第220話 結果発表おぉぉぉっ!!

 試験は進み、残るは雪代さん、蛍、シアの三名だけとなった。

 そして次は、蛍が試験を受けに行くようだ。

 そうなると、蛍、雪代さん、シアの順番かな。


「行きたくないけど、行ってくるわ」


「体に気を付けてー」


「ちょっとっ、シャレになって無いわよっ!」


 軽口を交わしてから、クッキーさんの元に向かう蛍。

 手には大太刀を持っており、持ち手の感触を確かめる様に、にぎにぎしているのが見えた。


「やっぱ緊張してるなぁ」


「どうにかできないのかしら?」


「うーん……あ、良い考えが」


 緊張をほぐそうと、蛍に声をかける。

 態度には出してないが、顔が若干、強張っていた。

 なので、作戦を実行しようと思う。


「蛍ー。今日の下着もクマさんパンツかー?」


「なっ!」


「それともー、ウマさんかー?」


 ワナワナ震えだす蛍。

 よし、緊張はほぐれたようだな。

 俺の命は消えるかもしれんが……。

 尚、この場にいる女性陣の目が冷たい。

 特に堪えるのはシアの目だ。

 うん――俺が悪いから、マジでその目は勘弁して欲しい。


「ラフィ様」


「なんでせうか?」


「後でお話があります」


「はい……」


 ミリアのお説教が確定した。

 ただ、そのやり取りを見ていた蛍は、プッて笑い――手に収まる位の石を投げて来た。

 普通に危ないんですけど?


「危ないだろっ」


「ちっ。当たんなかったか。後で覚えてなさいよっ」


 そう言った蛍の緊張は、どうやら解けていたようだ。

 軽く肩を回した後、審判に顔を向けてから、クッキーさんに向き直る。

 そして、審判から開始の合図がなされた。


「先手必勝!」


「あら? 思い切りが良過ぎねぇ」


 低空走行からの居合抜刀左逆袈裟斬りで仕掛ける。

 しかし、難なく躱すクッキーさん。

 だが、それは織り込み済みであったかのように、上段まで振り切るのを止め、二歩前に踏み出してからの一文字切り。

 それを上体逸らしで躱しながら、後方宙返りをして、縦方向の回し蹴りを仕掛けるクッキーさん。

 蛍は、それも織り込み済みだと言う様に一文字切りを途中で止め、大太刀が飛ばされないように数歩後退してからの、一瞬だけ出来る死角の時を狙って、二段突きを繰り出す。

 だがしかし、死角が出来る事など百も承知と言うかのように、クッキーさんは剣で弾く。

 この間、わずか数秒……もの凄い攻防と駆け引きの応酬であった。


「全部防がれるとか……ちょっとショックだわ」


「誇って良いわよぉん。だってぇ、結構本気になりそうだしぃ」


 舌舐めずりし始めるクッキーさん。

 どうやらギアを上げて行くようだ。

 対する蛍は、正眼の構えに変更して相対する。

 どうやら一撃必殺の戦法だったらしく、この先は正攻法で行く気らしい。

 結果だけ先に言うと、相手の猛攻に押されて蛍が負けた。

 ただ、ちょっとだけ面白い戦いが見れたのは僥倖だった。

 そもそもの話、クッキー攻略における最善手は、奇襲からの初手一殺に限る。

 但し、試験の場合は奇襲が不可能なので、初手一殺のみしか使えない。

 しかしそれでも、十分に攻略可能だったりはする。

 段階的に戦闘力を上げて行くのがクッキースタイルなので、戦闘が長引くほど不利になっていくわけだ。

 では、何が面白かったのか? それは、蛍の戦い方だ。

 鍔迫り合いに持ち込んで、力で一気に決めたいクッキーさんに対し、それが分かっているからこそ、躱し、受け流し、相手の思惑にならないように戦う蛍。

 見方にによっては、これも技量の応酬に見えるのが面白かったのだ。

 まぁ最後は、死線の修羅場が違うクッキーさんがごり押しで勝ったけど。


「負けたわ……。勝てると思ったんだけどなぁ」


「その自信はどこから来てるんだよ」


 戻って来た蛍の軽口に答えるのだが、俺を押しのけて前に出る人物が……ラナである。

 同じ刀を扱う者として、どうやら惹かれちゃったらしい。


「蛍おねぇ様……」


「おねぇ様!?」


「まさか、ソウルシスターが生まれるとは……」


 どこぞの魔王様に嫌がらせをする集団の総称なのだが、ラナの場合は違うらしい。


「ラフィ様っ、蛍おねぇ様を私に下さいっ」


「「はい?」」


「姉妹揃って嫁ぎに行きますからっ」


「蒼、ラナさんは何を言ってるのかしら?」


「姉妹揃って……あ、竜王国王の養女にって事か」


「はいっ。蛍さんの生い立ち的にも、問題無いですよねっ? ねっ!」


 ラナさん、鼻息が大分荒い。

 しかしだ……こういった話は、ラナの一存で決められる話でもないし、いろんな人を巻き込んで作った蛍の設定にも大きく響きかねない。

 蛍は……あ、思考放棄してるな。

 どうしたものかと考えていると、ミリアとリーゼから服の裾を掴まれる。

 何か妙案があるのかな?


