第207話 色々やらかして修羅ばった

 悪友のド変態ぶりが知れ渡った所で、一度、話の整理に入る。

 脱線しまくってるからな。

 肉体と魂の説明が、半分くらい終わった所で、本題には一ミリも触れてない。

 八木達の話には得るものがあったが、あくまで脱線した話。

 現状はこんなところだろうか。

 ……これ、いつ終わるんだ?


「いつかは終わるさ」


「だ・か・ら! 思考を読むな!」


 メナトへのツッコミも忘れずに、とりあえずは本題の話に進ませよう。

 未だメナトに踏まれてる潤は、とりあえず無視で良いや。


「メナト、話が進まないから、とりあえず魔力を感じ取れる様にしてくれ」


「わかった。ただ、踏んでるのはどうするんだい?」


「後で輝明にでも教えさせる」


「え? こんな変態の相手は嫌なんだけど」


「誰が変態か!」


「お前だよお前。はぁ……暫くは屋敷で食客になる訳だし、バイト替わりにやってくれ。それか、彼女である美羽に任せるかだな」


「殺って良いなら引き受けるけど?」


「皆、酷くね?」


「自業自得でしょうが。こんな変態が幼馴染とか、記憶から消したい位よ」


「俺、泣いて良いかな?」


 一連のやり取りを終わらせてから、メナトから解放された潤――本人は残念そう――も合わせて、魔力を感じ取れるようにしていくメナト。

 個人差があるみたいだが、その辺りは神であるメナトが調整するだろう……多分。

 そして、開始して僅か数分で、天音が自身の力で身体強化の魔力光を発生させた。


「これが、魔法……」


 だが直ぐに、ベッドへ倒れる様に寝転んでしまった。

 魔力制御が出来ていなかった様で、魔力欠乏になった様だ。


「ぎぼぢわるい」


「乗り物酔いの酷い状態に似てるからなぁ。ほれ、魔力回復薬」


 渡された魔力回復薬を煽る様に飲み干す天音。

 魔力がある程度戻った様で、普通に起き上がって皆を待つ。

 そうこうしている内に、女性陣は全員が身体強化の魔力光を出す事に成功していた。

 勿論、魔力欠乏による悪酔い付きで。


「きっつい……」


「死んじゃう……」


「不知火君、はやく、回復薬を……うっぷ」


「ほいほいっと」


 蛍、澄沢、雪代の三人にも回復薬を渡し、全員が我先にと飲み干していく。

 かなりキツイらしい。

 俺は……言う程では無かったような気がする。


「ラフィ様。普通は、幼少期にある程度の制御は習いますから」


「そう言えば、俺もそうだった……いや、そうでもないか」


 ヴァルケノズさんもゼロも、スパルタだったのを思い出した。

 酷い酔いは無かった記憶はあるが、魔力欠乏になるギリギリまで修練させられた記憶がある。

 俺、良く生き残ったなぁ……。


「うーん……輝明と潤は、呑み込みが悪いな」


「それは、鈍感と言う事か?」


「そんな感じだね。魔力に対する感受性が低いのかな? まぁ、珍しい話では無いけど」


「この世界でもか?」


「魔力制御の修練で、覚えが悪い子供っているよね。そういう子は、感受性が低いんだよ。まぁ、毎日きちんと瞑想とかして、魔力を高めて行くと高くなるんだけど」


「急に、魔力制御が悪くなることもあるのか?」


 ちょっと気になったので聞いてみる。

 すると、納得できる話が返って来た。


「妊娠期は、制御が乱れるね。両親や仲の良い子持ちに聞いてみると良いよ」


「知らんかった」


 尚、この話、女性の間では常識らしい。

 特に、妊娠初期と後期が一番荒れやすいとの事。

 安定期はそれほどでもないが個人差はあるらしく、貴族などだと、常に一人は侍女が傍に仕えてるそうだ。


「将来の為に、メイドの増員をした方が良いのか?」


「妊娠期専門のメイドもいるそうですよ。個人での雇用はお断りらしいですけど」


「ナリアはどうしてたんだろうな?」


 気になったので、ナリアを呼んで聞いてみる。

 デリケートな話なら、聞かずに終わる予定だったが、普通に話せるらしい。

 寧ろ、経験者が教える話だそうだ。


「私の場合は、同僚が順番に手伝いに来てくれました。幸い、悪阻は酷くなかったので仕事はしてましたが、それでも、魔法が必要な仕事は代わって頂きましたね」


「そうなのか。気付いてやれなくてすまなかったな」


「いえ。お館様はまだお若いですし、仕方ないかと。それよりも……」


 ここでナリアから怒気が見て取れた。

 どうやら、ウォルドも役立たずだったみたいだ。

 今度、ウォルドにも話を聞いておくか。

 とここで、メナトから不穏な空気が漏れ始めた。


「どうした?」


「いや……問題は無いんだけど。……ラフィ、1つ聞いて良いかい?」


