第206話 俺の知ってる悪友は、幻想だった……
目を覚ました親友達に対して、説明とネタばらしをしたが、幼馴染である蛍以外は信じて貰えなかった俺。
唯一、信じてくれた蛍と一緒に、5人を説得して行くのだが、男共については、黒歴史と暴露話をする事になった。
「確か……潤は、中学の時は厨二患者で、俺もその道に引き込もうとしてきたよな? 確か、ジャスティス! だっけ?」
「潤、あんた……」
「ちょっ、やめろぉぉぉぉ!!」
「輝は……澄沢に告る前日に、少しメンヘラ化してた記憶が……」
「お前っ、言って良い事と悪い事が!」
「えーっと『俺、振られたらどうしよう? もう生きて行けんかも……。え? なに? うざい? そんなこというなよぉ……』だっけ? あんときは、マジでウザかったわ」
「ぎゃぁぁぁぁ! やめろよぉぉぉぉ……」
俺の暴露に、シクシクと心が痛くなる潤と輝明。
尚、蛍と潤も幼馴染なので、気安い間柄だ。
俺と潤が中学からの付き合いなのは、単に潤と小学校の校区が違かったから。
蛍の場合は、父親同士が会社の同期らしく、付き合いがあるからだ。
中学は同じ校区だったので、蛍の知り合いって形で仲良くなったのだが、初顔合わせの台詞が、厨二全開だったのは、今でも覚えている。
そして……そんな様子を見ていた女子三人は、戦慄恐々な顔をしていた。
何故かって? 全員の相談内容を、俺は知っているからな。
次は自分かもしれない――と考えたら、笑ってはいられないだろう。
「えーっと、次は誰にするかな?」
「蒼、あんた、めっちゃ悪い顔してるわよ」
蛍が何か言ってるが、スルーして次の標的を探そう……とする前に、女子は結託した様だ。
全員が頷き、納得した顔を見せた。
「間違いなく、不知火君だね」
「内情、詳しすぎるし」
「箒さんも澄沢さんも、その見解で合ってると思いますよ」
「あんた達、バラされたくないからって、それで良いの?」
蛍がちょっと呆れているが、俺は納得できてるなら、それで良いと思う。
疑われたままなら、更なる暴露をしていくだけだしな。
「俺らはダメージデカいんだけど!?」
「一番話されたくない事を! あ、その顔ムカつく。てめぇ、やっぱ蒼夜で間違いねぇな!」
「さっきから、そう言ってるだろうが」
どうやら、輝明も潤もようやく認めた模様。
いや、暴露時点で認めてはいたけど、心の痛みの方が酷かった感じかね。
まぁ、何はともあれ、全員が認識してくれたので、次の話に移る……前に、ドアがノックされた。
どうやら、ナリアが戻ってきた様だ。
許可を出して入室を許すと、何故か、八木、姫埼、春宮の召喚者組に加え、ミリア、リリィ、ラナ、リーゼ、ミナ、イーファ、ヴェルグの7人も一緒だ。
どういう事だ?
「ナリア?」
「お話は、纏めてがよろしいかと思いまして。それと、お目覚めになられた方々には、お食事の用意もしてきました」
「話しが早くて助かるけどな、1つだけ言っておく」
「何でしょうか?」
「先読みし過ぎだ。頼むから、多少は確認を取ってくれ」
「申し訳ありませんでした。今後は、逐一確認を――」
「だぁーー! 0か1かで話を通そうとするな! もう少し、臨機応変になってくれ」
「承知しました。今後は、臨機応変に、逐一、奥様方にもご報告を――」
「なぁ、ナリアさんや。俺の言った意味、理解してる?」
ちょっと青筋立ててナリアを睨むと、ニッコリと笑顔で返されてしまった。
これは、分かっていて、遊んでいるパターンだな。
だが、なんで今、この態度になってるんだ?