「二人共、どうした?」


「いえ、そのですね、シオンさんの試験が始まっているんですが」


「え、マジ?」


「マジです。リーゼさんはラナさんに対しての意見具申でしょうけど、まずはこちらを見るべきかな――と」


「そうだな。とりあえず、ラナの話はあとで」


 ミリアと俺の決定なので、誰も何も言わない。

 ただ「絶対に後でお話ですよ!」と、釘は刺されてしまったが。

 ラナにしては珍しいおねだりでもあるので、蛍とも話し合わないといかんかなぁ。

 関係各所は良いのかって? どうにでもする所存です。


「はぁっ!」


「あなたも強いわねぇん」


 考え事をしてる内に、雪代さんとクッキーさんが打ち合ってた。

 ただ、鈍器対剣だと、剣の方が刃こぼれしそうな気がする。

 なんていっても金棒だしなぁ……。

 ……鬼に金棒、なんちって。


「ラフィ君っ、今、変な事考えたでしょう!? 後で追及するから――ねっ!」


「げっ、やっべ……」


「余裕ありそうねぇん。でもぉ、意識を割くのはだめ――アブナァァイッ」


「ちっ、これもダメか」


「あれ? 雪代さんの性格も変わってきてないか?」


 俺に対して尋問すると言いながら、互角にやり合う雪代さん。

 そんな彼女に対して苦言を呈したクッキーさんだが、直後に大振りの一撃が飛んできて、慌てて回避。

 そして、地味にやさぐれ感が出てしまった雪代さんに、ちょっとだけ焦る俺。


「流石に、猫かぶりする余裕はなくなったみたいね」


「蛍?」


「ああ。そういえば言ってなかったっけ? 詩音って、元レディースの総長よ」


「初耳なんですが!?」


 蛍からの爆弾発言にビビるも、何故か納得してしまった。

 暴走族とか不良が使う武器のイメージに、金属バット、釘バット、鉄パイプとかがあるからなぁ。

 全部鈍器で打撃武器だし、元から相性が良かったわけだ。


「てめぇっ、躱してんじゃねぇぞ!」


「性格変わり過ぎじゃなぁい!?」


 あのクッキーさんですら、雪代さんの変貌ぶりに驚いているからして、蛍以外の全員が驚くのも無理はない。

 しかし一名、直ぐに復帰して意味深な言葉を放つ。


「彼女、良いですね」


「リーゼ!? 何が良いんだっ?」


「うふふ」


「笑ってないで説明プリーズッ!」


 ちょっと場の空気が変わり始めた所で、地味に押していた雪代さんの雲行きが怪しくなった。

 何とクッキーさん、剣を捨てて拳闘士スタイルに切り替えたのだ。

 金棒の軌道を読んで受け流し、懐に入り込むようにしていく。

 逆に懐に入られるのを嫌がった雪代さんが牽制するのだが、徐々に詰められていき……金棒を捨てた。

 珍しく目を見開く俺。


(え? マジで? ガチンコやんの?)


「ッシャオラァァァッ!」


「ふんぬらばぁぁっ!」


 気合い一閃、ノーガードで殴り始める二人。

 リーゼの瞳がキランッと光る!


「うわぁ……」


「なんて無茶するんだろう……」


 リアとリジアの意見に大いに賛成である。

 クッキーパンチは一撃必倒の拳技だ。

 まともに食らえば、9割9分9厘の冒険者は確実に沈む。

 一撃で意識を刈り取られてオシマイのはず……なのだが、雪代さんは何発も食らっているのに倒れない。

 それどころか、相手の急所めがけて当てに行く始末。

 なんだろう……血沸き肉躍る某バグウサギが乗り移った様にしか見えない。


「蒼、あんた、結構失礼なこと考えてるからね」


「このネタが分かる時点で、蛍も同罪だと思うが?」


 サッと顔を逸らす蛍。

 やっぱ同罪だな。


「んもぅっ、良い加減倒れなさいよぉ!」


「まだよっ、まだやれるっ!」


 そこから殴り合う事数分、地に沈んだのは雪代さんだった。

 尚、白目を剥いて気絶中である。

 ただ、イーファみたいに痙攣してはいないのが救いだろうか?

