246話 最恐VS最凶

 ――覚醒原初――

 一時的な完全原初化に成功して、原初に成りえているわけだが、その力は最上級神を優に凌駕する。

 そして現在、その力をもってして、人影形ドッペル共を簡単に消滅させているのだが、無限に湧き出てくるので有埒が明かない。


「やっぱり、根元をどうにかしないとダメかぁ」


「あの、ラフィ様?」


「ん? なんだ、ミリア。あ、普段から様付けんでも良いぞ」


「その、なんか変わりましたか?」


 ミリアとナユ、ついでにリュラもだが、こちらを見る目が変である。

 んー、特に外見とかに変化は無い筈なんだけど。


「俺の外見、なんか変わってる?」


「外見はいつも通りですよ、ラフィ。でも、雰囲気が……」


「ナユさんの言うとおりです。凄く変わったと思います」


「うーん、二人は嫌か?」


「「すっごく良いと思います!!」」


「お、おう」


「我、放置」


 リュラがなんか言ってるが、忙しいんだから拗ねんなよ。

 ほんと、面倒で残念な女神だらけだと、心底思うわ。

 まぁ、面倒って点は敵にも当てはまるが。

 そう言えば、イーファは大丈夫なんだろうな? さっきから眠っているが……。


「そんなに心配しなくても良いよ、ラフィ。単純に、力の使い過ぎなだけみたい。魔力欠乏に似た感じだけど、もうすぐ起きると思うから」


「なら、良かった」


「もう、起きてますよ。狸寝入りならぬ、狐寝入りです」


「にょわぁ! ミリアよ、何故バラすのじゃぁ!」


「多少の余裕が出来たとはいえ、現状は悪いままですよ? 遊んでいる暇は無いです」


 噓寝していたイーファに対して、不謹慎だと怒るミリア。

 ミリアの言い分が正しい。

 ただ、やらかしていたのを止めていていた手前、強く言えないんだよな。

 そんな気持ちを察してか、ミリアが溜息を吐いていた。

 なんで?