不思議に思ったので、婚約者達の方に視線を送る。
変化を見せたのは、意外にもイーファであった。
「イーファさんや。なんで、狼狽えてるんですかね?」
「き、気にしたら、負けなのじゃ」
「何か知ってるよね?」
「な、何も知らんのじゃ」
「吐こうか」
ジーーーっと、目を逸らさずにイーファを見つめていると、観念した様で説明を開始。
まぁ、色々と誤魔化しながら言っていたが、要約すると――ミリア達に隠し事をしそうだったから、ナリアが釘を刺しに来たと言う事らしい。
ナリア本人が申し出はしたが、許可をしたのはミリア達。
婚約者同意の元で行われたので、これ以上は何も言えない。
言ってしまうと、ミリア達婚約者の失策になってしまい、奥向きで何かあったと他貴族達に知られたら、色々と面倒な事になるからだ。
どういう訳か、いくつかの情報は、気を付けていても嗅ぎつけられるんだよな。
うま味がある話には、必ずと言って良い程に。
「はぁ、わかった。これ以上は不問にするから、ナリアはいつも通りにしてくれ」
ナリアは、分かったと言う様に頭を下げて応えた。
そして、素早く配膳を始める。
配膳が終わるまでの間に、全員が椅子やベッドやソファーに座り、俺とメナトも椅子を適当な場所に置いて座る。
テーブルも何時の間にか目の前に置いてあり、配膳を済ませたナリアは、一礼してから部屋を出て行った。
用事があれば、外にいるので声を掛けろと言う事らしい。
相変わらずの完璧侍女ぶりであった。
「あー、とりあえず、続きを話していくか」
「そうだね。ところで、二柱はどうしてるのかな?」
「他の方々が、接待していますよ。リアさんは、セブリー様に気に入られてましたから」
ミリアの返答に、メナトは頷いて、了承の意を伝える。
そして、メナトからの説明が始まった。
ただ、気になる点が一つ。
ミリア達も聞いてしまって良いのだろうか?
「問題無いよ」
「人の思考を勝手に読むな」
メナトからのお墨付きが出たが、何度言っても思考を読むことを止めない。
とか考えてたら、状況と単純に顔に出ているから、察しやすいだけとか言われてしまう。
俺、そんなに表情豊かですかねぇ?
「ラフィが余計な思案をする前に、話を進めて行くよ。まず、君達6人についての状態から話そうか。あ、質問がある場合は挙手でね」
メナトが解説し始めたので、意識をメナトへと切り替える。
そして、6人の状態についてだが、前世の状況から踏まえて話し始めた。
「まず、君達の死因だが、焼死だね。身元確認が困難だったみたいだ。で、だ。今回、ちょっと複雑な方法にした理由も、そこにある訳だね」
メナトから死因を聞かされて、やはりと言うか、意気消沈している6人。
まぁ、そりゃあ、自分の死因まで聞かされたら、当然か。
多分、俺が特殊なんだろうなぁ。
「そこ、余計な思案しない」
「メナト、うっさい。はよ進めろや」
とここで、蛍が手を上げた。
今の説明で、気になる部分があっただろうか?
「なんだい? えーと……」
「夕凪蛍です。蛍と呼んで下さい」
「オーケー。で、蛍は何が聞きたいんだい?」
「なんで、異世界で生き返らせたんですか?」
ごもっともな意見だ。
いきなり確信を突く質問に、メナトはちょっと嬉しそうである。
理解が早くて、助かったとか思ってそうだな。
「君は中々に良いね。さて、蛍の質問に答える前に、他に質問は無いかな?」
誰も手を上げない。
蛍の質問に対する答えを、聞いてからとか思ってるんかね?