 天に拳を突き上げて、勝利のポーズをとるクッキーさんだったが、慌てて拳を引っ込めた。


「私もまだまだ青いはねぇん」


 クッキーさんが言った一言に、この場の全員はきっと同じ気持ちになっただろう。


 ――青くはねぇよっ!――と


 初老に突入し始めても、尚我が道を行く人なので、絶対に青くは無い。

 寧ろ、真っ黒だよ――と言いたい。

 斯くして、雪代さんの試験も終わり、残すはシアだけとなった。


「シア、頑張ってきますっ!」


 ビシッと敬礼したシアは、クッキーさんが待つ場所へと駆けて行く。

 ただ、本当に大丈夫だろうか?

 いざとなったら、クッキーさんの抹殺も視野に入れなければいけない。


「大丈夫ですよ」


「そうだと良いけどなぁ……」


 めっちゃ不安である。

 そして、最後の試験が開始された。


「よろしくおねがいしますです」


「はぁい。よろしくねぇん」


 何とも可愛らしい挨拶である。

 ほんわかするような挨拶をしたシアであったが、一変して初手からヤッバイ魔法を繰り出そうとしていた。

 あのクッキーさんが冷や汗を流したかと思うと、全力で防御姿勢を取ったほどである。


「おねぇちゃんたちの仇、殺っちゃうのですっ」


「いや、死んでねぇから」


 思わずツッコんでしまったが、その可愛らしい……可愛らしい? いや、ちょっと物騒な物言いではあったが、言い方が可愛いので良しとしよう。


「言い方が可愛くても、この威力はシャレにならないのだけどぉ!?」


 クッキーさんが何か言ってるが知らん。

 と言うか、今日一番焦ってる気がしないでもない。

 シアの将来が楽しみである。


「親バカ……いや、妹でもおかしくない年齢だし、シスコン?」


「光源氏計画ってか? 罪な男だねぇ」


「お前ら、後で黒歴史鑑賞会確定な」


「「!!?」」


 何時の間にか戻って来ていた潤と輝明の言葉に対し、死刑宣告で返す。

 二人の顏から血の気が引いて行ってるが知らん。

 有言実行って素晴らしいよね。

 そんな二人が泣きついたのは彼女であったが、自業自得と切り捨てられていた。

 雪代さんも直ぐに目を覚ました様で、こちらに戻ってきている。

 回復速くね?


「気合いよ」


「あ、そっすか……」


 本当に、某バグウサギみたいなことを言い始める雪代さん。

 将来は、俺への抑止力になる未来しか見えないんですが。

 どこぞの某魔王の抑止力みたいに。

 そんな話をしている間に、極限まで練り込まれた魔法が完成した模様。

 きちんとした試験方式なら、この様な方法は悪手でしかないが、今回はシアの攻撃に関して見る試験なので間違ってはいない。

 ただ一点不安があるとしたら、シアがクッキーさんを本当に殺っちゃわないか……いや、大丈夫だろう。

 どう考えてもボスキャラでバグキャラだし。


「行くのです! 超必殺魔法【七精新星エレメンタル・ノヴァ】」


「あ、これは死んだわぁん……」


 新星誕生の如き輝きがクッキーさんへ襲い掛かった。

 魔法の適性ランクは少なく見積もっても帝級、下手をすれば神話級の威力である。

 シア、なんて恐ろしい子……。

 とは言え、だ……こんな大出力魔法を、わずか10歳の女の子が扱うには分不相応だと言えるだろう。

 では秘密があるんだろう? って話になる訳だが、実はこれ、精霊魔法だったりする。

 実は大分昔に、シアにせがまれて、内緒で七大精霊を紹介したことがあるのだ。

 精霊に対してコミュ力チートである彼女は、直ぐに打ち解けた。

 そして、気持ちが強く表れている時で、且つ力を借りたい時に限り、限定条件化で七大精霊から力を借りられる様になった――と、以前に聞いている。

 そして、その条件なのだが【家族の為】である事が、条件となっている。

 護る為の力であるのだが、今回はそれが別方向で条件を満たしてしまったみたいだ。

 だからこんな大出力魔法を撃てたわけだが、流石に殺っちゃったんじゃなかろうか?

