第245話 開かれる扉

 不意に訪れた意識喪失。

 意図せぬ出来事ではあったが、ゆっくりと沈んでいく。

 そして、いつもの領域へと辿り着く。

 目が覚めた、意識が覚醒した、なんて言うのもおかしな話だとは思うが、他に表現方法が思いつかないので、敢えてそう思っておく。


(中層領域……いつもの場所か)


 俺が力を出す時に、必ず訪れる領域。

 だがここは、少し深い領域みたいだ。

 ちょっとだけ、息苦しさを感じているから。


(いつもは浅い場所だけど、ここは中層の半ばくらいか?)


 深度的に、深層では無いと思う。

 そんな事を考えていると、二つの光が現れて人型となった。

 俺は、その人型を知っている。

 前世の自分、不知火蒼夜と完全なる原初の自分。

 どちらも会いたくない自分。

 だが、出会ってしまった以上、向き合わなければならない。


(いつまでも、逃げてはいられないか……)


 逃げたい気分ではあるが、何故か意識を浮上させられないので、二人と向き合う形を取った。


「よう、中々に久しぶりだな」


「ほんとだな。新しい自分を楽しんでるかな?」


「うるさいわ。さっさと消えてくれ」


 軽口を言う二人に対して、ちょっとだけイラつく。

 しかし、こちらの気持ちなどお構いなしに、二人は話をし始める。


「さて、ここに呼ばれた理由は……わかってんだろ?」


「知らん」


「知らないわけないじゃないか。だって君は、原初だろ?」


「知らんもんは知らん」


 嘘だ、分かっている。

 強制的に領域まで呼ばれ、意識の浮上が不可能。

 多分、条件が満たされてしまったのだろうと推測する。

 その考えを口にはしていないのに、ニヤリと笑う原初の自分。

 本当に、一番めんどくさい自分だと思うよ。


「お前も俺、俺もお前、考えてる事くらい、わかるってぇの」


「ほんっと、面倒なやつだよ」


「で、なんで拒否る?」


「わかるだろ」


 原初化なんて、進んで成りたくないっての。

 寿命は無いし、一応、不老だし。

 人の枠組みから外れたら、そこに入るには不可能になる可能性が高い。

 人として生き、人として死にたい。

 そこだけは譲れん。


「どっちにしたって、魂は座に就くことになるんだぞ? どっちにしたって一緒だろうに」


「全然誓うわ、ボケ」


「あん?」


「ああ?」


 お互いに睨み合う。

 それを止めたのは、前世の自分。


「はい、そこまで。とりあえずこの領域ではなにもしないって事だから。わかってるよね?」


「中層領域、最奥部か。下層でもあるのか?」


「知らないよ。俺が始めの扉ってこと以外は」


「時間がねぇんだろ? さっさと案内してやるからついてこい」


 前世の自分との会話をぶった切って、急かす原初の自分。

 口は悪いが、現状認識は間違ってないので従う。

 ただ、後で泣かす。

 そう心に決めて、最奥へと向かい、試練? 試験? が始まった。


「さぁ、始めようか」


「え、嫌ですけど」


 拒否ったが、強制開始となった。


「じゃ、俺からだ。原初化するよな? するだろ? つうか、しろ」


「ただの脅迫じゃねぇか!」


 原初の自分の物言いに、盛大にツッコむ。

 前世の俺は溜息を吐いた。

 気持ちは良くわか……うん、全て俺なんだよね。


「原初の自分は、ちょっと黙ろうか」


「お、おう」


 前世の自分が笑顔で原初の自分を怯ませる。

 うん、前世の俺の笑顔って怖いのな。


「何を言いたいのか分かるのが嫌だけど、まぁそこは置いといて……本題。まずさ、なんで皆に嘘ついた?」


「嘘? ついた覚えはないけど……」


 隠してる部分も無いと思う。

 まぁ、本気で隠さないと、絶対にバレるというのもあるけど。

 しかし、前世の俺は過去の話をし出した。


「過去に気持ちを伝えた時、嘘を吐いただろ?」


「いや、あれは……」


 チクリと胸が痛む。

 だが、嘘を言ってるつもりは……。


「嘘だね。あの時は、愛してなどいなかった」


「違う!!」


 大声で否定するが、前世の自分は意に返さず続けて話す。


「違わないね。認めろよ。あの時は、流されただけだって」


「嘘じゃない! 俺は……」


 好意は愛に変わる筈だ。

 なら、決して嘘ってわけじゃない。

 だが、前世の俺は、全否定の言葉を並べて返してきた。


「好意があったことは認めるよ。でも、好意と愛は別物。だからお前は、嘘吐きなのさ」


「違う! 好意が無ければ、愛に発展はしない!」


「そこは認めるよ。でもな、好意があっても、嫌な部分を見てしまったら嫌いになったり、最悪は無関心へと至るんだよ。だから、好意だけの時点で愛を語ったお前は、嘘吐きなんだよ」


 ド正論で論破してくる、前世の自分。

 しかし、ふと考える。

 この話、今、必要か? って。

 告げようとして、先手を取られた。


「逃げるなよ。己を知り、弱さを克服する為に必要なんだからさ」


「逃げてなんて……」


 逃げてるわけでは無いと言いかけて、またも否定される。


「逃げてるよ。前世の俺が言うんだぞ? いつまで引きずってんだよ」


「もう、克服――」


「してないから、前世の俺が居るんだよね。まぁ、気持ちは分かるけど、そろそろ前を向くべきだろ?」


 何も言い返せない。

 そんな俺に、前世の自分は語って聞かせ始める。

 あの、忌まわしい出来事を。


「相手から告白されて、付き合い始めて、僅かな期間で、男女の仲を求められて、合意の上で行為に及ぼうとしたら騙されて、挙句に強姦をしたって言う嘘の情報を流されて――」