「なんだ?」


「出来る出来ないは別として、出来ないようにしてる場合、キレても良いかい?」


 どうやら、どちらかが、わざわざ出来ない風を装ってるらしい。

 どちらかとは言ったが、十中八九、潤だろう。

 ただ、キレるのは勘弁願いたい。

 なので、ストレス発散用の代替案を提示しておく。


「わざとやってる奴の目星は、ついてるんだよな?」


「勿論」


 その瞬間、潤の挙動が怪しくなり、少し冷や汗を流し始めた。


(やっぱりか)

「メナト。今後の予定は?」


「それなりに修練はさせる予定だね。ただ、明後日からにしようと思う」


「その意図は?」


「今日はかなり遅くまで起きることになるだろうし、安定性も見ときたいしね」


「ふむ。……なら、わざとやってる奴には、余裕があったりするのか?」


「さぁ? あるんじゃない?」


「そうか。なら、潤だけスペッシャルな、メナト考案スパルタ修練で良いぞ。死にはしないんだろう?」


「バレてるぅ!?」


 俺の代替案に、メナトは嬉しそうに、まるで悪魔の如く三日月に裂けた笑いを見せる。

 その笑いを真正面で見た潤は、小刻みに震えていた。

 まるで、肉食獣に怯える小動物みたいに。


「うんうん。流石、ラフィはわかってるね。あ、他の5人は、普通の修練で明後日からだから」


「既に決定事項!?」


「いや、そりゃそうだろ。神の決定だぞ? 即断即決に決まってるじゃないか」


「「「「「「はい?」」」」」」


 あれ? なんで微妙な反応なんだ?

 ……あ、メナトの自己紹介とかしてねぇんじゃね?


「始めに名乗ったはずなんだけどね」


「信じられなかったんじゃね?」


「まぁ、別に良いよ。それと、名乗った時にちょっとだけ仕掛けを施しといたから。ああ、別に死ぬような物じゃないから」


「何をしたんだ?」


「神喰にした事――って言えば、分かるかな?」


「ああ。何となくわかったわ」


「「「「「「いやいやいやいや! それよりも、もっと重要な内容が出てたよね!? いや、仕掛けに関しても気になるけどさ!」」」」」」


 俺とメナトが納得し合うと、外野からの激しいツッコミが。

 6人が見事にハモっているけど、ミリア達は涼しい顔で、事の成り行きを見守っている。

 まぁ、流石に慣れるわな。

 ある意味、日常的な光景でもあるし。


「皆様、落ち着いて下さい。ラフィ様、きちんと説明しませんと」


「だな。なんなら、ミリアが説明してみるか?」


「ラフィ様にお譲りします。ですよね? 皆さん」


 ミリアの言葉に、全員が寸分の誤差なくキレイに頷いて、同意した。

 神関連の説明は、物知りなリーゼでも手に余るらしい。

 と言う訳で、メナトに関して、一から説明して行く。

 ついでに、どういう状況で、今の状況になったのかも説明しておく。

 理解できるかは知らんがな。


「……と、言う訳だ。で、何か質問は?」


「り、理解が……」


「そもそも、神様っていたのね」


「まぁ、蛍の言い分はわかる。が、いるんだよ、これが」


「不知火君、質問、良いかしら?」


「どうぞ、雪代さん」


 どんな質問が来るのかな? なんて考え、いくつかの想定をしてみる。

 質問内容は、その想定を上回る事は無かったが、聞きたくなる内容ではあった。


「今、私達の前にいる神様は、私達の世界の神様で良いのかしら?」


「いんや。関係が無いわけでは無いけど、管理者として考えるなら、答えはNOだ」


「なら、どうして、別の世界の神様が、私達の事をこの世界に招いたの?」


 おっと? まさかそこに気付くとは。

 しかし、どう答えたもんかねぇ。

 一応、メナトがぼかして説明していたが、詳しく説明……メナトから首を振られた。

 流石に、そこは話すなって事か。

 さて、納得できる様に話さいといけないな。


「まぁ、なんだ。神側にとっても不都合があるって話……あれ?」


「どうしたの?」


 話しいて違和感を覚えた俺は、会話を中断して思考に耽る。

 そんな俺に対して、雪代さんは首を傾げていた。

 他の皆も、どうしたんだろう? と言った顔をしているのだろうが、それは放置して、違和感の正体を探る。


(確か、俺の死によって、異常が生じた結果、本来とは違う運命になったんだよな。で、巻き込まれた人間は、6人がいた店……)


 更に考えを詰めて行く。

 そもそも、俺は6人以外の転生体に会っている。

 前世の記憶は無いが、生まれ変わって冒険者になっている双子冒険者に、クランで料理を提供してくれている、前世の知識と一部の記憶を持った妖精族エルフのラギリア。

 では何故、他の3人と6人は違うのか?