「そういう所は変わられていないんですね」


「うっ」


「まぁまぁ、そこはラフィの悪癖と美徳で良いと思います」


「ナユぅ」


「全部変わってしまっては、それは別人じゃろ。妾はこれで良いと思うぞ」


「イーファも」


「叱る時には叱る。これは必要です」


「「「はい」」」


 三人揃って、何故かミリアから怒られる。

 ただ、メッてする仕草が可愛いです。

 ハイ、ナンデモナイデス……マジメニヤリマス。


「それで、どうするのだ?」


「あ、リュラも無事だったんだな?」


「我への扱いが酷過ぎないか!?」


「まぁ、そんなもんだろ」


 なんか文句を言いたそうではあったが、ちょいと真面目モードになったこちらを見て、言葉を押し殺した模様。

 空気の読める神は嫌いじゃないぞ。

 だからこそ、まずは現状把握。

 どの程度の時間、意識喪失してたか分かってないからな。

 時間と、各軍の状況を簡単に聞く。

 それと、三人がどうやってきたのかもだな。


「艦でラフィ様の確認をしていたリーゼさん達が、私達が必要だと判断してゲートで」


「なるほど。俺が目覚めるまでの時間は?」


「10分程度かな?」


「逆に言えばじゃの、妾の全力でも10分でボロボロにされてるわけじゃが」


「うん、悪かった。しかも、防御主体にしてだろ? マジですまん」


「良い良い。でもの、鍛え直すから付き合っては欲しいの」


「おけ。で、各軍の状況は?」


「軽く返事をしおって……。まぁ、良い。各軍は既に危険域と言えるじゃろう。取り込まれだけは阻止出来ておるが、戦闘復帰不可能な者が右肩上がりに増えておるよ」


 話しを聞いて行くと、僅か10分で1割以上が戦闘復帰不可能になっているという。

 敵の行動が一時的に止めらるとはいえ、倒せない、無尽蔵に増える、再生して襲ってくる。

 魔力以前に、心が折られてしまっているそうだ。


「撤退も視野に入れ始めてます」


「後退ではなく?」


「はい。ランシェス軍はまだマシだとは思いますが……」


「帝国軍は厳しいですね。混乱に加え、心を折らてしまった者達、精神汚染されてしまった者達と、軍力としては半減したと言えます」


「皇国側はまだマシかもしれんの。7割は動けておる」


「とは言え、初期の軍を考えると……」


「各国とも、5割はダメになったと見るべきですね」


「壊滅の定義かぁ……」


 非常にヤバい状況であった。

 多分、もう1時間も持たないと見るべきだろう。

 今の状況で救いがあるとするならば、敵の行動力が遅い事と、接敵しようとしている敵に向けて竜の息吹が使える事くらいか。

 それがあるからこそ、ギリギリ耐えられているとも言えるわけだが。

 こうなると、ちょっとした賭けになるな。


「ミリア、ナユ、イーファ、一つだけ確認したい」


「なんですか?」


「竜達を動かした場合、軍は終わると思うか?」


 問いかけに対し、真っ先に返答したのはミリアだった。

 次にイーファ、ナユと続く。


「ランシェスは、まだ大丈夫だと思います。ラフィ様のお考えで動いたと見るでしょうから」


「皇国側は、時間をかけすぎないのならという条件が付きそうじゃの。少しの間ならば、問題無いと思うのじゃ」


「帝国は危険かもしれません。私もランシェス軍の練度の高さは知っていますけど、再編した帝国軍はやはり低いです。皇帝の頑張り次第になると思いますよ」


 ナユのみ厳しい意見だが、総合的な意見とするならば、早めの結果が必要って判断になった。

 そうなると……やっぱあれが邪魔である。

 それにもう一つ、やっておかなければならない事もあるし、どれから手を……同時進行で行けると、リエルから言われた。

 あ、そうですか、余裕で行けるんですか……え? 力は湯水のように使うって? 遠慮なく使ってくれて構わんよ。


「……うん、方針は決まったな。三人は自衛と、リュラの事を頼む」


 三人の頷きを確認してから、喰邪神に足して攻撃を行う。

 同時に、七天竜達に念話も飛ばす。


『聞こえるか? 悪いが、やって欲しい事がある。出来れば、他の竜達の協力も仰ぎたいんだが、行けるか?』


 返事は、全員が了承だった……のだが、リュミナだけ物騒な事を言っていた。


『従わないようでしたら、この件が終わった後に死んだ方がマシだっていうくらい〆ます』


 止めはしないけど、程々にとだけ伝えて終わる。

 尚、わざわざ竜達の協力を仰いだのは、上空から戦場全体を俯瞰したかったからだ。

 現在の敵の影響力は、喰邪神を中心に円形で広がっている。

 人形共も円形に確実に大地への浸食をして行ってるので、まずはそれを解消する。

 後方が無事だと確認できるなら、この後は全力でやれるからな。


「んじゃ、行くか」


 舌なめずりした後、神器を解放。

 条件付きとはいえ、今は原初化しているので、身体への負担などない。

 全力行使可能なので、【神器銃リュシフェル】を解放状態である【ルシフェル・ルシファー】状態にし、形状は46センチ砲を展開させた。

 その数、ゆうに100門を超える。


「さて、後は――」


 ただ一斉射しても、大半は喰われて終わりなので、散弾入り自動収束砲として展開させている。

 当然、収束砲は神力だが、散弾は原初の海から引き出して作ってあるし、収束した神力にも混ぜてある。

 ただ、収束砲は貫通されると困るので、調整はしておかないといけない。

 本命は、散弾の方なのだから。


「後はこのスキルを内包連動させてっと」


 散弾には、少々えげつないスキルを内包した。

 その名も【連鎖滅壊チェインデストラクション】。

 対処はされるであろうが、こちらが行うとしている事への時間稼ぎにはなるだろうし、本来の目的は別にある。

 未だに不明な、核の特定だ。

 流石に、一斉掃射後からの連続掃射すれば、散弾に仕込んだスキルも相まって、核の特定に繋がってくれるだろう。

 ……多分、きっと。

 これで無理だと、流石に厳しいので、どうにかなって欲しい。

 ……願望だな。

 それともう一つ、同時進行で次元干渉も行う。

 こっちはリエル担当ではあるが。

 やる事は多いが、喰邪神以外が適切に他処して終了すれば、かなり楽になる。


「さぁて、いっちょやりますか!」


 ニヤリと笑い……46センチ砲神器銃をぶっぱする。

 同時に、リエルが次元干渉を行い、竜達に依頼した上空から見た地上の状態も送られてきた。

 割と広範囲ではあったが、どうにか行ける範囲で一安心である。


「原初魔法・解呪【聖なる鐘は全てを赦すセイクリッドベルズ・フォギブズ・オール――発動! 続けて、原初魔法・浄化【穢れに我が祝福を以て癒さんヒール・インピューリティー・ブレシング!」


 解呪と浄化をこの戦場地全てに発動させて、一気に人形共を駆逐していく。

 らたな人形共を生み出せないように、元凶にも対処を施してある。

 なので、次!


「次元干渉開始」


『干渉開始を受諾。次元震への防壁を構築――展開します。続いて、次元震へと干渉――中和に成功。次元境界を確認――強化。対処完了しました』


「よし、次!」


 これで、世界の連鎖崩壊の心配はなくなった。

 とは言え、それは元凶を倒さないと本当に対処でしかない。

 しかし、心配だったことはほぼなくなったとも言えるので、こっからは本気で討滅を開始するわけなのだが、ちょっと困ったことになった。


「うーん……おかしい」


「何がおかしいのですか?」


 他の人間が見ていたら、確実に卒倒しそうなことをやっている――わからんのもあるけど――のだが、ミリアは気にせずに質問をしてきた。

 図太いのか、肝が据わっているのか……。


「失礼です。それと、ラフィ様なので、今更です」


「ですね」


「じゃな」


 3人共、ちょっと失礼じゃないかな?