「やめろ!」


「そして、付き合いの浅い奴らはその話を信じて離れて、誹謗中傷を受けた。まぁ確かに、心の傷トラウマとしては十分だ」


「やめろと言ってる」


 威圧、そして、力の解放をして……搔き消された。

 誰に? 原初の自分に。


「てめぇ……」


「おー怖っ。でもよ、消そうとするのは感心しねぇなぁ。自分で自分を一部を消す。削ぎ落すのとはわけが違うから、認められねぇなぁ」


「だね。先ずは認めようか。嘘を吐いたって」


 ……いいさ、認めてやる。

 確かに、あの頃の気持ちに、完全な愛は無かった――と。

 だが、好意までは否定させない。


「好意に関しては認めてるさ。お前は俺だしね」


「んじゃま、認めた所で次に進むか」


 原初の自分が話すと同時に、下層領域への扉が開かれる。

 自身の心象意識とは言え、この先は未知だ。

 それと言うのも、俺が原初を継いだ時に、表層意識以外は全て原初の海と混合されて、領域へと変化しているからだ。

 自分の意識であって、自分の意識で無い。

 いろんな角度から見て、物事を決められる場所。

 それが領域。

 だから、この先は未知となる。

 そんな下層は、さらに暗く、闇が広がっていた。


「……重い」


 重苦しい雰囲気ではなく、実際に場が重い。

 力の波動なのかはわからないが、どう考えても自分の意識ではなかった。

 そんな中で、続きが開始される。


「さて……認めて次に来たんだけど、次は原初の自分だね」


「待ちくたびれたぜ」


 軽い感じで話す自分の意識体だが、こっちは既にお腹一杯である。

 これ以上は、後日に願いたい。

 今は非常時ってのもあるし。

 だが、こっちの願いは却下されて、会話再開。


「俺が聞きてぇのは、なぁんでわざわざ縛ってるかだな」


「……意味が分からん」


「あん? お前さぁ、なんで自分で、自由に制限をかけてんの?」


「自由に?」


 これまた意味不明。

 割と自由にやっていると思うんだが。


「婚約者? 嫁? どっちでも良いけどよ、気ぃ使い過ぎ。それと、他の奴らにもだ」


「普通は使うだろ?」


 言ってる意味が、全然わからん。


「お前、他にもやりてぇことあるのを、わざと封印してるだろ。俺は原初だからわかんねぇが、そこんとこどうなんだ?」


「……一定の気遣いは必須。でも、やりすぎは良くない」


「ってぇことだ。で? やりすぎ君は、そこんとこどう考えてる?」


「こっちとしては、やりすぎてる気はない」


 イラッとしながらも答えるが、これに反応したのは前世の自分。


「嘘だね。いや、完全に嘘では無いのだろうね。無意識化でやってるから」


 前世の自分が答えを言うと、原初の自分が引き継ぐ。


「無意識化で――か。難儀なこった。まぁ答えから言うとな、もっと自分を曝け出せって話だ」


「充分、曝け出してる」


 反論するが、嘘だと言われ、反論を返される。


「やりたい事を封じて、誰にも打ち明けず、周りの顔色ばかり気にする。それで本当に、曝け出してると言えるのか?」


「やりたい事だけやってたら、軋轢を生むに決まってるだろうが」


 正論パンチで返しておく。

 それに反論してきたのは、前世の自分。

 意外とうぜぇ。


「言ってる事は正しいとは思う。でも、我慢し過ぎてないかって話だよ。我儘、言ったことあるか?」


「俺は十分、我儘だ」


 我儘しまくってる自覚はある。

 だからこの問答には意味が無いと思うんだが。


「周りにはそうだろうけど、婚約者達には?」


「それは……」