(いや、そうじゃない。双子とラギリア。そして6人は、それぞれ違う条件だ)


 考えを纏めて、整理して行く。

 双子冒険者は、両親がいる転生体。

 対して、ラギリアと6人は、神が用意した肉体。

 それと、それぞれ違うのが、前世の記憶の有無。

 そして、以前に言われた『間に合わなかった者もいる』と言う言葉。


(もしかして……いや、まさか、な。いやいや、でも、それが本当だとしたら……)


 直感とでも言うのだろうか?

 何故か、この考えがしっくり来てしまった。

 となると、嘘は言ってはいないが、隠し事はしていた事になる。


「メナト」


 メナトは振り向かない。

 声も出さない。

 ひたすらにやり過ごそうとしている感がある。

 このままでは埒が明かないと判断した俺は、強制的に話させることにした。


「命令だ。話せ」


 最終勧告を行うと、ため息を吐くメナト。

 どうやら、相当話したくないらしい。

 だが、流石に看過できないので話させる。


「メナト、話せ」


「はぁ……。全く、相変わらず、変な所で勘が良いね。観念して話すけど、1つだけ譲歩が欲しい」


「内容による」


「ちょ、ちょっと、どうしたのよ?」


「雪代さん、今は静かにしてましょうね」


 雪代さんが慌てるも、ミリアが制止に入る。

 全く、出来た正妻様である。

 そんな二人を横目に、メナトは念話で話しかけて来た。


『譲歩ってのは、念話って事か』


『流石に、ラフィ以外には聞かせられないからね。本当は、ラフィにも話すつもりは無かったんだけどね』


 そう言って、メナトは隠していたことを話し始めた。

 その内容は、俺が死んでいなかった時の話であった。


『実はね、手違いが起こっていなかった場合、どちらにしても、マスターは死んでしまってるんだよ』


『なんで隠したんだ?』


『誤解があるね。まず、隠していたわけじゃない。話す必要性が無かったと思っているんだ。そして、こちらの手違いだったとはいえ、運命を翻弄された者達が複数名出てしまった。ラフィは、自分のせいだと思うんじゃないかと思ってね』


『まぁ、多少は思うかもな』


『神側としては、そう思って欲しくなかったんだよ。だから、話す必要が無かった――に繋がるんだけどね』


 そして、メナトは念話を終わらせた。

 どうやら気遣いだったらしい。

 深い意味は無いみたいだ。

 ……あれ? どっちにしても、マスターは死んでるんだよな?

 なら、わざわざ、この世界に転生体を用意する必要性って無いのでは?

 流石に気になったので、もう一度、今度はこちらから、念話を繋げる。


『メナト、ラギリアの件で疑問があるんだが?』


『ラギリア? ……ああ。あの妖精族か。何が疑問なんだい?』


『マスターって、どっちにしても死ぬ運命だったんだよな?』


『そうだね』


『なら、転生体を用意した意図が分からんのだが?』


 疑問をぶつけると、これも神側の理由があるからだそうだ。

 そのもっともな理由だが、運命が変わろうが、変わるまいが、マスターは客を避難させる上で亡くなるそうだ。

 その他にも、生前はボランティア活動に勤しんだり、人助けもしたりと、徳が高い人物らしく、一種の救済処置として、転生体での生まれ変わりとなったらしい。

 完全に、神側の都合だった。

 では、双子はと言うと、これも神側の都合らしく、元の世界での輪廻転生の枠から外れているから、どうしても仕方なくの緊急処置だそう。

 この世界で天寿を全うしたら、元の世界の輪廻の輪に戻る事が確約されているそうだ。

 で、残りの亡くなったお客さんは、元から死ぬ運命だった者達が大半らしく、普通に輪廻の輪に組み込まれているらしい。

 唯一、運命が変わってしまったのが、双子冒険者に生まれ変わった二人だけ。

 だから、輪廻転生の輪からも外れてしまったわけか。


『大半って事は、違う者達もいたんじゃねぇの?』


『さぁ? そもそも、私達の管轄外になってるんだよね。それは、向こうの神の仕事。例外は、輪廻の輪から外れてしまった場合だけさ』


『つまり、ラギリアは特別で、双子は、向こうの神の管轄外になったから?』


『大体合ってるね。その認識で間違ってないと思うよ』


『なんて面倒な話だ』


『だから話さなかったんだよ。複雑だから』


 そして今度こそ、念話を終わらせた。

 要するに、俺のせいで死んだのは、親友達だけ……いや、マジですまん!