「ふむ。じゃあ、蛍の質問に答えるけど、幾つかの理由は、ラフィと同じだね?」
「蒼と同じ?」
「元の世界で生き返らせるのにも、ルールがあるのさ。一つでも当てはまらなければ、無理って事さ」
「私達が当てはまらなかった理由を聞いても良いですか?」
「単純な話だね。さっきも言ったけど、君達の死因は焼死だ。肉体の損傷が酷過ぎる。それが理由だ」
「でもそれだと、異世界でも無理なんじゃ……」
輝明の疑問もごもっとも。
だから、俺とメナトが苦労したんだよな。
「そこは苦労してだね。ただ、いくつかはルールに抵触するから言えないけど、1つだけ。創造するより、修復する方が面倒って話さ。君達もラフィもね」
「おい、それは初耳なんだが?」
「あれ? 言ってなかったかい。まぁ、そこは些細な事さ。ラフィにとっては、特に――ね」
「家族の話か? まぁ、そう考えると、些細な気がしなくも……」
「いやいやいやいや。お前、普通におかしい話じゃね?」
潤が何か言ってるが、敢えてスルーしておく。
多分、俺に関しては、出自不明にしたくなかった気がしなくも無いからな。
その辺りは、神々の優しさなのか、ルールなのかは知らんが。
「後は……そうだね、ラフィの年齢に合わせる為ってのもあるかな。肉体年齢はラフィと同程度に仕上げてあるよ。それと、異世界仕様にもしてある」
「異世界仕様……厨二ワード満載過ぎる……」
「潤は嬉しいんじゃない?」
「俺はもう、厨二は卒業してるわ!」
とは言うが、さっきからそわそわしてるんだよな、潤の奴。
早く色々と試したいのだろう。
「まぁ、異世界仕様といても、魔力に適応できるのと、身体能力にちょっとだけ手を加えて位だね。強者と成れるかは、君達次第かな?」
「あの……」
「なんだい?」
「魔力って何ですか?」
「…………」
メナト、思わず絶句する。
しかし、これはメナトが悪いと思う。
説明、飛ばしやがったからな。
だが、どう説明したものか。
『マスター。直接感じ取れるようになれば、認識できますよ。魔法の扱い方は、要練習ですけど』
『そっちでいくのね。俺がした方が良いのか?』
『一番は、魔法神であるジーマが適任ですが、この場にいる神ならば、メナト一択です』
『俺じゃない理由は?』
『原初ですので。最悪、魔力制御出来ずに、第二の死を与えることになりかねませんよ』
『なにそれ、こっわ』
リエルからの強制介入であったが、今回は大金星の介入であった。
行動に移す前で、本当に良かったわ。
『メナト』
『…………』
『おい、メナト!』
『ん? ああ、すまない。ちょっと放心していた』
『放心するも何も、元の世界じゃ、魔力無しが普通だったんだから、おかしな話はしてないだろ』
『そう言えばそうだね。ラフィ基準で考えてたから良くなかったわけか』
『ひでぇ言い様だな』
『それで? 放心から復活させる為だけに、念話してきたんじゃないんだろう?』
『実はな――』
念話で、先程リエルから言われたことを、メナトにも伝える。
万が一がある以上、俺は不可能だからとお願いしたんだが、そこでふと、疑問が過ぎった。
メナトも同じらしく、二人して念話しながら、視線を八木達召喚者組へと向ける。
「な、なんすっか?」
「きゃっ。ラフィさんからの熱いシ・セ・ン」
「優華、あんたねぇ。それに、メナト様も見てるんだけど?」
三者三様の反応を見せる中、念話を切って、お互いに疑問をぶつける。
「なぁ、八木達は、どうやって魔力順応したんだ?」
「私も気になるね。いや、魔力順応自体は気になっていないけど、きっかけはどうだったのかは気になるね」
俺とメナト、両者からの質問に、ちょっとだけ後退りそうな八木だったが、別に責めているわけでは無いのと、単純に6人にも同じことが可能かを聞きたかったと知ると、普通の態度に戻って話始めた。
「俺達は、指南役がいましたから。勿論初めは、魔力を感じる所から初めて、次は身体強化魔法の取得っすね」
「個人差あったよねぇ。阿藤が一番苦労してたっけ」
「私も少し苦労したかも。でも、身体強化は、私が一番早く取得したわね」
「なぁ、メナト。個人差ってあるのか?」
「わからないね。私達にとっても、召喚者達はイレギュラーだし、肉体を用意しての転生も初めてだからね」
神側からしても、八木達に関しては不明な点が多いらしい。
ただ、推測はあるらしいので、知識側に偏った神達が調べてるそうだ。
まぁ、リエルに聞けば、直ぐにわかりそうだが、敢えて聞かないでおこう。
何気に難しい話をしたがるようになってきたからな。