「この男にして、この嫁ありか」


「リュラ、喧嘩売ってんなら買うけど?」


 駄女神に言われたくは無いのだよ。

 まぁ、とりあえずは置いておくとしよう。

 そして、この場にいる全員に、何がおかしいのかを説明……リュラ以外、わかるかは疑問だけど、とりあえず説明する。


「簡単に言うとだな、いくら足止め用の攻撃とは言え、核が見つからないのがな」


「そうなのですか?」


「てっきり、倒しに行ってると思ってました」


「ナユの考えは理解できるのぅ。まぁ、あれじゃし……」


 端から見れば、苦しんでいる様にしか見えない喰邪神。

 確かに、ダメージは与えてはいる。

 でも、倒しきれるほどのダメージかと言われたら――。


「どっちも化け物でしかないな。だが、なにをどうやったら、あれにダメージを与えられるのだ?」


「単純な話だけど、体内に毒を仕込んでるかな?」


 前世の、なんで覚えていたかわからない記憶だが、銃の鉛玉とかを取り出さずにいると毒になるとか聞いたような記憶がある。

 後は刃物とかもそうだっけか? なんにせよ、貫通させずに、体内に残留し続ける様に、散弾攻撃をしているわけだ。

 えげつないスキルを付与してな。


滅壊デストラクションを、散弾を点として線で結んで連鎖させてるってわけ。結果どうなるかって言うと、効果は割と落ちるけど、戦場にも滅壊デストラクションが発動するんだ。ただ、散弾が消えるまでって制限があるから、手を休めずに撃ち込み続けてるってわけ」


「お主は鬼か!」


 リュラが何か言ってるが無視。

 対するミリアとナユは、ちょっと理解が追い付いていないって感じだ。

 そして、イーファだが、これまた予想外の反応だった。


「ふむ? 点と点を基軸として線を結ぶのは理解できるが、それがどうして、核の発見に繋がるのかが理解できん。探査魔法など、仕込んではおらぬのだろう?」


 完全に理解していた。

 いや、リュラも理解はしているが、ツッコミが先だったから無視しただけ。

 まぁ、理解しているなら、次の話に移るか。


「簡単に言えば、連鎖崩壊なんだ。再生はするだろうが、時間が掛かる。だから――」


「そういう事なのかえ。崩壊部分を結界線と同義にして分離させてゆくわけじゃな。時間が経つと消滅しはするが、そこへ至るまでの間に小分けにして探すわけじゃの。足止めも含んでおるから故の作戦ではあるが、悪くはないのぅ。だが、ちぃと、手間をかけ過ぎな気もするのぅ」


 最後まで言わせてもらえなかった。

 そして、なんとなぁく、バレてる気がする。

 いや、まさかね……。


「ラフィよ、お主、彼奴の力の再利用とか考えてはおらぬだろうな?」


 何故、バレーる!

 イーファにジト目で睨まられ、ミリアとナユは、え? って顔をされるし、リュラに至っては口をパクパクさせていた。

 これはあれか? 流石は神獣の子孫と褒めるべきなのか?


「はぁ……。まさかとは思ぅたが、本気とはのぅ」


 うっ、呆れられた。

 うん、言い訳しとこう。

 半分嘘で、半分は本当の話を。


「いや、再利用ってかさ、ぶっちゃけ、魔力消費量が半端ないんだよね。反転術式は必要だけど、ある程度は補填しないとキッツいんだわ」


 またもジト目で睨まれるが、何故か溜息を吐かれた。

 これは、乗り切った……かな?


「あまり無茶をするでない。お主に何かあれば、皆、悲しいのじゃぞ」


「それは――いや、気を付けるよ」


 ここは反論も言い訳もせずに、黙って受け入れる。

 イーファは敢えて、お主なら大丈夫じゃろうが……、とは言わなかったからな。

 もう少し、自分を大切にしろと言いたかったのだろうから。

 さて、そんな話をしている間も、喰邪神に向けて乱射し続けているわけだが、やはりおかしい。

 先程、この場にいる4人に説明したわけだが、もうそろそろ、核の特定が出来ていてもおかしくないはずなのに、一向に特定できない。

 そこでふと、嫌な考えが頭に過ぎった。


「まさか……」


 頭の中に浮かんだのは、創作物のスライム。

 前世のアニメとかに出てきたスライムには、2つの種類があったのを思い出したのだ。

 その種類とは、核の有無。

 核を壊せば簡単に倒せる種類と、核自体が存在しない種類。

 この世界のスライム達は、後者に近い種類のスライム。

 正確に言うならば、流動型核を持つスライムと言うのが正しい。

 一定ダメージを与えると、核が破損するというタイプなのだが、もしかして……。


『再計算を開始します――計算終了。流動型核の可能性、99,9%。神格の有無、無しと思われます』


「さ、最悪だ……」


 喰邪神こいつチーターや! そんな言葉が頭に浮かぶ。

 結論、50%以上のダメージを一撃で与えないと倒せない。

 これがリエルの出した答えだった。


「うん、どうやって与えろと?」


 斯くして、戦闘は終わりが見えないまま続く……。

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