 心の中で土下座しておこう。

 しかし、説明をどうするか?

 ……不都合で押し通そう、そうしよう。


「話を中断して悪かった。ちょっと、気になる点を見つけてしまって」


「うん……それは良いんだけど、もう一つ、気にってしまった事が出来たんだけど?」


「何?」


 この後、俺は聞き返してしまった事を後悔した。

 と言うか、メナトが神だと明かした状態で、対等、若しくは上から話しているのだから、疑問に思うのは当然だろう。

 しかし、話してしまっても良いものなのだろうか?

 メナトに救いの目を送ると、ため息を吐かれてしまった。

 そして、こちらを見たメナトの目は、明らかに「何やってるんだい……」って、目をしている。


「助けて、メナ◯もん」


「メナ◯もんは、止めて欲しいかな。まぁ、話したいなら話せば良いんじゃないかな?」


「良いのか?」


「条件付きだけどね。で決めたのなら、私達に口を出す権利は無いからね」


「あ、そういう。……召喚者組と転生体組に、仕掛けは施せたりするのか?」


 聞くと、可能だと言う。

 仕方ない……全部ゲロってしまうか。

 あ、いや、一部は隠さないといけないか。

 一息吸ってから吐いて、心の準備を始める。

 そして、雪代さんの質問に答えて行く。


「まず先に言っとくと、俺も一応は神になってるから」


「「「「「「はい?」」」」」」


「うん……そんな反応になると思ってたよ。話せる部分は全て話すから、まぁ、食事でもしながら聞いてくれ」


 そして、何故、神に至ったかを順を追って話していく。

 話してる最中に、色々と驚愕していたが、一番驚いていたのは、やっぱり神殺しを為した部分だった。

 全て話し終え、一息ついた後、やっぱり、質問が飛んで来たな。

 当たり前ではあるけど……。


「ごめん。理解しづらいんだけど、要するに、蒼が全ての頂点で、人間止めてるで良いのよね?」


「言い方! 一応言っとくが、人間止めてないからな。俺が神格化するのは、天寿を迎えた時だ」


「蒼夜さんや。俺らも神になったりするのかね?」


「喋り方! 輝明もちょっとおかしいぞ。それとさっきの質問だけどな、君らはどう足掻いても人間だから。(一部例外を除いてだけど)」


「ん? 最後、なんか言ったか?」


「何も言ってない。で、他に質問は?」


 その後も、多種多様な質問が飛んできて、答えられる内容は全て答えて行く。

 そして最後に、潤が質問してきた。


「ずっと疑問に思ってたんだけどさ?」


「なんだ?」


「俺らは転生組で、そっちの3人は召喚組? なんだよな?」


「そうだな」


「じゃあさ、そっちの可愛い女の子たちは何なんだ?」


「……婚約者」


 婚約者と答えた瞬間、蛍と雪代さんの目つきが変わる。

 あれ? これって不味くね?


「蒼ー。どういう事かな? かな?」


「その言い方やめろ! 某アニメを思い出すから!」


「不知火君。私も聞きたいんだけど?」


「ちょっ、魔力を具現化すんな! 背後になんか見えるんですけど!?」


「あれ? これって修羅場?」


「美羽、これは修羅場どころじゃないかも……」


「天音もそう思うよなぁ。二人の気持ちを考えたらさぁ」


「輝明も知ってたんか。蒼夜の奴、あんな可愛い婚約者が7人か。修羅場ってモゲテしまえば良い」


 心友と悪友とその彼女たちが何か言ってるが、それどころではない俺は、普通に聞き逃してしまった。

 くっ、解決の糸口が掴めたかもしれないのに!

 だが、詰め寄ってくる二人とは逆方向から、今度は別の寒気が!

 振り返ると、すんごい笑顔のミリア達が、こちらを見て微笑んでいた。


(あ、これは終わったかもしれない……)


 諦めの境地に達しかけた時、ミリアから二人に声がかけられた。


「ユウナギさんとユキシロさんでしたよね? まずは、お話を進めませんか? 明日、時間を取りますから、私達とお話し致しましょう」


 ミリアからの提案に、二人は頷いて、とりあえずは話を終わらせるモードに。

 今は助かったが、この後どうなるのだろうか?

 あれ? 寒気が止まらねぇんだけど?


「ラフィ様」


「はいぃ!」


「後日、お話がありますので、時間を作って下さいね」


「イエスッ、マム!」


 俺に拒否権は無かった。

 また、土下座かねぇ……。

 ……土下座で済むかね?


「ねぇ、ラフィ」


「なんだ、メナト」


「一応、魔力関連は終わったんだけど、何時になったら話が進むんだい?」


「知らねぇよ……。むしろ、俺が知りたいわ」


 こうして、夜は一段と更けて行くのだった。

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