正直、俺にはキツイっすわ。
「まぁ、この世界のルールもあるし、後で私が教えようか」
「頼むわ」
「了解したよ。……えっと、何処まで話したかな?」
俺もどこまで話したのか曖昧になっていたが、そこは王族や皇族の血族。
長い話や脱線はなんのそのと言わんばかりに、何処まで話したのかを的確に教えてくれた。
地頭の良さだと、確実に負けてるな、俺。
「ごほん。まぁ、肉体に関してはそんなところだ。それで、問題は魂の方でね」
「何かあったんですか?」
「さっきも言った、魔力に関係してくる話だね。詳しい説明は省くけど、肉体も魂も、この世界に馴染ませる必要があったわけでね」
「要は、この世界で生き抜くための力が、魂に関しては全く合って無かったから、力を注入しただけ――って、なんか間違ってるか? メナト」
「間違ってはいないけど、正解でもないよ。正確には、異質な存在として認識されない為の処置が正解だね。力云々もあるにはあるけど、副産物的な意味合いが大きいかな」
「あれ? でも、八木達は……」
今の説明だと、八木達は異質な存在になる可能性が。
だが、その心配は無いと、メナトは言う。
「召喚者達に関してだけどね、世界の隔たりは超えてるんだよ。それでだ。そうなった場合、二つの種類がある」
「二つ?」
「一つは、世界にとって異質な存在であるから、役目が終われば、強制送還されるね」
「二つ目は?」
「世界の理に準じて召喚されてしまってる種類だね。こっちは、送還方法があるなら、誰かが行わない限り、元の世界に戻れないんだけど、当然、期限はあるし、条件もある」
「その内容は?」
「男性に関して言えば、期限のみになるね。ただ、女性よりも短いけど」
「どれくらいだ?」
「3年」
「あれ? 八木、アウトじゃね?」
前に聞いた話が本当なら、ギリギリかアウトなはず。
八木の顔を見ると、軽く笑っていた。
……どっちの笑いだ?
「八木?」
「いや、ぶっちゃけると、アウトの方が好ましいんっすよ。下手な未練が残るより、この世界で第二の人生を――ってなれるんで」
「そうなんか。まぁ、暫くは動けないし、送還方法も知らねぇし、時間的にも無理だろうな」
「俺は大丈夫っすよ。むしろ、この世界だと成人っすよね? 酒とか飲めるし、結婚も……」
「出来るな、普通に。結婚は、相手がいればだが」
「ほとぼり冷めたら、マジで稼ぎに行こう」
八木はやる気に満ちていた。
元の世界に未練は無いらしい。
では、姫埼と春宮に関してはどうなのだろうか?
「二人に関しては、期限は5年。但し、条件次第では、期限内でも送還は不可能だね」
「その条件ってなんだ?」
「血の繋がった子供が出来た、又は既に居る場合」
「聞いた事ない、斬新な条件だなぁ」
とは言え、子供残して、はいサヨナラ――は、寝覚めが悪いのかね?
あれ? そう言えば、強制送還の場合はどうなるんだろうか?
「強制送還の場合? そもそも、加護と言うか呪いと言うか、女性の場合だと避妊状態だよ」
「男の場合は?」
「種無し状態。強制送還の方は、世界に血を残さないってのが決まりだからね」
「俺の知ってる異世界の話と違う……」
「えーっと……常磐潤だっけ? 何を期待してるのかは知らないけど、我々が管理する世界ではそうだから。(まぁ、例外はあるけど……)」
メナトがボソッと呟いた一言を、潤は聞き逃さなかった。
シュバっと動き、メナトに詰め寄る。
しかし、メナトは戦神である。
サッと動き、足を引っかけて転ばせ、上から踏みつけた。
……潤、なんでちょっと嬉しそうなんだよ。
「流石はラフィの友達と言うか……ちょっと予想外の動きで、思わず踏みつけてしまったよ」
「この踏みつけこそご褒美! さぁ、例外を早く!」
「お前、ちょっと黙れ」
思わず潤を軽く威圧してしまう。
威圧を受けた潤は、汗ダラダラであった。
そんな潤の彼女である美羽が、申し訳無そうに謝る。
「本当にすみません! このバカが」
「いやいや、気にしてないから」
「そうだぞ美羽。これはただのプレイだ」
「もう一遍死んで来い、このドМが」
「蔑みの目、ありがとうございますっ」
俺の悪友は、いつから変態にジョブチェンジしたのだろうか?
俺の思い出が未だに間違っているのだろうか?
「潤は昔からあんな感じよ」
「俺の知ってる潤は幻想だった……」
こうして、話が進まないまま、時間だけが過ぎて行った。
何時になったら、本題に移れるんだろうな……。
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