 嫌われたくない、離れて欲しくない、幻滅されたくない、一人は嫌だ。

 そんな気持ちがあるのを否定はしない。

 でも、根幹の気持ちは……裏切られたくない。


「だから、自由に生きられない。もし、本当の自分を知られたら、誰もいなくなってしまうと考えてしまうから」


 その言葉を聞いた後、更に深く、下層へと進んで行く。


「昔からそうだ。お前は、本当の自分を隠す」


「自分を曝け出せない世界、そんな世界に意味はあるのか?」


 言い返したい、でも、何故か言い返せない。

 意識がまた薄れて行く。

 そして、声が重なって聞こえた。


「「そんな世界なんて、消えてしまえば良い」」


 そして再び、意識は闇へと落ちる。

 深く、深く、二度と目覚めることのない闇へと墜ちていく。

 落ちて、墜ちて、堕ちて行く。


「もう、良いの?」


 誰かの声が聞こえる。

 でも、眠いんだ……目覚めたくないんだ。

 そして、世界は暴走を始める。

 自身の世界と現実世界で……。









 …

 ……

 ………

 …………


『……ィ……』


 なんだろう? 音が聞こえた。


『……ィ!……』


 眠いんだ……起こさないでくれ。


『……フィ!……』


 うるさい、起こすな。


『ラフィ様!』


「……ミリア、の声」


 少しだけ、意識が覚醒する。

 何を叫んでいるのだろう? こっちにきて、一緒に……。


『イーファさん、ラフィ様は!?』


『相変わらず、意識が無い状態で力を暴走させておる! 妾でもいつまで抑え込めるかわからぬぞ!』


『ミリア! そっちからも!』


 何を騒いでいるんだ? ああ、遊んでいるのか。

 ほら、遊ぶのは終わりにして、休もう。


「良いの? 本当に?」


 問いかけの声に振り向くと……子供の時分?


「ねぇ、良いの?」


「眠いんだ」


「本当に? 僕には、泣いてる子供の様に見えるよ」


 言われて顔に手を当てると、涙が流れていることに、今、気付いた。

 でも、なんで涙を流しているんだろう?


「ねぇ」


「なんだ?」


「本当の願いって、何?」


「ねがい?」


「うん」


 願い……本当の願い、気持ち、想い。

 そうだ、俺は……。


「ミリア達と幸せに、人として生きていきたい」


「じゃあ、こんなところで泣いてちゃダメだと思うよ」


「……そうだな。君の言うとおりだ」


 立ち上がろうとして、先の2人が姿を見せる。


「ちっ。良い感じだったのによ」


「本当に良いんだな? もしかしたら、また傷つくかもしれないぞ?」


 思い通りにいかなかった言葉と、甘い誘惑の言葉がかけられる。

 でも、自分の願いを再確認してしまった以上、後には引けない。

 だから、俺は――。


「行くさ。まぁ、幻滅されないように頑張るけど」


 原初の自分は、姿を消していった。

 前世の俺は、更に問いかけてくる。


「それでまた、気を使い過ぎると?」


 気は使うだろうさ。

 でも、確かに、言う通りだったよ。

 だから、この先は――。


「色々と、試行錯誤して行くさ」


 偽りない本音を晒す。

 直ぐに変わるとか、そう言った器用な事は出来んからな。

 だが、次の質問に、即決できなかった。


「もう一つ、彼女たちを愛してるのか?」


「……わからない」


 これも本音で応える。

 その瞬間、獣のような声が響いてきた。


「なんだ!?」


「警戒しなくて良い。現実世界の、自分の声だから」


 そう言えばさっき、暴走してるとか……あれ? ヤバくね?