 全員が予想の斜め上過ぎる展開に唖然となっている中、煙の中から出てくる人影が……勿論、満身創痍で、スキルと防御系魔法を全力全開で行使中のクッキーさんである。

 もう一つ言っておくと、全裸である。

 この試験場にいる女性全員から、悲鳴が上がる。

 当然、シアも両手で顔を覆い隠して見ないようにしているのだが、不思議な生物と話すような感じで質問もしていた。


「どうして元気なのですか?」


「元気じゃないわよぅ……。本当に、死ぬかと思った」


 クッキーさん、素に戻っちゃうくらい、本気でヤバかったっぽい。

 しかし、今の姿は性別問わず凶悪なので――流石に本人も自覚している――急いで駆け寄って来た救護班から外套を受け取って羽織る。

 サイズは大きめなので、どうにか全裸は隠れた。


「私も着替えたいしぃ、総評は少し待ってねぇ。それとシアちゃん。私に撃った魔法はぁ、気軽に使っちゃぁダメよぉん。いや、ほんとマジで」


「は、はいなのです」


 最後にまた素に戻っちゃった真顔のクッキーさんに、思わずたじろいで返事をするシア。

 ちょっとだけ、怖かった模様。

 もし泣いてたら、多分、我が家総出でクッキー抹殺――社会的に――に動いていたかもしれない。

 何はともあれ――こうして、波乱続きの試験は終了となった。

 そして、全員のランクが発表される。



「結果発表おぉぉぉぉぉっ!!」


「「「「「「「「「「なんで浜◯風の言い方!?」」」」」」」」」」


 クッキーさんが戻ってくる時、一人の男性職員を連れて戻って来たのだが、その男性はサブギルドマスターだった。

 名前はマットシーサ・ダーハマ。

 結果発表の言い方に癖があったこともあって、名前の羅列からも某有名芸人を連想してしまっても仕方ないと思う。

 それくらい、強烈な印象を与えて来た彼だが、年齢は40歳でちょい悪オヤジ風という、なんともミスマッチ的な感じだ。


「発表は、彼からして貰うわねぇん」


「はあ……」


 気の抜けた返事で返すと、早速発表へと移った。

 尚、預けていたり新規発行された冒険者カードに関しては、この場で彼から渡されるらしい。

 受付のキレイなお姉さんから貰えると思っていた潤は、明らかにテンションが低くなっていた。

 そして、それに気付いた箒から尻を抓られた模様。

 軽く涙目で、サブマスからカードを受け取っていたからな。


「これでぇ、一通り終わりねぇん。この後はぁどうするのかしらぁ?」


「今日はもう宿に行って、その後は食事して寝るだな。明日は観光」


「残念ねぇん。どうせならぁ、依頼を引き受けて欲しかったのだけどぉ」


「ちょっと予定が立て込んでるから無理」


「仕方ないわねぇん。何かあったらぁ、ちゃんと連絡してきなさぁい」


「?」


 最後、なんか変な言い回しだった気がするんだが……気のせいか?

 まぁこれで、ようやく一段落付けそうだな。

 どうにかこうにか、目的達成したので宿へと向かい、部屋に入った後で全員のランクを確認していく。

 各員のランクは、次の通りだ。


 ウォルド――SSS→EX

 ミリア――B→B

 リリィ――B→B

 ラナ――A→A

 ミナ――B→A

 ティア――B→A

 ヴィオレ――A→S

 リア――S→SS

 ナユ――S→SSS

 イーファ――新規SS

 リジア――A→S

 スノラ――新規B(制限・条件あり)

 八木宗太――A→SSS

 春宮優華――A→A

 姫埼桜花――A→S

 常磐潤――新規A

 箒美羽――新規S

 芹澤輝明――新規A

 澄沢天音――新規S

 夕凪蛍――新規SS

 雪代詩音――新規SS

 シア――発行できる年齢になったらB


 以上となっていた。

 これに、Sのリュール、SSのヴェルグ、限定条件付きでBのリーゼが加わる。

 しかし、大盤振る舞い過ぎないかねぇ。

 実力者的に上である筈のリュールとかSのまんまだし……。


「ん。私、上がってる」


「そうなのか?」


「ん。SSになってる」


「知らんかった」


 証拠とでもいう様に、リュールは冒険者カードを取り出して俺に……ではなく、ヴェルグに見せた。


「追い付いた」


「引き離してあげるよ」


「負けない」


 リュールとヴェルグ。

 俺の婚約者同士であり、友達で好敵手ライバルでもあるらしい。

 仲が良くて、大変結構である。


「さぁって、明日は遊ぶぞー」


『おーーー!』


 そういや、何か忘れてる気が……気のせいかな?

















「あの野郎……俺の事ガン無視かよ! いつか絶対に泣かしちゃるっ。……はぁ」


 試験場で、哀愁漂わせる傭兵王であった……。

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