 そんな中で、クッソ恥ずかしい言葉が聞こえて来た。


『ラフィ様、聞こえますか!? 私はずっと、貴方の傍にいます! だから、泣かないで……ご自身を貶めないでください! 私は、ミリアンヌは、ラフィとずっと一緒に居たいです!』


『ラフィが言った、あの時の言葉は嘘じゃないって、私はちゃんと知ってるよ! だから、自分の言葉に、気持ちに、想いに自信を持って! 私は貴方の言葉を受け入れてる! 嬉しかった。だから、自分の言葉を嘘だと言わないで!』


『聞こえておるのじゃろう!? ほんにお主は女泣かせの男じゃの。まぁ、それも良い。だがの、泣かせるなら、嬉しくさせて泣かせてみよ! 妾も――いや、妾達もお主に幸せだと感じさせて泣かせてやるわ! だから早う起きるのじゃ!』


「~~~~~~~っ」


「恥ずかしいねぇ。今どんな気持ち? ねぇねぇ、どんな気持ち?」


「てめぇはどこぞのメスガキか! 恥ずかしいのと嬉しいので一杯だよ!」


 うん、もう大丈夫だ。

 だから、さっきの問いかけに素直に答えよう。


「さっきの問いかけだけどな」


「うん?」


「愛しているかはわからない。好意があるのは間違いない。そして、誰にも渡したくない」


「それで?」


「ぶっちゃけ、今すぐ抱きたい! 勿論、男女の関係の方!」


「ぶっちゃけ過ぎだろ……。でもまぁ、良いんじゃね?」


 ちゃんと答えたせいだろうか? 前世の自分が薄れて消えていき始めた。

 そして、最後に一言だけ伝えて来た。


「過去は過去。変えられないんだ。でもな、乗り越えた先には何かが待っている。良い事か、悪い事かはわからないけど、必ず何かがある。だから、囚われ過ぎんな。全く……20年も引きずってんなって話だよ。前世で生きてたら、40手前じゃねぇか」


「うっ。それを言われると耳が痛い」


 こちらの言葉を聞いた後、前世の自分は笑顔で消えて行った。

 いつの間にか、子供の頃の自分もいなくなっている。

 そして、意識は更に深く、深層領域へと辿り着く。

 そこには扉と原初の自分。


「ちっ!」


 悪態で出迎えた原初の自分。

 だが次の言葉で、キレた。


「あの女共、邪魔しやがって。いや、身体の主導権はまだ俺にあるし、消しておく――」


 最後まで言わせなかった。

 何を言おうとしたか分かったので、全力グーパンで殴り飛ばした。

 ただ、原初の力も何も纏わせてない、純粋な拳で。

 ただ、効き目は十分にあったらしい。

 いや、これが正解だったのだろう。


「いってぇ! マジで超いてぇ。つうかてめぇ、よくも――」


「”あん? 人の女に手ぇ出そうとして、タダで済む訳ねぇだろうが! 原初の力がそれを行うってぇなら、そいつごと潰すぞ!」


 目を見開いて驚く、原初の自分。

 分かりやすく言うとだな――。


 ――原初の力を捨てる――


 こう言ったわけだ。

 つまりは、原初を放棄である。

 流石にそれは許容出来なかった様で、慌てる原初の自分。


「待て、待て待て待て待て! てめぇ、何言ってんのか分かってんのか!?」


「分かってるわい」


「いやいやいや、おかしいだろう。わざわざ進んで捨てるってのか?」


「自由に考えた結果だが?」


 その言葉に、間抜け面を晒す原初の自分。

 そして、何故か大笑い。

 何が可笑しいというのか。


「あー、腹いてぇ。まさか二代目がここまで馬鹿だとは」


「バカは余計だよ。つうか、やっぱりそうか」


 こちらの姿をしているが、こいつは力の根源。

 つまり、原初そのもの。

 内に秘めている全ての原初の力であり、原初の海そのもの。

 まぁ、言ってる言葉に嘘はないから、関係ねぇか。

 原初も神だし、内なる神を殺しても問題無いだろうし。


「問題大アリだ!」


「人の考えを読むな」


「物騒なこと考えてっからだよ!」


 それは否定できんな。

 ただ、時間も無いのでどうするか決めて欲しいんだが?


「はぁ。こっちの負けだ。もってけ」


「意外にあっさりしてんな」


「ふん」


 ちょっと不貞腐れているが、もう何かする気は無いらしい。

 その証拠に、姿が消え始めていたから。


「お前に託すけどな、闇が出来たら、また同じことの繰り返しだからな。次は、喰ってやる」


「はいは……ん? 喰ってやる?」


「はぁ……ここまで馬鹿なやつに負けるのかよ」


「馬鹿は余計なんだよ」


 話しを聞くと、神喰の上位互換――いや、昇華か? なんにせよ、原初の本質は神喰と同じだという。

 神喰の扱いが雑なままなのは、本能と言っても良いらしい。


「同族嫌悪ってやつだな。原初は常に一人。神喰なんざ、異質で異物でしかねぇ」


「じゃあ、どうするってんだ?」


「知らねぇよ。今の原初はお前だ。好きにすりゃあ良い」


「じゃ、現状維持で」


 しっかし、原初も喰らうもの側だったとは……。

 もしかして、全てに繋がってる?


「何考えてるか分かるが、今は止めとけ。それと、これを預けとく」


「これは……鍵?」


 預けられた鍵は二つ。

 一つは灰色の鍵、もう一つはいろんな色が混然一体となった鍵。


「色が多い鍵は、お前の願いの結晶だ。もう一つは、こっちの願いの結晶。それとな、今回だけは、無条件でやってやる」


「次からは、鍵を使えって事か」


「色付きは、早々使えねぇよ。灰色は、一度使えばそれまでだ」


「そういうことね」


 色付きは限定条件を満たした時に使える鍵、灰色は本来の原初に成る鍵か。

 ただ、限定条件に関しては緩和されているらしい。

 それと、いくつか変更もされているとの事。


「詳しくは、これが終わった後にまた来い。しっかりと教育してやる」


「あ、教育とかいらねぇから、先代にでも聞くわ」


 深層領域に長時間滞在など、二度とごめんである。

 心に対する負荷が、えげつないからな。


「まぁ、もう一度来る必要はあるんだがな」


「マジか……」


「今回は限無しだって言っただろ。特定条件下で開くんだから、閉める必要もあるってわけだ」


「代わりによろ」


「出来るかっ!」


 話しによると、俺が閉めんといかんらしい。

 なんでも、それが義務だと。

 そこまで言って、原初は消えて行った。

 そして、残された扉が開かれる。

 それと同時に、光が深層を照らし、意識が急浮上して行くのを感じた。

 直ぐに現実世界で意識が覚醒すると、目の前には大人イーファからの手刀が。


「早う目覚めぃ!」


 もう目覚めているので、柔よく剛を制すといった感じで制し、ナユの声がした方へ意識を向けると、呪い共がミリアに複数襲い掛かろうとしていたので……。


「誰の女に手ぇ出してんだ、ゴラァ!」


 右腕の中にミリアを収め、左足でヤクザキックして、呪い共を瞬殺する。

 そのまま直ぐにナユを左腕に収め、リュラとイーファのいる元へ。


「ラフィ!」


「心配しました!」


「意識が戻って、なにより、じゃ……」


「おっと」


 倒れ込んで来たイーファを身体で受け止める。

 相当無理をしたのであろう。

 服はあちこちが破け、はだけ、生傷だらけ。

 そんなイーファは、寝息を立てながら眠っていた。

 回復魔法を掛けて癒し、ミリアとナユにイーファを預けてから一言。


「心配かけてすまない。んで、ただいま」


 その言葉の後、この場に見える呪い共を俯瞰してから瞬殺する。

 新たに生まれる事はあっても再生など無く、完全消滅させた。

 それに驚く龍神とミリアとナユ。

 今ここに――。




 ――覚醒原初が誕生した瞬間であった――

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